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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十五章:カチコミの時間じゃい!

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692.うぇ……っ!?いや結果は予想出来てたけど、ここまで……!?

 「目上の者には礼を尽くすべし」。

 “太子ピラミッド”が強いるのは、ダンジョンの外の論理。

 人と人とが相互に合意し、決めた約束。


 


 乃ち、社会的地位。




 社会が偉いと決めたなら、その者は「偉い」のだ。

 「偉い」人間は、他者に言う事を聞かせられるのだ。

 

 平民は兵士の言う事に、兵士は貴族の言う事に、貴族は王に言う事に、絶対服従でなければならない。


 それが社会だ。

 それが智恵だ。

 それが理性だ。


 それこそが真の平和。

 

〈“奴隷”とは、“幸せ”であーる〉


 人面幻獣が高飛車に告げる。


〈穴を掘って、また埋めて、自我がある者はたったそれだけで崩れ、壊れる。不幸になってしまう〉

 

 自我や自由という呪いは、人を脆くしてしまう。

 強固な意志は、意味のない行為に耐えられない。

 硬いものほど、壊れやすいのだ。


〈自らのやる事なす事に、一切の疑問を抱かなくなってからが、一人前の臣民というもの。その時その人間は、無我という真の幸福に至るのであーる〉


 疑問が無ければ、不幸はない。

 人が感じる苦痛など、全てが主観でしかない。


 人間の耐久力を最も底上げする言葉は、「いつかは終わるから頑張れ」ではない。

「え?それが普通だよ?」である。


 組体操で人間ピラミッドを作る時、土台の人間が「今何をやっているのか」に疑問を持つと、構造物は容易く崩れる。


 だが、「毎年やってるから」という常識を教え込めば、彼らは強固な基礎へと化ける。


〈人間が幸福な状態とは、全てが臣民に、システムの歯車になる時であーる!〉

 

 人型のモンスターや、自我を破壊した人間達。

 それが積み重なり、折り重なり、質量で潰さんとする。


〈奴隷も、平民も、貴族も、王も、全てが自らの役目、機能を、何の疑問もなく遂行する!社会から思考が排除されたその時こそ、人間は全ての悲劇を克服し、真に幸福な種へと昇華されるのであーる!〉


 「余の眷属達のように!」、

 そう豪語する彼の前では、“神”もまたシステムの一領域。

 「支配する」という「機能」を持った、パーツの一つとしか見ていない。




 それは、社会が強いる死の物語。




 王に死ねと言われたら、死ぬ。

 そこまでなら、ありがちだろう。


 だが、「王の没後は後を追うべし」という、社会的な慣例、約束事によって、ただただ道連れで命を落とした者達が居る。「これまでもやって来たから」、その常識が疑問を溶かし、流れ作業の如く形式的に死んだ者達。


 それは王への忠誠といった、高度な話ではない。

 ただの歴史的、文化的プログラミング。

 実行されたシステムの一部。


 王の意思など、それが暴君かどうかなど、関係ない。

 「当たり前だから」という前提があれば、自らの根本たる生命さえ捨ててしまう。

 周囲もその儀式を粛々と遂行する。

 

 後世において、自立やら個人の権利やらが叫ばれた時代、その風習は恐怖された。

 それは、人が持つ個体としての独立性が、どこまでも後付けであることを示していた。


 その時に抱かれた衝撃、その物語。

 「王でさえ、社会の奴隷である」。

 それが“太子ピラミッド”。


 だから彼は、疑問を持たず“提婆キャメル”の下についた。

 彼女の命を受け、下々に命じた。


 そのローカルは、社会的に下の者の“疑い”を打ち砕き、己に奉仕させることが出来る。

 その効力は、相手の立場や身分が下がるほど、強くなる。


〈で、あーるのに……!〉

 

 そいつの命令を機械的に実行した人間達、否、骸達が吹き飛ばされる。

 右手で帽子を押さえながら、左の人差し指を天に向ける、ダンスパフォーマーめいた立ち姿。


〈何故、効かん……!何故、余の命を聞かん……!?〉


 平民か道化、或いは国に飼われる奴隷。

 そいつの立場と言えば、それくらいな筈なのに。


ひざまずけ!命をえぇッい!〉


 火砲の列が硝煙を吐く!

 けたたましい空中貫通音!


 だが男が左手をかざすと、全てがぴたりと静止して、やがてパラパラとその場に落ちる。


〈命令を……!命令を聞けぇッ!!王命であーるぞっ!!〉

「失礼」


 左手首をそのまま捻り、コイン大の金属を前方へと飛ばす。


「僕は“まつろわぬ者”……既存秩序への挑戦者ですので」


 世界の強弱関係を、根底から破壊しようとした、いいや、今も変わらずその野望を抱いている男である。


 しかも、国からの罰を受けている最中に、テロリストの手を借りて国外逃亡したばかり。


 彼は“国”という枠組みにも、人の同意による“社会”という枠組みにも、現在のところ属していない。


 今の国際関係の全てが気に入らず、それと敵対する者である。


「あなたとの相性は……最悪でしょう。ああ、そちらから見て、という意味です」


 左手でフィンガースナップ。

 “向こう側”からの核分裂エネルギー発射。


 幅が広く強い光が通過する様は、3次元世界に2次元平面が出現したようにも見えた。


〈あぁ……っ!〉


 奴隷達は上下に分割され、咄嗟にジャンプした“太子ピラミッド”でさえ、前足の先を失った。


「仲間が近くに居る状態で、僕の火力は発揮できない。巻き添えが恐ろしいから。そう、お思いでしたか?」


〈き、きぃさぁまぁぁぁあああ……!!〉


「残念ですが、100点の答案ではありませんね」


 既に獅子の体には、あちこちに風の通り道が開いている。

 細く制限された光と熱が、SFのビーム銃のように撃ち抜いたのだ。


「僕の魔法が“こちら側”に持って来れるエネルギーには、結構な調整が利くのですよ」

〈エネルギー量はそうだとしても、発散の仕方まで、自在だと言うのか……!〉

「想像力が貧困ですね、王よ。それとも記憶力でしょうか?僕の魔法が目に見えないこと、お忘れになりました?」

〈……!〉

 

 レールや通り道を作って、そこに“向こう側”からのエネルギーを流し込む。

 過剰な出力を持ち込まず、出られる先は魔法生成物で限定してやれば、幾らでも調節し放題だ。


 その微細な制御が妨害されない限り、核分裂のエネルギーは、全てが彼の玩具に等しい。


「それこそ、魔学回路を内側から爆破される、なんてことをやってくる相手でもなければ、僕に勝てるとは思わないことです」

〈ば、バカな……!こんな力が、平民に……!〉

「それともまさか——」


 その時帽子の下から覗いた二つの黒は、琥珀のように暗くも透き通っていた。


「思っていたのですか?あなたが“彼”より優れていると。“彼”に勝てないなら、あなたにも勝てないだろう、と」

 

〈……!!〉


 「そんなことも分からないなんて」と、偽りなき驚きが混じった軽蔑を向けられ、“太子ピラミッド”の思考回路にバグが生じる。


 罪人に、奴隷にすら劣る社会の敵に、あざけられている。

 幸福なシステムが、不幸の代名詞に鼻で笑われている!


〈ふざけるなよ人間!貴様如きが、誰を見下しているうううっっっ!!〉


 巨大ライオンは飛び掛かる!

 だがまたしても指が鳴らされ、首に光線が命中!


 今度は、そこから先に熱の逃げ場が用意されていなかった。

 となれば当然、そいつの体に全てが流れ込む!


 “太子ピラミッド”の肉体の8割が蒸発消失!


〈だからどうしたあああっっっ!!〉


 だがコアは既に射出済み!

 

 そして“太子ピラミッド”の命令が奴隷達へと届く。


 砂の粒子共が、A型達が、コアを守るように集合していく。


 そして流動的なそれらが、人面ライオンの新たなる肉体となる!


〈油断したな人間!所詮は個人の浅知恵など、社会という公力こうりょくの前には無為無益も同然っ!〉

 

 アインの足元から吹き上がる砂礫!

 それらも相手の肉の一部だ!


〈“提婆キャメル”様の加護を一身に受けた最強形態!これにて強制執行!力づくでひざまずかせるッ!幸福を喰らえええええ!!〉

 

 右の前足による攻撃。

 それを構成する砂が高速で流れて触れたものを削り砕く!

 更に体全体が炎に覆われ、口の中からは太陽反射光線が放たれる!


 奴隷を手足として使い、神の手足となる。

 王として、国として理想的な形!


「ですが、見せましたね。この僕に、あなたの弱点を」


 アインは粒子防御を纏いながら低姿勢で攻撃を潜り抜け、時計回りに一回転しながら右手でくうを薙ぎ払う。


 その一瞬。


 彼の掌から光の剣が伸び、すれ違いざまに一文字斬撃。


 アインは両足をまるで一本に見えるほど纏め、更に数回転してからカカンと滑らかに静止。


 煙を上げる裂傷を深く入れられた“太子ピラミッド”の、その形が崩れていって、単なる砂丘に早変わり。

 

「接近戦なら分があると、そう思っていたわけでは、ありませんよね?」


 核分裂の余波の一部を、手の先に粒子で作った型に注ぎ込み、使い切りの剣として振るう技術。


 相手がコアを露出させた以上、ミクロすら大雑把に見える彼にとって、それを追うことはあまりにも容易。

 一振りあれば、充分である。

 

 世界最高ランク、“確孤止爾アトモス・スフィア”。

 遠近共に、死角無し。


「国より外の哲学を、知ろうとすらしなかった。それがあなたの敗因です」


 ill(イリーガル)は、単体で自分達に勝てる“人間”など、例外だと思っていた。

 “可惜夜ナイトライダー”が生み出した、法則に外れた特別製だと。


 だが、魔学の世界において、同じやり方で力を使う両者。

 人間と、モンスター。

 その頂点付近は並び得るのだと、その理屈を分かっていなかった。


 自らを部品の一つと主張する“太子ピラミッド”が、

 自らの特別性を信じ切っていたのだった。

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