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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十三章:呪いが解ける時

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655.どう言ったらいいのか………

 今回の学園襲撃は、結局何が何やら分からなかった。


 強い目的意識を持った、影響力の大きい組織の犯行。

 そう思わなければ、色々とおかしい。

 規模とか、戦力とか、武装とか、諸々が釣り合わない。


 チャンピオン一人の暴走だけで、済ませられるような話じゃない。


 だけど、何がやりたかったかと言えば、あんまりよく分からない。

 本当に差別と戦いたかったのか、丹本という国に打撃を与えたかったのか、“右眼”を俺ごと殺したかったのか。


 というのも、主犯であるように見える“号砲雷落ワールド・ウォー”こと“千総フュージリアー”が、どうも気分で動いているように見えてしまうのが、混乱の半分くらいを占めている。


 あいつ結局なんだったんだよ。

 一度本気で殺し合ったこともあるけど、その時からなんか、気持ちの悪いヤツだってイメージだった。


 こっちの行動の全てに喜んでるって言うか、自分も含めて誰が傷を負っても嬉しがってるって言うか、M(マゾ)S(サド)の欲張りセットみたいな感じ。


 そいつが中心となって、流れる方向が安定しない渦が作られ、事態が七転八倒しちてんばっとうしてる上に、単なる高校生からすれば、見えてる確定情報が少ない。


 壱先生……、裏切られた形にはなるんだろうけど、俺は意地でも「先生」で通すとして、とにかく、あの人がill(イリーガル)だったことまで含めて、支離滅裂しりめつれつとしか言いようがない顛末てんまつ

 

 どこぞの観戦大好きヤジ飛ばし女のせいで(((はい、私の目を見てもう一度)))究極(ウルトラ)聖美少女カンナ様のお蔭で、俺はダンジョン、モンスター関連の裏事情を、色々と知ってしまっている。


 漫画に出てくるみたいな変な名前の特殊部隊に、名前を置かせて貰ってすらいる。


 そんな俺にも、マジで全体像が掴めない。

 救世教の人達に、色々と答え合わせをして貰って、それでようやく概要が分かる、くらいだろう。


 ワンチャン、あの人達も一部については、「ごめん、それにつていはマジでわからん」、みたいな感じなのかもしれないけど。


 で、これが他の明胤生ともなると、もっと分からない部分が多くなる。

 黒塗り部分が多過ぎて、全体の情報量がクソ多いことすら把握できてないから、一周回ってシンプルな答えを出しかねない、というくらいの分からなさである。


 表に出ている、最も安易で凡庸な答えは、「革命崩れ」。

 虐げられてきた者達の、反動としての大爆発。

 

 つまり、全ては漏魔症罹患者の為に起こった、という見方である。


 声明を出したロベっていう人も、そういう主張を匂わせてたし、敵の大部分は、彼らで構成されていたし。


 明胤生にとって今回の事案は、漏魔症から襲撃された、という認識になる筈だ。

 見えない部分が多くて、疑問点すら隠されることで、そういう理解に帰結するのが普通。


 少し前に俺は、疫病やくびょうがみとして、彼らから猜疑心を向けられていた。

 そしてその時、俺は反省を見せるどころか、「心当たりがない」とシラを切り通した。


 彼らの怒りはくすぶり続け、そこに爆弾がぶち込まれたのが、今だ。

 恐れた通りまた俺の周囲に、ill(イリーガル)が突っ込んできたんだから。


 それでも彼らの言い分を否定し、「知ったことじゃない」というスタンスを取り続ける、それが俺の任務だ。


 浅くなりかけた息を、エアコンや薬品の臭いがする空気と共に無理に呑み込んで、出来るだけ冷めた顔を作る。

 

 彼らについて、心を痛めていても、それを示して伝えることは、「いいこと」じゃない。仕事の遂行より、自分の人情を再確認したいっていう、自己満だ。自分にそう言い聞かせ、彼らの横を何食わぬ顔で通ろうとして、

 

 


「すいませんでした!先輩!」



 

 完全に足を止められ、表情を作るのにも失敗した。


「僕達が間違ってました!」

「え……」

「本当にごめんなさい!」

「ま、まって…!やめてよ…!」


 揃って頭を下げられて、オロオロするしかなかった。

 なんで謝られてるんだろう?

 彼らが怒るのは、当然なのに。


「いつまでほうけてるんだウスノロチビ」


 あまりの驚愕に全身硬直に陥っていたところに、後頭部をはたく一発。

 

「ここだと邪魔だ。話をするなら外にしろ」

 

 言われてみればその通りだ。

 今も患者の為に、せわしく働いている医療スタッフさん達。

 思いっきり彼らの邪魔になる。




 そういうわけで、俺達は医療棟を、人目につかない建物の間で、朳君の友人達の話を聞いていた。




「僕達、全然、ちゃんと動けなかったんです……!」


 震えを止めようとするみたいに、身を寄せ合いながら彼らは言った。


「戦う覚悟があるって、どんな相手でも、自分のできる限りをやろうって、そう決めてたのに……!」

「それは……」


 責められるようなことじゃない。


 降って湧いた、敵が人間という戦場。

 しかも、ディーパーでも対策が難しい、“銃火器”という理不尽の、更に強化版みたいなものを持って、数千人単位で押し寄せてくる。


 モンスター相手と同じように戦えなくても、無理がない状況だった。


「でも、日魅在先輩は、遊撃部隊なんて一番危険な役を、妥協なく遂行してて……!」

「でも、途中で戦線を離脱したし……」

「それは!人間に化けるモンスターの、よく分からない攻撃に巻き込まれたからですよ!」


 “千総フュージリアー”が、学園内に精神的ショックをばら撒こうとした、あの放送。

 あれが逆に、俺達が壱先生に拘束され、離れられない状態だったという、不在証明として機能していた。


 不信を煽る攻撃で、何故か俺の信用が上がっていたのだ。


「その前の、戦ってる時の映像も、見てました…!」


 学園内に無数にある、監視カメラ。

 生徒達はその“目”を共有されていた。


 モンスターが大量に湧いて、破壊の限りを尽くされる前だったら、状況は細かめに把握できていただろう。


「私、調子乗ってたんです。大会を襲われた時は、上手くやれたから、だから自分は一人前なんだって。でも、いざ人を前にしたら、ちゃんとやれなくって……」

「俺がちゃんとしてなかったせいで、大怪我して、し、死ぬ、寸前まで、行った奴もいるんです……!」


 彼らは一様に、青い顔をしていた。

 そんな記憶を開示するなんて、自傷行為みたいなものだが、止めようとする俺の肩を、先輩が掴んで押しとどめる。


 「聞いてやれ」って、そう言ってるみたいに。


「日魅在先輩は、そうじゃなかったですよね……!相手が誰であろうと、自分と同じ境遇だって、分かってても、手加減せずに、動きを鈍らせることもしないで」

 

 それは、

 褒められることなんだろうか?


 俺のはただ、前科があったから、痛みはあっても、衝撃がなかっただけ。

 「殺す」という事実が、全身を沈め潰すような、あの厭さを、何度も通っていただけだ。


 彼らよりも、多く殺していただけだ。


「あの、砲撃を止めた時も、真っ先に動いて、身を挺してみんなを守ったのは、先輩でした…!」

「先輩が出ていかなかったら、他の防御が間に合わなくて、避難してた人達に、酷い被害が出てたかも……」


「それは、俺の探知能力が、他よりちょっと敏感だっただけで、精神の問題じゃ……」

「いいえ!魔法の強さは精神の強さだし、気付いてすぐに、躊躇なく行動に移せるのも、俺達だったら出来なかった…!」


「私達、どこかで、『一番危ないところは、自分達じゃなくても』って、消極的に押し付けてました…。今回、それがよく分かったんです……」

「先輩みたいに、そこですかさず行動を起こせる、その凄さも」

 

 必死だった。

 あれが着弾すれば、どれだけの人が死ぬか。

 そう思って、止まっていられなくなった。


 全体を見て、自分がやらなきゃと思ったわけではなく、考えるよりも前に、衝動で突っ走っただけだ。

 死を覚悟した決意とかじゃなくて、直情的な専行でしかない。


「日魅在先輩は、弱い人じゃなくて、自分の気分とか、情とかよりも、やるべきことを、優先できる人で……」


 それは、買い被りだ。

 高純度の、幻想だ。


「僕、恥ずかしくって……」

「あれだけ責めた側が、ちゃんと役目を果たせてないって、あまりにダメ過ぎて……」


「私も、攻撃した人が、死んだかどうか、ちゃんと見ることすらしなかったんです。確定させるのが怖くて。自分が殺したんじゃないって思える余地を、残したくて」

「だ、だけど」

 

 自責に駆られる彼らが痛々しくて、つい、余計なことを口走る。


「君達が言ってた、その、俺が不幸を呼ぶかもしれないって話があるなら、その、そんなことは、普通にやって当たり前のことに、なるんじゃあ……」

 

 俺がマイナスにして、俺がそれをゼロに出来るだけ戻して。

 そんなマッチポンプに、なるんじゃないのか?


「違うんです、先輩」


 けれど彼らは、首を振る。


「俺達、分かってたんです。どんな理由があれ、許されないことをしたのは、襲撃した側で、先輩は、狙われたのかどうなのか分からなくても、被害者なのは確かなんだって」


「でも、私達、納得できなくて。私達じゃどうしようもない事が理由で、朳君が殺されたなんて……」


「だから、悪い奴が欲しかったんです。自分達で勝てる、悪い奴が」


 彼らを動かしていたのは、無力感だった。

 死んだ友達に、何もしてやれることがない、その悔しさだった。

 

「先輩は、そんな俺達も、守ってくれました」

「君達を、守ったわけじゃあ——」

「守りましたよ。あの時、誰よりも速く砲弾を止めに行った先輩は、確かに僕達を守ってくれました」


 「ありがとうございました」、

 もう一度、一斉に頭を下げられる。


 どうしたものか。

 俺は、なんて答えたらいいのか。

 

「こら、君達」


 声の方を見ると、披嘴先輩と丸流先輩が立っていた。


「あんまり君達の都合で、彼を困らせるものじゃあない。謝罪が済んだなら、解放してやってくれ」

「あっ、すいません!そうですよね」

「ごめんなさい!お時間を取らせました!」


 俺が自分の態度すら決めかねている間に、解散の流れになってしまった。

 許されるべきじゃないことまで、許されてしまったまま。


「次は、俺達が先輩を守ります!そう言えるくらい、強くなります!」

「先輩に救われた命です!何かあったら、頼ってください!」

 

 何度も頭を下げながら、彼らは医療棟内に戻っていく。

 本当に、良い人達だ。

 友達想いで、義にあつくて、素直で、自分をかえりみれて………


 彼らが真っ直ぐであるほど、俺の醜さが際立つように思えた。


「好意は素直に受け取っとくもんですよー」


 いつの間にか隣に来ていた丸流先輩に、肩を叩かれる。


「それについては、オレサマも同意だ」

「そうだよ。ススム君は、立派なことをしたんだから、胸を張ってなきゃ」


 二人もそう言ってくれるが、単純に喜んでいいものか、俺はハッキリ決めかねてしまっていた。


「何をやっても、誰かしらからは嫌われる。顔が知れてる人間の、辛いところさ」


 披嘴先輩が笑って言った。


「けれど、自分の行動で誰かを救えたり、自分を好いてくれている誰かがいたり。そんな事実だけでも、大事にしたいじゃあないか」


 それは、確かに、その通りだ。

 後ろめたさはあるのだけれど、それでも、

 彼らの気持ちがありがたいのは、本当なのだ。


「自分くらいは、自分の事を、好きになってやりたいじゃないか」


 嬉しく思ってしまうのは、偽ることができない本音なのだ。


「実はね、あの防衛戦に参加したことを、公表したんだよ」

「えっ…?」

「バカしょーじきですよねー、この人」


 披嘴先輩が言った、その言葉が意味するところは——


「色んな言葉を、受け取ったよ」

「そ、それは……」

「応援と、心配と、お見舞いのメッセージを、たくさんね」

「………!」


 そこまで言って、彼は目を逸らし、そのまま振り返る。


「僕が、人を殺したって、分からない筈ないのになあ………」


 色んな感情が絡みついた声を残し、彼はこちらを振り返らずに去る。

 

 丸流先輩はウィンクをして見せ、それから彼の後を追っていった。


 俺は、


 喜んでいいのだろうか。

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