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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十五章:カチコミの時間じゃい!

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672.「最悪」を実行させないために part1

 元々“不可踏域アノイクミーヌ”は、様々な問題を現状維持にとどめ、先送りに出来る都合の良さも持っていた。


 世界的宗教二つが争う領土問題が有耶無耶うやむやになるのもそうだけど、もっと直接的な恩恵もあったのだ。


 高純度コアが容易に手に入ること?

 建前でも人類に結束ムードが流れること?


 細々《こまごま》としたものは色々あるが、少なくともクリスティアにとって、最大のメリットは何か断言できる。




 「ill(イリーガル)と手を組めること」だ。




 独自の領土を広げ、人間に敵対的とも言える態度を取っている“環境保全キャプチャラーズ”。

 彼らはill(イリーガル)に対しても、一方的な基準で敵味方をり分ける、排他性の強い集団である。


 そういった大敵、脅威が健在な間は、“転移住民リーパーズ”はクリスティアとの関係を切れない。

 “環境保全キャプチャラーズ”と人類という二正面戦争は、流石に敗色が濃厚になるからだ。


 特にクリスティアは、“転移住民リーパーズ”を仮にも集団としてまとめ、あの“千総フュージリアー”という危険物すら制御していた“靏玉エンプレス”、彼女との関係を重要視していた。


 有能で話が分かる、強大な戦力の番人には、いつまでも味方で居て欲しかったのだ。

 

 彼女が生きているうちは、クリスティアはダンジョンの深奥の真理を独占し、“不可踏域アノイクミーヌ”と“環境保全キャプチャラーズ”の勢力伸長も抑止され、不確定要素の全てを完全にコントロール下に置くことに成功していた。


 だからクリスティアは、“靏玉エンプレス”が彼らから離れていかないように、“不可踏域アノイクミーヌ”の奪回を叫びながら、影で妨害していた節もある。


 その代表的な事例が、番外特殊部隊グループ“掃討班クリムゾン”による、モンスター襲撃に見せかけた領地奪回レコンキスタ軍への破壊行為。


 人類の勝利の為にと自ら集めた筈の世界中の有志を背中から撃つ、その矛盾に耐えきれなかった彼らの殆どは、精神を病んだ末にろくでもない結末を迎えていた。


 例えば、金の為に友好国に住む少年一人を暗殺しようとして、ill(イリーガル)の魔学的細菌兵器に巻き込まれて死亡する、というような。


 さて、そこまでして守った停滞ではあったが、疎州島での“靏玉エンプレス”の敗死によって、状況は変わらざるを得なくなった。


 最も問題とされたのは、仨々木佑人を巡る攻防で露呈した、“提婆キャメル”の節操の無さである。


 道理や約束といったものをかいするこれまでのパートナーと比べて、交渉相手としては最悪の部類。彼らを味方につけたつもりでも、何らかの気まぐれで反転、猛攻を仕掛けてくる、という事態が想像にかたくない。

 

 元々自分が認めたill(イリーガル)以外に攻撃的なこと、そんな者達に永級7枠の全てが握られたことが重なり、クリスティア内部で“提婆キャメル”討滅論が火の手を増していた。


 そして日魅在進による殴り込みによって、“環境保全キャプチャラーズ”のほぼ全戦力が永級1号防衛の為に、“不可踏域アノイクミーヌ”内に引っ込んだこのタイミング。


 鬼の居ぬ自由なあいだに、なにかしらのアクションを取るべきだと、事態が開けた瞬間に、彼らの炎は外気を取り込んで爆発した。

 

 “提婆キャメル”の完全排除は無理でも、「逆らったらただじゃ済まない」という、力を持った脅しが必要。そこで考案されたのが、“DS(デモニック・ソウル)作戦”である。

 

 人類が辿り着いた叡知の果て、どんな相手でも生物やそれに準ずる者なら確実に滅却できる、神の炎。束の間の人工太陽。


 裏でコツコツ製造し続けていたクリスティアの核兵器保有数は、既に4ケタに届こうとしている。


 その中の10発20発を使って、“不可踏域アノイクミーヌ”上に広域完全極限環境地帯を作り出し、生物もモンスターも全て追い出した上で、人類側が無防備なそのスペースに進駐しんちゅうする。


 理論上、これを繰り返していけば、“不可踏域アノイクミーヌ”を完全攻略できる。

 費用と成果が見合うかは別にして、「可能である」ことが重要。

 

 「やろうと思えばできる」、それを示す為に、一発殴って体感させる。


 人類が化け物との戦いで優位に立ち、地上の覇権を取り続ける為に、当然必要となる一手である。

 

「いや待ってくださいよ」


 言いたい事が分からないでもないが、それでも進は言わずにはおれない。


「確か核兵器って、“不可踏域アノイクミーヌ”のど真ん中に、原状回復機能が強く働く場所に撃ったっきり、なんですよね?」


 実戦投入らしきケースと言えば、それくらい。

 それも、威力を測るために、丁寧に一発ずつ落としてみただけ。


「すぐ近くで複数同時に爆発して、何か未知の反応とか、起こらないんですか?被害が大きくなり過ぎて、巻き込むつもりがなかった人達にまでるいが及んだりとか……」


「「クリスティアからは、『考えがたい』との回答を受けております」」

「その危険があると言えなくもない、くらいの温度感だにぇ~」


 初手の疑問からして、不安しかない答えが返ってきた。

 ちょっとした小手調べでこれである。


「それに、核兵器は有毒な、物質だか光だかが出るって、そうも聞きました。宇宙飛行士とかが悩むような、目に見えない危険があるって…!これまではダンジョンとか“不可踏域アノイクミーヌ”が除去してくれるからヨシ、って話だったじゃないですか。でも今度は、ダンジョンとモンスターの影響を追い出す為に撃つんですよね?」


 「それって、大丈夫なんですか?」、

 ここで「大丈夫」と言い切れる者が居るとしたら、無責任なら楽観主義者か、本物の予言者くらいであろう。


「しかも撃った直後に、人間が進駐って、それIUSSM(ユースム)の人がやるんですよね?その人達の安全は?」

「専用の防護装備とかは送ってくれるらしーぜー?ご親切なこったなー」

「それのテストだって、一度に20発ぶちかました後、みたいな想定でやってないですよね?」

「そこは知らねー。もしかしたら気合入れてやってくれてるかもなー?」


 やろうとしていることの規模と比して、何もかも見切り発車過ぎる。

 “環境保全キャプチャラーズ”や“提婆キャメル”が怖いのは分かる、分かるが、流石にパニクり過ぎではないか。


「放射線がどこまで拡散するかも未知数というのは、人体への影響もそうですが、他の生物へのそれも無視できないものとなりますな。


 いえ、被曝ひばくによる遺伝子異常程度ならまだ可愛いもので、それだけのエネルギーを広範に撃ち込んだ場合、例えば突如外から持ち込まれた熱量や舞い上がった灰などによる気候への影響等、予測不能な変数が大量に増やされることになりますぞ。


 検疫線以南(いなん)の諸国諸集団、生態系にどこまでの損害が出るか、正確な予測が可能な方など、地球上には現状存在しないでしょうな。『環境』とはスケールの巨大さに似合わず、デリケートなものなのです」


「政治や住民感情から言っても、悪影響になります……!」


 巨視的な観点を並べたガネッシュの後に、六波羅が人間の世界が見えるくらいまで解像度を上げる。


「過激派武装組織ならまだしも、クリスティアと敵対していない国だって、南イフリには幾らでもある。それらへの危険を『仕方ないもの』だと断じ、今前線で抵抗している現地軍を捨て駒のように扱い、史上最高火力を突然親の仇みたいに投入するんです……!


 単に異国を嫌いになるだけじゃ済まされません。海の向こうの列強の暴走で、平和もその日の安全も簡単に奪われる。何をやっても最後には全部台無しにされるという無力感、厭世えんせいかん蔓延はびこって、社会秩序がグチャグチャになります……!」


 陽州に近い北部ではなく、南部の検疫線に撃ち込むという点もまた、彼らの神経をやすりで削るだろう。


 イフリ全土単位で植え付けられる学習性無力感。

 経済的自立へのモチベーションが一気にそこなわれ、住民達はどうしようもない現実への、ドス黒い憎悪をつのらせるしかなくなる。


 「そっちが植民地以下の待遇を寄越すなら、こっちは敵国以上に苛烈にやってやる」、そういった意見がイフリの人類圏全体を席巻しかねない。

 そして地球規模の怨讐おんしゅう連鎖が始まる。


「“北イフリの春”の後に来たバックラッシュ、あの時と同じかそれ以上の、反クリスティア、反民主主義運動が高まり、イフリ内のあらゆる内戦が激化するだけでなく、武装組織の無差別テロを世界中へ輸出する結果にもなりかねません……!」


 望ましくない未来ばかりが思い起こされるが、肝心のメリットは何かと言えば、“環境保全キャプチャラーズ”が驚くかもしれない、それだけだ。




 あらゆる面から言える。

 「正気の沙汰ではない」。

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