2061/8/31 15:00~2061/8/31 16:00 part1
カカコン!
アインは一歩、帽子を押さえながら左手に踏み出し、
同時に進も、彼から見て左に摺り足。
カカカコン!カンココ!
ココカン!カカン!
アインが歩く度に、靴が鳴らされる。
移動の速度は変わらずとも、タップダンスのペースは上がる。
カカコカカコカコカカコカカコカコ
カカコカカコカコカカコカカコカコ
カカカカカカカカカカカカカカカカ
間合いを保ったまま、両者はぐるぐると周り、
カカンッ!
止まる。
真空が天から垂れこめたような、鳩の羽音すら掻き消す静寂。
そして彼らのちょうど中間で、空気が爆ぜる!
互いが同時に不可視のエネルギー弾を放ち、相殺し合った!
「ぴ、ぃぃぃいいいいいい……っ!」
「厄介……っ!」
同時に踏み込み、右を打つ!
だが回路爆破によってアインに若干の崩れ!
進は相手の拳を避けながら、それと交差する貫手を放って顔を狙う!
人体同士が触れ合っていないにも関わらず、その隙間が白い火花を散らす!
進の魔力とアインの粒子が削り合っている!
魔力爆破!アインの頭が横に揺さぶられる!
だが無防備な腕に粒子弾が突き刺さる!
進は腕を内側から爆破!
「ひょ、おおおぉぉぉぉぉぉ……っ!」
即座に珪素質結晶で腕を再構築!
高圧魔力噴射!
それはアインの首を貫く!
「!なんだコレッ!?」
だが何の感触も無い!
アインが頭を後ろに逸らして刃を抜くも、一切の傷がついていない!
大外刈のように足元を掬い上げられる!
右足を前から後ろに払った動きで右肘も引き、粒子で鋭利な刃を増設した瓦割りパンチを叩き落とすアイン!
それが蹴り上げられる!
進は転ぶ勢いを殺さず、むしろ魔力ジェットで加速していた!
そのまま空中バク転!
再度一定距離での睨み合いに戻る!
「全力後退による引き撃ちを……、試さなかったのは正解でしたね……」
アインは左の親指で、火花が射した唇の右端を拭い、粒子を使って皮膚を再構築、完治させる。
「僕の動きが、『次の次の選択』が、見えている……!」
一歩後ろに下がろうなどという消極性を察知させたら、一気に距離を詰めて封殺しに来る。
やはり、正面から張り飛ばす以外にない。
「今の……、粒子から出るエネルギーで、首の中と俺の魔力の“流れ”が、一列に整序された……?」
進は粒子ブレードでザックリ斬られた脚の傷を、魔力によって癒着させ、繋ぎ直す。
「お分かり頂けますか……?」
「前に、部活動中に聞いた話ですけど、物と物が触れるのは、電磁力みたいなエネルギーの、反撥し合いらしいです」
物体は電子を持っており、つまり電場を帯びている。
電流に伴う電磁力、それがぶつかり合うことで、粒が集まって構成された物体同士が、すり抜けたり絡み合ったりせずに、触れ合える。
「エネルギーで電子を操って、一瞬だけ電磁力の隙間を真っ直ぐに並べる、みたいな感じですか?そこに別の物質やエネルギーを通して、透過させる」
詠訵のリボンを抜けたのも、この力によるものか。
「次は、それをやられた瞬間に、魔力の向きをランダムに広げてやりますよ。内側から引き裂くみたいな、大ダメージになるでしょうね?」
タタタンッ、
手札という手札を見通されつつあっても、アインは余裕を崩さない。
「あなたのそれは……、話には聞いていましたが、興味深いですね……。炭素と珪素の置換による、手動変身技術。ですが、弱点が一つ」
それ以上に、進が崩れかかっているから。
「その状態を維持するには、魔法に頼らない、超細密魔力操作を、継続しなければなりません。でなければ、その珪素質のパーツは、人体に異物として攻撃され、大きな傷となってしまう」
一度そうやって作り替えたら、治療役が居ない限り、全霊探知を行使し続けなければならない。
“嚆矢叫炎”の明白な弱点。
「一戦目からそれで、大丈夫そうですか?」
「あれ?自分が負けた後の事まで心配してくれるなんて、優しいですね、アインさん。そんなに勝てる気がしない感じですか?」
「おっと、これは失言でしたね」
カタコンッ、
挑発にも乗らず、地面を蹴るようにつま先と踵を打ち鳴らす。
「確かに、僕に負けるあなたには、要らない心配でした。『早くこの戦いを終わらせないと』、そう焦っているのは、あなたの方なのですから」
二つの生体ロケットが再度の正面衝突!
肉薄しながら向き合う彼らの周囲が、大気の急流によって渦巻き歪む!
ダンスステップで回転しつつ連続裏拳を繰り出すアイン!
中距離まで下がってからフットワークによるヒット&アウェイで応戦する進!
アインは右足でリーチの長い蹴りを放ち、次に左足、また右足と、体を捻りながらリズミカルに攻め立て、追い掛ける!
それと息を合わせ、その合間に踏み込む進!
両手を腰の横で溜めてからのダブル正拳!
腹の粒子防御膜を裂かれながらも、アインは超音速の左足蹴り上げ!
進は攻撃を中断し、右半身を引いて避ける!
アインの左足が前に下ろされ、
両者の左半身を前にした構えが、点対称形に!
ランク8にも満たないディーパー達が居合わせたなら、両腕が消し飛んだ二人が、じっと睨み合っているように見えるのだろう。
実際のところは、魔力や粒子の噴射や形成、爆発を駆使し、凄まじい速度で打ち合っているだけだ!
不可視の刃、不可視の弾丸、不可視の爆発!
強化肉体と雖も防御無しに喰らえば即死のそれら一つ一つを、普通のパンチのような軽さで行き交わせる人類最強候補二名!
足は、地をしっかりと掴んで、離さない!
彼らは今、技の速さ、コンパクトさで戦っている!
不用意な動きを見せれば、すかさず後の先を取られ、体勢を大きく崩される!
だからよろめかない為に、怯まない為に、ガッチリと下半身で体幹を固定!
盤石のミス待ち即死攻撃連打!
真剣を持った達人同士、必殺の一閃による果し合い!
それを短時間で、なんなら並列して、数十、数百、数千回繰り返す!
アインは粒子で、進は珪素で、刻まれた深傷を刹那のうちに修復!
放った拳の数が増えるほど、進の全身は白く濁って半透明な水晶体に変わっていく!
進はアインに核分裂爆撃を起こさせず、
アインは進に魔学回路爆破を許さない!
楽な手に走ったその瞬間、絶対に殺すという予告も兼ねた、魔学的飽和攻撃!
敵の処理能力の全てを、目の前の事柄の対処に注ぎ込ませ、逃がさない!
アインの粒子が進の防御にトンネルを開けようとしても、触れられた魔力が爆発することで拒絶。
進の魔力が高密度粒子防御を切り裂くが、肉体強度と体術によって有効打を拒否。
「僕の極小粒子が、これほど簡単に攻略されるとは……!」
「魔力探知で読み勝ってるのに、魔法込みの肉弾戦スペックで押し返される……!」
「「流石!」」
爆殺空裂が、また風となって灰を流す!




