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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十五章:カチコミの時間じゃい!

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679.今から行きます

「いーかげん、やんなっちゃうなあ、あのガラス野郎君はさぁ……」


 ピカピカの太陽を仰ぐ砂漠の一角。

 燃える岩に囲まれ、ビーチベッドに寝転がる女。

 このところ出不精でぶしょう気味な“提婆キャメル”は、今日もニヤニヤと薄笑いを浮かべている。


 だがその口の端の皺をよく見れば、頬に入った力の緊張に気付く事が出来るだろう。

 ボリュームのある髪をき上げ、脚を落ち着きなく組み換える。


「無駄なんだけどなあ……?何をやってもさぁ……。たかが人間が、“可惜夜ナイトライダー”ナシに喧嘩を挑んでくるなんて、ナマイキしちゃってさあ……」

 

 グツグツボコボコ、マグマが沸いている。

 「勝てる」と思われていること、それ自体が気に入らないみたいに。


「わたしだけでも、余裕で勝てる。全然負ける要素なんかないのに……。


 メンドーだからほっといただけのことをさあ、わたしに勝つ自信がないから、直接対決を避けてるって、勘違いしちゃうのは、良くない思い上がりだよねえ……?


 間違えてるなら、正さないとだよねえ……?」


 彼女はこのダンジョンの主であり、ダンジョンそのものである。

 ゆえにダンジョン内で起こっている事を全て把握し、だから勝利を確信している。


「こっからさあ、予想外を幾つか起こしても、わたしと、あと数体が一緒になって、あのガキンチョをボコボコにするのは、変わらないんだよねえ……。どうやって負けるの?って話だし、ホントに……」


 各階層で孤立した人間達。

 一部は階層被りを許容せざるを得なかったが、合流できるとは思えない。


 彼女のダンジョンは広く、他の人間を見つけるまでに掛かる時間、一人で生存し続けられるわけがないから。


 単体のパワーでは劣る“聖聲屡転ガヴリール”は、彼女の眷属たるモンスターの群れで殺せるだろう。


 彼らとカミザススムを除くと、残りは6人。


 それぞれ一人で、大量の永級ダンジョンモンスターにプラスして、ill(イリーガル)の相手をしなければならない。


彼女の配下は、外で戦っている“鳳凰トリッパー”以外に4体。

一人殺すのに3分も掛からないだろうし、念を入れるなら、入れ子のようにダンジョンを生成して閉じ込めた上で殺す、というやり方だって取れる。


 二人以上になるには、モンスターの群れを切り開き、ill(イリーガル)に捕まらずに逃げ、広大な砂漠の中で味方を探し出すしかない。

 この、激しい日射の下で。


 出来るわけがない。

 各個撃破は固い。


 唯一、カミザススムが大暴れして、それぞれを繋ぐ可能性が、考えられなくもない。

 だから彼女は、そいつを5層に置いた。


 そいつは上か下か、どちらかを選ぶことになる。

 どちらか一方に進んでしまえば、同じ地点に戻る頃には、反対に居た全員が死んでいる。


 奴らの選択肢として最も合理的なのは、上層に居る人間を「救えない」と切り捨て、引き返さずに下層へと潜り続けること。


 だから深層側には、弱めの奴らを配置しておいた。


 チャンピオンやグランドマスターをより多く確保したかったら、1層まで上ってから10層まで降りるという大回りが求められる。当然、道中には大量の永級モンスター達。


 どっちを選んでも、戦力は半減。

 どうやっても、損をするように出来ている。


 賭けは必ず胴元が儲かる。

 このダンジョンでの選択全てが、“提婆キャメル”の都合を良くしてくれる。


「だから、勝てない……。どんなに頑張っても、残るのは5人とかかな……?うん、そうだね、運が良くて、それくらいだな……。わたしらを複数相手に出来る、そんな戦力はどうしたって残らない……」


 彼女の視界には、端から端まで勝利しか映っていなかった。

 どこに目を向けても、負け筋が無かった。

 

 さっきから彼女は、それを何回も確認していたのだ。

 ここまで咀嚼してそれでも見つからないのなら、「無い」のだ、敗北可能性なんて。


「そう、死ぬんだ……。きみらみんな、わたしに逆らったんだから、死ぬんだよ……」

 

 瞳がサングラスで隠されて、表情は半分ほどうかがい知れない。

 だがこの場に誰かしらが居れば、「機嫌が良さそう」とは思わないだろう。




 負ける筈のない勝ち戦の中、彼女は何故か不安定だった。


 


「さあ、ほら、最初の一人が死ぬよ……。死んでしまうよ……」


 彼女は第8層を見る。

 モンスターに囲まれた男。


 殴りこんできたメンバーの中でも、完全詠唱時の継戦能力が、最も低いであろう潜行者。

 それが理由で彼は、最も死にやすい8層に招き入れられた。


 カミザススムは走り出している。ルートは下層に向けての道。

 いや、もしかしたら、自分がどっち側に走っているのかも、よく分かっていないのかもしれない。


 どちらにせよ、間に合わない。

 6~8層で得られる仲間は4名。

 そのうち一人が、これで脱落。


「ほらほらほら、ダメ、駄目だよだめだめ、もう駄目だ。ああ、死んじゃう、死んじゃ——」




『物の道理を知らない、白痴はくち暗愚あんぐ蒙昧もうまい




 自分の煽りに言葉を返されたのか、一瞬本気でそう思ってしまった彼女は、息をひそめるように止めた。


『よりにもよってこのオレサマを、最もあなどおとしめるとは』


 そこから続いて、怒りを覚えた。

 どうしてこんなに偉そうなんだ?


 たかがそこらへんに居るだけの人間が、彼女と違って世界からなんの使命も持たされていないそいつが、どうして上から目線で話すのか?

 そんなことが許されていいわけがない!


「うるさいなあ……!死んじゃえよ……!」


 身体に穴を開けてやる勢いで、ローカルである太陽光線を強める。

 ただそれに当たっているだけで、体内が釜茹かまゆで地獄になるほど、執拗しつように。


『ほうら、お前は分かりやすい』


 狼共に囲まれた男は、見せつけるように箱のような物を取り出した。


『だから駄目なんだ、おごった下衆ゲスは』


 投じられたそれは地面に展開、五芒星魔法陣の形を作る。

 男はその中心に立って、角度をつけて両掌を打ち鳴らす。


 魔法陣の表面は、半透明か鏡面きょうめん加工済みであり、光を設計通りの方向に屈折・反射。

 魔法陣を構成する線の中に、太陽の光線を閉じ込めた。


「……ちょっと……?」


 片頬が、ピクリとった。


「それ……わたしの……」


 ガネッシュが密かに制作していたその魔具の上で、光からエネルギーを受け取りまくった狼達が、破裂してその血で魔法陣をなぞる。


 原初の永級の力を利用した多重魔法陣。

 それが不完全部を補い、魔術回路が外部出力される。


辺獄現界アマゾニン・ダンジョン

「ちょっと、おい、なにおバカなことやっちゃってんの……?」




                『“疾落園アルカ・マギカ”』




 第1層から第8層まで。

 大規模なダンジョン崩落と、全てを貫く大瀑布だいばくふが発生!


「わたしのダンジョンをさあ……!」


 滝の周りでは雨が降り、太陽と灼熱の猛威を相殺!

 そしてそれが現れた瞬間、全ての人間の足取りから迷いが消えた!


「わたしのダンジョンを、こんな、ぶっ壊すつもりで入ってきたってことぉ……?ふはっ、よくないじゃん……!許されるわけ、やっていいわけないじゃん……!ぷっ、そんなの、さあ……!だいたい、ふふはっ、わたしがそのクソガキ毛玉を一番下に送るって、ふすっ、どうして分かるのさ……!ははっ、インチキじゃん……っ!」


 笑い混じりの息を、すかしっのように何度も漏らしながら、糾弾する彼女は知らない。

 彼女のような性格は、そう珍しくないことを。


 つまり、「賭けが出来ない小心者」。

 慎重と言えば聞こえは良いが、過ぎると単に身動きできないだけだ。


 ある種コズルいほどに堅実で、確実に勝てないと気が収まらない。

 そうやって偏執へんしゅうきょう的に最善ばかり選びたがるから、何をするかがむしろ読みやすい。


 枢衍すうえん教室を代表として、そういった手合いとの殴り合いを、トクシメンバーは済ませていた。彼女はそのパターンそのもの、何なら怠惰たいだで外堀埋めも不徹底な分、下位互換であるとすら言えた。


 “カミザススム”、そして“可惜夜ナイトライダー”へのアプローチの仕方。

 明らかな戦力差がある相手への舐めっぷりと、食い下がってくる恐れのある敵への慎重さのコントラスト。


 彼女は今まで、素で思った通りに行動し過ぎた。

 プロファイリングの材料は、片付けられなかった玩具のように、あちこちに転がされていた。

 

『「手の内を晒し過ぎ」だと、プリムが居ればそう言うだろうな』


 「力を持った小人物」、それが最終的な結論だ。

 器の話をするなら、ずいぶんとせせこましくつまらない女。

 それが“提婆キャメル”。


 だから、ラポルトの仕組みを使っての戦力分散も、ニークトを甘く見て最も深い層に置くことも、全てが予期できてしまう。

 

 それについて事前に対策を話し合い、最短で適切な行動を選び取ることも、スムーズに果たせてしまう。


『8層まで直通だ。都市伝説みたいに、経過を連絡してやるまでもない。すぐにお前の後ろに着くぞ』


 巨大垂直ウォータースライダーによって、合流も潜行も簡単に為される。


 彼女がせっせと敷いたレールから、


 列車が盛大に脱線し、

 

 手の付けられない暴走状態に突入した!

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