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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十五章:カチコミの時間じゃい!

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664.「ここにあるものだけで戦う」、当たり前のことだろ?

辺獄現界アマゾニン・ダンジョン


 鉄と霧の巨人は、日射に曝され続けた砂礫されきに勝るとも劣らぬ高熱で、体表の見え方をゆがめ、周囲を白く染め上げる。


 最高潮に高まったテンションと回路内の流動そのまま、己の世界をみ上げる!




         〈“〈ぴ、ぃぃぃいいいいいい……っ!〉”〉




 そして歌われた音階は、


〈は?〉


 総じて一息でき消された。


〈ナンデ……〉


 発生途上だったダンジョン、その末端の形がぐにぐにと曲げられ、整形され、全く異なる閉鎖空間を、檻を結んでいくのを感じる。


 自らの意思に従うエネルギーを必死に追加し、主導権を取り戻そうとするほど、傷口は広く裂け、痛みは深くなる。


 そこに生じた巨大な穴、力の流出。

 そのようを、呼吸だけで調整されている!


 こちらへと押し出されるエネルギーの中に、任意の配置で爆風を仕込み、都合の良い形に作り替えるのだ。


 体内どころか魔学回路の“向こう側”を攻撃することで、出力を操る技法。

 “仲人ユニコーン”が構築していた枠を使って、自身の世界を作り出す無法占拠行為。


 敵が強大であればあるほど、開く穴が大きくなって、そいつの術の効力も強くなる。

 それを受けた者は鏡写しのように、自らと対等なパワーをぶつけられる。


 抗うことなど出来ない。

 押し勝とうとして、そいつが強くなればなるほど、術もまた強力且つ強固になるのだ。


 言うなれば——




辺獄侵害現界アマゾニン・ダンジョン・ユーサペイション




 ダンジョン構築が可能なほど、巨大な回路を持つill(イリーガル)相手でこそ、その真価を発揮する呼吸術!

 校正者イリーガル・ヴェインと呼ばれるまでに至った男が、遂に手にした絶殺の切り札!


 そして悪夢めいた暗黒の中、彼らだけの円形闘技場が現れる!




              〈“圏十姿タイマン・アートマン”〉




 真っ黒な空、静かな空気、平らなアリーナ。

 ローポリゴンのCGのように、全ての表面テクスチャが粗く溶けている。


 その中に、


ぴ、ぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいぃぃぃぃぃ………!


 身を切るような風が吹いている。


〈なんだ、この……〉


ひょ、ぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉぉ………!


 そこには二つの命がある。

 それだけでなく、観客席には折り目正しい服装で、顔の無い紳士・淑女が詰まっている。


 だと言うのに、このさびしさは、孤独さは、なんだろう。

 世界にたった一人、自分だけ取り残されたような、この感覚は。


〈なんだ……!?この、寒さは……!?〉


 堕落と退廃たいはい、格差と腐敗、それらに骨身を削られ、魂をむしばまれた物語、“仲人ユニコーン”。

 それが、未だかつてないほどの疎外感に、さいなまれている。


 それは恐らく、自己との対峙たいじ、己との向き合い。

 余計な情報が省略され、見るべきものが総じて切り捨てられた結果、内側にしか意識を向けられない。


 彼の前に立っているのは、きっと彼自身だった。

 鏡ですら映せない、彼の内面そのものだった。


 そのいびつさ。

 誰であれ持っている、整序とは無縁な、付け足しばかりの不格好さ。

 それを、網膜に直接、貼り付けられる。


〈やめ、ろ……!〉


 逃げる場所など、無い。


〈やめ、ろぉぉぉ……!!〉


 虚飾をこそ自己同一性とする彼は、それを見ることに耐えられない!

 自身が“見せかけ”という要素ありきであることまで含めて、その弱さと劣悪さを引きずり出されたに等しい!


〈キサマっ!それ以上!土足で私の核心にっ!!〉


 見たくない。

 けれどお願いされたからといって、止めてくれるわけがない!


 ならばやめさせるしかない!

 その術を成立させている男を、力で排除するしかない!


 “仲人ユニコーン”は合掌する水晶怪人へと駆ける!

 まず右腕にあたる鉄骨から刃を複数生やし〈ぴ、ぃぃぃいいいいいい……っ!〉

 

 根元から、手が吹き飛んだ。


〈はうあっ!?〉

 

 すぐにパーツを補修しようと魔力を送り込〈ひょ、おおおぉぉぉぉぉぉ……っ!〉んだ部分から爆散していく!


〈これは、これはああああああ!?〉


 そのダンジョンを、魔素を、道を、穴を開けたのは、“仲人ユニコーン”であったのに!

 今、それを利用し、操り、使っているのは、水晶怪人の方だ!

 

 魔力を、エネルギーの一端でも取り出そうとする度に、制御不能の破裂作用へと変換されてしまう!


〈バカな……!この空間の中で、私の意思より優先されるものなど……っ!〉


 何でも思い通りになる明晰夢めいせきむ、その主導権が他者に奪われたが如く!

 完全覚醒状態であるにもかかわらず、悪夢的現実におそわれる!


 全身が続けざまに連続爆発!


 蒸気を体の一部として纏めているのは、彼の魔力だ。

 豊富な魔力供給ありきで維持されているのが、その鉄と霧の肉体である!

 

 つまり形をそのままで保つ為に、魔力を常に取り出し続けているということ。

 この空間では、その姿であり続けるという行為が、処罰対象!


 霧を集め、離れていかないよう掴むほど、魔学回路の向こうから爆破され続ける!


〈ふざけるな……!通るものか……!そんな理不尽………はっ!?〉

 

 我に返った時は、そいつの間合いの中だった。

 と言うより、他のことに夢中になって、そこまでの接近を許してしまった。


〈ぴ、ぃぃぃいいいいいい……っ!〉


 切り刻まれる!

 そこから入った魔力で内から爆滅!


〈ひょ、おおおぉぉぉぉぉぉ……っ!〉


 拳連打!

 一発一発が霧を散らして鉄骨を貫通する!


〈うぎぃぃぃぃあああアアアアアア!!〉


 新たなエネルギーを得てはいけない!

 今体内に残っているエネルギーだけで戦うしかない!


 彼は全身を集めて高密の鎧を形成。

 回路から力を取り出し攻撃する、そういった放漫経営ばかりだった彼は、この縛りの中で実行できる攻撃手段をほぼ持っていない!


 最終的にはコアを守るしかなくなってしまった!


 「自身の本当の姿を見せられる」、或いは「それを丸裸の状態で見られていることを知覚させられる」、その精神攻撃は、どちらかと言えば副作用である。


 本命は、敵の回路を掌握し、理解し、その術が成立している間だけ、完全に封じてやること。


 「使えるものは、今持っているだけ」という、制限状態での戦いを強いること!


〈この、私が……!数多あまたの情念の堆積物たる、私が……!〉


 末端を削り取られていき、遂には単なる球体となった彼は、硬く守る以外には、身動きの為の力すら残っていない!


 効率的な魔力運用を会得するには、追い詰められる経験が足りていなかった!


〈単なる個に……!たった一個に……!一人が、多数の意見を、望みをくつがえし、踏みつけるなんて、おかしい……!間違っている……!お前は、負けなくてはならないだろう……!?〉


 突き刺される水晶の円錐!

 内側には擂鉢状の空洞と爆薬代わりの魔力が詰まっている!


 水晶怪人がバックステップ、からの跳躍!

 落ちるような片足ジャンプキック!


 まず疑似HEAT弾の後尾を蹴り叩いて円錐の先端を食い込ませる!


 内部の魔力を起爆!爆轟が一点集中突破!

 

 通った穴から魔力が侵入!


〈“爆轟真徹《BEATスマッシュ》”……!〉


 水晶怪人が空中で後転一回、からの着地。

 背を向けると同時に、高密金属球体が爆発!


 魔学回路の向こうからも囲むことで、「コアの自爆」という逃げ道すら塞いでしまった!


 爆殺!

 ill(イリーガル)一体撃破!


〈ぴ、ぃぃぃ、………〉


 が、


〈……あ゛………しまった………〉


 少々張り切り過ぎたようだ。


 無理にじ曲げられ、ゆがんだ形を力づくで形成させられていたダンジョンが、丸めていた手が離れた下敷きのように、元の形へと戻ろうとして、しかし設計図となる意思も、実現する力も無い為、勢い余って崩壊、消失。


 霧が消えた炎天下に投げ出された怪人は、その表皮を半ば人の皮に変えるも、姿の移行が中途で止まる。


 がれきらないガラスで、自身の肉を傷つけながら、青年は砂の上にぶっ倒れた。


 すぐに砂の波や単弓類がそれに群がり、ぶちぶちと切れ端すら残さないようむしゃぶりついて、


 更に重い四つ足が駆ける音が、段々とそこに迫っていた。

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