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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十五章:カチコミの時間じゃい!

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662.狩りの時間

 砂塵のばくりゅう

 崩れ去る山肌を必死に掴むゴムタイヤ!


 段差で1秒宙に浮くたびに、とうとう昇天の時が来たかと、朝方の足音を聞く死刑囚のような恐れに心臓を握られる少年少女!


 着地と回転が巻く砂煙すなけむり

 それらで背後の視界が悪くなり、銃座の50口径チェーンガンの命中精度が蹴り落とされる!


 だが乗っている誰もそれをとがめない。

 煙を立てるなと要求しない。


 この濃霧の中では、ほとんど今更な話だからだ。


 砂を巻き込んだモーターの引っ掻き音や破裂しそうなエンジンの悲鳴の中、太い足が地を叩きつらねるのを聞き取ろうとする!

 

 それらしき音を少しでも感じた瞬間、銃口を振りながら鉛で払う!


 マッハ単位に到達し衝撃波を纏いながら飛びく銃弾が、僅かに白い幕を破って、隠されていた砂色に渇く表皮を見せるのを、マズルフラッシュで傷む網膜でなんとか捉えようとする!


 詰まった気管であえぎ狂うような啼哭ていこくは、逃げる人間のものか、追う化け物のものか。


「また追いつかれるぞチクしょおおおおお!!」

「どういうことよ!なんなのよこの霧は!?」

「どっちに走ってんのか分かんねえ!いつ“ケンエキ線”につくんだよ!」


 会話になっていないのも当然だ。

 互いの言葉を聞き取れていないのだから。


 彼らは所謂いわゆる一攫千金いっかくせんきん”を狙った、夢追い人達である。

 大規模勢力の襲撃で、彼らを所有する組織が潰された時、乗り捨てられていた戦闘車両を盗み、逃げおおせることに成功。


 それを使って、高ランクディーパーでも行かないような、奥地へ挑もうという話になった。


 誘拐され、物乞いや少年兵として使われる道具扱いされる人生。

 そこからの一発逆転を目論もくろんだ、若年ディーパーの寄り合い所帯である。


 価値の高いコアを手に入れ、力と金に変える。

 それで子どもによる自警組織を作るか、ここではない遠くに逃げるか。

 想像力の欠如した夢物語の為に、こんな無謀を敢行したのだ。


 暴力の論理を叩き込まれた彼らは、他に“成功”の仕方を知らない。

 故に、その計画の浅さを、責めることなど出来よう筈もない。


 特にメンバーの一人、漏魔症の少女にとっては、“外の世界”に逃げないことには、身動きの取りようがなかった。


 少年兵製造の過程で生じてしまう、漏魔症罹患者。

 その地位は、そこらの犬にすら劣る。


 自らの病の憐れさを使って、最近増えている“差別問題に関心の高い観光客”へ商売する以外に、生きようがないという現実。

 どんしきった諦観者達とは違い、彼はそんな腐った生き方に耐えられなかった。

 

 「観光客」が語る、遥か東、漏魔症罹患者が治る国。

 そんな幻へと走り、止まれずに死ぬ愚か者の方が、死んだように生きるより、マシだと思っていた。




 そして今、彼はかねてからの望み通り、愚かさの報いで命を落とすところだ。




 魔法と大口径機銃とで、何体か狩れたことで、良い気になったのがいけなかった。

 彼らはいつの間にか濃霧に巻かれて、影しか見せない捕食者達に、延々と追われ続けることになった。


 方向が分からず、安全な場所に近づけているのかも、はっきりとしない。

 目印が少なく遭難しやすい砂漠の中で、更なる昏迷こんめいが彼らを覆い尽くした。


 さっきから何度も食いつかれ、15人居た仲間達が、数分の間に4人に。

 うち一人は、右腕を失って熱に浮かされている。


 敵は人を捕まえると、その血の喉越のどごしを堪能するように、ゴキュゴキュと飲み干そうとする。まるで水分を取り合うかのように、一人に数体が群がり、車裂くるまざきにする。


 だから、戦力にならない一人を捨てれば、もう少し距離を稼げることだろう。

 だが彼らはそうしない。

 それが出来ない。


 だから、追い着かれる。


「うわぁっ!?」

 

 横にヌウッと顔を現す一体!

 古生代の単弓類たんきゅうるいに似た、哺乳類と爬虫類の中間らしき生物が、その巨体で体当たりしてくる!


 まんまると丸く、瞳がブルブルと震え、光を感じさせない目は、玩具やぬいぐるみについている、知性を見せないそれと似ている。

 そんなものが急接近して運転席を叩いたのだ。


 魔法を撃ち返す心の余裕は、パニックによって飛ばされてしまった。


 それにまたがっている、扇情的なドレス姿のマネキン人形。

 その手に持ったメスがタイヤを突き刺し、直線ベクトルに働いていた推進力のバランスが崩れ、つまずくように車体が転倒。


 上部から地面に叩きつけられ、荷台の3人は投げ出された。

 運転席の一人は、割れたガラスで腕を切りながら、外へとなんとか這い出たが、


 その傷を足で踏まれ、悲痛に泣き叫ぶこととなった。


「『人間達に立ち入らせない』。私がけた任務です」


 霧が広く晴れ、山とも呼べるような砂の傾斜に囲まれた、蟻地獄めいた地形が現れる。

 彼らはいつの間にか、逃げられない位置に誘導されていた。


「近頃は、あなた方人間の軽々しい侵犯が、目に余る。私はそれを抑止しなければなりません」


 ハイレグ衣装やネグリジェなど、あられもない服装のマネキン達が周囲を囲む中、一人だけ姿すがた格好かっこうを、西洋の紳士らしきコートや帽子で、上品に飾った男が立っていた。


「人には最低限守るべき、つつしみというものがあります。尊厳と言い換えてもいいかもしれません。


 例えば、どれだけ落ちぶれたとしても、“性情せいじょう”を売るなど亡国にも勝る恥です。『子を為す』という生物不変の使命の為の機能を、贅沢の為の金や一時いっときの快楽で消費する。


 それは、血と智を継承してきた人類史への、冒涜行為に他なりません」


 小さな球形をしたフルフェイスヘルムを装着した男は、手を後ろに回して組みながら、マネキンの手で並ばされた、4人の子ども達の前へと歩み寄る。

 

「女性がその体を、生殖を金稼ぎの道具にし始めると、世は乱れます。


 子を為す行為であった筈が、肝心の『子ども』が快楽の前では邪魔となるので、人は『産む』ことをいとい、呪うようになってしまうのです。


 性交が遊びとなることで、責任や後始末といった『重さ』が捨てられていき、繁殖と継承は軽んじられていき、次代の担い手を生まれる前から殺戮する。


 同時に、女性から『未来を生む』という価値を奪い、彼女達を娯楽の道具、或いは身体能力に欠ける劣化人類という存在に、貶めてしまう。『今を支える』という価値で、男性以上になれない女性が、尊重されるいわれが無くなってしまう。


 個人の尊厳、国や人類の未来を考えるのであれば、あんなものは許されていい筈がない」


 「そうでしょう?」、

 問われた子ども達は、返答しない。

 

 喉の渇きを訴える、単弓類達が舌で彼らの顔を舐め、生臭い息を吐きかけているからだ。


「ですが彼ら低所得の低知能者は、誰も話を聞こうとしませんでした。様々な言い訳で、売春を正当化するのみでした。あなた方と同じように、自らの愚かさに甘えて、改善しようとしないなまけ者ばかりです」


 だから彼は、「話を聞けない者」用のやり方を、開発したという。


「“恐怖”です!100年後、1000年後の滅びを恐れられないのなら、今日明日やって来る、苦しみに満ちた死に怯えさせる!


 あの時は夜の街で数人切り裂いてやれば、それで抑止力になりました。けれどあなた方は、仲間が死んでも死んでも、なかなか怖がってはくれません」


 黒革に包まれた手が振られ、幾本もの刃物がそろう。

 霧の下でもギラつく金属が、子ども達に生々しい痛みを想起させる。


「あのはしため共よりはしたない者が居るとは、嘆かわしい!いえ、恐らくそれが人間の標準なのでしょう。私のように、人間を超えた存在に昇華できる者こそが、例外的な賢者なのでしょう。


 あなた方原始人の相手をするのは、なんとも私の頭脳に有害なお遊びです。ですが私は、あの方から人払ひとばらいの任を預かっています。北部方面への牽制や、“ガラス男”との戦いで忙しい“あの方”の手を、わずらわせないのが私の役目。


 あなた方ほど低水準でも怖がれるように、分かりやすく加工した恐怖を、送らなければなりません」


 彼らの前を左右に行ったり来たりする、随分とおしゃべりな男。

 まるで「どれにしようかな」と、順番を決めているかのように。


「この中で、最も恐怖できる方が居れば、その方の命を助けましょう」


 スラリ、耳をさいな高鳴たかなり。

 やわにくを求めて刃物が震える音。


「その方が、“贈り物”役です。それ以外は、その方の生涯に苦痛と吐き気をもよおさせ続けるほどの、絶望を焼き付ける為の生贄にします。3人が目の前で死に、その時の怖ろしさ、痛さ、苦しさを全身に刻まれた一人が、目に見える教訓として人々の前に現れる」


 「良い考えでしょう?ちなみに私は名案だと思っています」、

 砂漠に不似合いな、ヒヤリとした金気かなけが、少女の頬にペタリと当たった。


「ご安心を。最後の一人は私の手で、簡単には死なないよう処置を施します。殺そうとしても殺せないので、苦しむさまを皆さんにしっかり見て頂けます。これから受ける教育は、決して無駄にはなりません」


 大人でも入るのが難しい場所まで、彼らはスムーズに踏み込めた。

 それは、誘い込まれていたからだ。


 モンスター達から何分もの間逃げられた。

 それは、遊ばれていたからだ。


 “不可踏域アノイクミーヌ”に踏み入ったが為に、人間狩りゲームのまとにされ、身も心もズタボロにされて、死ぬことすらできなかった。

 そんな廃人が帰ってくることで、見せしめとなる。


 亡者によって、ここに地獄が実在していると、人間に教えてやるのだ。

 

「では、始めます」


 ギラつく針や、刺さってから膨らむ棘が、ガタガタ震える彼らの前で、少女の目玉の粘膜へと迫っていき——













ぴ、ぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいぃぃぃぃぃ………!!




「!!」


 男はコートをひるがえし近くで最も高い山の上をあおぐ!

 そこには全身を水晶めいた構造物で固めた怪人物が立っている!

 子ども達から見た時、それは新手のモンスターとしか思えなかった!


ひょ、ぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ………!!


「ガラス男ぉ…!あの方の追撃を逃れたと言うのですか……!」


 水晶怪人は問いには答えず跳躍!

 空中で前転してからの着地ちゃくちぎわ、単弓類の頭二つを上から掌で押し潰す!


 直後に2体は爆散!


 怪人が跳躍!

 ひねりを加えながら体の向きを変えて踏みつけてくるのを紳士は後転回避!


 マネキンが子ども達に構わず一斉に怪人へと襲い掛かる!


 裏拳で1体の胴を破壊!

 肘で顔面粉砕!

 前蹴りで2体を貫き見えない刃を生やして両断!

 後ろ回し蹴りで頭部をじ切る!

 左フックで叩き飛ばしながら右足踏みつけ!

 踊るように数体同時処理!

 跳躍!回転!通過しただけで複数の四肢を折っていく!

 

 どれもこれも内から爆散!

 鎧袖一触がいしゅういっしょく


「どうやら望ましい状況ではありませんね……っ!儀礼プロトコルに従い戦略的転進(てんしん)をさせて頂きます!」


 山の一つが波打ち不定形の塊となって分離!

 紳士気取りはその上に飛び乗ってその場から逃げ出した!


 他の砂山は子ども達を押し潰そうと谷間に質量を流し込む!


 なすすべがない彼らの前に怪人が立ち、両腕を平行に立てる!


 直後一帯がすっぽりと影に収まり、


 上から叩きつけるちからわざ埋め立て工事!


 爆発的な衝撃と共に地形が平らに整地された!

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