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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第四章:途方もない先を目指しての一歩は、やたらと重いし火傷しがち

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62.な、なるほどね~…、そうなんだあ……… part1

「——と、エネルギーと質量の等価性を主張した彼だが、魔素の魔力変換効率や魔力生成物について説明できず、異端の学説となってしまったんだ。これが俗に言う『相対性理論』だな。これについての反論として、魔力は魔素との化学ばけがく的化合物だという物があるが、それならば魔力以外の何かしらが、魔素から発生していなければならず、そんなものは現在まで確認されていない。そもそも魔力がエネルギーなのか、物質なのか、そこからして魔学界は大きく二分されているのだから、前提からして固まっていないし、魔素に関しても、潜行者の感覚以外での直接観測成功例が存在しない事もあって——」


「あ、あのー、ことふみ君?」


 詠訵による、息の継ぎ目を狙ってのインタラプトが、なんとか決まった。


「うん?質問か?詠訵先輩」

「そうじゃなくて、ほら、カミザ君が、びっくりしちゃってるから…」

「おっと、そうだった。えー…日魅在、日魅在進先輩。申し訳ない。少し張り切り過ぎた」

「………ぅうん…、まあ…、ぜんぜん…、いぃょう?」

「ほらあ、カミザ君、ポカンとしちゃったよ」

「面目ない」


 濃い。

 恐ろしく濃い奴が現れた。

 新跡開拓部初日。今日は顔見せくらいかなと立ち寄った部室に、彼は居た。

 キャラとしてぴったりな四角い銀縁眼鏡を掛けているが、白衣とかは来ていない。

 「これからパーマ掛けでもするの?」と聞きたくなるくらい、小さく巻かれてまとめられた髪を、沢山頭に載せている。

 講師のような態度だが、教職員ではない、どころか中等部の3年生で、つまりは後輩だ。


 ことふみ呬迹ちあと。新開部の魔学担当、を自称する雑食者、らしい。

 

 ここは新開部が使える講堂の一つ。広い部屋には、檀上の殊文君と、座席に俺と詠訵、その三人だけだ。

 挨拶もそこそこに彼はいきなり、なんとかいうマイナー研究者のマイナー学説について一席()ち上げ、俺を刹那で置いてきぼりにした。

 光の速さが変わらないだとか質量によって空間移動が時間移動に引っ張られるだとかエネルギーから質量を作れるだとか、何が何だかチンプンカンプンだ。


「ご、ごめん、頭の出来が良くないもんで…、えっと、つまり?」

「うん、一言で行こうか。つまり僕としては、他のあらゆる法則と、魔学・ダンジョン関連研究を切り分けて考えるべきだと、こう思うんだ」

「ほ、」

 ほへー………!

 すぅごい事考えるもんだなあー………。


「考えてもみてくれ宇宙発生から、大体140億年。地球誕生から45億年。アウストラロピテクス登場は500万年前で、原人・旧人類を経て現生人類が現れてからに限定しても、2~30万年前。その間、“ダンジョン”という現象やモンスター達が存在した痕跡は、一切残されていない。あれは生まれてから2000年の、一時的な異常現象でしかないんだ」

 

 言われてみれば、確かに………?


「でも、普通は、これまで見られてきた物理法則の延長で、そういう事が起こってる、って考えるべきなんじゃあ…?」

「それが一般論だ。だが一般論では、ほとんど何も見出せていないのも事実。ダンジョンや魔力についての新発見は、何時だって神秘・形而上学からもたらされて来た。観測の有無によって形が変わるという、量子力学の分野を使って、屁理屈的に結び付けられない事もないが……」


 それだったら、魔学だけ別で考えた方が、簡単に辻褄が合うらしい。


安部星明あべのしょうみょうによる初の五芒星魔法陣起動例、『星明桔梗しょうみょうききょう』。中世から近代における旧典教徒の、六芒星魔法陣『ダビデの星』実用化、及び軍事転用。古代シンド哲学の五大・六大思想による、多重処理魔法陣理論体系化。そして救世きゅうせいきょうの洗礼儀式や、貴族家等による血族継承という、潜行者能力の恣意的統一・底上げ方法の実証。魔学に関する功績のほとんどが、宗教や因習、思想哲学から来ている」


 「現代科学はそれを応用するだけで、その根本を理解したり、全く新たな発明をしたり、そういう事は一切してこなかった」、おっと、熱が入ってきてないか?再燃してきてないか?


「魔学は、異質なんだ。世界の運行という巨大スケールの中で、これだけが人に都合が良過ぎて、この分野を今でも“奇跡”や“神秘”などと呼ぶ者も多い。

 例えば魔法現象は、人間の意思と意識に深く根付き、その効果や詠唱が、その者の原風景・信念・信条……平たく言うなら、『感銘を受けた物語』によって変わるというのは、今更教えるまでもない事だ。SNSの“Xnet(テネット)”の名の由来もそこから来ている、という説もある。主義主張テネット、つまり魔法の根本。世界中の人の声を繋ぐ新時代の魔法、見解と見解をぶつけ合う事で、新たな魔法を生む場所、と言うわけだ」


 そうなの?俺はあれ、買い取った富豪が、「お前らSNS上で政治についてケンカすんの好きだろ?」、みたいな()()()()()で名付けたと聞いたけど。


「ああ、と言っても、飽く迄俗説の一つだから、そんなに真に受けないで欲しい」


 うーん、そんなもんか。

 横で詠訵が、「私は前の“RaTaTer(ラタッター)”の方が好きだったのになあ、可愛くて」とか呟いた。その発言が可愛いんだが。


「で、真実を追い求める“科学”は、今日までそのメカニズムに、明確な説明を出来ないでいる。

 彼らの言い分はこうだ。

 脳が最重要と定めた情報は、常時頭の中で処理され続けている。この中核となる物を、仮にAとする。人は何を見ても聞いても、Aを通してそれを行っている。あらゆる情感も、それを分解・解析していけば、必ずAに辿り着く。

 魔法を使おうと脳が指令を発する際も、同様にAを通さなくてはならず、魔法の形態もそれに自ずと引っ張られる」


 それっぽくは聞こえる。理に適っているように思える。「それじゃあ」、しかし殊文君は続ける。


「どうして魔法は、人の脳の言う事なんか聞いているんだ?脳波か?電気信号か?だが人体より強力な電流を使って、魔力を魔法化できるわけでもない。まず魔力とはなんだ?人体の何が魔素と反応して、魔力と化しているのか?人間以外の動物が使えないのは何故か?奴らだって脳はある。しかし猿ですら魔力を宿さない。精神や魂という物に宿る為か?ではそれは何か?何故精神状態によって効力が変化する?


 根本も根本、最も分かっていなければいけない所を、なあなあで濁している。


 アリステ・バフォメの七芒星研究を頽廃的・反文明的・異端と糾弾する前に、自分達の足下を固めろと、僕はそう思うのだが、どうだろうか?」


 「どうだろうか」と言われましても。

 高度過ぎて付いて行けません。

 そんな根源的な話、考えた事もありませんでした。

 「使えるなら使えるでいいや」「俺は使えないし」、ぐらいの適当な感覚でした、ゴメンナサイ。

 居たたまれなくなってきた。


(((ほうほう、答えを求めて藻掻く様とは、味わい深い物ですね)))


 すっごい楽しんでる人が居るけど。

 なんかとっても良い笑顔なんだけど。

 昨日の夜食べた“具だくさんヨーグルト”片手に、悩める仔羊を観賞している。

 この部活入れて良かったねえ?

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