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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十四章:リアルタイムで世界を変えろ

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934/983

2061/8/31 16:00~2061/8/31 17:00 part1

『どうして学園内に入れない!?』

『政十と三都葉の有力者が現場に来て止めてるんですよ!少なくとも今すぐには無理です!』

「放送を中断させることはできないのか?」

『動画サイトのアカウント停止ならともかく、地上波放送局への圧力には限度があります……!』

『局は既に放送内容について完全に把握していて、これを制限されるのは知る権利を奪う行為だと——』

『アヅマダイヴの広報用メディアからも発信されてます!』

『世界中の様々なサイトで一斉に配信が始まりました!アカウントBANが追い着きません!』


 テレビには丁度、ネット、地上波を問わない“ジャーナリスト”達の前で、仨々木佑人が魔力を使ってみせたところだった。


 発言力のある潜行者や、明胤学園の計器類が、映像に乗らずとも、そこに統御された魔力があることを示している。


 権威付けとして、申し分ない威力。


「天王寺に作らせておいたコネクションが、思わぬ裏目となったな……」


 それより予想外だったのは、浪川テロで漏魔症罹患者に攻撃された明胤学園が、あの時に戦った当事者である生徒達が、漏魔症擁護に回ったことだ。


 よほど極端な人間でない限り、反感を持っている者だとしても、彼ら明胤生に言われてしまえば、「まあ他ならぬ君らが言うなら……」と、矛を一度下ろしてしまう。


 殺されそうになった被害者に、アンチ感情を説くなどというのは、ほとけに説法というものだろう。


『ご覧の通り、漏魔症に罹ったら、魔力を使えないというのは、思い込みによる呪いです。魔学の世界でよくある、「心から思ったから実際にそうなった」、その一例でしかありません』


 知名度を持った披嘴が、明胤生達の最前列に立ち、画面へと語り掛ける。


『つまり、漏魔症罹患者と、潜行者とは、どちらも同じものなのです』


 言い切られた。

 他でもない、明胤学園生の口で。


 それを最も屈辱的と感じる筈の者達が、淡々と宣言するその様は、信憑性を強く補強した。


『私達は、この事実に向き合わなければなりません。ここで勘違いして頂きたくないのは、非罹患者の方々だけがどうこう、という話ではありません。これまで漏魔症に間違った認識を持ってきた人々全て、乃ち、漏魔症罹患者の方々も含めた、全人類です』


 そして彼は、えてまとしぼらなかった。

 被害者と加害者の別を、設けなかった。


『本学園の生徒、日魅在進は、独力で魔力操作を会得えとくし、世界に挑めるほどに成長しました。浪川テロでも、銃火器や恐るべきill(イリーガル)モンスターの前に立ち、大きな活躍をして見せました』


 “可惜夜ナイトライダー”の助けもあってのことだが、それは意図的に伏せた。

 「出来るだけ多くがそれなりに納得する」理屈を、聞かせる為である。


『そこに立っている少年、仨々木佑人は、テロに巻き込まれた際に、この能力を開花させました。現場でその時のことを目撃した人間は、他に居なかったといいます。つまり彼だけが、眼を開けていた。彼だけが、戦っていたのです』


 佑人にその意思が無ければ、呪いは解けなかった。

 それに目を向けさせることで、漏魔症に掛けられた、本当の呪いを終わらせる。


『漏魔症罹患者は、これより無能や汚染の代名詞ではなくなります。それはつまり、常人と同じものを認められると同時に、常人と同じものを求められる、ということです』


 罹患者達への視線と同時に、罹患者達自身の自認を破壊する。

 せめて、割れ目だけでも作る。


『漏魔症罹患者は、「罹患者」ではなく、「人間」として見られるのです。我々潜行者と同じように、魔力を持っているだけの人間に。


 いいえ、現行法としては、ずっとそうだったのです。ですが、大衆はそれを拒絶し、罹患者はそれを言い訳にして殻に籠った。


 双方の働きかけによって、構造は成立しました。マジョリティもマイノリティもありません。完全な被害者など、どこにも居ません。全ての人間が、この呪いを作ったのです。そちらの方が、楽だったからです』


 漏魔症罹患者は、魔力というプラスアルファを持った人間になる。

 もう弱者ではなくなり、特別な安全地帯にはいられない。


『我々潜行者がそうであるように、この国に住む多くの人間がそうであるように、誇りの為、自由の為、生きる為、誰かの為、社会の為、国の為、嫌なことがあっても、働かなくてはいけません。そして社会は、それを許し、それを求めなければなりません。


 それは人権という観点からもそうですし、実利という観点からもそうです。もう好き嫌いなんて贅沢を、じ込める隙はありません。漏魔症罹患者は、「人間」にならなければいけないのです!』


 この放送は、漏魔症差別の真の撤廃を求める声明だ。

 だがその対象には、漏魔症罹患者も含まれている。

 

 「いい歳こいた大人が、いつまでも意地の張り合いをガタガタやってんじゃねえぞ」と、全ての人間に向かって叫んでいる。


 罹患者が単なる一労働力、一生産力として社会に組み込まれる。

 それへの反発が、どちらの側から出ようとも、怠惰の証として見てやるぞと、そう言っている。


『ここまで聞いても、それでもこだわり続ける人は、居るでしょう。


 罹患者は劣った人間だという信念や、漏魔症のせいで成功できないという悲観も、きっとあることでしょう。そこは各々の自由です。


 しかしながら、二度と「正義」などと大層な肩書が名乗れるとは、思わないで頂きたい!』


 ここから先は、言い訳ができない。

 社会のせいにも、時代のせいでも、未熟な技術のせいでもない。


 罹患者が人間になろうとしないなら、それは罹患者の意思になるし、

 罹患者を排除しようとするなら、それは故意的な罪となる。


 罹患者は人間となってしまった。

 軽蔑されたくないなら、彼らのできる事をやらねばならない。

 彼らが先に進む姿勢を示すのであれば、社会は彼らを歓迎しなくてはならない。


『僕達新世代の潜行者は、社会を見ています。これから自分達が守る社会を。漏魔症罹患者を、単なる人間として扱う社会。そして漏魔症罹患者が、単なる人間として立つ社会。僕はそれを願っています』


 激励にも似たケツの蹴り上げ。

 良くも悪くもその衝撃は、無視できないほどに大きいものとなった。


「なるほど、我が国の教育現場は、有望、有望だ」


 魔力操作についての様々な検証が、パラメーターと共に中継される画面を流しながら、三枝は投了を宣言した。


「総理……G10から……」


 浮かない顔をする秘書の肩を叩き、「後片付け」の準備の為に席を立つ。


「総理、あの、ご命令であれば、私は……」

「子どもが潔く罪と向き合い、腹を切るというんだ。大人が今更ジタバタ出来るか」


 と言いつつ、三枝聡一郎が感じていたのは、責任の重さではなく、


 肩の荷が下りたような、安堵に似た心地だった。

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