676.邪魔だ邪魔だぁっ!!道を開けろ!
ほとんど、なんも、見えねえ!
「ぴ、ぃぃぃいいいいいい……っ!」
魔力で切り裂いても、晴らせるのは精々が十数m。
そこから先は、砂塵が濃いめに立ち込めて、塞いでいる!
幅が10mにも満たない曲がりくねった峡谷。
運転してる隊員さんが恐ろしく優秀なだけで、とっくに壁に激突してなきゃおかしいくらいだ!
しかもガッタンガッタン揺れて、ちょっと油断すると呼吸や会話が遮断される!
「ひょ、おおおぉぉぉぉぉぉ……っ!」
宙に身を躍らせてすぐ前にある崖に蹴りを入れる!
そこに張り付いて奇襲を図っていたデカい虫の出鼻を挫く!
「そのまま……っ出てくんな!」
俺が動くが早いか、ダーツ矢が次々と刺さり、雪花が付近一帯の敵を氷漬けて動けなくする!
「ぐわっ!目の前の丘っ!敵ですっ!運転手さんっ!」
「そうは言われっ、ましてもねッ!」
巨岩を背負ったダンゴ虫みたいな奴が地響きを起こしながら這って道を塞いでくる!
俺はそいつの正面に回って肉体損壊覚悟でジェットパンチとキックを連打!
ほとんど体を回しているようなラッシュで押し返している間になんとかハンドルを切った車両が通過!
〈後はっこちらでっ、引き継ぎますぞ!〉
「お願いします!」
ガネッシュさんが何かしらの魔具で止めてくれることを信じて俺は瞬時に先頭へ追い着き、洞窟内の懐中電灯の如く「頼りないけど無いと死ぬ」役に戻る。
こうしている間にも上からは炎と岩石、何かしら触ったら死ぬだろう液が振ってきており、隊列が縦に伸びていることもあって防御が一杯一杯になってきた!
俺はとにかく運転手のみんなの為に砂を払って、壁や地面に潜む敵を予めボコして、道が無いなら手近な断崖を爆破して斜面の元を作り如月さんにパス。
作業が少しでも遅れて車が大きく減速したら、後続全車が道連れに。
渋滞どころか玉突き事故待ったなし。
作戦全ての成否が掛かっているポジションだ。
大まかな方向、方角はガネッシュさんが押さえててくれてるから、完全に迷うことは無いとは言え、一瞬も気が抜けな……なんだ?横で動いている気配?
さっきのクソデカダンゴ虫っぽいけど、道を塞ぎに来るわけでも——
「!防御を!右からです!」
俺の声が口から出て、六波羅さんの魔法で増幅され、問題の車両に届く。
発射と着弾は、どちらもその間に終わってしまった。
それだけの時間があれば十分だった。
横から撃たれた強烈な一発。
それが見事に2台を食い破って爆発炎上。
「ナムサン!化けて出るなよーっ!」
吾妻さんのゲートによってその更に後ろへの被害拡大は防げたけど、乗ってた10人くらいは助からない!
「今のは!?」
「ガヴリールゥ!」
「「確認中……です……っ」」
光輪が岩山を越えてダンゴ虫の方に飛ばされる。
「「あの虫の体表に、トーチカが掘られています……っ。中に、戦車砲……、砲身を大量にっ、積んでいますが……、解せました。反動で、撃った筒が破壊されるほどの砲弾を放ち、砲身ごとっ、再装填しています。戦車の上に、L型らしきサボテンが乗っていて、換装を担当しています……っ」」
「カミサマ天使様“聖聲屡転”様よっ!1台だっつってくれよ?」
「「確認できるだけでっ、13台」」
『装甲列車みたいなっ、感じなのです!装甲ダンゴ虫なのです!』
渓谷に切れ間が来る!
「射線が通る!また撃ってきます!」
「「父の国を」」
右側面に何重にも展開される半透明の防御壁!
それを次々と叩き割っていく砲連撃!
他の角度からの攻撃に対する守りが薄くなり、接近する敵の撃墜に隊員やトロワ先輩が忙しさを増す!
ニークト先輩も完全詠唱と簡易詠唱を行ったり来たりして、車に取りついた奴らを切っては捨て千切っては投げる!
「もぉ~!からみざけはっ、ぐぬっ、キラわれるよぉ!」
車体に牙を立てた巨大蟻の頭部を凍らせスケートブレードで蹴り割るリーゼロッテさん!
「こっち修理お願いにぇっ!」
「はい!すぐに!こん!」
ミヨちゃんもリボンを総動員して破損を出来るだけ元に直す!
「「父の……っ罰をっ」」複数の光輪が戦車の一台に絡んで「「父の、腕を」」防御を突破して中まで切り込めた一つから白い腕が出現!メコリと中から曲げ歪ませる!
そこにまたしてもダンゴ虫からの斉射!
「一個貰うぜーッ!」
吾妻さんの楕円ゲートが一発を取り込んで反対側の崖上から飛び降りようとしていた群れに横流し!総爆殺!
「しゃらくさいわね!接近できればっ!あんなデカいだけのヤツ!」
「トロちゃん先輩押さえてぃ!先輩の走力じゃっ、うわわっ、一度降りたらお別れにぃっ、なっちゃいますよぉ!」
あそこまで離れられると、こっちが出せる有効打は“聖聲屡転”さんの光輪による攻撃くらい。
輪っかで突き破ってから、雷や炎で焼き払ってくれているが、
「「虫の表面に……、新たな穴がっ、開きました」」
『まだ暫くはっ、終わらない、ということですね……!』
「少しは加減を覚えろデカブツ奴!」
この分じゃあ装甲ダンゴ虫の脅威から解放されるのにはまだまだ掛かる。
こんな時、狩狼さんや六本木さんが居てくれれば……!
「“聖聲屡転”さん!ダンゴ虫の足をっ、止められませんか!」
六波羅さんから方針転換の提言!
全滅させずとも並走状態を解消すれば目的は果たせるってこと!
「「それが良いでしょう。父の罰を」」
光輪が全て前に回り込み、敵の肢を切断し、燃やし、灰にしていく。
特に前でウジャウジャしている部分を重点して刈っていくことで、つんのめらせて走行を狂わせる!
岩山四つほどを削って減速していく装甲ダンゴ虫!
その振動のせいか戦車砲の次のウェーブは的を外しまくっていた。
「「目論見通り。ただし、修復作業が……っ、円滑に、開始されました」」
「引き離せるだけっ、引き離します!」
「!ジャバリ少尉!ぶっ、前!」
「早くもっ!お代わりですか!?」
珍しく長い直線、砂嵐がパッと開け、現れたのは……、なんだアイツ?
ナマケモノから体毛を奪って、筋肉と凶暴な面構えを足した感じ。
洋画とかが好きそうな、ナックルウォークするタイプのクリーチャーだ!
ついでに言えば、両腕と背中にデカい銃をくっつけているので、益々クリスティア映画っぽい!
「いや言ってる場合じゃないっ!あれマズい奴です!乗研先輩!」
「幾つかそっちにっ、回すから耐えろ!」
15mくらいある「バケモノ」の具象化!
そいつが両側の大口径ガトリングガンの回転をスタートさせる!
更に両肩や頭の上から1m口径のギャグみたいな大砲を5つほどこっちに向けて、ボッコンボッコン遠慮無しにぶっ放す!
「ぴ、ぃぃぃいいいいいい……っ!」
反応装甲と流動防御!
「「父の国を」」
傾斜をつけた防御壁!
眼球が触れるくらい近くで本格的なカメラがシャッターを押されたみたいなフラッシュ!
目と耳が一本の剣で全て貫かれたみたいに痛く鳴る!
そいつは口を大きく開けて魔力の塊のような黒と黄色の吐瀉物を発射!
それは“聖聲屡転”さんの魔力を侵蝕していく!
そしてガトリングを振り回し、周囲で崖崩れや地滑りを起こさせ、俺達を生き埋めにしようとしてくる!
魔法効果を削ってくるあの嘔吐と合わせて敵の火力が高過ぎて、地形を整える方まで手が回らない!
巨体で完全に道を塞いでいるから、接近出来ても通り抜けるのに手間取ってしまう!
もっと広いところでじっくり戦うならともかく、集団が高速で走る狭所で出てくる、殺すのが面倒なデカブツなんて、相手にしたくない、ではなく、相手にしてはいけないのだ。
ちょっとでも速さを緩めたら後ろが大混乱になるリスクがあんだぞこっちには!
ここは仕方ない。一旦脳の負担を押してでも“嚆矢叫炎”を使って〈ススム殿!前に出れますかっ!出れますね!!〉
ガネッシュさんが投げ渡してきたのを掴むと、それは俺が持っているものより長く頑丈なダンジョンケーブルだ!
これで前に出て何を……いや、そうか!
俺が理解して流動防御を展開しながら前に跳ぶのとほぼ同時、四つ足形態になったガネッシュさんがすぐ隣まで駆けてきていた!
こっちの気付きがちょっとでも遅れたら先行し過ぎて蜂の巣になりかねないテンポ感!
やっぱり息を吐くように無茶してるのはこの人の方だって!
〈道をお願いします!跳び越えますぞ!〉
「跳び越える!?」
『意味わかんないのです!』
とか言いながら如月さんは踏み切り台を作ってくれたし、乗研先輩は踏んづけた力を反作用と一緒に返してくれる黄金板の飛び石を空中に設置してくれる!取り敢えずやってくれる話の早い人達だらけだ!
崖を飛ぶヤギやメルヘンな絵本のユニコーンみたいに軽やかに宙を走る象!
俺は彼の前で盾となる!
すぐ横を流れ触れたものを食い散らす弾丸と、それと魔力が共に作る数千の爆発、俺達二人はそれらに構わずズンズンと最短距離前進!
ケーブルに長めの回転刃を流し、相手の上を越える際に防壁へのブレス攻撃中だったその口に噛ませ、頭の赤道を一周させる!
「〈せえええええええのぉッッッッ!!〉」
ガネッシュさんの重さと俺のジェット噴射、そしてそれぞれの巻き取り機構も利用して、息を合わせてケーブルの端を別々の方向に引っ張り、ワンマンアーミー気取りデカボンの頬を回転刃ケーブルで削り裂く!
そこから魔力侵入!チョップで首を斬られたビール瓶めいて頭部の上半分がポンと真上に踊る!「ひょ、おおおぉぉぉぉぉぉ……っ!」更に魔力侵入!巨体を縦に割ってスライドドアみたいに両開き!
血肉が降る中を駆け抜ける行列!
パーツを拾い切れなくてフレームの所々に欠けが目立つようになってきた!
だけど景色にも変化が見られる!
急に開けたと思ったら、崩れかけたり上部だけを覗かせたりするビルの骸が並び始める!
「街だ!」
『酷い状態ですが、どこが道路だったのかが分かるくらいにはなって来ましたね』
大部分が砂に埋もれてしまっているけど、でも確かに人間が住んでいた場所だ!
〈私のマッピングに狂いはありませんでしたな!これで……恐らくあと1時間弱!〉
「ラストスパートだ!全員気合入れろ!」鼓舞するジャバリ少尉!「ウー!フー!」応える隊員達!
締めの直線前、最後の関門に入ったレーサーの心境!
だが油断も安心もない。
ただ進み、確実に到達する。
踏破する!
俺達の頭には、それしかない!
それを成すまで、喜ぶ時じゃない!
魔法で整備されていく道の先、
砂嵐と飛行生物の群れが、空全体を蝕み喰うのが見えた。




