表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十四章:リアルタイムで世界を変えろ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

935/979

2061/8/31 16:00~2061/8/31 17:00 part2

 安心、

 安心で、いいのだろうか?




 彼は彼女と、初めて逢った日のことを、思い出していた。

 

 あの時と同じく、上下逆の端麗な顔と、目を合わせているからか?

 しかしあの時と違って、そのしらぎぬのような髪が重力に従い、しゅりしゅりと頬を撫でている。


 頭の上でこってりとした半球が二つ、潰され波打っていて——


——そうじゃ、なくって


 彼が感じたデジャヴは、覗き込まれた時ではなく、もっと前。

 彼女を本当に、初めて見た瞬間。


 あの時、ひそりひそりと笑っているようだった彼女は、けれど楽しそうには見えなかった。


——ああ、それで、か


 冬の寒空を映す海みたいに、寒々(さむざむ)しい無表情。

 最も冷たい彼女を、彼が目にするのは、初対面以来、これで2度目。


 だから、記憶が結びついたのだろう。


「かん、な……?」

「ススム君!起きた…?」


 隣から少女の声が聞こえると同時、彼女の目からこぼれた橙が、つるりとした頬に熱を差したように見えた。


 その窈窕ようちょうな口元が、ニマリニマリと緩められ、頭が上がって視界から退しりぞく。

 入れ違いに、詠訵が覗き込んできた。


「大丈夫…っ?」

「うん、なんとか……」

「おい、自分の足で歩けるんだったら、とっととオレサマの上から退け」


 進は、ニークトに背負われているようだった。

 

「ええー?どうせならもう少し乗らせてくださいよー!」

「だー!そうやってすぐ調子に乗るから嫌だったんだ!ひっつくな!おい!くそっ!」

「ちょっとおニク先輩!暴れないでください!」


 寝起き数秒でいつもの調子に戻る3人。

 ならもう大丈夫だろうと、進は放り出されてしまった。

 

「けちだなー」

「ねー?」

「さっきまでカンナ嬢がお前の寝顔を眺め回してたんだぞ!オレサマの顔のすぐ隣で、だ!恐ろしいったらありはしなかった!引きって運ばなかっただけ感謝して欲しいくらいだ!」

(((そこまで怖がらずとも、よろしいですのに)))


 馬鹿話で心の安定を取り戻し、頭の中を整理する。


「そうだ、佑人君は?」

「これ見て、これ!」


 詠訵がスマートフォン端末に、ネットニュースやXnetのトレンド欄を表示させる。

 漏魔症、魔力操作、明胤学園………


「そっか、」


 彼が空を見上げると、太陽は西へとハケ始めており、目に優しい青色が待っていた。


「やったんだ……」


 彼は、ただ一言、そう呟いた。


「やったんだ………!」


 それには感動や達成感と同時に、疲労感や、もう取り返しがつかないという、不安のような色も混じっていた。


「………ススム君………」

「………ごめん、それで……あれ?」


 目元をぬぐい、落ち着いたことでクウクウ空腹を訴える胃袋をなだめ、それから疑問に気付く進。


「ミヨちゃん、追跡されるかもって、スマホはニークト先輩の家に、置いてってたよね?」


 けれど彼女は今、見知らぬ端末を持っている。


「そのことなんだけど………」

「“飛燕サルタドール”に助けられた」

「さるた……え?………あ、いや、そっか、それで俺達、ダンジョンから出られたのか!」


 かなりの間を置いて、気を失ったその時まで、自分が詰んでいたことを思い出す進。


「でも、なんで?」

「分かんない……。推しがどうとか言ってたけど……」

「それと、詠訵が持っているその端末に、住所を示すデータを入れて渡してきた」


 それはどうやら、“飛燕サルタドール”のスマートフォンらしかった。


「そこに行け、ってことですか?」

「罠かもしれないとは、思ったんだけどね?」

「放っておけば、オレサマ達は勝手に死んでいた。そこを助けられた以上、単なる敵対者とは、考えにくいだろう。プラスになる何かが、用意されている可能性もある」


 確かに、それはそうだ。

 進は相槌を打ちながら、周囲をキョロキョロと見回し始めた。


「それで、目的地はここから近いんですか?」

「ああ。そこでだ、お前に聞きたいことがあるんだが」

「……その目的地って——」




——居住区ですか?




「やはり、か?」

「はい。俺は、ここを見たことが、通ったことがあります」


 忘れるわけもない。

 なんならつい昨日も、この通りを見ている。


「俺がお世話になってる居住区です」


 彼らは不穏さも感じつつ、何が待っているのか分からずに、指定された住所に、すなわち居住区の一室に向かった。


 詠訵とニークトを通行センターで待たせ、階段を登りながら、液晶の中の部屋番号を何度も見直す。


 間違いない。




 草葉茂三が住んでいる部屋だ。




 部屋は、施錠されていなかった。

 

 恐る恐る、中に入る。


 茂三は、リビングで座っていた。


 ウトウトと呑気に、首をカクつかせていた。


「なんだよお、もう~~~!」


 拍子抜けである。

 彼はその肩を揺さぶる。


「じいちゃん?起きろー?そんな姿勢で寝ると、首とか悪くするぞー?」

「う、ううむ………」


 茂三は目をしばたたかせ、ゆっくりと進の顔を見る。


「なんじゃ」

「なんだじゃなくてさ」

「ああなんだ、あんた」

「寝ぼけてる?」

「おいあんた!誰だあんた!」

「じいちゃんさあ、そういうの良いから」




「おいこらあ!なんだあんた、おいあんた、おい!」




 肩に乗せた手を振り払われ、進は大きくよろめく。


「じい、ちゃん……?」

「誰だ!誰だあっ!」

「なに、言って……!」

「あびゃああああああああああっ!」

 

「じいちゃん!しっかりしてよ!俺だよ!ススムだよ!」


 両手で茂三の頭を挟み、自分の顔をよく見せる進。

 その声音には、悲愴な必死さが籠っていた。


「すす、む……?」

「そう!日魅在進!」

「すすむ……」

「じいちゃん?」

「すすむは、どこじゃ……?」


 しかし茂三は、急に立ち上がると、部屋の中をウロウロし始める。


「すすむに、飯を作って、やらないと……。バカな連中が、大勢、来たんだから……」

「じいちゃん!聞いてくれよ!漏魔症が隔離されない社会を、作れるようになったんだ!」

「あいつは、ああ見えて、傷つきやすい子だからな……」

「俺の友達も、ここに入れるし、じいちゃんを外に連れて行ける!約束したろ!みんなを紹介するって!」

「スペシャルセットを……、ナポリタンを……」


 途方に暮れるとは、このことだった。

 目の前に茂三がいるのに、もう二度と会えないような気さえした。




「現状を、理解できたようじゃのう」




 飛び退きながら振り向くと、そこには死者が居た。


「オヌシの家族の命は、わらわの手中。今や散華さんげの危機にひんしておる」


 小麦色の三つ編みを二房ふたふさ垂らし、服装は和服にも央華風ドレスにも見える。

 この世から既に、居なくなった筈の女。


「妾の言う事を聞かぬと、其奴そやつがどうなるか、妾にも見当がつかんのう」


 かんらかんらと、広い袖で口を隠して、豪快ながらも上品に笑う。


「なんで、生きて……!」

「さあて、何故じゃと思う?当ててみい」


 進の動惑どうわくを、


 “靏玉エンプレス”は愉快そうに見物していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ