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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第三章:友達よりも敵が増えるペースの方が圧倒的に速い件

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61.さっぱり分からない part2

 ええー…?

 噂をすれば、なんだけど、テンションに変わりも曇りも無いの、本当に大物だなコイツ。


「ここですニークト先輩。角っこなんですから、分かりやすいでしょうに」

「五月蠅い!オレサマは平民の席順など一々憶えん!」

「あ、さいですか…」


 教室にズカズカと乗り込んで、俺の席の前まで足早に歩くニークト。


 早速決闘のやり直しか?

 今は昼休みだから、これからすぐって事は無いだろうが…。

 それとも日程が決まったから知らせに来た?


 色々考えながらも、立ち上がって身構えた俺は、


 つむじを見ていた。

 ニークトの。

 何でそんなものを見ているかと言えば、



「謝罪する。この通りだ」


 ニークトが、頭を下げたからで。



「………えっ…あっ…」

 はい?


「お前に戦う力が無いと言った事を……、取り消す…。お前は強かった、少なくとも、俺なんかよりはな…!」

「は、はあ…」

「オレサマの、見込み違いだ」

「あれ、でも、決闘は、無効に…」

「だが約束は約束だ!オレサマは学園の決まりに迎合したのではない。学園の仕組みを、決闘の場に利用したに過ぎない。公的な判断がどう言おうと、オレサマは真実を知っている…!オレサマとお前で合意した条件を、お前は達した。これは、オレサマとお前の決闘だ、そうだろ?」

 

 屈辱で歯噛みしてはいるが、出て来る言葉はどこまでも真摯だ。

 その姿を見た俺の胸で、チクチクと育つ鋭利な形状。


  ()()()

 

 あの勝利は、カンナありきだった。

 大詰めという場面でカンナが俺を強化し、劇的なまでの戦闘能力向上を起こし、その衝撃が、あの一方的なラッシュに繋がった。

 最後の戦いだって、ニークトが理性を持ったまま、続ける事を選んでいたら、どうなっていたか分からない。


 俺を自分より弱いと断じた、彼の見立ては実は正しい。

 

 俺は実際に、「不正」で勝ったのだ。

 

 少なくとも俺は、それを知っている。

 だが彼のように、潔く認める事も出来ない。

 カンナの事を、知られるわけにはいかないから。


「条件は、取り下げる…!白取先生にも、既に伝えて来た。オレサマには、お前の新跡開拓部入部を止める、権利も意思も無い…」

「それは、ありがとう、ございます…?」

 で、良いのだろうか?

 俺が言うべきは、それだけか?


「ただ、お前が無謀だと言った事、それ自体は撤回するつもりはない!お前は強いが、とどまる事を知らん。そのままの生き方では、いずれ早死にする。その忠告だけはしておいてやろう!」


 「俺が言っても、負け犬の遠吠えだがな」、一方的に伝えて、ニークトは踵を返した。

「に、ニークト先輩!」

 俺はこのままではいけない気がして、何かを言おうとして、


「そ、そういえば、彼はどうしました?ずっと隣に居た……」


 だけど、何も言葉が見つからなかった。


「……八守にも謝らせたいのか?」

「違う!違います!ただ、ちょっと、気になって…」


 振り返ったニークトは、眉の端を下げて、困ったような顔をした。


「奴はお前を良く思っていない。故に顔を出さなかった。だが、悪く思わないでやってくれ。オレサマが『好め』と命じれば愛し、『恨め』と命じれば憎む。それが奴の役目だ。奴はオレサマの所有物。その責は全てオレサマが受けよう。奴の分も謝れと言うならここで——」


「いやいやいや!要らない要らない!全然大丈夫!気にしないでください!」

「む、そうか。じゃあなローマ…カミザススム!もう二度と顔も見たくないが!」


 そうして今度こそ、ドシドシ出て行ってしまった。


「やったね!カミザ君!これで正式に、新開部の部員だよ!……カミザ君?」

「ああ、うん、そうだな。うん、めでたい」

「大丈夫?」

「あのさ、詠訵、教えて欲しいんだけど」

 

 俺はどうして、そんな事を聞くのだろう。


「あの、八守って、たぶん中等部の、あいつって」「あ、カミザ君、違うの」

 

 違う?

 違うって、何が?

 

「八守君は、ウチの生徒じゃないんだ。ニークト先輩が言ってた通り、先輩の所有物扱いで、学園内でも同行が許されてる、お付きの人。ルカイオスが通した、無理の一つなの」

「そう、なんだ………」


 そうなのか。

 そうだとして、

 俺はどうしたい?

 どうして聞いた?

 よく分からない。


(((苦しんでいますね?ススムくん)))


 カンナ。

 姿は見えない。

 けれど肩に手を置いて、背にもたれて来る感触がある。

 近くであの可憐な口が、カーテンみたいに囁く、その気配がある。


(カンナ、あの)

(((ススムくん、お目出度めでとうございます!くぞ、憎きニークトをくだし、新跡開拓部の一員となりましたね。大儀でした)))

(えっと、でも、)

(((あれ、怪訝おかしいですね?貴方の力を示し、私の求めも満たし、理想的な展開、でしょう?)))

(だけど、これで——)


——これで、良かったのか?


 だから、何が?

 お前は何なんだ、日魅在進。

 何が気に入らない。

 全部、上手くいったのに、


 何が


(((その答えは、貴方しか知り得ません)))


 知っているような口振りで言う。

 本当に知っているなら、教えて欲しい。

 けれど彼女は、それを許さない。

 俺に答えを探させる。


(((向き合いなさい?他者と、己と)))


 「それが、次の課題です」、


 耳元で吹く風が、


 わらった気がした。

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