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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十三章:呪いが解ける時

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658.ふざけてんのかその計画!? part1

  (エネルギー)(イコール)(質量)×(かける)(光速)^2(2乗)



 この等式に当て嵌めると、質量をエネルギーに、エネルギーを質量に、変換することができる。


 ここで注目して欲しいのが、光速を2回もかけている、という点。


 光が死ぬほど速い、と言うのは、誰でも知ってることだ。

 「1秒で地球を7周半」。

 どこかで聞いたフレーズだろう。


 具体的には、毎秒およそ30万km。

 上の式に当て嵌める為、mに直すと、約3億m/s。


 1円玉は1枚で約1g、つまり0.001kg。

 その全てをエネルギーに変えられた場合、


 0.001×3×10^8×3×10^8=9×10^13


 よって、90兆J(ジュール)


 お分かりだろうか?

 たった1gで、超大事ちょうおおごとになっていることに。


 実は、質量という奴は、ヤバいくらいのエネルギーを秘めている。

 相対性理論は、そんな世界観を構築した。


 けれども、物体生成系魔法の燃費が、その等式では説明できなかった。

 「魔力」というエネルギーが、質量に変わると言うのなら、それを純粋なエネルギーとして使った場合、破格の爆発に変わってしまう。


 けれど、生成系の魔法を使う者でも、実際にそこまでの魔力を持つ者は、存在しない。


 相対性理論と魔学とは、水と油。

 魔法という存在が、その学説の首を絞め上げた。


 


 その二つを融合させ、新世代の兵器を作る。

 AS計画は、そういった大それた野望をかかげていた。




「現チャンピオン1位、“確孤止爾アトモス・スフィア”の魔法によって、クリスティアによる解明が、どうやら大きく進んだらしい」


 その魔法の核が、相対性理論。

 その能力を使った全面協力によって、物理学に飛躍がもたらされた。

 内々(ないない)に、の話ではあるのだろうけど。


 そしてill(イリーガル)との接触で、「魔素が穴」であると判明し、魔学と相対性理論、二つの宥和ゆうわが遂に達成される。


「白取モデルで言う“メタ次元”でのエネルギー増幅。それを介した発射機構の構想が、持ち上がった」

「体内魔学回路が魔素でダンジョンって、あれ、ホントに当たってたんですか?」

「少なくとも私は、そこの彼女からそう聞いてるね」


 あの人は不安がってたけど、期待に見合うだけの能力がちゃんとあった、ってことだ。


「魔学制御された超小型原子炉を各階層に持ち込み、その中で核分裂エネルギーを発生させる。


 するとその爆発は、メタ次元でより大きいものとして発現。それら莫大な熱量を、カートリッジと多重魔法陣機構によって生成され、銃身内部に整列された魔素を通し、発射する。


 魔素という“しぼり”によって、質量変換という力を調節、排出する、熱線銃、のようなものか。クリスティアはそれを量産し、どんなモンスターに負けない軍団を作る、それを目指そうとした」


 「高度に魔学加工された弾丸を、大量に供給し続ける」、魔力銃の最大の障壁がそれだった。

 日頃の量産だけでなく、銃のモデルが変わった際の、弾丸の種類の入れ替えに、金と時間が幾らかかるか分からない。


 一方で熱戦銃なら、前段の魔力銃でも消費するカートリッジと、銃そのものさえ数を揃えられればいい。


 後は、他の分野にも役立つだろう、小さなエネルギー生産装置を、一つのダンジョンにつき何個か用意できれば、ほとんどのケースで事足りるだろう。




 核分裂が起こしたのは、コスト革命だ。

 たい上位モンスター用量産兵器のボトルネックを、それは突破した。




 そして計画は、ある程度順調に進んでいた。

 だが彼らの前に、たった一つの課題が立ち塞がる。


「核兵器は、強過ぎた」


 安全な原子炉までは作れても、連鎖反応の制御が極めて困難。

 暴発の被害を最小限にしても、無視できない確率で使い手を殺す。


 更に核分裂では、熱や可視光以外にも、宇宙を飛んでいるような放射線が発生。

 遺伝子レベルに作用する、重篤な健康被害を引き起こす。


 ダンジョンの原状復帰機能を相手にするのだから、環境への影響は無視できるかもしれない。

 けれども射手は、必ず巻き込まれる。


 ダンジョン内に踏み込んだ全ての人間が持つ魔学回路、或いはダンジョンという巨大な魔素が、通り道が近くにあるのだ。

 核反応が引き起こす高次元爆発、その余波が“メタ次元”から“こちら側”にあふれ出す、その危険が無視できない。


 熱にしろ衝撃波にしろ放射線にしろ、銃を撃った人達が、自爆してしまう。


 「誰でも使える」武装を目指し、

 出来上がったのは呪いの銃器。

 命を削るタイプの妖刀みたいなもの。


「安全性に疑問符、どころの話ではない。汎用兵器としては、お粗末、お粗末な出来だった」


 兵器のスペックで一番重視されるのは、安定していることらしい。

 その観点からいくと、実戦配備なんて夢のまた夢だ。


 そこで計画が凍結される、なら話はまだ平和だった。

 「いつか作れたらいいね」、くらいで済んでいたらまだ良かった。


 実際は、それで終わらなかった。

 終わらせるわけにはいかなかった。


 クリスティアは、一刻も早く、熱線銃を完成させなければならなかった。

 少なくとも合衆国政府の上層部や、それと手を取り合う巨大企業は、そうしなくてはならないと、思い込んでいた。


 それはある種、クリスティアの信仰だ。


 自由、平等、民主主義。

 それらを真に実現する。

 それこそが彼らの建国神話であり、目指し続けるべき悲願である。


 ディーパーという、貴族制の根幹となる逸脱者達。


 彼らでなくとも、ダンジョンを管理できる。

 どんなモンスターも殺すことができる。

 それを証明しなければならない。


 ディーパーの特別性を、否定しなければならない。


 魔学的に強力な新世代が世界的に現れ始め、ダンジョンやモンスターの活動も活発化していき、国際情勢も不安定化し、“不可踏域アノイクミーヌ”は徐々に拡大。


 平和をよそおえたモラトリアムは終わり、力の論理が再び覇権を握ろうとしていた。

 そうなった時、ディーパーは最高位に返りく。

 死と暴力の臭いが立ち込めれば、自分を守る暴力に、すがりつくのが人間だから。


 クリスティアが築き上げた、世界を正しい方向へ導く正義。

 誰もが自由で、平等で、誰にでも権利がある、民主主義という偉大なシステム。


 それが巻き戻り、古巣のエイルビオンのような、貴族制という唾棄だきすべき不平等が、この国の歴史に刻まれてしまう。

 その時クリスティアは、秩序の守り手、正義のにない手から、歴史の浅い劣化陽州へと転落する。


 彼らは自由民主主義を、実力勝負の資本主義を、体現しなければならなかった。

 その為に、貴族の再来は、なんとしても防がねばならなかった。




 「強い者が全て」の時代が、本格的に到来するその前に、

 「誰でも自分の自由を自分で守れる」、それを当たり前にするのだ。

 



 対モンスター・対ダンジョンを掲げ、世界中の独裁政権が息を吹き返し始めたこともあって、彼らの焦りは増していった。

 自分達が人民の自由と権利を守らなければ、その使命感にも駆られていた。


 どんなモンスターでも殺せる武器は、どんなディーパーでも殺せる武器。

 武力格差を消失させる、質量を持った人権。

 合衆国政府の秩序を否定する、内外の脅威を一方的にほふれる手段。


 戦闘能力という、ディーパーの特異な技能を剥奪する。

 「貴種」の根源を、喪失させる。

 暴力による支配ではない、対等な者同士による、相互そうご確証かくしょう破壊はかい的な対話を。

 

 熱線銃の量産と、自由主義経済圏による独占は、如何いかなる手段を用いてでも、されるべきものだった。


 乱世が再来する前に。

 悪魔に魂を売ったとしても。

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