表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十四章:リアルタイムで世界を変えろ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

927/977

2061/8/31 14:00~2061/8/31 15:00 part1

「明胤学園?」

「服部君との連絡も取れなくなっている。可能性は極めて高い」

「ですが、あそこの思想は、漏魔症擁護とは、水と油ですよ?」

「ああ、ついこの前まではな。だがもし、ほだされたとしたら?同じ明胤の生徒である、あの少年に」







「我々クリスティアが、丹本より大きなメリットを提示できた、それだけの話ですよ」


 何所へ行くかも知れない、揺れる車内。

 アインは3人の少年少女に、「大人の話」を聞かせてやる。


「丹本側の条件で、特に争点となったものは、何だと思いますか?」


 総理と“提婆キャメル”で、ギリギリまで揉めてそうだった部分。


「………俺の、“右眼”の処遇、ですか?」

「素晴らしい」


 キャプチャラーズは、どうしても進を殺して、“可惜夜ナイトライダー”の顕現手段を奪いたかったらしい。

 

 「逆らったら人類VSill(イリーガル)の全面戦争だぞ?」、という総理派の脅しも、クリスティアのバックアップが約束されることによって、ほぼ無効化出来る。


 だから三枝は、クリスティアとキャプチャラーズを近づけないよう、気を付けていたのだが、


 今回、丹本政府の問題解決能力について、疑問符が付いた、その隙を見て、クリスティアは早いうちから干渉。


 混乱を出来るだけ大きくしてから、どさくさに紛れて、キャプチャラーズと密かに接触。


 「見てよ、丹本政府って当てにならないよ?」、「こっちにつけば、面倒な約束が一個なくなるよ?」、と猛アピールしたことで、より良い条件での引き抜きに成功した。


「そもそも、あなたが表舞台に居なければ、漏魔症罹患者は覚醒しない、というロジックは、詭弁でしかありません。あなたが生存し、その影響力を限定的にでも行使するだけで、罹患者の中で魔力操作に目覚める者が出てくる、その可能性は高まってしまう」


 AS計画を本気で実行するなら、進の抹殺は絶対だと、彼らはそう考えていた。

 クリスティアもキャプチャラーズも、そこで利害の一致を果たす。

 

 佑人は勿論、彼が魔力操作するに至った、その大元の原因から、除去しなければならない、と。


「……!まさか、初めから、あなたは佑人君を追うつもりじゃなかった……!?」

「そこまでご理解頂けましたか」


「カミザに自分を追わせ、この車両に乗るよう誘導したわけか…!」

「いざという時、佑人君を助けられそうな戦力を減らしながら、根本を断てる…!一石二鳥ってわけですか…!」


 漏魔症罹患者の魔力操作が発覚する可能性を低めながら、自分達にとって邪魔な少年を消して、キャプチャラーズとの同盟を成約せいやく

 リスクを最小に、リターンを最大に。


「既に我がクリスティアの戦力が、それも、『拘束』ではなく『抹消』の命を受けた者達が、ユウト・ササキのもとへと向かっています」

「オレサマ達が来た時には、連絡済みだったわけだ…!クソ…ッ!」

 

 そして、この状況の何が、彼らにとって最も望ましかったかと言うと、



 詠訵とニークトが確保できたこと。

 それが一番大きい。



ill(アイ・エル・エル)で囲めば、“可惜夜ナイトライダー”が出て来てしまいます。少なくとも、あなたを逃すくらいは、平気で達成すると、そう考えた方がいい」


 どうやって彼女を表に出さず、日魅在進を殺すのか。

 それを考えていた彼らは、一度上手くいった手法を、再利用することにした。


「人質、か……!」


 “暴風ハーヴェスター”の時と同じ。

 「こいつらを殺されたくないなら、ここに来て戦え」と要求し、進の意思で、不利な勝負に挑ませる。


「ただ、ill(アイ・エル・エル)に知性があると知れた状態で、派手に動いて徹底討伐論調が強まるのも、彼ら“環境保全キャプチャラーズ”の本意ではありません」


 だから前回のように、街を人質にするやり方は、避けるべきだと考えられた。

 かと言って、見ず知らずの一人か二人を捕まえて、脅しの道具に使うのも、確実性に欠けている。


 そこで、彼の友人ごと拘束する、このプランである。

 

「お二人が人質なら、あなたは確実に、こちらの要求を呑むでしょう」


 キッと睨んだ詠訵は、まるで曇りのない直視を返され、逆に刹那の揺らぎを見せる。


「後は、要求の内容です。無抵抗に殺されろ、であったり、2対1、3対1を条件にすると、“彼女”の基準ラインに引っ掛かるかもしれません。一方で1対1では、あなたが勝ってしまう危険が生まれます。その時、彼らは元のダンジョンごと消滅し、大きな損失を被ることになってしまうでしょう。そこで——」


「アインさんの出番、ってわけですか」


左様さようで御座います」


 人類最高の男との、1対1。


「決闘ですよ。頂点に立つ僕と、底辺を救済しようとするあなたとの」


 その実態は、クリスティアの有用性を示す為の、“環境保全キャプチャラーズ”へのび売りである。

 

「それで、ススム君が勝っても、弱った彼に、イリーガルが1対1を挑むんですか…!」

「そうなりますね」


 進はアインから視線を外し、助手席から後部を覗き込むカンナに目を向ける。


(((連戦ですか。楽しそうですね?)))


 どうやらセーフらしい。

 進にとってはアウトとも言う。


「フン、『人間如き』に負けて死ぬのが怖いから、人間に泣きつくとはな。恥を知らない自由な生き方が随分と楽しいと見える」


「黙れぇい!本来なら物量でり潰してやるところを、“可惜夜ナイトライダー”という外法げほうによってまぬがれている、貴様達ゴミどもの方がよほど恥知らずであーる!」


 ニークトの嫌味に、“太子ピラミッド”が烈火の如く反論する。

 彼がそれで殊勝な態度を取るどころか、皮肉げに鼻で笑って見せたので、怒りには油が注がれてしまった。


「さて、着いたようですよ」


 窓が塞がれ、外が見えないようになっている車内であっても、アインは自分の現在位置を把握しているようだった。


 ドアが開けられ、運転席に居た女にニークトと詠訵が引っ立てられ、最後に進の背を押しながらアインが出る。


 そこはどこかの公園らしかった。

 海が近いのだろう、汐の臭いがする。


 木々の間にある道を通って、途中で茂みの中へと分ける。


 その先、海を見下ろせる高台に、ビキニ姿の美女と、旅装姿の三角帽子が待っていた。


「じゃ、トリ君、お願い」


 三角帽子が、“鳳凰トリッパー”が両腕を広げ、それは大きな翼となった。

 それを体の前で交差させ、羽根を複雑に絡み合わせる。


 周囲には鳩が集まり、あちこちで魔法陣型にとまっていく。


辺獄現界アマゾニン・ダンジョン


 術が、結ばれる。

 ダンジョンが、生まれる。




              〈“絶滅朱レッド・データ・デッド・ベータ”〉




 鳩が一斉に飛び立った。

 それらは高く高く浮上し、薄く朱色に染まった雲へ、入っていく。


 それはよく見ると、腹が朱い鳩の群れだった。

 空はその翼で埋め尽くされ、樹がまばらに立っている大地は、不吉に薄暗く曇って見えた。


〈念を入れて、宣言しておく。「気付いた時には手遅れに」、だ〉


 味方が減るほど、その分だけ強くなるローカル。

 なるほど、一回負けたら終わりの進に強いるには、呆れるほど有効なルールである。


「お言葉ですが、ローカルの出番は、ないでしょう」


 詠訵とニークトが離れた場所に連れて行かれ、“提婆キャメル”と“鳳凰トリッパー”が空へ離れていき、


 相対した二人のうち、アインだけは明確に、終局の景色を思い描いていた。


 盤面に至るまで、予測できていた。


 進が合掌し、「ぴ、ぃぃぃいいいいいい……っ!」準備を整える間に、


 アインは組み立てを済ませていた。


「この最初の一手で、あなたは確実に滅却されるのですから」


 彼は右手を内から外へ、弧を描くようにゆったりと回し、上から進の目線の高さまで、下ろして見せたその指先で、


 コインのようなぎん白色はくしょくの物体を弾いて飛ばし、


「“ようこそ極微世界へイー・イコール・エム・シー・スクエアード”」


 パチリとシンプルな一音を鳴らした。




 爆発があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ