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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十五章:カチコミの時間じゃい!

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670.本当に勇気があるのは誰か part1

「こんにちは、みんな元気ー?」

「おっ、あんちゃん!」

「バカッ!失礼でしょ!」

「あはは、良いって。子どもがそんなにかしこまらないでよ」


 翻訳機片手に例の4人の様子を見に行ったら、ちゃんとした病室で保護されていた。


 アシャア君の腕も専用の治癒能力持ちに治して貰えたし、“不可踏域アノイクミーヌ”滞在による肉体への影響も、検査で特に見つからなかったみたいだ。

 これにて一安心、といったところだろう。


「あ、あの!ススムさん!ありがとうございました!」

「あれ、名前……」

「ヘイタイさんから聞いたんです」

「なるほど」


 男子3人が俺への接し方に戸惑う一方、サラーサちゃんは行儀良くテキパキと応対している。この年齢にしては、ちょっとしっかりし過ぎなくらいだ。


 最初に話した時から思ってたけど、どうやら彼女がグループのトップみたいだ。

 代表で俺と交渉したり、総意を述べたりするし、他の子への接し方からは、姉御肌が見て取れる。


 単純な話をすればこの中で一番「弱い」筈の彼女が、リーダー役をやれている事実から、力の強さによる上下関係ではなく、絆のような関係性と信頼があることが分かる。

 

「あの時の話、アタイたちをナットクさせるために、わざとコワい人のフリをしたんですか?」

「うーん、そこまで立派な人間じゃないのは確かだし、『怖い人』なのは間違ってないんじゃないかな?」

「そんなことないです!ススムさん、あんなにすっごく強いのに、アタイたちのこと守って、心配してくれるくらい、やさしくて……」


「あー!サラーサがテレてんぜ!」

「ひょっとするとひょっとするか!」

「へへへっ、見たことないカオしてらー」


 男子3人に拳骨げんこつが落ちた。

 文句を言おうと彼女に顔を向けた彼らは、口をつぐんで視線を逸らしてしまう。


 分かる、分かるぞー諸君。殺気があふれるニッコリ笑顔ほど怖いものはないもんなー?


「仲良し4人組だね」

「『アタイと3人の子分』です!アタイがこのバカどものメンドー見てやってるんですよ!ふふん!」


「よくゆーぜ!オレたちがいないとシんじまうクセに!」

「やーいマリョクオモラシ!」

「うっさいわねワヘド!あんたなんかつい1ヶ月前にオネショしてたじゃない!」

「その話はやめろよー!」

「少しはハンセイしろよ!あれゴマカすのタイヘンだったんだからな!」


 彼らは今までも、こうやって身を寄せ合って、生きてきたのだろう。

 彼女は自らの非力に負けず、同年代を引っ張って、精神的支柱で有り続けたのだろう。


 強い子達だ。

 ここまで強くならなくちゃいけなかったというのも、一つの悲劇と言えてしまうけれど、あまり勝手にあわれみたくはない。


 ただ、尊敬する。

 俺が彼女のように、この地で罹患者になっていたとして、こうはなれないような気がする。


 割と恵まれた環境でも、それなりの期間ウジウジしていた俺だ。

 彼らのように、友達と支え合える関係には、自分の力だけではなれなかった。

 心が折れず、笑顔を見せられる彼らは、俺には眩しいくらいだった。

 

「サラーサちゃん」


 やっぱり、この話はした方がいいだろう。

 彼女には、それを決断できるくらいには、生きて戦おうという意思がある。


「ちょっと、これから君に、失礼なことを聞くかもしれないけど、いいかな?」

「な、なんですか……?コワいですけど、アタイ、ススムさんなら良いですよ!気になる男の子とかいません!」

「うん……?ごめん、俺が聞きたいのはそういう話じゃなくて……」


「ハハッ、フラれてやんの!」

「もう一発くらいたい?」


 急転直下でドスが効いた声と共に、ギロリとにらまれたイスナーン君は、口笛を吹きながらソロソロと離れていった。


 なんなら俺もちょっとビビッてしまった。

 こっちに向き直った時にはキラキラした表情に戻った彼女の、その変わり身の早さが、更に恐怖を加速させた。


 反射的に敬語とか使いそうだった。危ない危ない。


「お、おほん……サラーサちゃんは、漏魔症……あー、魔力を溜められないんだよね?」


 彼女の顔が、少しだけ曇る。


「おい、にいちゃん、サラーサはバケモンになんか——」

「アシャア、みんなも、まって、大丈夫だから」


 すぐに庇おうとした彼らを、サラーサちゃんは引き留める。

 うん、やっぱり、彼らは凄い。

 実力差がハッキリしてる相手にも、友達の為なら臆することなく立ち塞がる。


「ケンサの人から、聞いたんですか?それとも、その、わかる、んですか……?」

「魔力に敏感な事情があるんだ」


 彼女の体質については、初対面の時から気付いていた。

 そんな彼女が、この地でたくましく生きて、最後まで抗おうとする、その凄まじさも。


「もし……、可能性の話で、簡単じゃあないけど、もし君が、その魔力を操れるようになるって言われたら、どうする?」

「え……?」


 流石に今度は大きく表情が乱れ、友人達の方を振り向いた。

 他の3人も、ポカンとしながら互いの反応を見て、今の言葉が全員に聞こえた、幻聴などでない本物だったことを確かめる。


「あ、あんちゃん、さすがにそれは、ジョーダンならオコるぜ?」

「勿論、こんなこと冗談じゃ言わない。大マジの大真面目で聞いてるんだ」


 彼らの目の中に、不安そうな色が浮かぶ。

 それは、俺を胡散臭がっているって言うより、期待することを恐れているみたいだった。


 希望を見せられてから、壊されたり、騙されたりで、突き落とされる。それに反射的に備えてしまう、防衛反応。


「で、でも、このビョーキは、そんなの、ムリだって……」

「不可能だって思い込みを、人類全体が作ったから、出来なくなってた……と言うか、出来なくさせられてたんだよ」

「オモイコミって……それだけで……」


 魔学と精神とは深く結びついている、っていう前提を、彼らはたぶん教えられていない。精々が「気合を出せば魔法が強くなるから、ビビるな」、程度のことしか言われてないのだろう。


 ここらへんについての教育が行き届いてない相手に、どう言えば分かりやすいだろうか。

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