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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十四章:リアルタイムで世界を変えろ

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2061/8/31 03:00~2061/8/31 04:00 part2

「9年前の10月10日」

 

 壁に寄り掛かっていた乗研が、出し抜けに口を開いた。


「あの永級窟害の日、お前はあそこに居たのか」

「ど……っ、どうして、そう、思うのですかねぇ……?」

「ほらよ」


 彼が指ではじいて飛ばしたのは、黄金板の欠片。

 それがテーブルの上で跳ねて、天王寺の前で止まる。


 そこには、彼の肩を叩く二人が、日魅在進・衛兄弟の幻姿げんしが映っていた。


「……!これ、は……!?」

「それがお前の“望み”だ。罪悪感からの解放、ってところか?」


 それは彼が、「許されている」場面だ。


「思えばあの頃、俺達が調べてたのはそれだった。NPOって、良いモンの仮面を被った偽善。心ある団体の足を引っ張って、慈善事業ってカテゴリを腐らせるクソ愚行」


 吾妻、乗研、紋汰の3人。

 当時、彼らが目を付けていた悪。


「あれで遠山が動いたとすると、悪事の規模と反応の過敏さが釣り合ってねえからよ。じゃあ別件かと、今の今までそう思ってたんだがな」


 漏魔症の運動を安全な枠内で制御する為、丹本政府が設けたパーツである、天王寺とその団体。

 それを、世界に漏魔症のパラダイムシフトを起こすことに、そっくり利用する。


 諸国家諸勢力の思惑の絡み合い。

 そこまでの話に触れてしまったと言うなら、対処の速さや乱暴さにも説明がつく。


 遠山の御主人である三都葉家は、クリスティアから利益供与を受けていたのか、それとも詳細を知らないままに、間接的な処理役として利用されたのか。


「帳簿データを我々に提供した人間は、日魅在進の周りに眠る不祥事を探していた」


 天王寺の隣に立つニークトが話を繋ぐ。

 

「そして、奴の兄である日魅在衛が所属していた“ドント・シュリンク・アローン”、そのキナ臭さを感じ、更に漏魔症擁護の中心であるあなたが、それに関わっているところまで突き止めた」


 漏魔症全体のイメージと共に、日魅在進を一発で失脚させることも可能な、最強の一手。

 けれど彼女は、そこに何か良からぬ気配を感じ、それ以上は踏み込まずにデータを塩漬けにした。


「大した嗅覚だ。少なくとも学生時代の俺よか賢い」

「あなたは当時、日魅在衛と面識があった。例えば彼が、自身が所属する団体に、海の向こうとグルになった不正の気配を見て、それをあなたに相談したとしたら、どうなるだろうか?」

 

 天王寺はその場は誤魔化し、上の人間に指示を仰ぐ。

 この場合の「上」とは、丹本政府ではなくクリスティア外資だ。

 でなければ、もう少し穏当な手段が取られた筈だから。


 そして聞かせられた決定に、彼は唯々諾々(いいだくだく)と従った。


「あの日、理由は忘れたが、俺達はあの街にいた。一方その頃、日魅在の家族も同じ地域まで来ていた。偶然だ。偶然だったが、テメエらからどう見えるかは、別だ」


 ぎ回っている要注意人物達が、疑問を抱いた関係者から情報を引き出そうとしている、そう映ったのだろう。


 妨害するべく何人かが送り込まれ、そこで丹本史上最大規模の窟害が発生した。


「デカい災害に乗じて殺しちまえばいい。モンスターが死体処理まで全部やってくれる。現場の暴走か上層部からイカれちまったのか知らねえが、ライブ感でそういう話になったんじゃねえか?」


 乗研達のもとには、遠山が、よく見知った教師がやって来た。

 同じように、潜行者である日魅在衛をスムーズに騙し討つ為、刺客とセットで天王寺が会いに行くのも、有り得ることではないか?


「それで、意識がねえ末っ子以外、一家惨殺かよ。なるほど、『仕方ない』ことだな?おい」

「違う!違いますぅ!私が彼と会った時、ご両親は既に亡くなっていた!彼の手で殺されていたのです!」


「はあ?言ってること大ヤバなんだけど、おっさん。デタラメ言うのやめれる?っ倒そっか?」

「本当なんですぅ!ご両親が、モンスターになったってぇ……!」


 室内の時間が、凍り付いた。


 進の両親は、重度漏魔症を発症、異形化していた。

 進の魔学回路が、罹患者の中でも複雑化が酷い方だったことも考えると、窟害発生当時、彼ら家族はちょうど異形化ライン上に居たと、そう推測できる。


 衛は両親の成れ果てを殺し、進を背負って逃げていたのだ。


「それにっ!それに衛君を殺したのは私ではありませんっ!私を監視する役でもあった、桑方が、クリスティアの巨大資本の手先が……!」

「そいつがガキを殺すのを、黙って見てたってわけか」

「いやっ、当時は桑方も、それなりに若くて、年齢にそれほどの差があったわけでは……」

「あ?」

「ヒィッ!?」


 組んでいた腕を解いて一歩前に出る乗研の剣幕に、天王寺は椅子から転げ落ちながら必死に釈明する。


「で、ですが私はっ!私は彼を殺したくなかったんですぅ!本当です!その証拠にほら、進君は助かってるじゃあないですかぁっ!彼は殺さなくてもいいだろうって説得して、避難所まで抱いて運んだのは、この私ですっ!私の良心こそがっ!彼を救ったんですぅ……!」


 腰の下が上手く動かず、ずりずりと這うように乗研から離れ、ニークトの足にすがりつく。

 

「私が彼の、本当の命の恩人なんですっ!私に理性があったから、だから彼は成功して、今まで幸せに生きていたっ!考えることをやめた他の罹患者とは違うっ!私は、人の為を思える人間ですぅっ!」


 言葉もないとはこのことだった。

 トクシメンバーそれぞれ、眩暈めまいを起こしたかのように苦しげな顔を見合わせた。

 

「何を、どの口で、何を勝手なこと——」


 我慢の限界を超え、今まさにぶん殴ってやろうと詰め寄りかけていた訅和を、詠訵が腕を掴んで制止。


 それから床でおいおい泣いている天王寺の前にしゃがみ込み、子どもにそうするように視線の高さを合わせる。


 「怯えなくてもいいんだよ?」、そう言い聞かせる。


「分かりますよ、天王寺さん。大変だったんですね」

「わ、わかって、くれますか……?」

「あなたは何も、選んでいない。選べなかった、そうですね?」

「そうなんです…!選べてさえいたら、こんな、こんなおぞましいこと、私はやりたくなんて」




「だったら協力してくれますよね?」




 奈落から引き上げて貰ったら、そこは刑場だった。


「え………」

「今、あなたの前には、選択肢があります。あなたの力で、変えられるものがあるんです」


 漏魔症の魔力操作、その2例目。

 世界観を転覆てんぷく出来る一手。


「漏魔症の人権が奪われることに、正当性が無いっていう証明です。分かりますか?あの人達を、人とは別のものとして扱うのは、少なくとも理屈上は間違いなんです」

「ま、ちがい……」

「そしてあなたは、それを正す助けになれる場所にいます。人権剝奪の前に、間違った認識を訂正して、取り返しのつかない過ちを止められる、その最後の地点にいるんです」


 彼はそこで初めて、当事者意識に目覚めたようだった。

 盤上の駒から、指し手(プレイヤー)に成った。

 

「これを逃したら、もうチャンスがないんです。あなたも含めて、今の人達の罪として、ずぅぅぅぅっと、歴史に刻まれちゃうんです」

 

 天王寺が行動しなかったせいで、

 存在した選択肢を見送ったせいで、


 二度と消せない「間違い」が生まれる。


 今回は、天王寺が自由意志で間違ったのだと、そのそしりは免れない。

 彼はもう、漏魔症が魔力を操れると、知ってしまった。


 誰がなんと言おうと彼自身が、漏魔症の人権喪失、罹患者とそれ以外の論理的区別、それに理がないと理解してしまっていた。


 彼は罪から逃れられない。

 自分が直感から「悪いこと」だと認識している以上、どんな言い訳も無力となってしまう。


「選べるなら、正しいことを、するんですよね?」


 そっと、両手で包み込むように、


「あなたは、正しい人ですもんね?」


 彼女は、逃げ道をめ潰した。


「まさか、自分から間違ったことをするなんて、あるわけないですよね?」


 天王寺から身ぐるみを剥がし、「YES」以外の全てを奪い、


「あなたは、悪人じゃあ、ないですよね?」


 沈黙すらも、許さなかった。

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