2061/8/31 14:00~2061/8/31 15:00 part2
「ぐうううううっ!!」
懐の佑人を庇いながら、乗研はシールドとぶ厚い筋肉で破片を受ける!
地面に落ちて破裂した物品の数々、それが飛び散らせたほぼ全てが、彼を目掛けて刺さり込んで来たのだ!
「おじちゃん!だいじょうぶ!?」
「クソが……!俺は『おじちゃん』かよ…!」
「爆ウケ…っ!」
強化した肉体でなんとか乗研を路地から引っ張り出す六本木!
狭く逃げ場のない空間からは取り敢えず抜けられた!
だがそうなると、人が多い広い道に姿を曝すしかなくなり、当然騒ぎになり始める!
黄金板の一部が上手く機能しないので、尚更彼らには隠れ場所が無い!
昼休みも終わったくらいの時間帯とは言え、それでも無人は有り得ない。
通報は必ずされるだろう。
彼らの現在位置が完全に露見し、直に警察がやって来る!
「み、見られてやがった…!」
「なんて…!?」
佑人を衆目から隠すように、這い蹲る姿勢で周囲を睨み回す乗研!
六本木はライオン人形で、その傷を全力治療!
「さっき、視線を感じた…!確かだ…!黄色く濁った目が、光って、点滅して…!」
点滅。
それも、パターンが一定周期で。
「モールス信号…とは違ったみてえだが、あれは、あのパターンに、意味が籠められてやがった!」
「おめめパチパチが、詠唱って、そんなんアリ…!?」
「俺の黄金板をポッポ野郎が取り除いたのが、俺達を『見せる』為だとしたら……!探せ!俺達はどこかから、今も見られてやがる…!見られ続けることで、どういう原理か、周囲一帯が俺達を殺しに掛かってきやがる!」
「“親愛なる食卓にて”ァァァァァ!!」
このままでは治療を続けてもジリ貧、魔力切れで何も出来なくなる!
そう考えた六本木は、魔法の形態を変化させる!
タヌキ、ライオン、パンダ人形を残し、他全てが消失!
ベージュの霧を数m範囲に広げ、高精度情報処理モードに移行!
「これで…っ!少し“先”くらいなら……ヤバじゃん!ちょい!離れて!あんたら!めちゃヤバだって!」
様子のおかしい彼らを遠巻きに見物し、スマートフォンで撮影までし始める通行人達。
彼らに手振りでもっと離れるように言った彼女だったが、それが聞き届けられる前に予測通りの事態が発生!
軽トラックが彼らに突っ込んできた!
黄金板でそれを止めようとした乗研は、運転手がパニックを起こす一般人だと気付いてしまう!
「ふざけやがってえええええ!!」
身体強化全開!
両脚でアスファルトを削り焼き、できるだけ衝撃を吸収しながら、なんとか穏当停車!
「…!これっ!ノリパイ!ガソリン漏れててヤバ!バリクソヤバ!」
「降りろアホ!」
腕力でドアを破壊し運転手を回収!
黄金板で野次馬も含めた全員を守る!
電柱が何故か折れて、電線が千切れ、高圧電流による火花が散って、引火!
爆発炎上!
燃えた金属片が背中から降り注ぐ!
運転手を黄金板で運び出しながら、ベージュが示す軌道予測に従って回避!
だが一部が計算を外れて乗研の頬を焦がす!
「マ!?ハズしてる!?なんでっ!?」
「いいから能力を発動し続けろ!多少の誤差はどうしても——」
走り出そうとした六本木がスッ転んだ。
何かにつんのめったのだ。
足にぶつかったのは、トラックから外れた車輪。
問題なのは、ベージュが示した位置と、実際の位置が、ズレていること。
予測の位置ではなく、現在位置が、間違って感知されている!
「これ……!?」
「おいおい、それは冗談がキツいだろうがよ……!」
先程から、何度もだった。
黄金板が無効化され、急に姿を消すことが、何度もあった。
しかしそれは、もしかしたら、消されたのではなく——
——自分から?
バキり、乗研は何かを踏み砕く。
ブチり、何かを踏み千切る。
膝から下に力が入らなくなり、うつ伏せで倒れ伏せるしかなくなる!
「バカ、言ってんじゃ……!」
彼の脚が、破壊されている。
いつ、誰がやったのか?
ついさっき、彼自身がぶっ壊した!
肉体の運動能力だけを引き出しながら、強度を上げていた魔力が解除され、自然な力学で自爆した!
「俺達の、魔力が……!」
奪われている!
否、より正確に言うならば、乗っ取られている!
「ずっと、ずっと襲ってきやがったのは……!」
彼ら自身の魔力!魔法!
「魔力の気配を感じねえ攻撃!感知できないエネルギーで、俺達の魔力に干渉し、操作し、襲わせてやがった…ッ!いや、それとも、俺の黄金板の能力を無断使用して、その不正アクセスを隠してやがったのか…!?」
その目に見られた者は、無自覚のうちに自分で自分を攻撃する!
どんな強者であっても、敵は自分自身。
術に嵌まれば、必ず命を落とす!
最強は、最強によってのみ殺される。
ならば最強自身に殺させるのが、最も容易い解決手段!
「古い漫画であったな…!無敵の超人が、そいつの細胞から生まれたガンで自滅するやつ…!あれを万人に起こしやがるってのか……!」
そしてそれは、自分の力であり、物語。世界認識の根幹である為、自分のダメージがよほど激しくならないと、疑わない!
五感に騙された時、それを疑える人間が居ないのと同じように!
攻撃された時、外敵ばかりを探してしまい、「敵が居ないのに」と惑うしかできない!
人間は、生物は、ミクロの自殺行為に、あまりに無頓着!
「ノリパイ……!これ……!ほんと、ゴメンなんだけど……!」
息も絶え絶えな六本木を見ると、その顔の周りに、パンダ人形が登っている。
「もう、治せない、っぽい…!」
赤ん坊の格好をしたそれが、大きく肘を引き、
「この子達、言う事を聞かないし、消せない…!」
抉り込むようなパンチ!
眼球を守った目蓋を削り取る!
「まじだるっっ!!」
身動きが取れない!
そして更に、ベージュの色が濃くなっていき、肉眼の視界を奪い始める!
「クソッ!この魔法の感覚が、当てにならねえってのに!」
ノイズで五感を潰す作戦!
受け取る情報量を多くしたことが、完全に徒となった!
「このっ!クソッ!」
六本木が手足を振り回し、明後日の方向に燃えさしを蹴り飛ばす!
乗研はまだ制御できる数少ない黄金板を、自身の近くに引き寄せる!
そして、その絶好の狩猟チャンスを見て、狩人達が動き出す。
クリスティアが用意した、殺傷能力の高い潜行者達。
暗殺者達が、ベージュの霧という分かりやすい目印に向けて、各方位から接近。
その中に入らずとも、殺す方法は幾らでもある。
一人が掌の中にエネルギーを溜めて、
爆弾のように放り込み、
また、爆発があった。




