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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十三章:呪いが解ける時

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657.これは本当に、呪いとしか言いようがないな part1

 「不穏因子を紛れ込ませてしまった」、

 総理はさっき、そう言った。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()


「壱先生が、あの学園に潜り込めたのも……!」

「その通り。私の派閥の手引きだ」


 そう言えば“提婆キャメル”も、ノミ女こと“北狄ゼブラ”も、丹本人らしい偽名を持っていた。

 あれも実は、政府内部の協力者から、戸籍まで用意されたちゃんとした名前だったのか!?


 キャプチャラーズは、この国の奥深くにまで、根を届かせていたっていうのか!?


 いや、でも、言われてみれば、おかしな話ではないのかもしれない。


 クリスティアと結んでいたリーパーズに対抗して、キャプチャラーズもそれなりの戦力を、人間社会へのパイプや、動かせる兵力を欲しがったとして、


 ダンジョン関連で世界最先端な丹本は、モンスターの視点からすると、接近する候補として浮上するのは自然、と言えるのかも。


 “提婆キャメル”はよく分からない自分ルールで、敵味方を分けていると、メガちゃんはそう言っていた。


 壱先生の元となるダンジョン、永級10号は、その基準によって「味方側」という判定を受けたらしい。

 それが決め手になった、ということもあるのだろうか?


「でも…、なんで…!いや、いつから……!?」


 キャプチャラーズと、総理が繋がっていた?

 五十嵐さんは、このことを知ってるのか?


「断っておくなら、五十嵐君は関知していない」


 俺の疑問に先回りしてくる三枝総理。


「彼はそこまで器用じゃない。モンスターと密約など、認めないだろうな」


 「宗教家らしく、潔癖過ぎるんだよ」、

 困った友人の話をするみたいに、どこか自慢げにそう語る。


「この同盟は、丹本の“黒幕”達の中でも、ごく限られた人間しか知らない情報だ。言うなれば、私と心中する覚悟のある者にしか、共有していない」

「………それを、俺に……?」

 

 くそっ、頭が爆発しそうだ…っ!

 ill(イリーガル)とツルんでることも、ここでそれを開示してくることも、意図が分からなさ過ぎる!


 そして今、リーパーズ側が知っていたかも怪しいような、この関係が暴露され、

 イリーガルモンスターっていう武力と、国家っていう権力の、両方が俺の前に並べられて——


「俺にどうして、どうなって欲しいって言うんですか…!?」

「話が早い。君は本当に賢い子だ」


 総理はわざと勿体ぶって、ゆっくりと茶を飲んで遅延させる。

 こっちの全神経を、次の言葉に集中させるよう、誘導する。


「はっきり言おう、日魅在進君」

 

 そして俺の意識のことごとくが、“提婆キャメル”からがされたところを狙い、叩き込む。




「君には表舞台から降りてもらう」




 要請や要求ではなく、命令。

 出来れば戦闘ではなく、示威しいによって言う事を聞かせる、その為に俺は、ここに一人で呼び込まれた。


 俺がill(イリーガル)と直接戦闘になって、味方も学園生くらい。

 その状況でもカンナが出張ってこないということは、壱先生との戦いで確定的になった。


 あの時の映像は、総理だって手に入れられる。

 そしてそのまま、キャプチャラーズにまで情報が流れる。


 総理はここに“提婆キャメル”を置いて、俺に従えと迫った。

 今ここで、そいつと戦闘になっても、俺が抑止力として頼りにしている奴は、顕現してくれないんじゃないか?という圧を掛けている!

 

 そして俺は、実のところカンナがどうするか、マジで分からない!

 言えるのは、カンナが何とかしてくれることを期待して、“提婆キャメル”に殴りかかった場合、助けてくれなさそうな予感がビンビンだ、ってことだけ!


「………」


 麦わら帽子を見て、テーブルの向かいに座る総理を見て、また女を、その背後で庭園の岩に腰掛けながら、ソフトクリームを舐めている美姿びしを見て………


 ああもう楽しそうにしやがって!

 こいつの表情から判断しようとした俺が間違ってた!


「俺を、殺したいってわけでも、ないんですね……?」


 返事をする前に、探りを入れることにした。


 この秘密の繋がりを、隠したまま奇襲に使うより、明かして説得するという手段を取った。

 俺に大人しくしてて欲しいけど、死なれるとそれはそれで損がある。

 みたいな計算が、走っているんじゃあないか?


 で、俺が持っているのは、戦闘能力、知名度、そして“右眼”。


「俺を生かしたいのは、“可惜夜ナイトライダー”が欲しいから、だとして……」


 総理に従った場合、俺が捨てるのは、一つ。


「俺が有名だと、“右眼”の研究とか、実験とか、そういうことをするのに、邪魔だってことですか?」


 言ってから、しかしそれでは説明にならないと思い直す。

 その場合、頼むなら「大人しく“右眼”を差し出せ」、だ。


 俺がそれを断固拒否すると知っていて、遠回りをしようとした?

 魔素がないところに拘束してから、“右眼”を取り出す。

 その前段階として、まずは人目のつかない場所まで引っ込ませる、ってことか?


「いずれにせよ、です。なんであっても、“右眼”が欲しいって話なら、俺は応じれないんで今この場で暴れて——」

「いいや、そうじゃあない。君は思い違いをしている」

 

 「我々は“可惜夜ナイトライダー”を求めていない」、

 総理は首を振る。


「求めて、いない……?」

「そうだ。そしてそこの彼女は、不確定要素であるそれを、盤上から追い出せればそれでいいと、その程度の執着しかない」


 “提婆キャメル”を見ても、退屈そうに椅子を傾けるだけで、目を合わせようともしない。


「そこで我々は、ある一つの合意を得た。君を我々の管理下に置き、手綱を握る。“可惜夜ナイトライダー”の顕現も含めて、我々が完全にコントロール、コントロールする。そして君は、我々の計画通りに動く」


 それで三方、丸く収まる。

 彼はそう言った。


「分かりません……。俺を無力化したいにしては、どうも話が絡まり過ぎてる」

「無理もない。何故なら我々は、いや、私は、君を『無力化』などしたくない」


 「その力を丹本の為に、存分に振るってもらいたい」、

 彼の神経を疑ってしまった。

 このに及んで、俺と味方同士でいようって、そう主張してるんだから。


「私はね、君に活躍はして欲しいが、それが民意の目の届くところであると、非常に困ってしまうんだ」

「その言い方、それだとまるで——」


 問題なのは、俺の力でも、カンナでもなくて——

 



「そうだ。君の名声、社会的地位、それが脅威、脅威なんだ」




 俺の名前が売れることが、彼にとって一番イヤな事。

 となると、考えられるのは、

 他の全てを削ぎ落とし、俺に残る厄ネタと言えば、


「漏魔症が、成功するのが、ダメってことですか?」


 その一つしかない。

 そこに立ち戻るしかない。


「優秀だな、君は。益々(ますます)、防衛隊の戦力として、保持していたくなった」


 総理の肯定によって、全ては一周した。

 俺はいつの間にか、スタート地点に戻ってきていた。

 それとも、最初から一歩も、動けていなかったのか。


「私は、漏魔症罹患者に、『人間として』成功して欲しくはない。一方で、これでも君のことは、いたく買っている」


「だから、世間の目の届かない、裏側の荒事あらごと専門になれって…?………ああ、そっか。あなたのてのひらくだれって言うのも、“提婆キャメル”に手を出させない為に、『殺さなくていい』って納得させる為に、ってことですか?」


「肯定、肯定しよう」


 これは取引だって、言いたいのだろうか。

 ちょっとした自由や表向きの名誉と、重要な立場や身の安全。

 それらをトレードしようってことか?


 俺を戦力として欲しいのは本当だから、悪いようにはしない。

 戦うより、ここでギブアンドテイクした方が、スムーズだし得になるって。

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