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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十三章:呪いが解ける時

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657.これは本当に、呪いとしか言いようがないな part2

「すいませんけど、もしそれが本当だったとして、百万歩ひゃくまんほゆずって総理を信用したとして、」


 俺は左手で麦わら帽子を指す。


「こいつがその約束を守るとは、思えません」


 総理に従ったフリして、俺が逃げ場のない状態になった途端、騙し討ちを狙う可能性がある。

 って言うかこいつの場合、「普通にやるだろう」っての信頼がある。


「それをさせない為に、私は防衛隊を呼び、あのill(アイ・エル・エル)を討滅させた」

「防衛隊……?」

 

 なんで今の流れから、あのテロ事件が出てくるんだ?


「“転移住民リーパーズ”及びクリスティアからの攻撃は、予測されていたことだ。手段とタイミングだけはハッキリせず、“最悪最底ワーストランカー”を利用した事には驚かされたが、ill(アイ・エル・エル)をけしかけて来たのは、想定通りだった」


 俺がメガちゃんから聞いたことは、特作班に報告として上げていた。

 “千総フュージリアー”が「好きにやる」と言っていたという証言も、その一部。


 総理もそれを読んだとしたら、そこからヒントを得て、敵の次手をある程度見通すことはできる、のか?

 防衛隊は、実はテロが起こった時から、いつでも出れるよう待機状態だった?


 戦死者ゼロを実現できるほど的確な作戦が立案されてたのも、張っていたヤマが当たった、ってことなのか?


 だとしたら、特殊な立ち位置とは言え、同じ防衛隊内である、五十嵐さんまで出し抜いている。

 特作班は、完全にしてやられている!


「君達、五十嵐君率ひきいる特作班は、独立愚連隊を気取っているが、所詮は組織の一部、一員に過ぎない。そして丹本防衛隊は、戦闘能力に優れたill(アイ・エル・エル)でも、殺すことができる。


 二つ、だ。


 今回の事案で、その二つを宣言することに、我々は成功した」


 五十嵐さんと、“提婆キャメル”。

 腹に一物ある味方に、釘を刺した。


 五十嵐さんには、「勝手気ままに動けると思うなよ?」、と。

 “提婆キャメル”には、「敵対したらただじゃおかないからな?」、と。


 彼女が俺を殺して、総理と決裂した場合、丹本国との、場合によっては防衛隊との戦闘になる。

 そこで仲間が何体死ぬのか。


 更に丹本は、彼女達をかくまってくれなくなるのだ。

 人に化けるill(イリーガル)の存在が公表された今、クリスティアを始めとした人類全体、それと対峙しなきゃいけないのに、しょぱなで丹本っていう強敵に消耗させられる。




 俺の“右眼”を破壊するという行動は、今やリターンがリスクに見合わないんだ。

 



「故に“提婆キャメル”は、約束を守る。君が欲しい私も、君との契約を遵守じゅんしゅ、遵守する」


 困ったことに、“信用”が湧き始めてしまった。

 自分でもびっくりしたが、殆ど口約束なその話を、諸々の要因で信じ始めている。


 だが、首を縦には振らない。

 それは勢いでやることじゃない。


「分かりませんね。もっと分からなくなりました」


 徹底して詰める。

 隠し事などさせない、と。


「そこまで僕を買ってくれているなら、」


 イリーガルを脅してくれるほど、気に入ってくれているなら、


「漏魔症が嫌い、なんて感情、ほぼどうでもいいはずです…!」


 「名前を売る」程度、そこまで問題だと思わない筈だ。

 漏魔症への反感程度で、俺に何かを手放させない筈だ。


 「日魅在進が欲しい」というのが、約束が破られない保証となると、彼は言った。

 だけど現状、俺を好意的に見ているとは、到底とうてい言いがたいようにしか見えない。


わけを、話してください。『俺が嫌い』以外に、俺から表の立場を奪う、そんな理屈があるんですか?」


 俺が漏魔症罹患者だからって、それがなんだって言うのか?


 そこに海より深い理由があるって言うなら、

 本気で俺を評価してるって言うなら、


 ここで腹を割って、全部話してみろ。


 そういった真意も籠めて、いつでも臨戦態勢に入れるメンタルをセットして、プレッシャーを放ってみても、三枝総理はどこ吹く風だ。


 避暑地で涼しい外気に当たったみたいな、適度に力の抜けている表情のまま、さっき使用人から渡されていた、A4サイズの封筒を手に取る。


 紐を解いて、中から書類の束を引き出し、テーブルに置く。

 それは報告書らしい何か。


 一番上には大きな題字で、


『AS計画について』


 そう書いてあった。


「これって…!」

「“提婆キャメル”が敵方の諜報員から引き出した情報を元に、こちらの手の者に調べさせた、クリスティア主導の一大プロジェクトの全貌」


 彼の目を見ると、「構わんよ。読みたまえ」、そう促された。


 手に取って、めくる。

 びっしりと文字が敷き詰められ、内容を頭に入れ込むのに苦心する。


「要は、より安全に特異窟を管理しよう、その為に現代最高の量産兵器を用意しよう、と、そういったコンセプトからスタートしたものらしい」


 俺がインクの海で目を回すのまで予定通りなのか、順序立てて咀嚼させてくれる。

 

 そのガイドに従い、「梗概こうがい」と書かれた部分から、キーワードを抜き出していく。


「既存魔学と最新テクノロジーの融合……、使用によって誰でもモンスターを殺せる武器……、ベースとなるのは銃火器……、集団による一律の破壊力……、別次元で発生した莫大なエネルギーを、多重魔法陣構造の銃身によって制御する方向性……、選ばれたのは——」




——核分裂?




「質量は、エネルギーに変えられる」


 俺の視界を、そのまま乗っ取っているかのように、見慣れない単語に目が留まった瞬間、補足説明が挟まれた。


「原子核を分裂させると、質量の変化が起こり、それがそのままエネルギーとして放出される」


 それは、殊文君が言っていた、「相対性理論」。

 

 辻褄が合うのか合わないのか、どっちつかずで扱いかねていた、異端の学説。


 けれど暗黙の内に、一部法則を適用するべきだと、徐々に実生活に浸透していった、不死鳥の如き基礎理論。


 それを使って、エネルギーを発生させ、魔法陣回路で、それを制御する、ってことか?


「その基本方針と共に、プロジェクト名称も決められた」


 文章をなぞっていた視線が、ちょうどそれに辿り着く。




 “臨界兵団アトミック・ソルジャーズ”計画。




「君の運命を大きく狂わせた、“思いつき”だ」

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