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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十四章:リアルタイムで世界を変えろ

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2061/8/31 13:00~2061/8/31 14:00 part3

「ほほう?どういったからりでしょうか…?」


 群集の中にまぎれながら、4人は固まって歩いていた。

 中心に居る長身の男の両腕のリボン、それを見下ろした彼は、感心したような声を漏らす。


「すり抜けられませんね」

「あなたの魔力……、その強みは、ススム君と同じように、単位が小さいことです…」


 詠訵のリボンが、周囲からはそうと分からないくらい静かに、呼吸みたいに周期的な光のグラデーションを発する。


「だから、私達も、細かく見る事に、したんです……!」


「ぴ、ぃぃぃいいいいいい……っ!」


「……なるほど、心得ました」


 詠訵の融合能力で、進の意識と同化。

 これにより、全霊探知の世界、その一端を共有している。


 それによって、リボンがアインの魔力を、おぼろげながら探知。

 「良くないもの」として、弾く事が出来るようになっていた。


 魔力の干渉を封じたのなら、


「こういう訓練も、いっぱいしてきたんですよ…?私達、同じ部活ですし」

「それほど解像度の高い世界で、よどみなく歩けている、その事実に驚嘆きょうたん致します。ですが——」




——それでまともに戦えますか?




「ひょ、おおおぉぉぉぉぉぉ……っ!」


「試して、みるか……?」


 両脇を挟む進とニークトは、周囲の人間に気付かせないよう、最低限の動きで叩く、コンパクトなパンチや横蹴りを放つ。

 

 それらをピシャリと、我が子を叱りつける母のように、手先、足先だけでけるアイン。


 時折、後ろについた詠訵が、前の人間の踵を踏む要領で、下半身を重点的に蹴り攻める。


 全くの平和、いつも通りの賑やかな都心。

 そんな光景にサラリと溶け込む、世界で最も静かな死闘。


 日常の中にあれば、人はそれを見る事ができない。

 見ようとしないから。

 探す意思すら持たないから。




 人は、見たいと思ったものしか、見れないのだ。




 時にリボンを引いて姿勢を崩し、魔力を打って頭を揺らし、狼の爪の先だけで手首をっ切ろうとして、ほんの小さな致命傷を、つけるかつけないかの目まぐるしい応酬。


 その途中、詠訵は違和感を覚える。

 幾らなんでも「リボンの減りが早い、ですか?」「…っ!」


 前を向いて歩いたまま、アインは教えてやる。

 彼らは、まだ足りていない、と。


「僕の単位を『1』とするなら、あなた方はまだ、『10』といったところでしょう。確かにあなたの魔法効果は、ぎっしりとよく詰められています。ですが、『10』と『10』の間に、『2』や『3』の隙間が、残っている」


 「1」の魔力がそこに入り込んで、内側から破壊する。

 リボンは防御を張っていない面から、恐るべき勢いで削られている!

 これでは魔力が長く持たない!

 

「そしてそれこそ、まさに理想の展開と、そう言えるでしょう」


 白スーツに一点の汚れもつけず、彼はあてどなくそぞろ歩き。


「ダンジョンに触れるまで、あなたがほぼ無力化できるのですから」


 そう思わせて、けれどその足は、明確な目的を持っていた。

 

 いつの間にか、一団の進む先について、アインが主導し、決定権を握っていた。


「それでは、ご同行頂きましょう」


 通りの途中、車道の端に止めてあった車、その後部スライドドアが開き、4人は吸われるようにその中へ転がり込む!


「うわっ!?」

「なんだっ!」

「このっ!」


 座席の幾つかが撤去され、車内としては広い、とは言っても、明らかに制限された空間内で、進達3人はアインに組み付き一気に落とそうとして、


「おい!の言葉を聞けい!」


 彼らを見下ろす形で座っていた、キラキラしい装飾を身に着けた男が、野太い声でそれを咎めた。

 

 彼らの意識がリセットされ、その閉所が殺気と、圧倒的な魔力の気配で埋め潰されていると、遅ればせながら察知することとなり、全員が暫時ざんじその場に静止する。


 その間に、ワゴン車は何事もなく発進していた。


「余は“太子ピラミッド”!“環境保全キャプチャラーズ”の唯一神、“提婆キャメル”様の第一の配下にして、地上の王であーる!」


 進がバッと四方に視線と探知用の魔力を配る。

 

 運転席に一人。

 後部に居るのも、乗り込んだ4人を除けば、一人。

 どちらとも知らない気配。


 だが、このプレッシャーの濃さは、

 この重圧は……!

 

「こいつら…!」

如何いかにも。どちらも神託戦士、貴様達がill(イリーガル)と呼ぶ選ばれた高貴であーる!」

 

 ill(イリーガル)モンスターが、2体!


「不用意に動くべからず!畏れ、おののき、控えよクズども!矮小なカス人間ども!」


 進達が止まった隙に、アインが起き上がり、元から居た男の対面に座った。

 “環境保全キャプチャラーズ”とクリスティアが、手を取り合っている!


「どういう、ことですか!アインさん…!」

「高度に政治的な合意、とでも言えば格好がつきますが——」


 


——取引したんですよ

 



「あと……あと少しだ…!」


 黄金板を周囲に展開し、佑人を両腕で重そうに抱えた乗研は、六本木と共に狭い道を隠れ進む。


「もうじきに、明胤学園だ…!」


 あと通りの一つ二つを越えれば、砲塔に弾丸を届けられる!


「泣かないように、頑張れるかよ……?」

「う、うん…!ダイジョブ!」

「よおし、良い子だ……」

「きゃっ!」


 六本木の悲鳴に反射的に振り向くと、その足元から鳩が飛び立つところだった。

 

「ご、ごめーん……」

「ったく……」


 呆れたように目蓋を上げる力を緩めた乗研は、


「!身を守れ!」


 次の瞬間目を見開いて防御態勢を構える!

 六本木もミーアキャットのバリアを展開!


「な、なんなん……!?」

「黄金板が……!」


 今、幾つか破壊された!


 飛び立った鳩をよく見ると、腹が朱色の種類が数匹混じっている!


「あのポッポ野郎……!」


 だが、追撃が来ない!

 折角のチャンスに、何も起こらない!


「どういうこった……?」


 ここには鳩の罠だけで、彼らが通ったと“鳳凰トリッパー”に通知が行っただけなのだろうか?

 だとしたら急ぐべきだろう。


「行くぞ、鳩ポッポの本体に追い着かれる前に、多少目立っても——」




 ガツン、




 頭蓋骨の中で、耳鳴りがする。

 

 数秒、

 自分に向けてパクパクと口を開閉させる、六本木のその仕草が、呼び掛けているのだと分かるまで、数秒掛かった。


 音が、戻る。


「ノリパイ!しっかり!」

「今……のは……?」

「ワケワカざむらい!室外機が…!」


 横を見て、そこに落ちているファンを内蔵した直方体を認識し、上から落ちて来た物体に頭を打たれたと、ようやく理解した。


「は……?」


 しかし真上には、黄金板が展開されている。

 それは、どうやって彼にぶつかったのか?

 “鳳凰トリッパー”の魔法効果?にしては——


「魔力を、感じなかった……?」

「ただの事故っしょ!マジだる…!切り換えていこ…!」

「事故……?」


 事故、なのだろうか?

 事故で、良いのだろうか?

 

 違和感を抱えながらも、彼は表通りに出ようとして「危ない!」


 ガラスの破砕音に反応!

 後ろに飛び退いたその鼻先に、非常階段が落ちて来た!


 暴力的な金属音にひるみながらも、彼は背中でぶつかった六本木を振り返り、「おい、何か」尻餅しりもちをついた彼女が、体を支える為に出した手から、出血しているのが目に入ってしまう。


「お前、それ……!」

「は……?」


 六本木は自分の手を見下ろし、その流れで床まで視線に辿らせる。


「なにか……!」

「そんな……、ただ、ゲロほどガチで、ツイてないって……」


 彼女が倒れそうになった地面の上には、ガラスの破片が、鋭角えいかくを上にして立ち並んでいる。


「何か、おかしい……!」

「ははっ、ウケんね……こんな、事故……!」

「違え…!これは……!」

 

 トテトテと、小さな何かが走るような音。

 ガリガリと、近くで何かが削れている。

 二人はそちらを見上げ、蒼褪あおざめる。

 

「ヤバ、鬼ヤバ…!マジむりぽよ…!」

「こいつは、“攻撃”だ!」

 

 階段が落ちた時の衝撃から始まった連鎖で、巻き添えになってゆがんだ室外機のカバーが、限界まで折り曲げられ、遂に押し飛ばされた!


 それが数箇所で起こり、ファンが高速回転しながら飛来!


「ここはマズい!にげろおおおおおっ!」

「マジナシ!マジサイアクッ!っつかあーしのイヌアニキどこっ!?」


 通りの出口へ行こうと空中に敷いた黄金、その一つが、前触れもなく欠けた!

 乗研が落ちた先、階段の手すりが曲がった空間に、その胴がすっぽり入ってしまう!


「なんだとおおおおおおおおお!?」


 即時に動けなくなった彼へと目掛け、様々な刃物が殺到する様は、見えないあぎとが閉じるよう!


 巨大な喉の蠕動ぜんどうで、抵抗(むな)しく嚥下えんかされている獲物の気分!

 乗研はその中に居ながらにして、食道の奥の黒い闇に光る、爬虫類めいた両目を見た気がした。




「捕捉した」

「お、やったねー」


 丁都湾に面する、みどりあふれる公園で、“提婆キャメル”と“鳳凰トリッパー”は待っていた。

 彼女の手下が、“あれ”を連れて来るのを。

 

 その最中にも、“鳳凰トリッパー”の眷属は、事態の進捗しんちょくを完全に把握している。


「彼は、どう?ちゃーんと、ターゲットを()()()?」

「そのようだ。奴らは死に囲まれている」

「よーしよし、流石に良い仕事するねー」


 彼女が呼び寄せた、とっておき。

 「一番良い」、「封じ手」。

 或いは、きん


「それならもう、助からないね」


 “世界正義ミスター・ディターラント”に見られた者は、確実に葬られる。

 ill(イリーガル)さえ脱け出すのが困難な、絶対の呪い。


 敵の中で、その域に匹敵できるのは、チャンピオンか、カミザススムのみ。


 そのどちらも居ないなら、


 逃れられぬ死を、おごそかに拝領はいりょうするのみ。

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