668.お前らじゃ話になんねえ!偉いヤツ呼んでこい!
「ぴ、ぃぃぃいいいいいい……っ!」
落ちているのが砂か石か、
地形が平らか起伏があるか、
その程度の変化しかない、殺風景。
「ひょ、おおおぉぉぉぉぉぉ……っ!」
だからよく届くのか、
それとも反響するものが無いから、実はそうでもないのか、
そこのところは分からないけれど、俺の呼吸音が耳を引くのは確か。
〈続々と集まって来ますなあ!〉
「分かります?」
〈地面の振動には敏感なもので〉
走行モードで疾走するガネッシュさんの上に、防護を重ねた子ども達と一緒に乗って、一段高い視座から見回す。
さて、何体くらいかなー?
「おー、来てる来てる。最近必死さに磨きが掛かってるなあ、あいつら」
〈概算でどれほど?〉
「1000……いや5000くらいは行きますね、余裕で。ちょっと何体でカウントしていいのか分かんない奴らも混ざってますし」
陽炎めいて揺らめく地平線。
熱でボヤけているのもあるが、地面から砂が蒸気のように沸き立っているから、天地の境界が曖昧化しているのだ。
「な、なに……あれ……」
「さっき君達を襲ってた奴らは、お遊び混じりだったってことだよ。あれが本来の“不可踏域”……、いやごめん、ちょっと数が普通より多めだわ」
蹴り上げられているものもあれば、砂そのものが騒めいている箇所もある。
どちらであれ、端から端まで全部敵。
見渡す限り、目に入る茶色、全てが殺意。
それも、一つ一つが永級由来のモンスター。
最古の永級が生んだ、忘却されまいとする意志の実体化。
〈合成型は?〉
「今のところ、感知圏内には入ってませんね。まあ流石に“不可踏域”は広いですから、全域をカバーできるのは“提婆”だけってことだと思います」
ってことは、時間を掛けてるとあれより強力なのが間に合ってしまう、って話になる。
まあそれ以前に、ガネッシュさんの足を止められた時点で、物量に呑まれて敗北確定なわけだけど。
勝ち方はシンプルだ。
邪魔な奴を殺して、象を一度も止めずに駆け抜けさせる。
「おい!あんた、あんなのどーにかできんのか!?」
「おれたちもカンタンなコウゲキくらいだったら……!」
「駄目だよ。安全なところで丸くなってな」
不安げに見上げる8つの瞳を、力も籠めずに見詰めて返す。
「安全で健康なまま生き残る。それが、君達みたいな子どもの仕事だよ」
そしてそれを助ける為に、“潜行者”という役があるのだ。
近くで地面が爆発。
地中から細く鋭い魚が飛び出してくる。
ここいらは砂漠のクセに、水棲生物みたいなのがゴロゴロしている。
こいつらは周囲の砂を操り、その中を“泳ぐ”ことが出来るのだ。
俺は視線も向けずに爆殺する。
来てることは普通に分かってたし、姿かたちも見飽きた相手だ。
最初の一匹を皮切りにして、周囲から数十匹の砂魚が飛び出してくる。
地面にデッカいミサイル発射台が埋まってたみたいだ。
実際、奴らは最近俺の近くで0.5秒以上生き延びることを諦めて、着弾と当時に自爆するようになってきている。
そしてちょっとでも俺の皮膚に傷がつけば、そこから砂を侵入させて内側から裂き散らすつもりだろう。
「ぴ、ぃぃぃいいいいいい……っ!」
まあ、一息で全部殺せるから、特に考慮する意味のない仮定だ。
一円ぐるりとレンガ色の爆発が取り囲んでいく。
「君達、酸素ボンベは手放さないようにね」
「……っ!はっ、はひ……っ!」
言ったそばから、砂を割りながら火の壁が迫ってくる。
魚の中でも特に大量のエネルギーを保有しているヤツだ。
あのビキニ痴女の眷属は、どいつもこいつも大量に酸素を消費する。
中にはああやって、燃えながら襲ってくる奴もいる始末。
「ひょ、おおおぉぉぉぉぉぉ……っ!」
まあ、呼吸を責められるのも今や恒例行事だ。
酸素と二酸化炭素の循環スケールをちょっと広くしてやれば、それで対策としては事足りる。
「ぴ、ぃぃぃいいいいいい……っ!」
回転刃付き魔力をぶちこみ、爆発と共に地中を掘り進ませる。
金属すら削り取る砂嵐と、鉄を溶かせる燃焼。
地面の下でそれらとぶつけ合わせ、瞬間火力を一点に集中し貫く。
「DIG!」
それを見えている奴ら全員相手に同時に行う。
続けざまに爆散。
地雷でも仕掛けてあったみたいに柱のような砂の波が立ち上がる。
そうこうしているうちに地上部隊が接近してきた。
まず4足走行の連中。
砂漠と同じ色の毛を纏うチーターやハイエナみたいな獣。
サバンナの草食動物らしき種も混じっている。
他には、毛の無いイタチを5mくらいに拡大したみたいな奴ら。
ガネッシュさん曰く、「単弓類っぽい」とのこと。
一緒に前傾二足で走っているのは、帆みたいな器官を背負ったトカゲだ。
頭の形から、肉食獣らしい獰猛さをアピールしている。
「ひょ、おおおぉぉぉぉぉぉ……っ!」
周囲に防御用の魔力を手厚めに配置してから、ガネッシュさんの背を蹴ってスタート!
まず爆発を先行させる!
砂嵐の防御に開けた穴に腕や脚を差し込んで叩き、切りつける!
その反動で飛んで次の1匹に!
少しでも傷がつけば、そこからの魔力侵入で即死確定!
身体を直接ぶつけての殺戮を遂行しながら魔力の猛連撃で他の地上種や魚を同時併行連殺!
蹴り飛ばして砂の掘削刃同士をぶつけ合わせ魔力で転ばせて隊列をぐちゃらせる!
飛行軌道で空中に何本も直線を引いて星座みたいに奴らを結ぶ!
砂嵐や炎の遠距離攻撃は俺の魔力装甲とガネッシュさんのハーケンや聖水で防ぎ続ける!
前方の地面を爆破!
地中で待ち構えていた巨大な両生類共の口に魔力を詰め込んで破裂させる!
トカゲが帆に日光の熱を集め、それを変換したバーナーみたいに青く細い濃密な炎を吐き出す!
魔力爆破!
頭を叩いて射線を逸らし、顎を閉じさせ口内を焼き、仮真空で熱戦を分断!
更に遠距離から矢弾の雨!
半人半獣の騎兵隊が追跡しながら射ってくる!
射程圏内に入った奴から殺し、他は攻撃を弾いて無視!
その間にも1秒2、30匹のペースで処理を継続!
「うわあっ!?」
「つぎはなんなんだよぉ!?」
「へっヘビだ!でっかいヘビ!」
空に登った、竜巻のように曲がりくねる柱達。
それらは先端を俺達の方に向け、接近してくる!
砂の、と言うより砂嵐の塊!
上から刺すように降ってきて、何本かは俺達の進行方向を横断する!
「ガネッシュさん!ちょっと攻撃が激しくなります!」
〈心得ておりますとも!〉
上からの接近に魔力を連射しながら回転刃付き魔力弾を正面の障害物にありったけ乱発!
飛び散るのは虫の甲殻めいた部位!
嵐を操り、その中に大量に詰まっている、三葉虫の切れ端だ!
「ぴ、ぃぃぃいいいいいい……っ!」
しつこく前を遮ろうとした一本を魔学回路の内側から爆断!
横に跳んで口を開けていたトカゲを蹴り殺し、突っ込んできた三葉虫共をドリル回転貫手の連打で殲滅!
「ひょ、おおおぉぉぉぉぉぉ……っ!」
次の標的へと飛んでいる途中、手首を元の位置に戻して組織や細胞を癒着させ瞬時に補修を済ませ、余勢を駆った独楽回転ジャンプキックで獣や単弓類とトカゲを合わせて20体ほど斬殺!
「TORN!」
バチリと奔った針雷が三葉虫群の一本を焼き散らす!
俺の生体電流が“向こう側で”増幅されたものを、電流という状態のまま魔素を通して出力する技術!
“生雷”!
「よし、調子出て来た!」
少し難しいが、一度スピードがつけば安定する自転車みたいなもので、コツが掴めたら連続で幾らでも出せるようになる!
爆発で砂嵐を除かなくとも、三葉虫どもを中から皆殺しに出来る!
敵体内の回路同士を繋いで連鎖させ、大電流路を通すわけだ!
ドッカドッカと、ちょっと近い雷鳴くらいの音が連なる!
三葉虫が次々焦げ落ちていく!
ピカリと光って100匹感電死!
雷のインターバルが圧縮されていき、やがてガガガガガガガと機銃掃射の如きハイテンポ輪唱に変わる!
砂嵐の陰から飛び出す翼竜とカマキリの飛行部隊!
獰猛な鮫が丘の向こうから泳ぎ寄る!
ドリル回転して追ってくるワニ!
手足一本ずつで車輪のように転がる化け物!
次から次へと合流する追手を、勝って刈って狩りまくる!
空を駆け、炎を破り、砂を割り、肉を砕く!
縦横斜めに描き込む黒い残像!
直線だらけで景色を切り分ける!
通った跡に残るのは、連続切り裂き爆死事件!
巨大な気流と、斬り裂く凶器と、煌めく稲光!
まさに人間竜巻状態だ!
キルカウントはとっくの昔に4ケタ台!
色んな形をした怪物が自然の猛威を前にするかのようになす術もなく消し飛んでいく!
「ぴ、ぃぃぃいいいいいい……っ!」
俺の周りでそれが起こる。
俺がそれを起こしている!
「ひょ、おおおぉぉぉぉぉぉ……っ!」
分かるか化け物!
分かるか上位者!
俺はもう、お前らと戦える。
お前らを、千切って殺せる!
今俺を狙えば、カンナの邪魔なく、直接対決だ!
なのに、お前らは俺を避ける。
怖がっている。
そのうちなんとかならないかって、お茶を濁し続けている!
まともにぶつかろうとしない!
だから今回みたいに、虚を突かれて各個撃破なんてされるんだ!
怖いのは厭か?
誰にも殺されない、安全な地位に戻りたいか?
だったら俺を直接殺しに来い!
いつまでも逃げ回ってないで、俺に殺されに来い!
その勇気を振り絞れるまで、枕を高くなんて出来ない!
日魅在進が居る限り、お前達に安心なんて許さない!
三葉虫の柱の一つが、その表面からガリガリと火花を上げた。
空中を裂いて飛来する鉛と、耳朶を叩くソニックブーム。
少し遠めに居たトカゲが榴弾に叩かれる。
砂嵐で防御するも確かにグラついたところを横から殺しておく。
高射砲や機銃の弾幕が、煉瓦色の炎舞や荒れ狂う砂礫と押し合いを始め、そこを俺が横から刈り取っていく。
まだ半分以上は残っていたモンスター達は、この後は押し返されるだけだと判断し、潮のように引いていった。
ガネッシュさんは長い鼻を振って、防衛線を維持していた人達に挨拶をする。
「す、すげー……!」
「ホントに、ついちゃった……!」
唖然とする子ども達の前で、渾身のドヤ顔である。
だから言ったでしょ?「勝ったも同然」だって。
(((でしたら、今夜の訓練も余裕ですね?ご期待に沿えるよう、難易度を上げておきますか)))
ごめん、誰か助けてくれない?




