表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十四章:リアルタイムで世界を変えろ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

906/978

2061/8/30 21:00~22:00

 ファーストペンギンが成功しても、それを追う者がいなければ、一回限りの奇跡、創作臭い伝説で終わる。


 「それが可能なのだ」と言われたところで、運や才能に恵まれた外れ値の主張、或いは盛られた功績を信じ込んだリテラシー不足の戯言たわごとと見做され、真面まともに受け入れられないだろう。


 だが、その後追いが現れたら?

 その中で、成功者が出てしまったら?

 危険やコスト抑えて、実現できると証明されたら?

 

 その瞬間、それはジャンルや界隈となり、安定したテンプレートとなり、世間に定着する。


 常道として、常識として、認識に刻まれることになる。




 二人目の奇跡は、決して認めてはならない。




『目標は甲梨方面に逃走中とのことです』

「甲梨?」


 てっきり丁都で衆目の下、大々的に発表するつもりだと思っていた三枝は、その進路を意外に思う。

 

『大回りして、攪乱かくらんするつもりとも考えられます。または一度我々をいて、余裕を作った後に、全世界に配信するつもりなのかもしれません』

「………動画配信サイトに彼らのアカウントを作らせないよう、クリスティアに話を通しておく必要がある、か……」


 どちらにせよ、今回の事態の報告は必須となるだろう。

 付け入る隙を与えるも同然であり、今から気が重い。


「指名手配は?」

『発表済みです。地上波で全国に流れています』

「分かった。また何かあったらすぐに連絡してくれ」


 電話を切り、料亭の廊下を戻る三枝。

 

 もどかしさを抑え、目の前の会食に集中する。


 そちらもそちらで、国政をスムーズにする為のものであり、国民の生活と安全の為の時間。


 ないがしろには出来ない。




『先程警察は、市街地での魔力使用容疑で、探偵業を営む六波羅空也容疑者の指名手配を発表しました』


「日魅在進と吾妻漆の発表は待て。名が売れた未成年と、経済界に顔が利く女だ。色々とややこしくなる」


「なんですか!やめてください!六波羅所長は不在ですって!」

「家宅捜索です。令状はこちらに」




「おいおいおい………」


 宍規の嫌な予感が的中していく。

 と言うより、彼に来る悪いタイプの虫の知らせは、大抵当たるのだ。


 それにしても今回は、思っていた以上に状況が悪そうだ。

 何しろ、お役所連中の仕事が早過ぎる。

 六波羅探室ろくはらたんだいへのガサ入れが、こうも早く決まるとは思っていなかった。


 指名手配されたのは、つい数分前。

 そこからゴリ押しに次ぐゴリ押しがなければ、こんなにもスムーズに進むわけがない。


 “上”から恐ろしい圧力が掛かっている。

 正気を疑うほど、権力という連中が躍起になっている。

 

「何に首を突っ込みやがったんだよあの野郎は……!」


 慌ただしく人が行き交う警視庁内。

 素知らぬ顔でその人の乱流に混じり、さりげなく情報を収拾していく。


「ガキの命とか、そういう面倒をこっちに寄越すんじゃねえよ……!」


 出来ればこんなこと、やりたくはない。

 知らなければどれほど良かったかと、頭の中でこの1、2時間ほど、何度繰り返したことだろうか。


 あの少年と関わったことが間違いだったか。

 いや、そもそも今回は、元後輩の探偵からの持ち込みである。

 

 職場から居なくなった時点で、もっと早く縁を切っておくべきだった。

 それ以前に、あの男が警察だった頃、面倒を見てやるべきではなかった。


 先に立たない後悔ばかり、塔のように積み上げて、不機嫌な顔のままで歩き、

 

 ふと、10m先の曲がり角から現れた男が、彼の方を見た。


 そいつは左手で耳を押さえて、如何いかにもインカムで誰かと通話中だった。


 宍規は目礼をする。

 だが男は反応を返さず、真っ直ぐ向かってくる。


 彼は内ポケットから端末を取り出し、今電話が来たから人混みから離れる、という様子を装いながら、少しだけ引き返す。


 そちらの先で、別の一人が同じようなポーズを取りながら、彼へと足を向ける。


 目の前の角を曲がった瞬間、早足に移行。


 人の壁で出来るだけ相手の視界から外れながら、するりと非常階段に滑り込む。


 そのまま急いで下に降りるが、反響が下から複数の足音を届かせる。


 手摺てすりから乗り出して下を覗くと、数人が登って来ているのが見える。


 すぐに上を目指し、さっきとは別の階に出ようとする。


 先程まで居た階のドアが開いた時、彼はまだその一つ上の踊り場だった。


 見られていないうちに隠れるということが出来なくなった。


 不審に思われるかも、だとかを構う必要がなくなり、全力で駆け上り、真っ先に着いたドアの向こうに出る。


 彼の居場所は共有されているらしく、どちらを向いても複数人が走って来ている。


 すぐそこにあったドアから部屋に入り、中の椅子を使って開かないようつっかえさせる。

 

 そのまま簡易的なバリケードを構築していたが、

 外から叩かれ、数人で体当たりされているらしいドアを見て、投げ遣りな笑いが出てしまった。


「こりゃあ、無理だな……」


 21時57分。

 宍規周弼、警視庁内で身柄拘束。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ