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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十四章:リアルタイムで世界を変えろ

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2061/8/31 04:00~2061/8/31 05:00

『現在も天観山付近には非常線がかれており——』


「猫の子一匹通さぬ包囲、か」


 ニュースの映像の中で、黒く盛り上がる物体の周囲に、ビカビカと赤や白の光が明滅するのを見ながら、三枝は眉間を指で揉む。


 その明かりの多さ、厚さこそ、厳重さ、不可避を示す輝き。

 空にまで及ぶそれらを、特作はもうスムーズに排除できない。


 流石に戦力格差が大き過ぎる上に、例の如く考えなしに映す報道も、餌を求めて殺到している。どう行動を起こそうとも、派手な演出にならざるを得ない。


 これだけの備えを用意して、負け筋という負け筋を潰して、どっしりと構えて追い詰めている。

 それでも安心出来ないのは、彼の慎重さ故か、あの少年の特異さのせいか。


 いや、今回あの少年は、ダンジョンの外を走るしかない。

 彼はそこまで大きな魔素に、触れられない。


 “環境保全キャプチャラーズ”にも、万が一の予備策として声を掛けたが、不用意に近づくなと厳命してある。彼らが戦おうとすると、その大規模な魔素の影響で、少年が魔力を、戦うすべを手に入れるからだ。


 対日魅在進には、ただの人間を使うのがベスト。

 シンプルな人海戦術で、全方位から圧迫する。

 その上でill(イリーガル)という、最終手段を握っている。


 段階を踏んで、そこまで頭でなぞっても、三枝の心に平穏はない。

 日が出て、彼らが捕まるまで、あと最低1時間。

 それが終わるまで、休まらないのだろう。


『総理、お呼びでしょうか?』


 だから彼は、もう一つだけ。

 99%を、99.9%にする一手、あともう一手を、打つことにした。


「壌弌君。君は、彼らの最終目的地、目的地に心当たりはないかね?」

『……どこに逃げるか、ですか』

 

 スタートだけではなく、ゴールも押さえる。

 「囲い」を二重にすることで、両面から挟み込むのだ。


「逃げるか……いや、こう考えてくれ。『彼らが勝つ為に、どこに行けばいいのか』」


 銀の弾丸があれば、怪物を殺せるというわけでもない。

 人外の隙を突いてそれを当てる、それが可能な舞台設定が必要となる。


『勝つ為に……』


 公的にはおたずね者となった彼らにとって、大部分の候補は論外となる。

 わざわざ国と敵対したがる者は、そう多くない。

 敵対できる者もまた、まれである。


 その理由が、漏魔症罹患者の権利の為ともなれば、余計に救いの手は出さない。

 片手の指を使い切れたら、奇跡だろう。


『奴らを受け入れるくらいには、丹本国政府と対等、或いは切れていて、受け入れるくらいには、漏魔症に敵対しておらず、魔力操作を証明できるほどの、設備や社会的信頼がある場所、となると………』


 有力候補として、一つ。


『総理。救世主教会の代表は、既に何度も対象と接触しています』

「救世教会か。なる」


 その推理は筋が通る。

 彼らは漏魔症罹患者の救済へとかじを切りつつあり、AS計画をどのように切り崩すか、その切り口を探していたところだった。


 仨々木佑人は、その偶像として完璧に近い。


 「未知数の可能性を持つ次世代」、というイメージまで自前で持っているのだから、宗教家の手に渡したが最後、今世紀最高のパフォーマンスが披露されることだろう。


「確か、教会の有力者が来日していたね?」

『例の天使の傀儡かいらいが、近頃は丁都に常駐じょうちゅうしています』

「少なくとも今から12時間は足止めする。丁都近辺の教会関係施設も全て押さえてくれ。決して逃げ込ませるな」

うけたまわりました』


 三枝はすぐに外相へと掛ける。


「三枝だ。現在丹本に居る救世主教会の上位階級者に、アポイントメントを取り付けてくれ。そうだ。全員。君が会うんだ。彼らが自由に動いたり、要注意人物を信徒として迎え入れたりしないように。うん。宗教を、しかも他国のそれを盾にされると、身柄確保に踏み込む際に小さくない問題になるから、そうなる前に——」




「ふぁああああ………ねむ………、山になんか逃げてんじゃねえよ………」

「先輩。いくら何でも、このパトカー(PC)の数は過剰じゃないですか?」

「それだけ注目されてる事件だってことだろ?『丹本警察に威信に懸けて、人質を無傷で奪還しろ』、って通達も上から来てるしな」


「乗研先輩!やっぱり私も行きます!」

「定員を考えろ詠訵!これは二人乗りで、最低でも後から3人乗り込む予定なんだぞ!」

「さて、一人で公道を走らせんのは初めてだが……、やれるか……?」


「うーん?あー、まー、いーんだよ、別に」




 一周が開け、背後に丘が、眼前に住宅の密集が一望できる公園。


 金色ビキニ姿の女が、ベンチの一つに寝転んで、麦わら帽子を顔に被せる。


「確かにさあ、ソーイチロー君が、失敗するかもしれないって、可能性はあるけどねえ」


 その傍に立つ、三角帽子の旅装姿。

 彼は光の海を遠くに見ながら、いつでも駆け付けられるよう待機している。

 

 一方、女の態度は不真面目だ。

 このまま二度寝も視野に入れている。

 

「こっちはもう、あのガキんちょ殺すのに、一番良いの、呼んでるからねえ」


 今度もまた、手下にも、同盟相手にも言わず、彼女はふうを提示し終えている。

 後は、駒が着くのを待つだけだ。


「それに、何かあった時、行くのはきみの方がいいと思うよぉ?わたしはほら、強過ぎるから、“彼女”が設定してる閾値いきち、超えちゃうからさ」


 この戦いにおいて、その女の出番はまず来ないだろう。


 任された役目は、飽くまでill(イリーガル)側の指揮者。

 

 ただ使い、命じ、結果を待つ。


 一度行動を決めたなら、後は退屈な待ち時間。


 食っていようが寝ていようが、変わりはないのである。


 そして、対局の再開は、刻一刻と迫っていた。


 東の空が明らんでいく。


 低い建物ばかりの街並みは、輝く地平線を背負い始めた。

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