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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十三章:呪いが解ける時

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661.それは話が変わってくるでしょ! part1

辛気臭しんきくさいツラ構えしとるんじゃないわい!メシがマズくなる!」

「あ、うん、ごめん……」


 8月と共に、夏休みもそろそろ終わり。

 俺は居住区へと帰って来ていた。


 里帰りというのもそうなんだけど、世間的な漏魔症隔離の機運が、またしても高まってきてしまい、俺が学園に居ることで、波風が立ちそうだったのもある。


 総理への返事は、保留にしてある。

 お願いしてから、先延ばしなんて出来ないかという諦観が湧いたが、意外にも了承してくれた。

 

 あんなに直接的な働きかけがあって、五十嵐さんが気付かないわけがないから、「五十妹から何か言われる前に」と、即決を求められると思っていた。

 

 そして実際には、特作班の方から何も言われないところを見ると、そっちも何か対策済みなのだろう。

 俺は既に、年貢のおさどきだったわけだ。


 大人って、政治家ってコエーな。

 戦う理由の全てを取り上げられて、抵抗することさえ出来ないようにされてるんだから。

 

 あの人はマジで、全員から代償を徴収して、全員に「まあこれだけくれるなら我慢するか……」と思わせることにかけて、右に出るものがいない名手だ。


 並大抵なみたいていの調整力じゃない。


 俺の中で、少なくとも戦意みたいなものは、ポッキリいっていた。

 ただ、なんだか釈然としないという、ガキっぽい思いだけが残った。


 「それを消化するまで待ってやる」、という意図の猶予ゆうよなのだろう。


 手強い…!手強すぎる…!

 「敵にならない」ってのを徹底されると、こんなにやりにくいのか…!


(((ススムくんは、単純一直線ですからね)))

(政治家だけにはなるまいと決めた)


 あんなふうに清濁せいだく、って言うか味が微妙に違うだけの、多様性に溢れた“濁流”をあわせ呑むなんて、一生真似できそうにない。


 よく頭がおかしくならないものだ。

 いや、あれはなってるのか。


 自分があの狂った結論を、「理にかなっている」と思い始めてることに、そこで気付いて寒気を覚えた。


 反論できるとしたら、「漏魔症罹患者が他とは違う」というロジックの根本。

 「漏魔症は魔力を操作できない」、という部分。

 「ここに反例がいます」、と言い張るくらい。


 でも確認できるのが、たった一例だけ。

 それもカンナという、例外から手足が生えたような奴の影響で、可能となったこと。


 俺がやられたみたいな、「魔力全体の感度にチクチクする」、とかいう手法は、どうやって再現すればいいのか分からない。


 あとは……、罹患者をそんなに危険な環境に突っ込ませて、“消費”が“供給”に追い着かないんじゃないのか、みたいな……


 ああでも、漏魔症同士に子どもを産ませて、すぐダンジョンに連れてって、無理矢理ディーパーか漏魔症のどっちかにするみたいな、選別の儀式を受けさせる仕組みを作っちゃえばいいのか。


 漏魔症が人間じゃないんだから、その子どもも当然そうで、ディーパーになるチャンスを逃せば、後は道具として——


 駄目だ。

 心はずっと「いやだ」って拒否反応起こしてんのに、頭が勝手に向こう側の正当性を組み立てやがる。


 俺は、

 俺は負けたんだ。

 

 現実との戦いのすえに、俺の頭は完膚かんぷなきまでに敗北を認めたんだ。

 この構造をどうにかするたぐいの強さを、俺は持っていなかったんだ。


 ガキがそれっぽい言葉並べて、直感だけで「間違いだ」って言ったところで、そこにはなんの正しさもない。


 「気持ち悪い」ことは、“悪”の証明にならない。

 それはただの感想文だ。


 俺はもう、「感想」以外で、あの人と戦う武器を持ってなくてガリィッ!!


「あっ」

「おいこら」

 

 気付いたら、箸の先端を噛み砕いていた。

 破砕という形で、“悔しさ”が可視化されたことで、意識の表層に出ている以上に、それが深いということを知る。


「ご、ごめーん……」

「まったく……」


 折角いつものスペシャルセットを作ってくれたのに、美味しく食べられないどころか、食器を噛み砕くなんて。

 茂三しげぞうじいちゃんに申し訳が立たないことばかりだ。


 ただでさえ、最近疲れやすくなって、動くのさえ辛い日もあるって言ってたのに………


「おい、まあた変な遠慮しとるじゃろ」

「げ……!?」


 何故なぜ分かる!?


「いつでもヨボついてると思ったら大間違いじゃ!今日みたいに調子が最高に良い時だってある!」

「元気なじいさんだね……」


 その調子であと100年くらい生きてくれ。

 

「遠慮ついでにお前、一人でウジウジ悩んどるじゃろ」

「そうだけど、今回は、そうするしかない理由があるからで……」


 機密に触れることばっかりなんで、誰にも言えないんですぅ。


「ふん、年寄りをナメるな!ボッケボケに抽象化ボカされたとしても、この身に溢れんばかりの年の功で、悩みがたちどころに消える一言をくれてやるわ!」

「『年の功』って溢れるものなの……?…んー……、自分がどこまで欲張れるか、欲張りたいかが分からない、みたいな?」


「ボンヤリし過ぎじゃろ!」

「やっぱダメじゃねえかボケジジイ!」


 案の定だよ!


「もうちょい具体的な話をせんか!ほれ!」

「俺のバランス感覚頼みかよ。相談する側の負担えげつ過ぎだろ」


 もうちょい解像度を上げて……あー………


「何だろうなあ。目の前の道を行けば、『自分がこれだけはやりたい!』ってことは満たされてて、2番目以降は、色々捨てないといけなんだけど……、こう、俺的には全部できるようになるのが理想、ってまあ当たり前か」


 総理の手駒となって、暗闘中心になるなら、学園とか、配信とか、そういうのは手放すしかない。

 何より、漏魔症という枠を破壊するっていう、夢の一つはスッパリ諦めることになる。


 ただ、それら全部を満たそうとすると、道なんて無い上に、色んな人に迷惑だ。


「俺が欲しいもの全部取ろうとしたら、空を飛ぶしかないんだよ。まあ魔法とか置いとくと、人間には普通は無理な進み方で、実現にはスッゲーコストが掛かるし、『一番やりたいこと』すら危うくなっちゃうし。


 しかも、飛行機作って、飛ばすとして、それやってる途中でいっつも、他の人にとばっちり食らわせまくることになるって言うか」


 どこかから資源を取ってきて、土地を占拠して機体を作って、燃料を工面して滑走路もいて。

 それらは、「一番」を手に入れる為の準備や被害じゃない。


 最低限は保証されてるのに、それ以外もそこそこ妥協出来る範囲なのに、「もっと欲しい」って色んなものを巻き込むのは、それってどうなんだ?と思わずにはいられない。


 カンナと一緒に戦えるし、大事な人達の安全を守れもする。

 独り立ちして、自分の面倒を自分で見れる生活でもある。

 社会も安定するし、犠牲にされる人達だって、相応の因果やメリットがある。


 「なんか気に食わない」ってだけで、それ全部不安定にして、道から外れて空中に突っ込む。

 それって、どうなんだ?


 良いかどうかで言ったら、ダメだろうってのは分かる。

 じゃあ、俺はそれをやりたいのか?

 そこまでして、なのか?


 「一番」を危険にさらすリスクを取ってまで、

 飛ぶのか?飛びたいのか?


 あの人と戦って、勝てると思ってるのか?

 って言うか、勝っていいのか?

 戦って、いいのか?


「ほおれ、やっぱりくだらん悩みじゃ」

「だあっ!?おい!さんざん聞いといてそりゃないよ!」

「くだらんもんをくだらんと言って何が悪い。あのなあススム——」


——お前全然、人を頼れてないぞ

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