683.キレ過ぎだろ part2
「………」
いや「なーにを初歩的なことを」みたいな顔されてもさ。
そこんとこがフワフワしてるせいで、話に入っていけないんだよこっちは。
「お前が知ってる世界とこの世界が同じだって、何を根拠に断言してるんだよ」
「だからさあ、わたしには記憶があるんだよ。人類が辿った歴史のさあ」
「それは、『お前の世界』の話だろ?どうしてそれが、この世界のベースになってるって……って言うか、おい、ちょっと待て」
言ってたら、なんかどんどん気になってきた。
「お前、ダンジョンが無い、つまり魔法とか魔学が全然ない世界の記憶があるってことだよな?つまり、牲歴が始まってからの歴史が、お前が知ってるものと全然違うっていうことだよな?」
「その暦もさあ、本当は西暦とかキリスト紀元とか言われてるもので」
「いやそういう話は今どうでも良くて。要はお前がダンジョンになる以前は、そこに紀元ゼロ年からの、ダンジョンが存在しない世界の積み重ねがあったわけだろ?」
「そうそう!そうなんだよ!その2000年が、更に遡ってより過去に至るまで、外来種が居着く為の整合性の為に改変されることに、我慢がならなくて——」
「じゃあお前、なんで永級1号なんだよ」
「……うん?」
なんか、俺が変なこと言ってる、っていう態度を投げつけられた。
ちょっとムカついてきたな……。
「いや、だからぁ、わたしが選ばれたからあ」
「そうじゃなくって、お前、そのキリスト歴とやらが始まってから、2000年くらいの積み重ねがあって、っていう世界で生まれたんだろ?って言うか、死んだのか?まあどっちでもいいけどさ。
で、お前の言う通り、ダンジョンがその後に来たとするよ?
じゃあなんで最初のダンジョンが、紀元元年に生まれてるわけ?少なくとも、時系列的にはお前が死んだ後に、21世紀以降に来るんじゃないのか?」
それとも何か?元の世界で2000年の未来を見通してた、とか言うのか?
でもこいつの場合、そうならそうと言うはずだ。
“予言者”なんておいしいポジションを、主張しないでいるわけがない。
「いや、ダンジョンによる歴史改変は、過去に遡って——」
「でもお前は、永級1号として2000年前にこの世界に生まれたんだろ?で、その後に続くこの世界の2000年を、お前自身が体験したんだろ?後発のダンジョンのせいで、歴史がどうやって書き換えられてきたか、みたいなところまで見てたわけだろ?お前が元居た世界と、この世界が同じものだって考えたら、時間軸が繋がらないじゃん」
「ダンジョンは時空を超えるんだから……、だから、そういうことだって——」
「いやまあ絶対ないとは言わないけどさ。でもそれ、お前の世界とこの世界が同じって言い張る根拠が薄い、って話になんない?って言うか、ダンジョンとか魔法とかってデカい差があって、歴史も全然違うんだろ?だったら別の世界だって考えの方が、説得力強いんじゃないのか?普通にさ」
元の世界の21世紀に起こった死の物語であるコイツは、その後忘れられた後に、この世界の1世紀に漂着した。
そう考えるのが一番自然だ。
もしかしたら紀元前の歴史が似てるとかあったかもしれないけど……うん?
「あれ、ってか根本を聞くんだけどさ。お前が知ってる元の世界の歴史って、どこまで正確なんだ?魔学とかない世界で、2000年生きてた、って話でもないんだろ?お前が『知ってる』って過去の信憑性は、どうやって証明してるんだ?
歴史研究家とかだったのか?でも、文献とか一次資料とか漁ったとしても、勘違いだとか嘘だとか混ざってたりするし、そうじゃなくても完璧には伝わらないじゃん?
それともお前が居た世界には、タイムマシン的な物が開発されてて、過去のどんな出来事も正確に知れるようになってたりとか?スゲーな。お前何年くらいに死んだの?あと何年くらいでそういうことに——」
(((ススムくん……)))
気になることを適当に並べていたら、カンナに肩を叩かれた。
見ると、袖の後ろでプルプル震えている。
(((そのあたりに……くふっ、してあげてください……!なんとも惨く……、見ているには忍びなく……っ!ぷふふ…っ!)))
何故だか爆発的に大ウケしている彼女から視線を切り、“提婆”の方を向く。
奴はもうパフォーマンスを見せてくれなくなっていたし、顔は今までで一番の無表情で固められていた。
この炎天下でも蒼白に見えるくらい、血の気が感じられなくて、短い間に蝋人形と入れ替わったのかと思う程だ。
「きみは……」
「ふはっ」、
やっと話し始めたと思ったら、急に吹き出した。
「ふふっ、きみはさ……、ふぶっ、きみって、さあ……!へへはっ」
何がそんなに面白い……いや、違うな。
これは腹から抜けてきた過剰な力みが、口から漏れて吐息になっているんだ。
何かを抑えようとして、笑ってるみたいな空気の噴出が起こっている。
隠し事をしている人間にありがちなやつ。
「きみは……くふひっ、ダメだなぁ……、ふすっ、ダメダメダメ……、フんふ…っ、絶対にダメだ……」
咄嗟に構えて魔力探知の範囲を広げ、その判断が正しかったことがすぐに確かめられた。
「こんなに他者を不愉快にすんだからさあッ!」
サイドステップ!
煉瓦色の光線がすぐ横を通過!
「消えなきゃいけないよねぇッ!?だってさあッ!だってわたしに、こんなにイヤな思いをさせるんだからッ!」
速い!
弾丸とかの比じゃない!
撃ってからでは見切れない!
魔力の予備反応の時点で見抜かないと避けられない!
「世界の意思であるわたしが不快なんだから、つまり悪いモノだって判定されたってことでいいよねぇッ!?はい害悪決定ぇーッ!」
風も無いのに砂が巻き上がり、幾つもの光線発射銃身が構築されていく!
「ワルモノなんだからさあッ!!塵も残るなよッ!わたしの前にッ!それが義務だろッ!!」
射線の隙になんとか体を割り込ませる!
熱でシールド表面がチロチロと弾ける!
「あー決めた!今決めた!わたしは決めたね!決めちゃった!」
岩石を融かして刺さり込んだ無数の煉瓦色!
その下で火山性ガスが弾けて噴火が発生!
「おまえは世界に残してやんない!!一切れの肉も、インク一滴の文字情報も、1ビットの記憶も記録もぉ!それを保持する媒体ごと、憶えてる脳ミソごとぶっ殺すッ!!」
岩石散弾を蹴り渡りながら接近しようとして、炎を宿した砂の塊に阻まれる!
ここにもA型の群れ!
「わたしの世界におまえの居場所なんて、1ミクロンも用意しないッ!!!」
「こわっ、なんで急にキレてんだよ」
「あああああああムカつくムカつくムカつくクソガキィッ!!!!!!」
うわあ、どんどんヒートアップしてく……。
クソ暑苦しいローカル持ちとは言え、そこまでカッカすることないじゃん。




