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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十五章:カチコミの時間じゃい!

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691.甘く見て貰っちゃあ困りますよ

「“魔法変身半神狼王ニュクティ・フィフティ”」


 狼の遠吠えが響く地獄の8丁目!

 ニークトの完全詠唱によって全身が人ならざる者に変化へんげ


 それは情報、状態の書き換え。

 つまり大抵の傷は変身後の形態に上書きされて無かったことになる!


 欠損さえしていなければ全治1秒!


 だが変身したからと言って、その体を構成するのが、魔力であるのは変わらない。

 狼の表面が“盲虎イミテイター”に触れられれば、その毛皮も爪も牙も、維持できなくなってしまう!


〈全く、業腹ごうはらだな〉


 だがニークトが考えているのは、他のことである。


〈これを使うことになるとは〉


 先程まで、狼鎧の中にパーツで分けて収納していたもの。

 変身と同時にそれらを抓み、瞬時に組み立てた。

 その太い指に似つかわしくない、奇妙なまでの器用さだった。


〈掴まれ!〉

「お願いします!」


 左手で詠訵を抱え、右手に持った長い武器を肩で担ぎ上げる。

 その状態で後ろ足に力を溜め込み、


 跳んだ!

 

 “盲虎イミテイター”のかいなの中に自分から飛び込んでいった!


 ならば望み通り抱き殺してやろうと見えぬ擬態した触手が触れようとして、


 敵わない。


 押しやられる。


〈魔力のエネルギーを、見えなくする、だったか?〉


 そいつが話す声よりも、あかがね色の毛並みが引く残像、その先端が先んじる。


〈なるほど、魔力では退かせない。魔力で干渉すると負ける。なら——〉


——物理的運動であれば?


〈お前が触れているのは、魔力生成物じゃあない。俺が速く動いたから、法則に従い出て来ただけの、衝撃波だ〉


 音速を超える運動に、気体分子が振動を越えて、押し退けられてしまう現象。

 当然、ガスも左右にハケる。


〈グァゥルッ!!〉


 走りながら大きな爪をブーメランカッターのように前方へと飛ばすニークト。

 それが“盲虎イミテイター”によって完全に消される前に、衝撃波が発生。

 ニークトの走力も乗せて投擲されているので、当然の如くマッハ1を超える。


 爪が切り裂き開いた真空に狼がその身を捩じ込み、その衝撃波で更に擬態触手達を遠ざける。

 

 それを繰り返し、指一本触れさせない!


 “盲虎イミテイター”は他のモンスターに命じる。

 「そいつらを止めろ」、「倒せなくとも、音速以下に減速させろ」。


 砂塵の嵐が壁を作って出口無き破綻迷路を作ろうとする。

 たとえ突き破られようと、その瞬間に速度が鈍る、それにこそ意味がある!


〈そこで、これだ〉


 ニークトは右手の武器を肩から離し、その先端を右前方の手近な単弓類に向けて、


 トリガーを引き絞った。


〈これも、物理だ〉


 銃口から鉛の連発!

 60発が入る横付け大型マガジン内を、少し時間を掛けながらからにする!


 分隊支援火器、軽機関銃《LMG》。


 突入時や、遮蔽から遮蔽への移動など、どうしても出来る隙を潰す方法として、「敵の出て来そうなところを撃ち続ける」という手法がある。

 それを行う歩兵用の銃種が、LMG。


 肝要なのは、撃ち「続ける」ということ。

 とにかく長い間、トリガーを引き続けて安心を作る。

 そのコンセプトに特化しているわけだ。


 ニークトが連射するそれは、弾薬再装填がより手早く行えるようカスタマイズされたもの。IUSSM(ユースム)から貸与、と言いつつ半ば譲り受けた品である。


 ただ対モンスター想定兵器かと言えば微妙なところで、威力や口径が特別優れているわけでもない。

 弾は砂礫で弾かれてしまい、


 その火花で“盲虎イミテイター”に火が点いた。


 連鎖的ill(イリーガル)爆発!

 を、今度はモンスター達が喰らう番!


 殺せずとも砂の防護膜には穴が開けられてしまう!

 停止力が不足、素通りされていく!


 そんな彼らをぴったり追走する者達。

 W型だ。


 彼らは腕を改造したソーラービームガンで彼らを撃ち抜く。

 引火出来なくともその武器はそもそもがそれなりの威力に「紺」


 リボンが突き刺さる。

 青と黒の斥力強化リボン。


 ニークトの懐から顔を出した詠訵が、既に九文字詠唱を済ませている。


「“一途な私の恋を見てターム・ア・モノス・マエノス”。物は試し、臆せず攻め、ってね」


 ニークトの完全詠唱が成功した時点で、彼女は治療役を降りている。

 防御と攻撃特化、完全打倒用フォームに切り替え。


「紺、紺、紺紺(こぉぉん)っ!」


 複数のリボンがバネのように縮められてから斥力解放。

 W型は骨やビームでそれを撃ち落としていたが、また一本が刺さってしまう。


 ニークトが通った直後の道では、“盲虎イミテイター”が晴れている為、詠訵のやりたいままであるのだ。


 末端部位から突き崩され、背中に隠していた追加の腕も破壊され、「っていうことだから、紺、来て?」やがて6本のリボンに拘束されて引き寄せられる。


「“盲虎イミテイター”は私のススム君探知には干渉しない。それで良い。邪魔なく道を探せるから」


 広大な砂漠がほとんどの永級1号は、道らしい道は局地的にしか存在せず、強い日光やモンスターへの対策があり、目的のものの方角さえ分かれば、辿り着くことは容易いのである。


 そして永級W型は、「邪魔者」としては申し分ない障害。


 それを振り回し、最も直感が嫌がった方向に、「ラポルトがある!見つけました!」

 

 リボンが指す方向へ急転回!


 爪を射出し超音速走行!


 立ち塞がる敵はLMGによる点火でなぎ倒し、追手はリボンが刺し裂いていく!


〈グゥオッ!ゴォッ!グゥルルルルオオオオッッッ!!〉

 

 咆哮を繰り返し裂帛れっぱくを示すニークト!

 そして出口があるらしき建物が見えてきた!


〈グォアアアアッ!!〉


 勝利の雄叫び!

 どんな手を使おうとも彼らを止める事は出来ないという宣言!


 だがill(イリーガル)が、そこまで甘いわけがない。

 抜け道を探せる頭脳は、双方に搭載されているもの。


 狼男が建造物に踏み込もうとした時、その右足が踏もうとした先の地面が爆発した。


 地雷。

 それもタイミングを自分で判断してくれるタイプ。


 つまり、永級1号のモンスターと“盲虎イミテイター”の魔力の混合物が、砂塵を操る能力を利用し、地面のように擬態して埋まっていた。


 切断までは行かずとも、脚の肉が散り飛び骨は砕けた。

 完全に足が止まる。

 

 擬態触手が伸び、ニークトの変身を破綻させていく。

 彼の右半身は人間になっていって——


〈ふん、やはりまだ青二才か〉


 人の唇も、牙が並んだ顎も、深く吊り上げられていた。


〈恐れが出たな……!オレサマが罠を回避し、ラポルトをくぐってしまうかもしれなくて、不安で守りに来た……!この場で最も強い個体、つまり、お前自身で……!〉


 無傷で変身状態のままの左脚が地面を蹴る。

 左肩から牙のカッターが射出。


 超音速攻撃によって細い低濃度ガス地帯が作られ、


「紺!」


 そこに詠訵が、消されないように引っ込めていたリボンを一斉に解放。


 何も無い空間にそのエッジが刺さる!

 そこに輪郭だけの肉体が浮かび上がった!


 「肉」体と言っても、その姿は機械的だ。

 暖房設備やガス廃棄ラインのような、ダクトや管が巻き付いた機器。


 芋虫のようにうねるその胴体から、幾つものガスボンベがぶら下がり、そこから出た魔力がそいつの姿を隠している。


 尾っぽであるだろうパイプの束を振り回すそいつは、どうして自分が見つかったか分かっていない。


〈知らなかったか?狼は鼻と同じように、聴覚にも優れる〉


 何度も吠えて、見えない物体に反射する瞬間を待っていた。

 ラポルトに近づけば、焦って立ち塞がってくると読んで、誘い込んだ。


反響定位エコー・ロケーション。辺泥の奴ほど精密ではないが、まあここまで近付けば問題ではない〉


 何せ的が大きいから。


 そして、


「紺!あなたが居るのは、ススム君への道の直上。よりお邪魔虫であるほど、あなたが強くて、ススム君を遮っているほど、リボンの斥力も強くなる……!」


 側面に全力解放。

 刺さった場所から直方体の形に傷が拡げられる!


 そいつは、彼らの攻撃力を軽んじていた。

 見つかっても、何撃か耐えて逃げればいい、と。




 耐えられない。

 詠訵三四の恋慕の苛烈さは、

 生後数ヶ月のill(イリーガル)のしぶとさを凌駕していた。




 “盲虎イミテイター”は最期の足掻きに全身からガスを噴き出し自爆!

 だがリボンの防護膜が、吹き飛ばされるも内側を守り切る!


 モンスター達は爆風でラポルトから離れた二人を、治療が終わる前に叩いてしまおうと追撃!


「“魔法変身半神狼王ニュクティ・フィフティ”」


 だが変身を解除してからの、再度の完全詠唱。

 肉体が完全に補修されてしまう。


〈よし、押し通るぞ〉

「了解です!」

 

 たった二人でill(イリーガル)を退けた彼らにとって、残った雑兵相手に負け筋など有り得なかった。

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