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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十五章:カチコミの時間じゃい!

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669.あのぉ……、「謎の人物」ってブランディングがですねぇ……

 イフリ連合“不可踏域アノイクミーヌ”対策支援及び安定化ミッション。

 通称IUSSM(ユースム)


 周辺諸国が協力し、そこに国連の物資支援が足されて作り上げた、“不可踏域アノイクミーヌ”問題解消を目指す活動、及びそれを遂行する集団。


 半分は現地軍の再編、残り半分は国連から来た多国籍軍で構成されており、火器や魔具も最新式のものを使っている。

 

 “不可踏域アノイクミーヌ”と人類のイフリ側の境界線、最前線である“検疫線”の4割ほどを維持しているのも彼らだ。


 残りの6割はと言うと、様々な武装組織や独裁政権が所有権争いでバチバチしており、えない火種と化している。


 で、その人達がキレてやらかし、いざこざの余波で“不可踏域アノイクミーヌ”が広がることを防ぐ為、仲介役を担うのも、IUSSMの役割である。


 武器を向け合ってピリついている諸勢力に、一切の衝突をさせない。そんなものはほぼ不可能なチャレンジであり、現に検疫線は徐々に後退中だし、つい先日も殺し合いが発生して大童おおわらわだったらしい。


 恐らく世界で最も胃を酷使している組織、それがIUSSM(ユースム)だ。


 その心労に最近、「誇張ではなく死ぬほど高頻度で“不可踏域アノイクミーヌ”に入りたがるフィールドワーカー」が足されたことについて、それなりに責任を感じないでもない。


 1年前、「丹本から出て“不可踏域アノイクミーヌ”に行く」という目的を果たすのに、俺の交流関係の中で頼れる先として、一番良いのがガネッシュさんだった。


 国籍が無いことによる不都合をチャンピオンとしての地位と信用でゴリ押してたし、過去から見ても“不可踏域アノイクミーヌ”に入りたがっていることが確か。


 俺の体に興味がある(語弊)らしいし、疎州島の時に俺の実力も見て貰ってるから、交渉になるかと思い「手伝うから連れてってください!」と言ってみたら、お願いしたこっちが引くくらい喜ばれた。


 で、この通り、露払つゆはらい役としてバリバリ働く代わりに、高級魔具とか知識とかコネとか、使い倒させて貰ってる、ってわけ。


 というわけでこの1年、俺とガネッシュさんは互いに「頑張り過ぎじゃない?」と言い合いながら、出勤みたいな感覚で入りびたっている。


 IUSSM(ユースム)の皆さんは、俺達のはっちゃけと、それに対するill(イリーガル)の反撃とで、とばっちりを喰らう立場なのだが——




「例の“お騒がせ問題児スコールデッド・マイナス”だ!」

「“カマイタチ”が来てるって!?どこだ!」

「あれが“不可視の死線ウルトラ・ヴァイオレット・カゲロウ”?マジの本物かよ?」

「俺は“砂漠の孤影”って聞いたぞ!」

「何言ってんだよ、“討伐神話スターリング”だろ?」


 


 なんか歓迎ムード……って言うかちょい待て、俺の知らん二つ名が大量に耳にぶつけられたんだけど?


 なんだよ「ウルトラ・ヴァイオレット・カゲロウ」って。俺そんなヘンテコな呼ばれ方してんの?いつから?英語と丹本語でバランスがガタガタなんだけど??せめて「カゲロウ」は「ヘイズ」とかにして統一感持たせて???


 くそっ、せめて英語じゃなければ、聞き取れなかったことに出来たのに……!


「あの……ガネッシュさん、俺のことどういう紹介の仕方してます?」

「特に大仰な誇張はしておりませんぞ?私の護衛とだけ」

「それだああああ!」


 公の場とかならともかく、「“不可踏域アノイクミーヌ”でチャンピオンを護衛する側」とかそりゃあびっくりもされるわ!


「まあ、あなたがこちらに来てから1年、モンスターコア密漁者やIUSSMの遠征隊には、ちょくちょく戦闘を目撃されていたようですからなあ。有名人になるのも郁子むべなるかな。あまりに常識外れ過ぎて、それなりに長い期間、例の罹患者だと気付かれていなかったくらいです」


「え、そうだったんですか?」


 まあ変身したりするし、距離が遠かったりすると、魔法っぽくも見えるか。

 でもクリスティアとかは、早い段階でキャッチしてそうなイメージはある。

 出来ることなら、もっと殺し屋とか送り込みたいんじゃないだろうか。


 IUSSM(ユースム)にこれ以上負荷を掛けると、それこそ“環境保全キャプチャラーズ”側に利することになるから、丹本に居た時みたいな、なりふり構わずドンパチは出来ないのだろう。

 いや丹本でもやるなよな。


「それにしても、トラブルの種にこんなに好意的なことあります……?そ、それとも遠回しな嫌がらせとか……?」

「視点がひねくれ過ぎですぞ!?」


 や、ごめんなさい。

 人間不信が出てしまいました。

 素直に感謝しようと思います。


「自信を持ってください。“不可踏域アノイクミーヌ”にたった一人の力で抗している、どころか圧倒しているあなたは、これまでモンスターと人間の双方に苦しめられた彼らにとって、大きな希望とですぞ!」


「その通りです!Mr.ススム・カミザ!」


 お芝居みたいな登場の仕方で簡易テントに入ってきたのは、多分それなりに偉い人だ。

 階級章とかあんまり分かんないが、迷彩服っぽいのは着てるから、隊長レベルの方じゃない?知らんけど。


「ジャバリ・ンビリ少尉です。基地内はあなたの話で持ち切りですよ」

「カミザ……えっと、ススム・カミザです。恐縮です……」


 ザ・軍人って感じの太い腕と握手を交わす。

 魔力なんかなくても頼れそうな、力強さが伝わってきた。


「覚えておいででしょうか?4ヶ月前の遠征任務で、あなたに何度か助けられました」

「あー……、すいません。魔力を見せて頂ければ、たぶん思い出せるんですけど……」

「HAHAHA!気にせんでください!ヒーローは毎日大忙しでしょうから!」


 「ヒーロー」って言ったってなあ……?

 ただモンスターを殺して、助けられる人は助けてるだけだ。

 潜行者としての仕事を、趣味のついでにやってるに過ぎない。


「実を言うと、他の者からは羨ましがられてるんですよ。あの“勇者ブレイバー”と直接話せるなんて、恐ろしく光栄なことですからね」

「まだ知らないニックネームが出る!?」


(((くぷ…っ!ぶ、ぶれいばっ、ふくく…っ!)))


 そこ!ツボるな!


「とにかく、ご安心を。この基地にあなたの敵はいませんよ。ここであなたの悪口を言おうものなら、瞬く間に“親衛隊”が駆けつけてドヤされますから!」

「親衛隊!?なにそれ!?そんなもの出来てるんですか!?」

「非公式ファンクラブみたいなものですよ!」


 み、身に余る~ぅ……!

 実質的にはただの不登校児なんですけど……。

 いや、もう流石に退学扱いになってるか。


 ってことは中卒の無職童貞になるのか?

 ……いや、ガネッシュさんのお手伝いは立派な職業でいい筈だ!うん!きっとそう!


「最近ではあなたの戦闘を記録できた映像があれば、上映会が始まりますよ?」

「さっきから初耳情報が凄い!」

「ここでの娯楽と言ったら、酒かカードか携帯ゲーム、後は筋トレくらいでしたからね。士気高揚にも繋がるからと、ある程度の機密指定がなければ上も黙認してくれます」


 う、うーん。

 なんか悪意を持たれるのとは別の方向で安心出来なくなってきた………

 

「皆、それだけ不安だったんですよ。先行きが見えず、解決の目途は一向に立たない状態で、敵は存在感を強めるばかりでしたから」

「日々驚きの連続ですからなあ!私のように、未知の脅威を楽しめる人間ばかりではありますまい!」

 

 ダンジョンから溢れ、“不可踏域アノイクミーヌ”を形成するモンスター達は、多様性を獲得している。


 他のダンジョンも勢力圏に入れた影響か、“提婆キャメル”がなんか秘術でも使ってるからかは分からないけど、いつもの10種では全然分類が足りないのだ。


 公的に確認されているだけで100種以上。

 今後もどんどん増えると言われている。


 奴らの勢力圏は、全くの異世界に塗り替えられているのだ。

 

「奴らの脅威を正しく認定出来ない人間か、イフリの被害に構わず実験や作戦を強行する勢力。そんなのばかり相手にしてきたもんですから、俺達の味方でしかもおったまげるほど強いディーパーなんて、都合が良過ぎて夢みたいなものなんですよ」


 打開できない劣勢。

 もしくは、敗北が続くという停滞。


 彼らはずっと、それと対面することを強いられて、だから遠い安全圏から主導しようとする国への反感が強い。


 ただ、イフリ内部の“隣人トラブル”はそれ以上に苛烈らしく、頭痛は年々酷くなっているらしい。


 そんな中で、数少ない「良いニュース」が、俺だったのだ。


「でも、すいません……。俺は俺の目的で動いてるので、いつも皆さんを優先するわけではないってことは、一応覚えておいて欲しくて……」

「後ろめたいことではありませんよ。全てあなたに頼り切るほど、我々も怠惰じゃありませんし、あなたの協力も飽くまで善意のことだと、部隊には言って聞かせています」


 人類を守る重役と矜持を背負うだけのことはあって、諸々がちゃんとしている。

 まあ、そこらへんをしっかり考慮してくれてるんなら、観戦で盛り上がるくらいは、何も言わないでおくことにしよう。


 兵隊さんの精神の均衡に貢献するのは、狙ってやったことではないが、助けになれるなら大歓迎だ。


「それじゃあ、映像があまり流出しないようにだけ……」

「あっ」

「えっ」

「いえ」

「………いやいやいやいや!」


 今のは絶対何かあるやつだろ!

 何!?流出したの!?機密管理どうなってんだこの軍隊!?


「そのですね、我々の所有する映像資料は、問題なく保持されているのですが……」

「ですが……?」


「“不可踏域アノイクミーヌ”内部の情報や、我々の活動記録は、金になるんですよ。武装勢力や無許可侵入したディーパーなどが、カメラを持って無謀な遠征に出ることも結構ありまして……」


 「あなたもそれなりの頻度で、彼らに遭遇していますよね?」、

 俺は「まさか」という顔を、ガネッシュさんへとそのまま向けた。


「言っておりませんでしたか?『カミザススムが“不可踏域アノイクミーヌ”に居る』というのは、もう立派な公開情報ですぞ」

「うそん………」


 少しでも居場所がバレにくいようにって、ネット回線繋いでなかったせいで、全然知らなかった……。


 いや確かに、撮影してるっぽい人たちはよく見たけど。

 でもさあ、もっと真面目な目的だって思うじゃん?IUSSM(ユースム)の調査隊とかさあ。

 まさかの災害救助現場にヘリ飛ばすダメマスコミ仕草だったのかよ……。


 「行方不明だったけどなんか戻ってきました。何してたかって?いやー、ちょっと記憶にないッスねー」で通すつもり満々だったんだけど、もう知り合いどころか全世界に、何やってるか知られてるってこと?


 俺、どういう顔して丹本に帰ればいいんだろう……?

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