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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十五章:カチコミの時間じゃい!

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682.なんか分からないけどこれしかない道を選ぶ!

 白いシャツと好対照の黒いサスペンダーを指に引っ掛け、ゴムが縮んで胸に当たる、パチリと小気味良い音を響かせる。

 積もった砂の上だと言うのに、爪先と踵がカコカコと硬く鳴る。


 どこからどう見ても、行動の端々まで、間違いなくアインさんその人。

 彼がここに居るってことは——


「クリスティアがまぁた何か企んでるんですか……?」

「いえ。これは僕の独断です。と言いますのも、反逆の意思に勘付かれまして」


 で、最近まで捕まっていたのだと、彼はそう語った。


 クリスティアにとって、その大きな力は脅威。

 一方で、最終兵器であり福音でもある。


 だから勝手なことをしないように、そしていつでも好きな時に使えるように、ガチガチに拘束して宝物みたいに“保管”しようとしたらしい。


「でも今、結構自由そうに見えるってことは……」

「お察しの通り、大脱走中です」

「それはその……」

 

 俺は横目で黒づくめのおじさん?おにーさん?を見ながら訊ねる。


「はい。彼とは利害の一致がありまして」

「で、誰なんですか?あの人」


 それにアインさんが答える前に、“太子ピラミッド”の気付きが早かった。


〈その、影の能力……!貴様、“最悪最底ワーストランカー”であーるか……!〉

「おっと。ご存知頂いてるとは、光栄だネェ……」

〈貴様には一度、不敬を働かれているのであーる!あの媚びイルカで我が神の儀をさまたげたこと、忘れたとは言わせぬぞ!〉


 えっ!?“最悪最底ワーストランカー”!?

 マイナスランクディーパーの中でも最も危険視されてるっていうあの!?


 色んな国で窟災の封じ込めを妨害したり、テロ組織に協力したりして、民間人を殺しまくってる国際指名手配犯!


「ちょっ、激ヤバ危険人物じゃないですか!」

「ええ。背に腹が代えられたのなら、僕も組みたくなどなかったのですが」

「えー?せっかくここまで運んであげたんだからサア……。もうちょっと親近感持ってくれても良くないカナ?」

「無理な相談というものです。これが終わった後にあなたも排除させて頂きます」

「恩返しと思って見逃してくれたりとかサア……」


 おいますます意味が分かんなくなったぞ!?

 なんだって世界最悪のテロリストがこのタイミングで、しかも世界最高のチャンピオンとこんなところに居るんだよ!?


「彼の目指すところは不明瞭ですが、僕の目的はシンプルです」


 アインさんは帽子のつばを、人差し指で持ち上げ宣言する!


「イフリに住む人間の生命と財産!そこに信用を与える!その為に、“不可踏域アノイクミーヌ”は滅ぼしますし、陽聖の都合で核を落とさせもしません!」


 つまり………


「今は味方ってことでいいですか?」

「そういうことになりますね」


 以前に聞いたこの人の思想、目的と一緒に考えても、矛盾はない。

 クソミサイルが撃ち込まれる前、俺達が殴り込んできた今を、最後で最大のチャンスと見た、ということなのだろうと頷ける。


 問題は——


「ボクはね、進クンに要求があってきたんだ」

「?俺?」


 テロリストからの“お願い”なんて蹴っ飛ばしてやるのが正しいんだけど、だがこの変な状況を呑み込む為にも、聞かないわけにもいかないだろう。


「何して欲しいって言い出すんだ?」

「簡単さ」


 “最悪最底ワーストランカー”は、本当にどうってことのない内容を口にするみたいに、サラッと俺に笑いかける。


「全力のキミ一人で“提婆キャメル”と戦って欲しいんだ」

「………は?」

「ここで仲間を待ったりとか、一旦引き返したりして、合流するのはナシだ。キミだけで、10層に居るヤツと戦って欲しい」

「な……」

 

 なんだ?

 こいつ、本当に何がしたいんだ?


「キミがここから一人で10層に向かってくれるなら、ボクが加勢して、彼らの相手をしてあげるよ」

「僕はどちらにせよ戦います。ill(イリーガル)2体相手であろうとも」


「だってさ。どうする?」

「いや、それ、俺に目立った得なんてないだろ?俺がアインさんと協力して、こいつらを殺して、そっからゆっくりみんなと合流すればいいんだから」


〈なんだと!?聞き捨てならん!我々に勝てる気であーるか!?〉

〈口が過ぎるぞ!けがらわしい魔女ども!〉

「ごめんちょっと静かにしててくんない?」


 よりにもよってこいつら2体とも、イリーガル連中の中でもうるさい方なんだよなあ。声量的な意味で。

 会話の邪魔とかいうレベルじゃない。


「いえ、それはオススメできません」


 異を唱えたのは意外にもアインさんだった。


「ど、どうしてですか?」

「あなたがこの場に拘束されることになるからです」

「拘束?」


 確かに、少なくとも結構手こずるだろうし、ダンジョンを呼び出されたらそこに閉じ込められるわけだから、拘束と言えばそうなるのか?


「まず現状を共有しましょう。あなたの一行は現在、3つに分かれてそれぞれ1体ずつのill(イリーガル)と戦闘しています」


 俺以外のみんなが戦闘中。

 それも気の抜けないギリギリの攻防。


「その中で、あなたがフリーだからこそ、今の均衡が保たれている。分かりますか?」

「……!俺がすぐに駆け付けられないって保証があったら、あのビキニ女が自由になる…!」

「その通り」


 奴らはどうやら、俺を最も警戒している。

 そんな俺が一人の時に、向こうの最高戦力をぶつけたいと思っている。


 俺が自由なら、“提婆キャメル”がどこかの味方に加勢した時に、後から飛び入り参戦してくる危険がある。俺と“提婆キャメル”を交えた複数対複数戦では、不確定要素が多くなる。


 一方、俺がここで足止めを食って動けないとなったら、“提婆キャメル”はすぐにでも味方を助けに行ける。そして人間側を殲滅し、フリーになったイリーガル2体が別のイリーガルをアシストしに行って……と、連鎖的に戦線が崩れる。


 俺がまた動けるようになる頃には、精神力を消耗した上で、イリーガルに数的優位を取られた状態。


 では、ここを“最悪最底ワーストランカー”に任せて、俺一人で“提婆キャメル”を押さえに行く場合は?

 少なくとも、圧倒的な有利不利が発生しなくなる。

 

 全力の俺と、全力のあいつとのバトル。

 前段の仮定より、勝ち目は大きい。

 

「ボクの能力は、ダンジョン内外すら横断できるからネエ。ボクさえ協力すれば、ここに居る彼らはキミを捕まえていられない。『うん』と言ってくれれば、キミは確実に10層へ、“提婆キャメル”へ辿り着く」


 永級1号の強大さから、あいつがill(イリーガル)モンスターの中でも別格だと分かる。

 俺が居ないところで、奴をみんなにぶつける。それも、他のイリーガルと互角に戦ってる中に、投下させる。


 正直言って、やりたくない。

 幾ら「仲間を信じる」って言ったって、その状況で勝ってくれることを望むのは、盲信とか根拠なき神頼み。精神論でどうにかなる域を超えている。


「ススム。これが最善です。あの男の得体の知れなさには引っ掛かりますが、これ以外にありません。ここは僕に任せて、あなたは先に」

「………分かりました」


 不安は残るが、俺と“提婆キャメル”に1対1で戦わせることを、“最悪最底ワーストランカー”が望んでいるのは、間違いないと思って良い筈だ。

 今はそれに乗るしかない!


〈で?〉

「!」


 発砲音が鳴る頃には、アインさんが高密度防御壁を展開していた。

 抜け殻にされたディーパー達の弾丸が、ガギガギと透明な壁を削り掘る。


〈どうして余が先刻から、貴様達の話し合いを、寛大にも許してやったと?〉


 A型である砂山共が、“夜叉プリースト”の炎を着込み、その赤さを鮮やかにする!


〈一つは、長引くほど人間共が死に近づくからであーる。今現在は均衡が保たれているが、いずれ確実に我々の側が勝つ。勝った者が、順次あの御方のもとつどって、貴様の処刑執行に加わる!その時間を稼がせて貰ったのであーる!〉


 「そしてもう一つ!」、

 人体で出来た巨大四角錐が大量追加建設!

 2体のイリーガルも含めて俺達を包囲!


〈無意味であーるからだ!〉


 更に俺達の頭上に、上下逆の四角錐が出現!


〈「目上の者には礼を尽くすべし」!我が法はシンプル!そして解呪等を持たぬ貴様達が、それに抗うことなど出来ぬぅぅぅぅッ!〉


 魔力の気配!

 これは……自分のローカルの作用を強めるつもりか!


〈“皆で逝くなら怖れなしウェン・ズィー・ユゥー”!余が命ずる!ひざまずけ!余の忠なる奴隷であーれ!〉


 頭上の四角錐の先端から裸の人間らしき物体がそそぎ落とされる!

 それらは頭から俺達を押さえ込もうと——


「残念だけど」


 足の下に別の魔力。

 この感覚は……!


「それはボクらには効かないんだ」


 少し迷った後、不自然な影に飛び込む!

 さっきまで見ていたのと同じ見た目、だけど上下が逆な世界を泳ぐように進んで、また影から元の世界に戻る!


 いや、ここは既に10層!


「吾妻さんの能力に似てるけど、なんだこの異質さ…っ!階層までスキップって……!」


 色々と疑問があるけど今は言ってられない。


 風向きは明確に掴めている。

 あの女の位置が分かる。

 奴の他の手は全て潰した。


 これで舞台は整った!

 俺と、“提婆キャメル”との直接対決!

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