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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十五章:カチコミの時間じゃい!

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684.やるなら本気で来い

 爆発で散らすことは出来る。

 少しの間、大きめな一個体でいられなくして、動けなくすることまでは簡単。


 “提婆キャメル”にけしかけられてきたそいつらを、魔力弾で穴だらけにして、中に燃えている炉を吹き消して。


 それで退かす。

 密集し、凝集し、硬くなって壁を作ったりもしてくる。

 だけど、突き破れる。蹴り破れる。

 

 衝突や爆風で、粉末状にして撒いてやることができる。




 だが、それでは消滅しない。

 一度総体として死んだとしても、再度火を宿し、足下や背後から俺を襲う。




「きみは勝てない!砂の城を壊せてもっ!砂そのものを滅ぼせないッ!」


 その砂はよく燃えているように見える。

 が、実際の話をするなら、強い熱を瞬時に発生させ、空気に点火しているだけ。


 砂が燃えているんじゃない。

 砂が火を吹いている。

 中心の火の炉も、砂が噴く炎の集合だ。


 極小のドラゴン集団が、波のように敵対者を潰す。

 それが“提婆キャメル”のA(アマゾン)型。


 何もしなければ、砂は勝手に増えていく。

 単為生殖でもしてるみたいに、コピーし、分裂し、倍々ゲーム。

 

 全体を循環させるシステムの破綻。


 人間にそれが起こった場合、脳やらDNA情報やらが破損して、不可逆の死が訪れる。


 だがこいつらの脳や、全体の形の設計図は、“提婆キャメル”という物語が担っている。

 “提婆キャメル”が死ななけりゃ、肉体を直せばよみがえる。

 砂はすぐに増えていくので、欠けたり取れたりした部分はすぐに治る!


 と言うより、二つに分断されると、それぞれが別々の体を復元したりするので、バラバラにされることで数を増やしやがる!

 プラナリアもこれにはびっくりだ!


 なら砂の一粒一粒を爆殺する?

 どうやって?


 小さな虫は、自分の体長の何十倍の高さから落とされても、大したダメージを受けない。

 軽いものは、それだけ衝撃に強い。


 爆風で殴り殺せない。

 それじゃあ、「魔力で熱殺するかなぁ!?できると思う!?わたしの子だよぉ?わたしの太陽を受ける子らだよぉッ!!」


 そう、こいつらは熱にも強い!

 俺が小さい敵によくやる、焼き切って殺すやり方も現実的じゃない!


「さあ!産んで!えて!天地に満ちるよッ!おまえを埋めるよ!おまえの宗派なんて知ったことじゃあないッ!おまえは土葬されるんだよおおおおおッッ!!」


「ぴ、ぃぃぃいいいいいい……っ!お笑いだな“提婆キャメル”!」


 A型をぺしりと張り飛ばし、そいつらが生んだ単弓類数種を爆撃し、


「そこで嘘でも“火葬”って言えない時点で、火力の押し合いじゃ勝てないって、自白してるようなもんだろッ!」


 目の前に現れた砂山に狙いを定める!


「ひょ、おおおぉぉぉぉぉぉ……っ!」


 魔力爆破!

 A型にトンネル開通!


「無様だねぇッ!やけっぱちに殴りまくったところで………っ!?」


 奴がどれだけ大雑把とは言え、このダンジョンの化身であるなら、今起こったことに気付けただろう。


「お前のA型は、死なないのか?」

「こ、こぃ、こい、つぅ……!」

「どうなんだ?試してみたけど、これはまだ“生きてる”のか?」

「こぉいぃつぅうううううっ!!」


 蚊を追い払いたいなら、手を振り回すだろう。

 だけど殺したいなら、どうするだろうか?


 簡単だ。

 掌で挟んで叩き潰すんだ。


「魔力と魔力、圧力と圧力、爆風と爆風、なんでもいい。挟み殺した」


 ガゴオンッ!

 次々と開いていくボウリング球くらいの大穴!

 画像加工ソフトの消しゴム機能で、外からじっくり削り取ってくみたいに!


「ぴ、ぃぃぃいいいいいい……っ!」

「やぁかましいいいいいい!!」


 A型の大群質量投下作戦!

 爆風を薄く鋭利にした魔力で細かく分けてから、欠片の一つずつを潰して回る!

 

 横から突っ込んで来た三葉虫の柱5本!

 左手をそちらにかざし、発射した魔力で折り曲げ、絡ませ、内から爆破!


「ひょ、おおおぉぉぉぉぉぉ……っ!」


 帆のような器官に受けた太陽光エネルギーを長距離バーナーに変換する単弓類ども!

 恐らくM(メイジ)型だろう!

 吐き出す火柱の中心を魔力弾でぶち抜いて喉奥貫通殺!


「……!……!」

「ああ、『どうしてこいつ熱射病にならないんだ』、か?」

「っ!」


 こいつほんと、戦闘能力で拮抗きっこうした相手との駆け引き下手だな。

 俺でも分かるくらいダメって、相当だぞ?

 たぶんそこらのヤクザとか低級狩りとかの方が、まだ思ってることを隠せるな。

 

「一つは装備だ。救世教から貰ったこのアーマーは、“不可踏域アノイクミーヌ”攻略用に日光をより反射させるように出来てるらしい。体温調節機能も高性能だしな。


あとは俺の工夫だ。熱の籠った地面と直接触れないように魔力の層を挟んでるし、お前の眷属を打ち上げて日陰を作ってるし、何より——」


 側転2回!

 煉瓦色の光線が手前から薙ぎ払われる!


 抉られた地表からマグマが沸いて噴火爆発!


 俺が小細工をろうするとしても、そんなの関係ないくらい温度を上げようって魂胆だろう!


 だが!


「ひょ、おおおぉぉぉぉぉぉ……っ!」


 “不可踏域アノイクミーヌ”に1年いながら、何の対策もしてないわけがないだろ!

 この俺が、

 日魅在進が!


「なんだ……!なんだ、それぇ……!」

「理論上は可能だろ……?呑み込んで、受け入れろよ……」


 現実を認めることが、スタートラインなんだから。


「わたしのぉ、熱をぉ……!」

「そうだ。逃がしてる。んで、使わせてもらってる」


 アーマーから体内に伝わろうとしている熱を、“向こう側”に伝達している。


 俺が肺の中を空にし、魔力を放出するし切ることで、“向こう側”にも真空のポケットが作られる。

 余分なエネルギーがあれば、そこに流れ込むような状態が出来ている、ってことだ。


 “提婆キャメル”から押し付けられた熱を、分子運動を、その真空で吸い上げる。

 そして今度は、“向こう側”から俺の回路を通って出てくるエネルギー、つまり俺の魔力として、利用してやる。

 

 異常な過熱を、こっちの攻撃の一部として使ってやったのだ。

 熱中症で殺せるとは、思わない方がいいだろう。


「に、人間が、たかが穴だらけで、魔力をチョロチョロ出してるだけの、ローマン如きが、そんなに万能なわけがぁ……!」

「少なくとも、お前の域に達する存在は、唯一無二じゃないんだよ」

 

 こいつは絶対的な個ではない。

 俺がその証明だ。


「なら、物量で戦ってあげるよ!」


 A型から生まれたモンスター達が地中から襲撃!

 どいつもこいつもこれまでで最高のパフォーマンスを発揮してやがる!


「わたしの子ども達は、飢えと渇きに苦しんでるんだ!肉体が壊れることもいとわず戦ってくれる、良い子達だよ!」


 ある意味で死を恐れないより厄介。

 このダンジョンのモンスター達は、生への強い渇望を燃料にして、敵を必死で食い殺そうとする。


 それが特に強くなるのが、最も日射しが強いこの第10層!


「可哀想なやつなんだな、お前!」


 だが、必死さで言えば俺だって負けてるわけじゃない。

 そして頭のクールさが明確に勝ってる分、俺の方が有利まである。


「食いモンをチラつかせないと、自分の眷属のポテンシャルさえ引き出せないなんて!」

 

 必要なのは、少しの切り傷。

 こいつらの体内構造は、もう飽きるほど知り尽くしている。


 回転刃付きの魔力弾を撃ちまくり、表面が切れた奴から爆破。

 もう直接指先で斬ったり突いたりするまでもない。


「おまえッ!いちいちカンに障ってくるガキだなあッ!きみはッ!!」

 

 またも光線。

 今度は格子状に空間を縦横断。


 体を数度、最低限だけ傾けて全回避。

 続く噴火を避けながら、お返しに“生雷しょうらい”をお見舞いしてやると、麦わら帽子が焦げて飛ぶ。


「………」

「流石に、電流じゃ死なないか」


 熱に強い時点で、感電死にもあまり期待はしてなかった。

 装飾品以外に目立った傷も付いてない。


 ただ、別に痛くもないだろうに、雷電が当たった額を、左手で無言のまま押さえている。

 



「世界で最も多くの死をもたらしたのは、なんだと思う?」




「………?急にどうした?」


 何故かいきなり声色が冷めた女は、左眼の上あたりを手で覆ったまま、よく分からないことを口走り始めた。


「戦争か?疫病か?隕石か?人類か?」


 「どれも違う」、

 A型どもが驚くほど静かになり、奴の周囲に行儀よく配される。


「2億5200万年前……!火山の噴火やそこからの大規模な大火事……!酸素の減少と温室効果ガスの大量増加……!大陸移動による南極の縮小……!焼却…!酸欠…!灼熱…!旱魃かんばつ…!」


 「温暖化だ!地球規模の気温上昇!」、

 砂山達が、液体やゲル状物質みたいに、跳ね打っている。


「わたしらは、自分達を忘れさせない為に、自身に刻まれた死を再現しようとする……!だがそんな中でも、地球全体の気候を変えられるのは、わたしだけだ……!地球で最も凄惨な殺戮を実行できるのは、わたしだ…っ!」


 太陽と、火山、そして大火事。

 地球を暖める全て。

 こいつの死は、“地球温暖化”、もしくはそれに近い何か?


「地球全土を巻き込んで、全ての生命を物語に参加させる……!その生態プロトコルに、自分の存在を刻み込む……!そんなことが、おまえに出来るか……!」


 砂の海から、中心の彼女へシャワーが浴びせられる。

 細かく散りばめられた輝きは、水滴ではなく、陽光を返す砂金。


〈たかが一人の人間、どんなに頑張っても、言葉が通じる範囲で終わる、おまえなんかが……!わたしに並ぶわけがない……!〉


 金色に沈む女の背後の火山が膨らみ、内側から岩盤を裂いて、鋭い光を発する円環のモチーフが現れる。


〈“矮小な生に金色の死をバッス・イン・ザ・メルティーキッス”……!おまえはこれから知る……!本物の特別を…!〉


 溶岩が踊り狂い、砂嵐が吹き荒れ、竜巻のように流れぜるその暴乱の中に、


〈そして、これから死ぬ……!本来の末路通りに…!〉


 巨人の形をした輝きが立った。

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