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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十四章:リアルタイムで世界を変えろ

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2061/8/31 11:00~2061/8/31 12:00 part1

辺獄現界アマゾニン・ダンジョン


 無音の中でそれが聞こえたのは、鼓膜ではなく、全身を揺さぶる振動として、それが伝わってきたからだ。


 その爆発が持つ、とんでもないエネルギーから飛び散った、副次的な現象。

 その一つが、音だ。


 その力が変換された、振幅運動だ。


 それが肉を叩き、骨を伝って、「その名前」を届けたのだろう。




                 〈回天楽ローリン・フォーリン




 地平がいっぺんに塗り替えられ、低木と赤土の大地が現れる。

 中東風の、角ばった石造りの住居が並び、熱砂ねっさを含む風が過ぎる。


 そしてその中央に、何本も尖った突起を生やす、真っ黒な岩が鎮座している。


「……って言うか、みんなは…!?」


 そう言ってから、俺は自分がリボンに守られていることにやっと気づいた。

 青と黒の、防御が硬い方の能力で、近くに居た全員がガードされていた。


「ススムくん!」

 

 リボンの一つで天王寺さんを掴んだミヨちゃんが、建物の一つから飛び出してくる。

 

「みんな、無事!?」

「助かったよヨミっちゃん!」

「何が起こったの……!?」


 彼女がリボンの色を切り替え、耳から血を流している八守君の治療をしていると、


「カチコミかよ!」

「何をやってきやがった!?」


 吾妻さんと乗研先輩、


〈爆発が!確かに爆発でしたぞ!〉

「なんてことしやがるんだ!」


 加えて変身したガネッシュさんが、佑人君を抱え上げながら、六波羅さんと共に合流。

 

「爆発って言ったかオッサン!?」

〈咄嗟に魔具で防御致しました!〉

「私も!ニークト先輩からの連絡で、嫌な感じがして、一応備えてたんですけど…!」

「この分じゃあ使用人は全滅だな!」


 ルカイオス邸を爆撃したって言うのか…!?

 丹本政府が!?

 そこまで手段を選ばないでやって来るのかよ!?


「待て。よく考えろ。これがダンジョンなら、襲撃したのはill(イリーガル)だ」


 自宅を吹っ飛ばされたばかりのニークト先輩が、最も冷静で大局的な視点を持ち込む。


「丹本国ではなく、掌握出来ずに独自に動いていたill(イリーガル)の暴走だと、そう言い張るなら筋が通せる!」

「なるほど!大人って汚いですね!」

「で、じゃあこのダンジョンの管理者はどこですか!?」


 六波羅さんのその問いの答えは、さっきからビンビンに感じ取れてしまっている。


「あれです!」


 指を差した先は、世界自然遺産とかに認定されて、名所になっていそうな巨大岩石。

 人の作る建物なんて、かわいいものだと見下ろす脅威。


「あそこに居るんですか!」

「『あそこ』じゃなくて、『あれ』がそうです!」

「……あー、理解した、理解しちゃったぜ、俺は」


 ごうん、ごおうんと、

 岩の中で巨人が身じろぐような音が、大地の隅々まで響き渡っていく。


 あの中に、有機的な構造がある。

 魔学的な回路がある。


 あの岩が、生きている!


〈学者ですから、こちらに『割れ物』が無い状態であるなら、ダンジョンへの招待も大歓迎なのですがなあ!〉

「ガキを『モノ』扱いしてんじゃねえよ。で、どうする?」

「ゆっくり時間を掛けて敵を観察して、って言いたいところですけど……!」


 そうは言ってられない理由がある。

 こうしている間にも、外では時間が経過しているからだ。


「最後に見た時、警察は撤退していた。爆発に巻き込まれない為だろうな」

「どれだけ遠くまで逃げて、戻って来て待ち伏せ態勢を整えるのに、どれくらい掛かるか、そこが鍵ですね……!」


 あの大岩との戦いを少しでも早く切り上げて、準備が十分でないうちにあっちに戻り、逃げ出さないといけない!

 時間制限付きのill(イリーガル)戦!


「簡単じゃない!スパッとバッサリあれを殺して、最速でここから出ればいいのよ!」


 今回ばかりは、トロワ先輩の案で行くしかないみたいだ。

 時には脳筋が最適解となる。


「訅和と八守は佑人少年とプリム、天王寺を守れ!ガネッシュ様もお願いします!他全員であれを倒す!」


〈宜しいですぞ!〉

「おっけー!」

「ここは任されたッス!」

「“親愛なる食卓にてシルバー・ニアー・ファミリアー”!フィーリングでくばっから!取り敢えずヨミチにヤギとパンダをパス!」


 ミヨちゃんのリボンと繋がっている人間同士なら、意思疎通が容易。

 だから人形無線機を彼女に持たせるだけで、数人をカバーできるのだ。


 俺とニークト先輩、トロワ先輩、六波羅さんが、ミヨちゃんと一緒の主力となり、乗研先輩と吾妻さんがペアで遊撃部隊となる。


〈ロッポンギ様!出来れば私に視力強化の人形をお渡し頂ければ幸いですぞ!学者ですからな!〉

「どぞ!アルパカです!」


 俺達4人に簡易詠唱のリボンが巻き付き、乗研先輩と吾妻さんはイヌとライオンを受け取った。


 準備はこの辺にする!


「行くぞ!」

「はい!」


 ニークト先輩の号令を合図に、一斉にスタート!

 それぞれが詠唱をしながら、古い町並みを跳び渡る!

 

「!……魔力が…っ!」

「ああ!今のはオレサマも感じた!」

「何か来ますよっ!」


 岩の内からまた、広い鍾乳洞内の反響のような音が、ごおん、ごおうんと、俺達のところまで漂ってくる。


 それは、巨獣の唸り声であり、低く唱える言葉の列でもあった。


〈“太陽系第零原初天体群トール・エル・ハマム”……〉


「詠唱…!」

「何が来ようと受けて立つわよ!」


〈「転がる石は、犬に当たる」………〉


 ローカルの宣言。

 と同時に、圧迫感が下りて来た。


『上から!バリバリに降ってる!』

『火球……?いいえ、恐らく質量を持っておりますぞ!』

 

「こん!こぉおおおんっ!」


 リボンの防御が厚くなり、ニークト先輩がミーアキャット人形で壁を展開!

 空の一点が光った、かと思ったらそれが千々(ちぢ)に拡散していく!


 蜘蛛の巣状に広がるそれらは、一つ一つがそれなりに大きい物体!

 全てが燃え盛る炎舞を纏い、カラッと青いキャンバスに赤色の集中戦を描き出す!


〈名前は……“天網キャノン”……〉


 なるほど、確かにそれは、「網」だった。

 俺達が抜ける隙間が、ごく限られた、密集陣形。


「来るぞおおおおお!!」


 岩石群が連鎖敵に重加速飛来!

 一つ一つが俺達の体よりデカいそれらが、火の手を繋いで押し潰しに掛かる!


OVERCOME(克ってやる)!!」


 魔力爆破!

 炎上流星群の隙間を無理に開けさせ、そこに全員で嵌まろうと「!?」


 軌道が、もう一度変わった!

 修正された、と言ってもいい!

 俺達へと落ちてくる!


「くぅううおおおおおおっ!!」

「うわあああああっ!!」


 速度が乗った質量を必死に殴って逸らす!


 だがその次が、

 そしてそのまた次が、

 何層もの順番待ちが折り重なっている!


 最初の一つに手間取り過ぎた俺達は、3層目あたりで命中コースに躍り出てしまう!


「なんなの!こいつらっ!」


 そこに竜胆色の連撃!

 まったくズレずに同じ一点を攻撃し続け、隕石を割った!


「この前の“千総フュージリアー”みたいに、また誘導弾!?」

「いや、と言うより、最初の軌道に出来るだけ戻るような動き方をしているっ!」

『一旦!一旦退()こっ!作戦考えるのがよきっ!』


 六本木さんの言う通りだと、俺達は早くも灼熱となっている大気の中で、背後に『えっ、ちょ、まって』『皆さん!そっちは違いますぞ!』


「え?」


 振り返る。

 熱でオレンジ色に歪む視界の先に、白っぽくかくついた形状が見える。

 あれは、建物が、上から見えて……?


「これっ…、俺達…!?」

『下りてますぞ!そちらは下です!!』

「なに!なんなの!?」


 俺達は全速力で、地面に向かっている!

 だけど感覚として、水平方向は乱れていない!


「どうなってんのこれ!?」

「なんか、なんかヘンだよっ!」

「チィィィィっ!」


 ニークト先輩が小さな狼を一匹投げる!

 真下に落ちる筈のそれは、大きく曲がって地面と平行にすっ飛んでいく!


「見ろ!あの岩だ!」


 中央の大岩に、全ての隕石が吸い込まれていく!

 そいつはそれらを取り込み、ぐんぐんと成長し、巨大さを増している!


「オレサマ達も、あっちに引っ張られている……!オレサマ達は、足からあの岩に、()()()()()…!」


 こ、これは…!

 こんな、力が…!?


『重力だ!何をどうやってんのか知らねえが、奴の方へ重力が発生してやがる!』


 乗研先輩の肯定によって、いよいよ冗談ではなくなった!

 全ての隕石も、俺達も、みんなあの岩目掛けて落ちている!

 だから軌道を変えるのが困難で、避けたり逃げたりする動作も上手くいかない!


「弾きます!弾きますが!」


 六波羅さんのビートを、全員の能力強化と振動による防壁として総動員!

 だが攻勢に転じられない!

 物量が、物量が違い過ぎる!


『重力とは、時間の流れの差異によって発生すると、そういう話がございますぞ…!』


 人形から聞こえるガネッシュさんの声!


『質量とは「加速しにくくする力」!質量が大きいほど、その質量の影響を強く受けるほど、物体は動きにくい!そしてその動きにくさは、時間という方向でも同じこと!


 物の上端と下端で、質量を、引力を強く受けるのは、当然下端です。そうすると、双方に時間が流れる早さの差が生まれてしまう!重力レンズで見られるような時空の歪み!


 同時に進んでも、時間が遅い下端側が短い距離しか進めず、上端が進み過ぎてつまずくように前へと倒れる!それが“下へと引く力”となる!』


『ってことはアレか!?奴は時間を操ってるってことか!?』

『まー、この前も「減速」つって似たよーなことやってたヤツは居たがよっ!』


『少なくとも、質量の増大がキーになっていることは、ほとんど間違いありませんぞ!』


「遠い宇宙から石を引っ張ってくる、重力の神秘という物語……いや、それともっ!」

 

 左腕の表皮を焼かれながら剥がされ、すぐにリボンで治療されながらも、六波羅さんは考察を打ち切らない!


「隕石で命を落とすのは、かなりの低確率だと言います…!その、まるで引き寄せてしまったかのような不運…!それを発現させているとするなら…!」


「何にしろ、オレサマ達がここから出るには、“上”に昇るしかないっ!」

「ダメです!今の私の反発力だけじゃ、これ以上は浮けません!」

「しかも、これ、段々強くなってます!」


 岩が大きくなったことで「質量がデカくなる判定」が引き起こされ、時間の遅延も大きくなっている!

 俺達は、ここから抜け出ることすら、ほぼ不可能に近くなっている!

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