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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十四章:リアルタイムで世界を変えろ

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2061/8/31 13:00~2061/8/31 14:00 part1

「一つ、教えて差し上げましょう」


 それは情か、駆け引きか。

 アインはご親切にも、自らの進捗状況を共有してきた。


「ついさっき僕は、ユウト・ササキらしき人物の位置をキャッチしました」

「………!」


 進が来たタイミングは、瀬戸際だったと彼は言う。

 あと数秒でも遅れたら、アインは佑人を追跡する為、この場をっていた、と。


「例の、ノリドさん、でしたか?彼の能力は、素晴らしい。僕の魔力でも、警戒されずに突破するのに、それなりの時間を要しましたから」


 自信満々に、縦の拍手で賞賛をしているのを見ると、「その問題はもう片付いている」、そう捉えていいだろう。

 乗研の能力対策も、既に終えた、ということか。


「丹本警察には、総理派から話が行っている、か?」

「あなたをこの場から、動かすわけにはいかない、ってわけですか」

「ご名答」

 

 人目のつく広い場所に居る今は、目撃の危険がある。

 だが、建物の裏のように、人が居ない場所に引っ込まれた瞬間、彼は魔力による肉体強化をフルに活用し、佑人を高速追尾するだろう。


 魔力センサーに探知されたとしても、警察は彼を追わない。

 ならば人から見られなければ、何をしても問題ない。


 アインを衆目の下から、逃がしてはならない。

 それはこの最高戦力を、自由にすることと同義。

 ここで足を止めさせる。


「さて、どうしましょうか?あなた方だって、あまり事を荒立てたくないでしょう?僕があなた方を、穏便に制圧できないと分かった時点で、警察なり、政府の特務機関なりが、駆けつけるのですから」


 この3人だけでは、今度こそ拘束される。

 ここで魔力や魔法をバリバリに使って、一般市民をパニックに陥らせ、政府側が対処せざるを得ない騒ぎにする。どちらにとっても、それは望ましくない。


「最低限で、静かにやるだけです」

「大人しくしていれば、あまり痛い思いをさせずに、終わらせてやる」

「強気ですね。いい強がりです。そういうの、結構好きですよ?」


 進とニークトが、アインを挟むように立った。

 彼の前に残った詠訵から、リボンがそれぞれに伸びている。


「ふむ、見事なものです。そうと意識しなければ、魔法生成物のようには見えない」

「鍛えてるんで」

「失礼する」

 

 ニークトの踏みつけるようなフロントローキック、それが開戦の狼煙のろしとなった。


「ぴ、ぃぃぃいいいいいい……っ!」


 法螺貝ほらがいの代わりに耳鳴りを連れた風が吹く。

 それが波を引き寄せ、上げた片脚をニークトの蹴り脚に巻き付けたアインの腹が——


「!」

「なんと、これはすごい」


 効かない……のではない。

 クッションのように受け止め、爆発力をがれた。


「僕でなければ、今のでチェックメイトでした」

「ぐ…!」


 進は自分の回路から出した魔力で瞬間的な肉体強化。


「ひょ、おおおぉぉぉぉぉぉ……っ!」


 両腕で上げたガードの上から突き刺さりよろめかせる、ウェーブを打つようなアインの左拳。


 魔学回路内での爆発は、緻密な体内魔力操作があれば対抗できる。


 微小に分けた魔力の動きを細かく操作し、意に反して押し出される勢いを段階的に広げて逃がし、緩やかに自分の意思通りの運動と合流させれば、実質的には余剰の魔力を貰ったのと変わらなくなる。


 高ランクディーパーでさえ視認できないほど極小の魔力を、一度に莫大な数を並行操作する能力、或いは技術。

 それを持っているアインには、その程度の不随意ふずいい爆発ばくはつ、通用しない!


「だけど、貰いました」


 ニークトの足と、進の腕から伸びたリボンが、瞬時にアインの手足をキャッチ。

 った!


 二人がほぼ同時に外側へと引っ張り、バランスを崩させようとする!


 アインは片足立ちで、左手を前に、右足を後ろに伸ばす、シンプルで美しいポーズ、アラベスクに移行。


 リボンが結ばれた左手首と右足首を、そこから自分の側に巻き取るように引き寄せ、進とニークトを前のめり姿勢へと崩し、両腕の肘でその顔面を突く。


 詠訵のリボンやエナジーシールドによるガードが青く火走ひばしり、進は倒れそうになりながらもリボンで相手の首を狙い、ニークトは袖の下から狼の爪を生やしてコンパクトなボディパンチを打つ。


 結ばれ、強く引かれる部分を支点にして、アインは全身を持ち上げ、どちらの攻撃もひらりとかわしながら、左足でニークトを蹴り上げる。


 そのまま足を回し、つんのめるように前に出た進の頭を、真上から踏みつける。


 同じ足をそのまま前に、爪先や踵が硬く加工された靴が、乙女の頬をバチバチとかすめる。

 

 少し上げてから右肩に沈むような打撃を叩き込んできたそれを、歯を食い縛りながら右手で掴む詠訵。

 リボンがもう一つ結ばれた。


 ランダムに、時には息を合わせ、複雑に掛かる3つの力。

 アインはそれらに絡め捕られることもなく、惚れ惚れするくらい乗りこなし、月の上でスキップするみたいに、軽々と戦闘を支配していた。

 

 3方向に引き裂かんとする力を、自由な右手でニークトを打ち、左手で進と踊りながら、上手に制御して両脚を組み、ハンモックの上のような優雅さで宙に寝転ぶ。


 ニークトの右足と詠訵が接触。

 そこで寝返りを打つみたいにアインが回転、進も含めた3人がリボンに絡めとられ、一つに纏められる。


 そしてなんとも絶望的なことに、当のアインはどうやったのか、全ての拘束から自由になっていた。


 詠訵がリボンを解除するより早く、彼は錐揉きりもみ回転しながら地面に着いて、両腕で立ちながら下半身を時計回りに一周。


 3人纏めて足を払われ、一番重いニークトを上にして倒れ込む。

 始めからそうやって作られていたかのような、滑らかな動作で立ち上がったアインは、そこで踏みつけ追撃、するかと思いきや、余裕を見せながら一礼を挟む。


 場を満たす万雷ばんらいの拍手やシャッター音!

 いつの間にか公園の一角が観客で満たされ、帽子の中が硬化や紙幣で一杯になっている!


 進達も慌てて起き上がり、さもパフォーマンスが終わったかのような顔をする。

 

「注目を集め過ぎましたね。場所を変えましょう」


 3人にだけ聞こえるように呟いたアインは、帽子を拾い上げ、中の金銭をどこかに移すこともなくかぶり直し、


「皆さん!本日はありがとうございました!いつの日か、またどこかで、お会いできる時が来ますように!」


 そしてまた帽子を手に取って、胸に当てながら礼をした。

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