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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十四章:リアルタイムで世界を変えろ

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2061/8/31 12:00~2061/8/31 13:00

「市街地に設置されたセンサーに掛かった、不審な魔力の反応は、これで全部です」

「この、ほぼ一定間隔で東進しているものは、これが吾妻漆か?」

「矢張り“徴崚抜湖トランスポーター”が本命でしょうか?」

「だが奴を捕まえるには、我の全力を投じる必要がある。『ハズレでした』となったら、その時点で敗北確定だ」

「ゴール地点を押さえるしかない!救世教会を決して自由にさせるな!」




「………うん、大丈夫そうだね」


 ミヨちゃんが周囲を見回し、人混みの中に怪しい人間が居ないことを確認。

 しれっと3人でそこに混ざる。

 

 先輩の綺麗な金髪は……まあ、今時色んな人種がいる丁都では、言うほど目立たないだろうと祈ることにした。


「ススム君に影響されて、魔力を殆ど漏らさず身体強化する練習してて、良かったぁ…!」

(((誰かに何か、言うべきことがありますよね?)))

「感謝している。しているから、それ以上近付くのはやめてくれ。怖気おぞけのせいで索敵に集中できない…!」


 見ての通り、俺、ニークト先輩、ミヨちゃんの、カンナが見える3人で組んだ。


 佑人君のことは気に掛かったから、本当なら自分の手で直接守りたかったけど、至近戦闘以外じゃお荷物だし、俺が混ざる集団は如何いかにも大本命っぽく見えちゃうから、泣く泣く他の人に預けることになった。


 ほぼ初対面みたいなメンツだし、怖がってないといいけれど。

 

「しばらくは、ちょくちょく魔力を出して追手をおびき寄せながら、このあたりをぐるぐるしよっか」

「俺達が長く逃げるだけ、佑人君の到達確率が上がるからね」

「せいぜい見苦しく遁走とんそうしてやるさ。負け犬みたいに」


 「それにしても」、ミヨちゃんは敵の捜索ついでに、人と車が河のように流れる大通りを見回した。


「なんか、人いっぱいだねー」

「そりゃ、夏休み最終日で、しかも日曜日だし」


 これが最後と全力で遊んだり、明日から仕事だと帰路に就いたりして、都市がごった返すのは分かりきってたことだ。


「うーん、それもそうなんだけど」


 彼女が喧騒を見る目は、どこか寂しげに見える。

 こんなに人が居るのに、ここには俺達3人だけ、みたいな。


「あんなことがあったのに、すっかり無かったことみたいだなー、って」

「ああ……」


 明胤学園付近は壊滅して、今も行方不明者の捜索や瓦礫の撤去がされている。

 だけど同じ丁都でも、この辺りまで離れてくると、みんなが惨禍を知らないみたいに過ごしている。


 大きなダンジョンが生まれたわけでもないからって、破壊を恐れず行き交っている。


「まあ、それだけ、あのテロに対処した人達の努力が、報われたってことで、いいんじゃあないかなあ……」

「それで終わらせて、本当にいいのかな……」


 良い事、なんだろう。

 みんなが普通を取り戻して、問題なく社会を回しているんだ。

 望ましい落ち着きだって、言っていいと思う。


 でも、テロリストとかがまた丁都を狙ったり、残党が潜伏していたり、そういうことを考えないんだろうか?


 総理が言っていたことを思い出す。

 この「行儀の良さ」は、社会を守る人達への信頼ではなく、ただ「大丈夫」だろうという漠然とした平和ボケだって。


 ダンジョンがポコポコ生まれて、地震や津波や台風という破壊に襲われ続けて、それでも現状が維持されてるから、そうなるのが当たり前なんだろうって、みんなが麻痺してる。


 見えないところにある、血のにじむような献身。

 それを「無いもの」として考えるから、そのままの社会を守るのが楽だなんて、勘違いが広がってしまう。


 だからと言って、パニックになって欲しいわけじゃないし、じゃあどうすれば満足なのかと聞かれると、ちょっと困ってしまうのは確かだ。


 言えることは、このモヤモヤを抱えた人達が、特に真面目な人達ほど、ある日ポッキリ折れるか、爆発してしまうんじゃないか、という恐れくらい。

 

 でも、そうやって色々考えられて、自分の中だけに籠らない視点の持ち主じゃないと、小さな報酬だけで、高度な技術を使って、人知れず支える役なんて、やりたがらない。やってくれない。


 いやな逆説だ。

 世の中を平和にするには、社会全体に奉仕できる、真面目な人が必要だ。

 そしてそういう人ほど、社会からナメられ、軽んじられがちなのだ。


 「無関心」という、人間が生きる為に持っている機能について、その副作用を目の前に見せつけられたような気分だった。


 湿度と人いきれとで蒸し暑い中、ここに居る人の中でどれだけが、「生きる」ってことを考えてるのか、そんなことを思っていたら、頭がグラグラと……


「ススム君?」

「おい、そいつ普通に暑さにやられてるぞ」

「あー……」


 真面目な話をしてると思ったらこれである。もう9月だってのに、太陽が元気過ぎるのがいけない。


 自販機でスポーツドリンクを買ってから、日陰となる路地裏で一休みする。

 額にボトルを当てて冷やしていると、首の後ろがムズムズして、蚊でも止まったかと手で叩き——

 

「!?」

「どうしたカミザ」

「様子がヘンだよ?」

「い、いまっ!いまのは……っ!?」

 

 もう感じない。

 触れてない。

 でも、今のは、確かに…!


「ぴ、ぃぃぃいいいいいい……っ!」

「おい何をしている…!?」


 魔力センサーに引っ掛かりやすくなるのを承知で、俺は鋭く息を吸う。

 

「ひょ、おおおぉぉぉぉぉぉ……っ!」


 今は俺の魔力が、

 広い感知範囲が欲しい!


 そしてすぐに、引っ掛かった!


「やっぱり……!」

「どうしたの?」

「魔力だ!飛ばされてる!」

「なにっ?」


 二人は路地の奥と人の流れへ交互に顔を向け、目を皿のようにして探していたが、


「な、何も無いよ……?」

「俺の鼻でも、異常は嗅ぎ取れないぞ…?」


 検知できない。

 そりゃそうだ。

 俺だって、さっきまで気付かなかった。


「取り敢えず、信じてください。確かに、魔力が飛んでるんです」

「まあ、ススム君が言うなら、そうなんだろうけど……」

「それも……」

「まだあるのか?」

「塊が一つか二つ、とかいうレベルじゃないんです」


 歩道を、もしかしたら車道に至るまで、幾筋も並んだ魔力循環が通っている!


 こんな広範囲を感覚で捉えながら、誰にもまるで気付かせていない!


 これは……、俺が受ける側になるなんて、思わなかったけど……!


「不可視の魔力……!」


 俺と同じように、気配が稀薄で観測困難な力!


「たぶんこれで、捜してるんです…!この街の全域を…!」

「バカな……!?どれだけの範囲になると…っ!」

「たぶん、魔力の単位の一個一個が、極小なんです……!俺がいつも使ってる魔力より、更に…!それだけエネルギーも掛からないから、こんなに広くをカバーできる…!」


 そして、小さ過ぎるから、俺達の感覚をすり抜ける!


「これ、このままだと、佑人君が見つかります!」

「或いはもう見つけているかもしれないな…!」


 先輩は鼻を鳴らし、まだ怪しい影が近づいていないと判断してから、俺に問う。


「追えるか……?」


 この魔力の発信源を、逆探知する!

 この使い手は、かなりの手練れだ。

 佑人君に辿り着かせちゃいけない!


「向こうからも、追い掛けてるのがバレバレになるでしょうけど」

「それでいい。釘を打ってでも足を止めさせるぞ」

 



「ん?どうしましたか?そんなに慌てて」


 どこか騒がしい生徒達を見かけた瀬史は、いぶかしんで声を掛けた。


 明胤学園も、避難所としての役を全うしつつあり、徐々に生徒へも開放されていっている。

 例年の夏休みに見られるような、たゆまぬ切磋琢磨せっさたくまが、また学園敷地内に復元され始めていた。


 そうやって日常を取り戻そうという、痛ましい努力かもしれないが。


 だからその、どこか非日常的な空気のざわつきに、彼女は敏感に反応した。

 そんな雰囲気を、緊急時に動くような慌ただしさを、今の彼らが望んでかもしたがるとは、思えなかったのだ。


 平穏を崩すなんて、一番考えたくない時期の筈。

 

「教頭先生っ!」

「すいません!いや、なんでもないですっ!」

「ちょっと面白いことやってる部があるって聞いて、見に行ってみようって思っただけでっ!」


 矢張り、不自然さがあった。

 落ち着かなさがあった。


 これ以上ボロを出したくないかのように、会話もそこそこに切り上げて、彼らは走り去ってしまう。


 隠し事。

 夏休み中、学園内に来ていながら、教師にバレるのを恐れる?

 それも、よく見たら生徒の流れが、全体で同じ方へ向いているようで——


 胸騒ぎを覚えた彼女は、スマートフォンを取り出しながら、人目を避けて生物準備室に入り、


「教頭先生?」


 その背中にぴったり付くようにして、星宿が一緒に入っていた。


「この部屋に、どういったご用件で?」

「いえ……、ただちょっと、電話を……」

「電話なら、外の方が、電波が良く通りますよ?」

「人に聞かれたくない話でして……」

「なるほど」


 彼女は右手を差し出して、一歩近づいてくる。


「一応、番号を確認させてください」

「………何故…?」

「こう見えても、臨時“理事長室バックランク”ですから。機密漏洩などの危険には、気を立てておかなくてはいけないと、そう思ってまして」


 汗一つかず、瀬史は首を振る。


「私は正式な“理事長室バックランク”ですよ……?神経質になり過ぎです。これは極めて私的な内容になりますから」「でも先生、いつもプライベートで使ってる端末、それじゃあないですよね?」


 星宿もまた、威圧など感じさせない笑顔で、平然としている。


「飲み会の時とかに、見せてくれたじゃないですか」

「機種変更、したんですよ、最近……」

「傷だらけの、古い機種に……?」


 二人分の沈黙が、重く足元に溜まっていく中、


 教頭は連絡先をタップしようとして星宿の両手で指を掴まれる!




「やはり、あなたはここに、僕のところに来ましたね……」


 彼は口の中だけで、決然と呟いた。


「敵として、相見あいまみえるさだめ、ですか」


 駅前公園で、自分の前にシルクハットを逆さに置いて、ストリートパフォーマーの顔をする男。

 

 見えない糸を手繰たぐり、人形を操演するように、その指をなめらかにウェーブさせていく。


 指の間に挟んだコインを、ペラペラと回して体中を這わせる、古典的な見世物。

 当然それで客足が向く筈もなく、格好を物珍しく見られながらも、誰もが足を止めずに通り過ぎる。


 だがそこに、3人連れの一行が来て、彼の正面に並んで立った。


「アインさん……、どうして……」


 少年の一人は、そのパフォーマーと、顔見知りであるようだった。

 アインと呼ばれた男は、右手をくるりと胸の前に、左手を斜めに、左足を右足の後ろに交差させ、


 華麗なレヴェランス。


「改めまして、こんにちは。僕は、“確孤止爾アトモス・スフィア”、アイン=ソフ・シュタイン」


 その二つ名を聞いて、ピンと張った空気には、明らかな乱れが生まれていた。


「うそ……!?」

「アトモス……!なぜ、そんなヤツが、ここに……!?」

「アイン、さんが、“世界一位”……!?」

 

 それはクリスティアの秘密兵器であり、最終手段。

 どんな敵でも確実に破壊する、抑止力の一角。


「僕を止めると、言うのなら……」

 

 それがここに来た、その事実が、の国が止まれなくなっている現状を、如実にょじつに表してしまっていた。


「喜んで、お相手致しましょう。“日進月歩ノン・フイト・ウナ・ディエ”、カミザススム」


 


 その頃、吾妻漆は一足先に、ゴールに着いていた。

 

 多くの者の予想通り、彼女が最速だった。


 だからこそ彼女は、佑人ではなく天王寺を連れているのだ。


 佑人を連れて来れば、この場所に舞台を構築しようという動きを、完全に敵に晒してしまう。そうやって早期に勘付かれると、準備段階で妨害されてしまい、佑人がここに着いても、発信が出来なくなってしまう。


 だからまず、彼女が現地入りすることで、今いるここがゴールだと知られる前に、スタンバイを完了させるのだ。


 撃ち出す砲門を作りながら、


 世界にぶちかます弾丸を待つ!

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