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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十四章:リアルタイムで世界を変えろ

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2061/8/31 17:00~2061/8/31 18:00 part1

〈やあ、思ったよりは、遅かったね……〉


 山中まで逃げた“飛燕サルタドール”の前に、翼を持つ三角帽子が降り立った。


〈まずは、僕から、か……〉

〈貴様も、カミザススムも、両方、だ〉


 近くには他にも、強大な気配がある。

 木々や茂みの向こうなど、到る所に鳩がとまっている。

 彼は完全に囲まれていた。


〈………何故だ?〉

〈何が?〉

〈何故、カミザススムを助ける?最後まで、それほど奴に尽くす?〉


 “飛燕サルタドール”は人間の姿に化け、人の中に紛れることが出来た。

 そうすれば、少なくともこの場は、“環境保全キャプチャラーズ”の追撃が緩んだだろう。


 丹本、クリスティア、双方との繋がりが微妙で、宙ぶらりんになっている彼らは、下手に両勢力の反感を買うような、大暴れが出来ないのだ。


 それが分からないほど、“飛燕サルタドール”は幼気いたいけでもない。

 だが彼は、わざわざ人目のつかない場所に、逃げ込んだ。


 まるで、「こっちを優先的に狙え」と、そう言っているかのように。


〈生来の、目立ちたがり、ということか?〉

〈それもあるけどねー。かっくいーい感じに、散るっていうのに、憧れがあったし〉


 「だけどさ」、

 彼はむなびれを伸ばして口の中に突っ込み、アクリルキーホルダーを取り出した。


〈もっと別の、ふかーい理由もあるんだけど………聞いてくかい?自慢混じりのオタク語りになるけどね。結構長めの〉




 



「何をしとるんじゃ、オヌシ」


 後ろからやいのやいのうるさい奴を、ちょっと黙らせるべく振り向く。


「料理の手伝い。今のじいちゃん危なっかしいからさ。見て分かんない?」

「………オヌシ、まだ状況が分かっておらぬのか?」

「話なら後で聞くよ。ちゃちゃっと用意するから、その辺に座って待ってろ」

 

 呆れ顔のそいつを放置し、手元が覚束おぼつかないじいちゃんのアシストに回る。


 まあ、ほとんど寝ぼけたみたいな状態で、俺の声が聞こえてる様子すらないのに、ちゃんと料理が進んでいるあたり、体に染み付いた習慣ってのは、そう簡単には離れないらしい。


 ただ、火や刃物を使う関係上、流石に危ないのはそうなので、俺がカバー役として立つ。クサバスペシャルセットなら、じいちゃんと一緒に作った経験も、何度かあるのだ。


「一応聞くけど、“靏玉エンプレス”には好き嫌いとか、ある?」

「妾は数多くの賓客ひんきゃくを持て成し、或いは逆に持て成されてきた、大人物ぞ?食卓での弱点なんぞ、とうに克服したわ」

「あ、っそう。それじゃあ——」




——“奔獏ジェスター”は?


 


 背中越しで分からなかったけど、きっと顔を見てたとしても、何も読み取れないだろう。

 そう簡単に動揺してくれる相手じゃないし、


「なんじゃ。分かるのか、ツマランの」


 こいつもそこまで、本気で隠すつもりじゃなかっただろうから。


「能力で“火鬼ローズ”の魔法を復活させたっていうのは、聞いてたからさ。歴史改変で葬られてる奴まで呼べるって言うなら、こういう霊媒師みたいな真似ができるかもって」


「まあ、ここにいる妾は、厳密には死後の妾ではなく、生前に写されたバックアップじゃがな」


 「そしてそれも、永遠には続かぬ」、

 なんとなく、そうなんじゃないかとは、思っていた。


 そいつの能力が「遅らせる」ことなら、先延ばしには出来ても、永遠にはできない。


「じゃからの。妾には、奇跡が必要じゃ。世の理に逆らい、無から有へと再生する、復活の奇跡が。故に、」


「この世のものじゃない、“可惜夜ナイトライダー”が欲しいって?」

左様さよう。その力があれば、完全復活の望みが繋がる」


 んで、「じいちゃんが人質」、ってことにしたわけだ。


「さあどうする、日魅在進。妾の要求を呑み、その男を救うか?それともオヌシの我を貫くか?」


 毎度の如く、「究極」の選択、ってわけだろう。

 えげつないことを考えやがる。


 確かにこの賭けは、彼女が取れる手段の中でも、悪い方ではないんだろう。

勢いで誤魔化せる可能性だってある。


「俺からの提案としては」


 同時に、彼女が本当に追い詰められているのだと、もう打つ手が無いのだと分かり、なんとなく、寂しくなってしまった。


「美味しいナポリタンを食わせてやるから、それで“お礼”ってことでどうかな?」


 出来上がったものを3人分の皿に盛っていく。

 予備なのか来客用なのか、余分な食器があって助かった。


「ほい。“クサバスペシャルセット”」

「……食い合わせも何もない『セット』じゃのう」

「文句言わずに食え」


 ブツブツと、泡のような声を口の中だけで弾けさせるじいちゃんを、いつもの位置に誘導して座らせる。


 フォークを持たせて、パスタを巻かせてから、喉に詰まらせることをちょっと心配し、すぐに要らない気遣いだったことを思い出す。


「じいちゃんから感じるこの気配、“奔獏ジェスター”と、“靏玉エンプレス”、両方、感じるんだ」


 「夢幻ゆめまぼろしの如くなり」。

 何かを遅らせ、時にはすぐに消えないよう、保存する。


 「枯木こぼく死灰しかい花開はなひらく」。

 使い古した、衰えたものほど、強化されるローカル。


「お前は、じいちゃんの生死を交渉材料にしようとして、ここに来た。如何にも自分が、じいちゃんをこうしたみたいな態度で。でも……」


 じいちゃんも、もう歳だ。

 いつ、何があって、ぽっくり病死してしまっても、おかしくなかったのだ。

 人間は、ほんのうっかりで、簡単に死んでしまうのだから。

 

「お前は瀕死のじいちゃんを見つけて、だけどもう、手の施しようがなかった。だから、“奔獏ジェスター”がギリギリで『星』に保存していた、最期の状態を死後にび出して、“靏玉エンプレス”の能力で、なんとかここまで持ち直させた」


 じいちゃんはもう、死んでいる。

 冷静になって、その体に触れた時から、それが魔法生成物に近いと、気付いていた。

 

 人間をデータ化してネット上に再現して、色んなシミュレーションを体験させて変化させる、みたいなSFがあるけど、それと同じだ。

 コピーされた上で加工された、じいちゃんの複製でしかない。


「フン。魔学に関することとなると、オヌシが異様に細々(こまごま)しいのを、忘れておったわ」


「俺にとっては、じいちゃんの死に目に、疑似的にでも立ち会わせてくれたことになるからさ。だからまあ、そのナポリタンは、『お礼』ってことで」


「オヌシの家族を人質に取ろうとし、今も愚弄ぐろうしているのは、間違いではないのじゃぞ?」


「でも、実際にやったことを見たら、『最後の時間をくれた』、ってなるだろ?」


 思えば、おじいちゃんとおばあちゃんの時も、こいつは死んだ家族と会話させてくれたのだ。


 俺に利するつもりはなかったと、それは分かる。

 だから余計に、不思議な巡り合わせを感じざるを得ない。


「よく考えよ。オヌシの住む街を火の海にした、あの頭トリガーハッピー女の一味じゃぞ?数々の大量殺戮の黒幕じゃぞ?礼を言うなぞ、どうかしておる」


「“千総フュージリアー”のことなら、お前が死んだ後の暴走だから、お前を恨む理由にはならないし、それ以外は……、うーん、結局俺が、“靏玉エンプレス”が率いるリーパーズから、実際に受けた被害って言うと、俺か友達の殺人未遂くらいだし………」


 それもはた迷惑な話だし、その程度で済んだのは結果論なんだけど、「呪い続けてやるぞ許さねえからなあ!」、っていうテンションで語ることでもないと言うか。


「俺は、全部の事情を知ってるわけじゃないし、きっとお前達を含めてみんなが、それぞれの思う最善をやってただけなんだと思うし、だとしたら正しさを背景にしても的外れで、だったら俺個人の感情でしか怒れないって思うし」


 勿論、色んな人が殺されて、奪われた人達はこいつを恨んでて、言いたいことが山と積まれるほどあって、だから彼らがゆるされることはないと思う。

 

 だけど俺は、それをどうこう言う立場じゃない。

 少なくとも、俺が「罪」を糾弾するのも、「何様だよ」って感じで、なんか違う。


「俺はさ、恨んだり憎んだり怒ったりは、俺の届く範囲限定にしようって、そう思うんだよ。頼まれてもないのに、誰かの無念を勝手に分かった気になって、背負ってあげようなんて、おこがましいって言うか」


 じゃないと、分からなくなる。

 

 最近、俺の周囲で、沢山死んだ。

 誰が、何が悪かったのか?


 暗殺だったりテロだったりを企てた馬鹿か?

 そういうのに狙われてる俺がそこに居たからか?

 それともいつか、カンナが言ってたみたいに、もっと色んな理由が絡み合った、偶然なのか?


 きっと、全部だ。

 世界中、宇宙全体、過去の堆積。

 色んなもの全部が、この現在を作っている。


 そして俺は、それらを完全には、理解し切れない。


 「分からないこと」を無視して、全部を憎んでいたら、きっと何かを見失う。

 いつかの俺みたいに、全部を自分のせいにするか、

 その反対に、理由をまるごと外に押しつけるか。


 いずれにせよ、それは思考を止めることと同じだ。

 間違えたまま、二度と改善されないという、絶望を受け入れることだ。


 「分かろう」っていう努力の放棄だ。

 「今の俺には分からない」、そう保留するのとは、雲泥うんでいの差。

 

「なんでもかんでも、全ての正しいことを自分のものにしよう、とか思わない。分からないことは、分からない。お前達がやったことは、どんな理由があれ、罪だとは思う。思うけど、それを裁く立場じゃないから、何もしない。


 俺も、誰でも、間違ってることだらけなんだから、『間違えたから』お前を憎むなんて、つらの皮の厚いことはできない。


 その牙が俺を傷つけなくなった今、反撃もしない。

 

 俺は、俺の理解が及ぶ範囲だけで、俺の感情を決める」


 俺に言えるのは、俺の気持ちについてだけ。


 呪いの言葉を吐きながら、目の前のこいつを絞め殺しても、俺の気は晴れない。

 こいつに殺された人達はもう“ない”んだし、だから何をやっても彼らには関係ない。


 残された側の誰か、その恨みの代弁として、こいつをなぶるのも、やりたくない。


 慰めにならないどころか、気分が悪くなる。

 復讐心に燃える人達はともかく、俺はそうだ。


「だから、俺はやらない。お前に苦しんで死んで欲しかった人には、申し訳ないと思わないでもないけど、運が無かったって諦めて貰うしかない。


 道徳とか正義とかじゃなくて、感性とか嗜好の話なんだ。


 俺はやりたくないし、やるべき理由もないから、俺はやらない。俺はただ、お前に助けられたことについてお礼を言うし、なんだかんだ、お前が死んで寂しい気持ちもあるってだけ」


 全部、こいつのせいにして、スッキリ終わらせるのが、賢いのかもしれない。

 顔も知らぬ誰かに感情移入出来る、優しく人情に溢れた、優れた人間性の在り方として、こいつに怒るべきなのかもしれない。

 

 だけど俺は、分からない。

 殺された人達や、残された人達の気持ちが、どちらも分からないように、

 

 目の前のこいつの気持ちが、

 どうするのが正しい行動なのかが、

 何に対して怒ればいいのかが、




 分からない。

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