685.ボカボカボカボカやかましいやつら
〈ボォォオオオオオオンッ!!〉
マッコウクジラ型のモンスターが超速で突進!
〈ボボボッ!ボォンッ!〉
何度かの爆裂音と共に急旋回とベクトル急変!
「「父の国を」」壁に激突!〈ブゥゥォォォオオオオオオンッ!〉鼻から吹いた海水越しに、太い額の中に詰まった脂肪で増幅した音波を叩き込む!
壁が割れ、「「父の腕を」」白い両腕が正面から受け止めようとして〈ぼぼぼぼぼぼぼぼ!!〉クジラの後方で多数爆発!加速からの加速!そのまま押し込みその身を敵に届けようとしてくる!
「“氷々とした絶対零土”!」
運動や熱を奪って受け止める雪花の風!
超音波の媒質にしようと噴射していた水分を伝って内部まで氷結させて瞬間凍殺!
だがそれで安心ではない!
ガネッシュの拳の一つに六波羅のビートが乗せられ、冷凍クジラ肉を叩き出す!
すぐに爆発!
パンチの衝撃で破砕したのではなく、鯨の内からのエネルギー発生!
鋭く硬い骨の破片は勿論、重い肉塊も金属砲弾のような威力で彼らを襲う!
“聖聲屡転”達がそれを防御するが、そうやって受け手に回ったところを見逃さず複数のマッコウクジラが襲撃!
連発される巨大榴弾魚雷の全てを止め切れず、一匹が顔を横倒しながら二人一組の信徒に噛みつく!
体を上下に両断させるような強力な挟み潰し!
“聖聲屡転”は掴んでいる光輪を急浮上させ、更に六波羅がそれをビートで加速させる!
牙の端に靴の底が擦れて火が散ったもののほぼ回避!
「「父の雷を」」
追いかけようと上に向けられながらまた開かれた口に突き立てられる白い雷霆!
海水塗れのそいつには電流がよく通る!震殺完了!
「離れて!」
六波羅がその死体と近くの味方を弾き飛ばす!
クジラ爆発!
ガネッシュが聖水を撒いていた部分にハーケンを打ち込み、防壁を展開してやり過ごす!
〈削られておりますぞ!こちらの持ち得る残弾が!〉
「攻勢の糸口がないにぇーっ!」
“鯨鯢”と名乗ったill。
「火薬の量にはご注意を」。
そのローカルの影響範囲内では、生物やモンスターから切り離された一部が、爆弾に変わる。
しかもその起爆のタイミングは、完全に“鯨鯢”側の自由というオマケつき。
クジラや永級1号のモンスター達は体の一部を爆破して加減速、自在な飛行を実現し、死してなお巨大質量を高速拡散するクソデカボムとして火力に貢献。
ガネッシュの牙や“聖聲屡転”の円環などの遠距離攻撃で、彼らから離れた場所で殺し切ることに成功しても、その死体が爆破で操られて突撃してくるのだ。
その爆散クジラ弾幕乱れ打ち地獄を止めるには、射手である巨大丸クジラ本体を殺すしかない。
だがそこまで攻撃が届く前に、クジラ爆発反応装甲が必ず阻んでくる!
クジラ弾幕がみっちりと彼らの間を埋めて、隙を生じないまま反撃を封じ続ける!
多機能殺戮兵器である大型マッコウクジラ連射!
強靭な顎、強力な超音波、質量に裏付けられた高威力突進!
これが“鯨鯢”の、“爆破処理はやめておけ”!!
砲撃戦で、人間側はあまりに不利!
そして上からは、燃える礫の迫撃が常に降り注いでいる!
「私を無視しないで頂戴!」
蛇腹に分解された剣身を別々に飛ばし、対空迎撃を続ける剣士!
トロワが相手取っているのは、一定範囲内の各所に逃げては攻撃を続けるマグマの塊、永級1号のD型である!
ドロドロと捉えどころが無い上に、硬い地盤でその身を守り、あちこちに火山を作って攻撃。
足の下から突然噴き出したり、高所から火山弾を発射したり、ガス、熱、圧力でやりたい放題!
そしてそうやって飛ばされた中には、他のモンスター達も混ざっている。
纏った砂嵐を爆破して加速し、その硬さと鋭さで襲い来る、最強の榴弾達が!
火山地帯が広がるペースは遅いが、D型がその中を動くスピードは速い!
反撃した時には既に地中に逃げ込まれており、全く離れた場所から次の攻撃が来る!
「イライラするわね!もうっ!」
竜胆色の刃を土砂降りに突き下ろす!
キレてしまった衝動そのまま雑に破壊しまくっているのか?
違う!よく見ると同じ点を2回ずつ正確に突いている!
広範囲を最大効率で掘削している!
だがそれを嘲笑うかのように別々の2箇所が噴火!
地下でマグマ塊の一部を遠距離攻撃のように飛ばしたか!
トロワは狙いを外されただけでなく、予測していない攻撃への対応に迫られる!
剣先と根元が竜胆色に染まったレイピアで数閃!
火山噴射物全弾を素早く斬り捨てる!
幾つかシールドに食い込んだ砂や肉片が爆発!
その間にも複数の噴火が追加発生し、更なる攻撃と移動可能地帯の拡張を同時並行遂行!
それだけではない!
トロワが斬った岩石弾の中に、チョコに入ったストロベリーソースみたいにマグマが混入されている!
そしてそれは、D型の一部であり、
「こいつっ——!」
“鯨鯢”のローカルの対象内!
爆発!高熱と焼け石の飛沫!
一度弾いた筈の攻撃が再度彼女へと炸裂!
「くう…ッ!」
小盾と重装アーマー、シールド機能で受ける!
ギラギラと容赦のない太陽光が火山と共に気温を引き上げ続ける為、アーマーのエネルギーのほとんどが環境適応に費やされており、シールドの再生成には時間が掛かる!
対してD型は手を緩めない、どころか更に激しく攻め立ててくる!
彼女への攻撃も勿論、他のメンバーへの嫌がらせも欠かさない!
消耗品が次々と使い捨てられ、一方的に貯蓄を吐き出させる展開が続く。
人間達の頬を焦燥の汗が伝うが、モンスターの方はこれが常態とでも言うように涼しい顔だ。
一部「顔」らしい顔が無い奴もいるが、とにかく調子を崩していない、という理解で正しいだろう。
そして互いに対処が追い着かなくなると、起こるのは更なる状況の悪化だ。
トロワはクジラの襲撃を受け始め、それ以外は火山弾を雨霰とお見舞いされる。
マグマが動ける領域は“聖聲屡転”やリーゼロッテによって食い止められているが、彼らを囲って逃げ場を奪うような広がり方を見せている。
クジラの艦砲射撃だけに終わらず、足の下が急に地雷原になるなど、決して許してはならない。
彼らはなんとしてもD型の侵攻に対処すべく、絶えず足回りに気を配り、
その時、六波羅は見た。
深くまで食い込んでから死んだ鯨、そいつの中身がバラ撒かれ、
地面に聖水で引かれた線に付着、溶け込んだ。
「ガネッシュさん!聖水の壁を今すぐに起動して——」
攪拌された血液が爆発。
聖水を散らして「線」、「境界」としての姿を失わせた。
用意していた防衛線が内堀から先に崩壊した。
そこに火山弾が着弾。
砂漠に黒い岩がめり込み、爆発によってトンネルが掘られる。
外から増設された地下道がそこに合流。
D型の領域が、遂に防御の内部に届いた。




