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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十五章:カチコミの時間じゃい!

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その地は如何にして異形の世界と化したのか

 第二次世界大戦後、中東のある地の領有を巡って、二つの宗教が衝突していた。


 どちらの言い分に正当性があるか、というのは、ここに書き切れるものではない。

 断言できるのは、どちらも一線を越えてしまった、ということだけ。


 戦争にも作法があり、それを外すと国際社会から見捨てられていく。

 コネや外交、資金力で誤魔化すにも、限界がある。


 少なくとも、窮地を救ってくれる心ある仲介者は、次第に離れていく。

 次に、周囲からの目に耐え切れず、引き込んだ筈の味方が及び腰になる。


 最低限のルールを守れない者が、いくら「仲間だって言ったじゃん!」と責めても、説得力など生じない。約束を破る常習犯が、約束を守ってもらおうなどとは、烏滸おこがましい話であるのだ。

 

 そういうわけで、戦いは泥沼った。

 手段を選ばな過ぎて、負けたら誰も助けてくれないレベルで追い詰められているので、争いの期間が長くなるほど、両者は後戻りできなくなっていった。


 世代を重ねると憎悪は生物濃縮のように研ぎ澄まされ、どちらかの殲滅以外に未来は無いという結論に収束していく。


 勢い任せで人道から爆速コースアウトした結果が、両者にとって最も損で苦労の絶えない情勢。人間、倫理を捨てるもんじゃない、ということだ。




 と、ここまでなら人倫についての教訓で終わる話だったが、実際はその先に思わぬ落とし穴が待っていた。


 いや、「思わぬ」という言い方は、少しばかり呑気過ぎる。

 それは2000年、ずっと人間の隣にあった災厄なのだ。


 それを忘れるなど、よほど寝惚ねぼけているのか、何かに頭を持って行かれている証。

 

 血の匂いに酔い過ぎて、すぐ隣に虎が寝ていたのを、失念してしまったのと同じ。




 ダンジョンはただリソースが詰まっているだけのお宝排出自動販売機ではない。

 希少鉱物を生む代わりに、管理しないと噴火してしまう、巨大火山のようなものだ。


 


 そう、お察しの通り。

 聖都に権威を与えていた、世界最初の永級の管理が、互いの取り合いのゴタゴタで、おざなりにされてしまっていた。


 他国の有識者が警告したこともあるが、血走った目で黙らせた。

 そのツケは、限度額一杯まで取り立てられることになる。


 ある日突然、なんの前触れもなく、大規模“逸失フラッグ”が発生した。

 上位モンスターも大量に含んだ、永級生成時と比べても別格な、モンスターの爆発的湧出(ゆうしゅつ)


 聖都どころか、国の半分が一日で人外に占領され、その敵を前にしても両軍は手を取り合えず、国連からの介入は、顔の利く片方が阻止し続けて、被害は収集困難なレベルに拡大。




 同じ頃、すぐ南にあるイフリ大陸では、別の混乱が発生していた。




 ある独裁政権が革命で倒れたことにより、暴力で民主化をぎ取る機運が最高潮となり、暴動や内戦が立て続けに勃発。


 “北イフリの春”と呼ばれたそれは、人々を“自由”に目覚めさせ、平等で素晴らしき世界が実現する、その一歩となると思われていた。


 だが“罪深き”独裁者達は、腐っても国家運営のかなめだった。


 元々、植民地という立場を脱し、独立したてでヨチヨチ歩きだったイフリの国々を、一端いっぱしの国家として回していた者達。


 列強の支配と同時に、彼らの成熟した管理からも離れてしまい、独裁ができるくらいの能力はあった指導者も追放し、


 じゃあ、誰が舵取りをするのか?

 どういったシステムで、国を維持すればいいのか?

 それらの問題が、一気に噴出した。


 彼らは敵を倒すことに全力で、その先を考えていなかった。

 憎い相手を殺す為に、足場を爆破して笑っていたら、自分も周囲も諸共に沈んだ。


 北イフリは、植民地時代にドミノボムの実験場としても使われていたせいか、南イフリの永級4号が近かったせいか、ダンジョンの多い地域だった。


 そこを纏める頭が切り落とされ、体となる集団だけが、バラバラに自己本位の行動をし始めたのだ。


 そして幾つかの、少なくない数のダンジョンは、管理不足でモンスターが溢れさせた。

 いずれ同じようになるだろうダンジョンも、多く存在した。


 人間が数十数百の勢力に分かれ、モンスターと共に細かく地図を色分けし、ぐちゃごちゃはちゃめちゃな混沌の極致に到達していたところで、




 永級1号のモンスター達が南下してきた。




 中東の地中海沿岸部から北イフリに掛けて。

 そこには、永級1号産モンスターをヒエラルキーの頂点とする、ダンジョン由来勢力の帝国、或いは生態系が作られている。




 “不可踏域アノイクミーヌ”。

 人間の生存が許されなくなった、世界最大の失地である。


 


 勿論、人類はそれを奪回しようとした。

 多国籍軍が組織され、何回もの侵攻・原状回復作戦が決行された。


 けれど、人同士の政治的なパワーゲームや、歴史・宗教的な不和、その他、裏にある数々の策謀によって、足並みが揃わないどころか、モンスターそっちのけで刺し合う始末。


 こうして、未だにダンジョン暴走の平定はかなわぬまま、そこは未開の死地として放置され、今もじわじわと広がっている。


 地上の覇者としての地位を脅かしかねない、人類の罪の結晶たる大地の拡大に、人類は大いに恐れ、絶望した


 わけでもない。


 まず大半の人間にとっては、遠く離れた異国の出来事。

 他人事である。


 軍事大国達からすれば、例えば核兵器など、未知であったり危険であったりする新兵器を、試し撃ちできえる場所として、プラスに捉えてられる面もある。


 人類の敵しかおらず、ダンジョンのように環境整備機能が充実している為に、大抵の禁忌武装も、後ろめたさなく撃てる、というわけだ。


 上記は極端な例だが、“不可踏域アノイクミーヌ”に消えて貰うと、損になってしまう人間というのも、それなりに存在していたりする。


 国家が破綻すると、遠くの誰かが儲けるようなもの。

 人の世は色々だ。


 では最も大きなリスクを被る、近隣住民にとってはどうか?

 実は彼らの中にも、恩恵に預かっている者が居たりする。


 ダンジョンという、制限された空間の、更に奥深く。

 通常はそこまで潜らなければれないような、エネルギー資源として高質のコアが、機械化部隊でちょっと踏み入るだけで、比較的容易に手に入るのだ。


 深級ダンジョンを攻略するより、“不可踏域アノイクミーヌ”の浅瀬をウロチョロしている方が、手間やリスク等も計算に入れると、得が大きかったりする。


 それなりの戦力を保有する武装勢力でなければ、その一帯からは逆に離れていくので、競争率自体は低い。それでいて、そこを治める人間には、ダンジョン保有以上の権威が与えられる。


 毎日その地から、死人を出しながらも収穫されたコアが、南方で多くの人間を殺し、北部の軍事政権の肥やしに変えられる。

 時折モンスターの大規模同時侵攻が起こり、無力な現地民が相当数命を落とす。


 イフリでは今も、そんなことが繰り返されているのだ。


 “不可踏域アノイクミーヌ”の内だろうが外だろうが、隠し切れないほどの死が、日常的にあふれかえっている。


 どれだけ備えてようが、偉かろうが、明日の知れない者ばかり。


 そして今や、


 その地で最強を誇っていた特権者達ですら、その例外とは言えなかった。

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