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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十四章:リアルタイムで世界を変えろ

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2061/8/31 13:00~2061/8/31 14:00 part2

「クソ…おんなァッ!放せッ!」

「はな、しま、せん……!」


 フロントチョークで一人を押さえながら、分身を火の手で巻いて拘束する星宿。

 瀬史は、内丙構成員である服部環は、そこから脱しようと首を掴まれながらタックル。

 

 壁に背中から激突させるも、指先すらも緩んでくれない。


「この……!しつけえぞ…!だからモテねえんだよ……ッ!」

「それは…!おたがい、さまでしょう…ッ!」


 分身と入れ替わればいいのか?

 次の瞬間、彼女は紫の炎に全身を包み込まれる。

 燃えているのが、魔力で補修できる虚像の側だから、今は無事というだけだ。


 では分身を解除し、再生成?

 隙を突いての完全詠唱が、もう一度できるとは限らない!


「こンのぉ…!」


 だが「ムリでした」で諦められるほど、彼女の責任感は軽くはない!

 さっきから全身を破壊されては魔力で再生を繰り返している分身、その一部を準備室内の金属きんぞくだなのパーツに変形!


 ある程度の形を燃え残らせることで無理矢理に動かし、棚の脚部分で星宿を横からドく!

 

 側頭部と、横腹!

 遂に隙が出来た!


 再度壁に打ち付け、首を抜いた環は、星宿に向かって分身を蹴飛ばし、もつれ合いを尻目に出口へ!


 スマートフォンは壊されたが、まだ連絡の手段はある!

 

 が、壁一面が、石のようなもので埋められている!


「なっ!?はあっ!?」


 蹴りつけることで、それが魔法生成物らしいことまでは分かった。

 だが今の彼女が持っている打撃力では、星宿の炎と合わさったその補強を突破する術が、存在しない!


 振り返ると、他の壁も、床も、天井も!

 同じ石で、固められている!


「しま…っ!」

 

 そして、燃焼によって生じるガスが、徐々に室内を満たし始めていた。

 それを吸わないようにする方法もまた、どこにもなかった。

 環は完全に、袋小路ふくろこうじに閉じ込められていた!


 星宿の再びの攻勢から、逃れられない!



 

「本社は、なんて言ってきたんですー?」


 壁に手をつき、それを巻き込んで一部だけ変身している披嘴ひはしに、丸流まるるたずねた。

 三都葉的には、AS計画妨害は、セーフなのかと。


「本社のモットー、と言うより思想は、知ってるよね?」

「一人でダメでも、時間を越えて繋げればー、ってアレですかー?」

「可能なことは、必ず起こされる。“意思ミーム”を受け継ぐ生物である人間なら、いつか絶対に、そうなる。それが本社の考えだ」


 だからこそ、可能性はあるが、自分達に不都合な出来事を、なるべく先延ばしにするよう、工作をする。


「けれど、時にはどうしても、制御できない事柄がある」


 どんな手を尽くしてもコントロールできず、正面から利害がぶつかってしまう事象は、世の中に有り得るもの。


 それに対して三都葉がやるべきことは、ダメージコントロールである。

 三都葉瑠璃が、ill(イリーガル)以外の両勢力に、二股ふたまた賭けしたのと同じこと。


「本社はね、漏魔症の魔力操作能力発覚も、それだと考えてる」


 漏魔症は、世界中に存在する。

 それでも魔力を操る者が現れなかったから、彼らには不可能だと、起こり得ないことだと、そう考えられていた。


 あの少年が現れるまでは。


「漏魔症が魔力を操れない。それは、世界、歴史ぐるみの刷り込みによって醸成じょうせいされた、思い込み、暗示の結果だった。それが本社の結論だ」


 本人達すら、自分に能力があると、欠片かけらも信じられない環境。

 それが彼らを、魔学的な無能にした。


 最初に誰かが主張した思い込みが、時間という積み重ねによって厚みを増していき、質量を獲得するに到ってしまったのだ。


「カミザススムは、その思い込みを破壊する、トリガーとなった。今回の例は、彼と直接接触したことで覚醒した例だけどね。じきにもっと間接的な曝露ばくろで、『目覚める』例も出て来るだろう」


 漏魔症罹患者は、魔力を操れない。

 それを否定する実例が、呪いが解ける先触さきぶれとなる。


 ならば——


「ゆーと君をナイナイしても、いつか必ず、次が出てくる、ですか?」

「カミザススムは、全世界に知れ渡ってるからね。丹本国内の飼い馴らされた罹患者と違って、生死の境で戦う者達にだって、彼の名声は届いている」


 罹患者にとって、その名は希望だ。

 忘れさせることなどできない。

 世界のどこでかは分からないが、いずれ魔力を操る罹患者が、確実に現れる。


 そして三都葉は、それを押さえ込めない。

 丹本と、大陸の一部が、彼らの影響が及ぶ限界だ。

 それ以上は、カバーしようがない。


「だから三都葉は、『漏魔症罹患者の魔力操作能力証明』、これを既に確定した出来事と認定し、それを踏まえて動くことにした」


「なーるほどー。罹患者からのバックラッシュとかが来ても、『私達は味方しましたよー』、って言い張れる余地を残すんですねー」


 生き残る為に、少しでも不利にならない為に、他と比べて有利になる為に、三都葉は常に動き続ける。

 

 彼らはこれを、単なる危機とは考えない。

 世界の主要な高貴が没落してくれるなら、それもまた成り上がりのチャンスなのだから。


 波に乗る。

 それをこそ狙っている。


「披嘴君は、それでいーんですかー?」

「僕は本社の決定に従うだけだよ」

「えー?でもー」


 涼しい顔で言い切る彼に、丸流はニヤァァァと唇を歪める。


「なーんか、ノリノリって、感じしますけどー?」

「さあね。僕はただ——」


 揺さぶりに動じず、披嘴は石の壁を見上げ、


「僕のやりたいことと、本社のやらせたいことが、一致してたから、気が楽なだけさ」


 そう言って爽やかに笑うのだった。


「それで、そっちの首尾しゅびは?」

「じょーじょーでーす。吾妻さんが到着しましたし——」

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