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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十四章:リアルタイムで世界を変えろ

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2061/8/31 15:00~2061/8/31 16:00 part2

「クソが……!どうやら、かなり悪い……!」

「どし、たん……!?」


 純粋魔力を消費しまくり、自分の魔法をエネルギー枯渇により解除させようとしていた六本木に、乗研から今日何十回目かの悪いニュースが届く。


「まず、そろそろ“これ”のコントロールを、守り切れなくなってきやがった……!それと今、“見た”んだがよ……!」

「ごほ……!ぜほっ!ゲホッ!」

「!」


 丸くなった乗研が、懐から見せたのは、咳き込み血を吐く佑人の姿だ。


「ウソ……!漏魔症の、魔力程度でも、ボコられる、ってこと……!?」

「それか、魔力じゃなくても、いいのかもしれねえ……!人間が持つ“能力”であれば、人間という存在が使えるものであれば、何であれ…っ!」


 魔力が少ない状態なら比較的安全、とすら言えなくなった!

 このままでは、彼らは確実に全滅する!


「それ以前に、このままだと、姿焼きが、出来ちまう……!」


 火の手は激しくなっており、彼らは肉体のあちこちを破壊され、逃げることができない!

 ただの炎で、焼き殺される!


「そこらに、警察が、来てる、らしい……!」

「呼ぼ……、そっちのが、まだ……ワンチャン……ある…から………」


 拘束される危険を承知で、乗研は大声を出そうと息を吸い、


「お……ッ!?ごっ!ごがばっ!」


 喉奥が裂けたような激痛!

 声を奪われ、代わりに血反吐を吐き戻す!


「な……に……」


 人形によって脚の肉を千切られていた六本木の方は、少しずつ意識が遠のいている!


「ぐ……ぞ……!」

「サ…ム……だる………」


 恐らく外から見えない部位で、何か破壊を引き起こされているのだ!


「お゛……!がぼ……っ!ま゛で……っ!おぎろ゛……!」

「てぃ、あら……、だいじょ……、」


 肌が青白く変色、生気が抜けていき、瞳孔の焦点が薄められ、


「ろっぽ……ぎ……!しぬんじゃ……!」

「おねえ、ちゃん……すぐ、かえる……から………」


 赤ん坊のぐずる声を聞きながら、凍えるように震え、目蓋が段々と落ちていく。

 

「なか………」


 ベージュが薄まっていき、人形が外から一枚ずつ剥がれ、


「な………………………」


 完全に、彼女の気配は、消え失せた。

 

 魔法も、魔力も、鼓動も、眼の光も、

 もうどこを探しても、見つからない。


 そしてそいつには、はなから探す気などない。


 “世界正義ミスター・ディターラント”と呼ばれている、体毛を持たない、冷たい人相の男。

 黒一色のスーツ、皺一つ無いワイシャツ、赤いネクタイ、黒革の手袋。

 グレーのバンド帯があるつば広帽。


 乗研達が居る地点から離れたビルの上で、彼は黙って、見ているだけだ。

 優れた視力と、「見る」ことに特化した魔法を持つ彼ならば、これほどの距離や遮蔽の幾つかなど、問題とはなり得ない。


 彼は少女の死を確認。

 その事には特に思う所は無いという様子。


 ただスーツのポケットの中に手を入れ、手動式カウンターを1回押してから、目の焦点を完全に乗研に、それに抱えられた幼い男児にしぼる。


 症状は、表に出るほど強くなっている。

 あと10秒もあれば、依頼は達成となるだろう。


 感慨にふけることも、気を抜くこともなく、淡々とその目で佑人を注視し続けて、


 目が合った、気がした。

 

 有り得ないことだ。

 偶然だろう。

 間に建物を挟んでいるのだから、あちら側から彼が見えるわけがない。


 だが、その男児の瞳は、確かにこちらを、覗き込み返しているようで——


 ぽちゃり、足下から水音。

 ポタポタと、続けてすうてき

 人中じんちゅうあごを伝う生臭さで、それが自分の鼻や口から出ていると気付く。


 手袋をした手で受け止め、視界の端に持っていく。

 血だ。

 それは間違いなく、血液だった。


〈六本木は……〉


 佑人の瞳から、言葉が響いた。


しるべを、示した……〉


 暗い洞窟の奥から、そこに棲む怪物の声が届くように。


〈お前は、俺達を、見続けなければ、ならない……〉


 手足が痙攣し、ガクガクと力が抜けていく。


〈お前には、魔力や魔法が、よく見えている……〉

 

 彼は全身を自己診断。

 体内で幾つもの異常を見つける。


〈六本木の、ベージュの霧……、あれは、魔法由来だったから、普通の壁や建物よりも、邪魔だったんだ……。俺の黄金板を退かさねえと、見れなかったみてえに……!〉


 自身の周囲に敵は無く、攻撃を受けたとは思えない、

 この、状態は……!


〈だからお前が制御した霧は、お前の視線を通す箇所だけ、薄まっていた……!〉


 彼の魔法の効果が、そのまま返されている!


〈六本木は、それを教えてくれた……!〉


 彼は今、自滅させられている!


〈お前に勝ったのは、俺じゃあねえ……!〉


 佑人が、「その姿」がひずみ、黄金に沈み、

 彼の眼光を反射させる、金属光沢の板に変化した!


〈お前は、六本木天辺(プリム)っていうガキに、負けたんだ……!〉




 “世界正義ミスター・ディターラント”が見ていたのは、佑人を包み込む黄金板が映した、「理想の光景」!

 彼はそこに注目するほど、自らの目が発している、「自滅させる」光学パターンを、自分の神経に無意識に刷り込んでしまっていた!


 彼の精神は、それへの耐性を持っている。

 だがそれは、「それをされる」と分かってマインドセットしていれば、耐えられるというだけ!


 心の奥底、心臓のように自らの意思で動かせない不随意ふずいい領域たる、潜在意識。

 彼にとって最も無防備な部分に刺さり込んでしまったら、抜く事ができない!


 何故なら、「その目に見られると死ぬ」という物語を、魂の根幹に保有しているのは、他ならぬ彼自身!


 説得力で威力が上がる魔法において、深層心理で肯定される理屈ほど、強い物は他に無い!




〈どうするよ……?俺は別に、どっちでもいいんだけどよ……!〉


 “世界正義ミスター・ディターラント”は一度魔法を解除!

 乗研の意思の下に戻った黄金板が瞬時に彼の前に回り、仕切りを築く!


 このままでは、佑人を視界に収められない!

 

 一度直接攻撃を諦め、クリスティアの刺客達が戦っている機動隊員達を殺す方針に切り替える。


 乗研は結局、動くことさえままならない状態。

 そこを攻撃させ、黄金板を割らせた上で、また直視してやればいい。


 そう考えて視線を外し、幻覚の陰に隠れたターゲットの位置を把握し続ける為、魔力感知センサー搭載ドローンからの情報に目を落とし、


 乗研本体から急速に、一つの塊が離れていっているのを見た!

 

 景色の方では見当たらない。

 「そんなものはない」という理想を見せられているせいで、直接視認が出来ない!


 佑人だけ逃がして、それを黄金板で隠しているのだろうか?


 だが、速過ぎる!

 肉体強化無しだとは思えない、どころか、遠隔操作された黄金板の、移動スピードすら明らかに超えている!


 運ばれているのではなく、黄金板を纏いながら走っている!

 

 それに、周辺の潜行者達が気付いていないと言う事は、黄金板は全方位を塞いでいるということ。

 前が見えないその状態で、単なる男児では、まっすぐ進むことすら困難!

 

 では、あれは、誰だ?


 


 高所特有の、強い風が吹く。

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