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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十五章:カチコミの時間じゃい!

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666.学ぼうとする意思 part2

「とにかく!この私がそれだけ高く評価しているのですから、それだけあなたは優秀なのですぞ!」

「そう、なんですか?」


「そうなのです!人という種は大抵、真意を見抜ける賢さもなく、頭脳を磨く行動力もなく、それらを恥じ入る謙虚さもない!それが人間ですぞ!学者の中の学者たる私ならまだマシな方で、向上心を持たない無知者達のなんと不毛なことか!」


 す、すっごいこと言い始めた。

 彼と会ってからこれまで、こんなに内心をぶちまけられたのは初めてかもしれない。

 それだけ、パートナーとして信頼してくれてる、ってことかもしれないけど。


「例えばあなたの故郷、丹本ジパンは今、漏魔症罹患者の処遇について割れています。どちらかと言えば、漏魔症罹患者の能力開発に予算を掛けることに、反対の人間の声が大きい状態です」

「まあ、でしょうね……」


 「国内1000万の罹患者を、将来労働力として使えるようになります」、みたいに言っても、そもそもの反感が溶けてなくなるわけじゃない。

 

 民俗に染み付いた“けがれ”思想は、実際がどうなのかって話と切り離されてるから、解消しがたい。


「そういった経緯がありながら、政権が現在の形になったのも——」

「え?なんか内閣が変わったりとかしたんですか?」


 いやなんですかその顔。俺がここに入りびたってるの、あなたが一番よく知ってるじゃないですか。そもそもイフリに住んでたら、丹本の情報なんて細かく小耳に挟めませんよ。


 漏魔症関係の前進くらいは、風の噂で聞いてますけども、それくらいの大ニュースじゃないと。


「……サエグサ内閣が総辞職したことについては?」

「うっそぉ!?えっ!?どういう流れで!?いつ!?」

「もう去年の話ですぞ。あなたが出国してすぐです」

「ええ~……???」


 民意的に反漏魔症が優勢なら、今もしぶとく舵取かじとり役として残留してるんだろうなー、って漠然と思ってたのに。


「彼はむしろ、漏魔症に『媚びる』タイプの“新時代型”だと見做みなされておりましたからな」


「『媚びる』……?罹患者の外堀埋めまくって孤立させてたのに?なんなら人権奪おうって素振りしてましたよ?」


「承認を得られない方々にとって、注意を払っただけで『媚び』ですぞ。『外敵に対して無関心過ぎる』、などと叫ぶ極右勢力に見覚えはありますか?あれは『外敵を見ろ』と言っているのではなく、『叫んでいる自分を見て話を聞け』、と言ってるのです」


「く、詳しいですね……。政治にはあんまり興味ないのかと……」


「ダンジョンや魔法と、『承認』との関係には興味深いものがありますから。それに私は、国籍不定のチャンピオンという微妙な立場ですぞ。今の自由な身分を保つ為にも、世の成り行きには関心をかねばなりません」


 政治に無関心にはなれるけど、無関係にはなれない、ってやつか。


「罹患者を過度に締め付けてナミカワテロを招いたことも含めて、漏魔症罹患者への政策全般の責任を、彼一人が持っていった形ですな。守旧派からは『漏魔症優遇』の、改革派からは『漏魔症差別』の急先鋒きゅうせんぽうと呼ばれ、与党にはスケープゴートとして使われましたな。


 そして現在は、後任の総理が罹患者の能力開発計画を推し進めている状態ですぞ」


「“罹患者に甘過ぎざい”と“罹患者に厳し過ぎ罪”を同時に背負って失脚して……?後釜になった人は、国の将来の為に罹患者の魔力操作を普遍的なものとして確立する方向に行ってて……?」


「連日、非難や中傷の大合唱ですな。しかし解散総選挙では現与党が過半数を維持したようですぞ。議席は減らしたそうですが」

「わけがわからない……!」


 声が大きい人達は、本当に声が大きかっただけ?

 じゃあ三枝総理が降りた意味って何?


 責任を取るっていうイメージ戦略?

 でも議席が減ってるってことは、支持が流れてるってことで、つまり人気取りとしては微妙だったわけで……


「お分かりでしょうか?一人一人がフワフワとしたイメージで権利を行使した結果、国として何を望んでいるかが、さっぱり分からない状態となっている」


「ま、まあ、1億人以上居るんだから、そういうこともあるんじゃあ……」


「これまで罹患者に強硬な姿勢を取っており、しかし国際社会等から倫理面で糾弾されないよう、バランスを取り続けたサエグサ氏の続投。それが、両者の落としどころとして、最適であったと、そうは思いませんか?」


「それは……そうなんですけど……」


 あの人は「むを得ず」でやることでも、100%本気で取り組む人だ。自分の思想で仕事に手は抜かない。


 人間の一部を人外として切り離すなんて大罪だって、渋い顔をしながら実行できる。

 彼が漏魔症差別なんて、本当は意識のどこにも住まわせてないのは、俺をギリギリまで殺さないようにしていたことからも、よく読み取れる。


 理がなければ動かない。

 逆に理屈さえあれば、一見いっけん横車っぽい事でも動かしてくれる。

 見事に「話せば分かる」タイプ。「話せば分からされる」、かもしれないけど。


 被害者の位置にこだわった罹患者への恨みや憎しみを理解し、共感している。

 でも合法的差別は本来作りたくないと思うような、高潔さや慎重さ、合理性だって持っている。


 だけど国を崩さない為にそれしかないって結論に到ったら、嫌々ながらも完璧な策を用意する。

 

 ウルトラCが無かったら、崩せないくらいの堅牢な一手。

 あれに隙は無かった。

 人倫までもが、そのあみどおししそうになっていた。

 

 計算外はたった一つ。

 佑人君が、たまたま強い意思を持つ少年だったこと。


 倫理、人道、国際社会からの見られ方、国としての損得、漏魔症への反感、それ以外の国民感情、それらを包括的に理解している人だからこそ、罹患者を憎みたい人も、道徳的で居たい人も、み取ることが出来るシステムを考案し、実現を射程に収めていたのだ。


 物事は、対立する両陣営がニコニコ出来るくらいの方が、サクサク進む。反発や邪魔を抑止できるから。


 意見がぶつかる相手も協力的な方が、意思決定のスピードが上がり、やって欲しかったことが早く実現する。


 社会をスムーズに動かせる人は、断行できる人より、調整が上手い人なんだと思う。

 一見利害の不一致があったとしても、なんらかの譲歩や別角度の視点を与えて、ある程度の協調の中に丸め込む。


 三枝さんはどの陣営にとっても、この改革期に居て欲しい人材だった筈だ。

 世紀の発見と価値観の変動にさらされた国を、バラバラにせず迅速に組み立て直す、そういうことをやってのけるだけの能力があった。


 一番多くを納得させられる人に見えた。



 だけど現実では、同じ組織の仲間も含めた、全方位から目の敵にされ、

 蹴り出されたらしい。



 内閣とか政権の再編の為の期間まで含めて、どんな勢力にとっても、理想が実現するまでの時間が、いたずらびた。

 その成果としては、話をり合わせて進めることが得意な人材が、追放されただけ。


「何故そうなるかと言うと、彼らは自らが間違っているなんて、思いもしていないのです。曖昧で感覚的な好悪こうおが、そのまま真理の写し鏡であり、それは曲げられてはいけないのだと、そういった世界観で生きているのです」


 だから、嫌いな奴は追い出す。


 嫌いな奴とは、思い通りにならない奴。

 自分の思い通りに動かない奴は、「絶対に正しいこと」から外れさせようとするのだから、自分の敵だ。


 嫌いな奴は、倒すべき敵なのだ。

 嫌いな奴の話に耳を向けるなら、そいつもまた敵なのだ。

 素早く実現することより、戦って首を晒してくれる人が、良い指導者だ。


「恐ろしいと、そう感じたでしょう?」

「えっと……」

「そこで心から恐れることが出来るから、あなたは私の、学者の同類なのですぞ」


 当たり前、直感、快不快を疑えないことほど、怖いものは他に無い。

 彼の原点は、それだと言う。


「学ぶ意思がないこと。疑問に思う能力のないこと。迷えるほどの強さがないこと。ほとんどの人間が陥る病。私はそれを、長いこと見てきました。故に私は、故国と共に、かつての名を——」


 ゴソゴソとすぐ近くで揺らぐ大気!

 二人で即座にそちらへ構える!


「ま、まって!」


 だがどうやら、敵に見つかったわけではないらしい。


「あ、あの、あなたたちは、えっと……」

 

 女の子が一人と、それに引っ付きながらも守ろうとしている男の子3人。


 さっき、ガネッシュさんに保護して貰った子ども達だ。どうやら目を覚ましたらしい。


「うーん、出来れば寝たままだった方が、話が楽だったんですけどね……」

「仕方ありますまい。まだ時間は残っておりますから、出来得る限り状況を理解して頂きましょう」


 混乱でバグらなきゃいいんだけど。

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