651.バカは死ななきゃ治らない
びゅん、
びゅおん、
飴色が押し退けた空気の端では、
拳骨に似た爆音が鳴っているのだろう。
ぼン、
ぶおん、
辛うじて残ったガラスや木の葉を、
衝撃波が乱散させるのだろう。
どんッ、
ゴォんッ、
だが音よりも遥かに速く、
まずその塊が一番乗り。
何が起こったかの理解よりも、
暴力にバラバラにされるのが先。
ゴォオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!
理屈で言えばそう。
けれど学園に残るillの眷属達は、爆熱で消し飛ぶよりも前に、命中の音を聞いた気がした。
それは重く、痛く、そして無遠慮。
意思も知性も計算もなく、金属質な空が落っこちてきたかのような、
聴覚を仇のように殴り抜く一撃。
ぴ、ぃぃぃいいいいいいいいいいいいい………っ!!
それを、
弦が鳴るような澄んだ音が切り裂く。
ひょ、おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ………っ!!
学園の職員達が復旧させ、“千総”が居る方角へと、新たに張っていた防御壁は、23枚。
それらが割られている、その数秒、弾頭は減速していた。
校舎や避難民収容場所から、敵を押し返しつつあった、防壁内の潜行者達が反応するのに、充分な時間。
特に、高度な身体強化を持ち、魔学ジェットスラスターで空を飛べる彼は、真っ先に動き、その弾道に割り込むことに成功した。
〈ぴ、ぃぃぃいいいいいい……っ!〉
表皮を珪素質に変換。
高圧魔力噴射孔を構築。
自身の前後に極めて強い推進力を生み出し、砲弾と正面から組み合う形に!
挟み込んだ両掌が、姿勢を安定させる為の飴色の回転によって、バチバチと手持ち花火めいて煌めきを散らす!
〈ひょ、おおおぉぉぉぉぉぉ……っ!〉
——いや、
——押し返すんじゃあ、ダメだ!
止めきれない。
ギリギリで止めたとして、残ったエネルギーが爆発して、大きな被害が出た後に、第二射が来る。
肉体へのダメージが深くなり過ぎて、次の一発を止めに行けない!
自分に巻き付けたリボンの減りの速さから瞬時に悟った彼は、背中側の秒間噴射量を微減させていく。
すぐに寄り切られ、背後に張られた新たな壁に背をつけ、圧力で砕いてしまう。
それでいい。
この刹那で彼の意図を読み取ってくれたのか、それともリボンを通して思考が伝わる使い手からの伝言か。
硬いながらも脆い、そういう防御を用意してくれている。
〈守って、勝つ……!〉
彼の後ろから、様々な掌が添えられているような感覚。
あるものは割れ、あるものは折れ、あるものは砕け、あるものは伸び千切れる。
〈勝って、守る…!!〉
壁やら植物やら土やら髪やら鳥やら雲やら風やら氷やら、
様々な魔法生成物が、衝撃を吸収、減速に力を貸す。
〈一本ッ!!〉
勢いが充分に衰えたところで、彼は右腕を大きく引いて、
〈集中ゥゥゥゥッッ!!〉
手首から先をドリルビットにし、弾頭の中心軸を通貫一徹!!
逆回転エネルギーをかけることで、遂に制止させ内部からの魔力噴射で粉々に破裂させる!
〈おらもう一本!っつうか幾らでも!ばっちこおおおおおおおい!!〉
こちらに撃たれた砲弾を全て受け切れば万事解決!
万丈の血気を盛らせる日魅在進!
もう一つ内側、コピー&ペーストで築かれた、巨人像から生えた数十の掌の上で、彼を支える側に回った生徒達は、その背中を様々な思いを籠めて見詰めながら、次なる一発を前に精神の均衡を調える!
(((一二三四五六——)))
“千総”シティに立つ、銃身で組まれた高層ビルの一つ。
その屋上に腰掛ける、
無邪気にも妖艶にも、
極楽にも地獄にも見える、
悩ましく紊れる万華鏡が、
(((——七八九十)))
上機嫌に足をぶらつかせて、景気づけに詩を詠む。
〈そこまで言うなら!ご注文通り!〉
“千総”は、鏡に焼かれては傘で守るという応酬も片手間に、外に飛び出して次なる一射を放つ!
それは、
遥か高くに上げられた!
〈へっ?〉
砲塔が極端な仰角を取っているのだから、当然である。
波長の狭い振幅の片側を抜き出したかのような軌道を描き、弾頭はやや上から学園の中央を狙い、けれどさっきよりも到達に時間を掛けたので、当然のように止め切られる。
〈うおっ!WoW!〉
“千総”が踏み切った大地が捲り上がり、根や草の力でそいつを結界内部に押し返した!
そして地中から、新たなバリケード魔具が生えてくる!
『P01!第10号機を起動せよ!』
『了解!38式10号機、起動!』
P達が、緊急時用に仕込んでおいた、追加の結界生成装置!
スイッチがスムーズにオン!
再度収監!
〈友情…、それとも、誇り、かな?〉
再度全方位を閉じた結界内に突入し、表面を同じ形に切り取ろうとしてくる降下部隊。
彼らに撃ち返して牽制し、日光を当てられては浮遊する破片で防ぎ、
そんな中でも“千総”は、将来有望な新世代達に、自分と殺し合ってくれるヒヨッコ共に、思いを馳せる。
矢張り、
矢張りだ。
やっぱりこの国は、ここに住む人間達は、
まだまだ遊べる。
まだ幾らでも壊し、殺せる。
欲望に忠実に滅多打ちしても、
打った分だけ、響いてくれる。
壊れた後に、もっと良い感じに直ってくれる。
〈Amazing!素晴らしい!僕の墓場として、こんなにぴったりな立地は他にない!〉
終の居場所に、ここを選んで良かった。
心から、そんなことをしみじみ思う。
〈これだって!〉
その体表に刻まれた、正三角形の傷痕の数々。
そこに増幅鏡が照射される度、疼きが一層鋭く冴える。
原始魔法陣による強化。
降下部隊は、この“弱点”を刻む為に、至近戦を挑んだのだ。
〈僕を脱がせる為に、そこまでするなんて!〉
原始魔法陣に、選別機能は無い。
故に、“千総”側の攻撃力すら、高まってしまう。
それでも彼らは、その手段を選んだ。
リターンを掴もうと、リスクを握り締めた。
彼女を殺す、その為に。
“愛されている”実感が、彼女の全身を弾丸めいて駆け巡る。
〈さあ…、次だ……!次はどうする…!〉
彼女は更にギアを上げていく。
内外の弾幕を厚くし、熱くしながら、
軍事的テクノロジーによる搦め手を仕掛け始める。
〈次はどうやって耐える!次はどうやって返す!次はどうやって奮い立つ!〉
燃える人間の悲鳴。
怒号や爆轟。
発砲のリズム。
様々な物が、彼女の記憶から溢れ出す。
〈次はどんな引き金を引くのかな…!門戸開放?弱者救済?生態系保護?環境保全?義理人情?国際協調?政治?経済?富国?護国?自由?平等?それとも真理?
どんな弾丸を撃ち出すのかな…!
それはどれだけ広くを焼くかな……!
あの島の泥沼のように…!
あの街の火の海のように…!
あの大きなキノコ雲のように…!〉
息吹を荒げ、喘がせる砲身。
いつしか彼女は、性的絶頂が体液の大量分泌を止められないように、
飴色の破壊を噴き出させ続けるようになった。
それにより、付近は更なる生存困難領域と化す。
“千総”の輝きはいや増し、放出されるエネルギーは境界線に瑕を焼き入れる。
そいつが出せる、最高の火力。
それが遂に、安全装置から解放された。
「二乗三乗の法則。知らないわけがないだろう?ill」
一辺が1mの立方体。
辺のそれぞれの長さを2倍にすると、表面積は4倍、体積は8倍となる。
物体は大きくなればなるほど、その中身と比して、表面が占める割合が狭くなっていく。
これが生物のように、内側でエネルギーを生成する機構の場合、それが熱として逃げていく面積は、身体が大きくなるほど、相対的に狭くなる。
それが動いて、筋肉の運動エネルギーなどが発されていると、余計にその傾向は強くなる。
縮めて纏めれば、「デカい動物は、体温が下がりにくい」。
それは殆どのモンスターでも、同じことだろう。
「『デカい』は『強い』、だけじゃない」
この法則に目をつけ、巨大であり、エネルギー生成力に優れるモンスターとの戦闘を想定し、防衛隊が用意していたプランがある。
それを基盤として立案されたのが、本“バントウ作戦”である。
結界等で密閉し、敵由来のエネルギーを籠もりやすくする。
五十妹の魔法が利用する日光を使い、敵に高熱を押し付ける。
降下部隊が原始魔法陣を刻み付け、それは日光と共に、敵が発した攻撃が持つ力も強化。それは恩恵でもあったから、“千総”は自慢の耐呪で解除しなかった。
更にXⅡの焦点が、バレルジャケットを始めとした、排熱孔らしき部分を溶接、塞いでいく。
外に向けて開かれているのは、火か合金を吐く銃口のみ。
そして、身動きが取れない敵は、そこから脱け出そうと、際限なく己の力を高めている。
銃は連射が過ぎると、銃身が焼け付き、変形し、破損する。
それは“千総”にとって、激戦の証明であり、戦場の花であり、一種の快感だった。
彼女の物語に沿う、一節だったのだ。
だから気にすることなく、もっと、うんと、気持ち良くなろうと、体内で魔素から莫大なエネルギーを引き出して、
〈あ〉
今、彼女は光っていた。
〈あれ……?〉
全身が、夜の蛍のように、柔らかく揺れていた。
〈あれ、おかしい……〉
発射する度、銃身の一本一本が、よく振って開封した炭酸飲料みたいに弾け、バナナの皮めいてパックリ四裂していく。
「お前は確かに強い。だが、ずっと人間に混ざってきたと言うなら、最後にその大きさになったのはいつだ?」
〈は……?Ha?HA?hA?〉
「訓練を怠ってたんじゃあ、ないか?」
それは、表面から見えない体内でも、
否、寧ろ内部でより深刻に、進行していた。
〈ま、待って……!〉
その間にも、XⅡが反射光の熱を追加。
それを遠隔操作した外殻で防いでも、結界内全体の温度が上がり、熱さはどこにも逃げてくれない。
〈まってよ、ちょっと……!それは、ないよ……!〉
何か行動を起こす度に、崩壊は速まり、酷くなっていった。
それはそうだ。
力を抑えるのを苦手とし、快楽に抗うなんて考えもせず、他者に与えるなんて有り得ない。
「敢えて諦める」ことから、最も遠いケダモノは、この罰から逃れられない。
〈まって、まだ…、まだだって……!〉
中にある餌から指を放せないせいで、穴から手を抜けない猿と同じ。
“千総”は、自らの興奮で、享楽で、
休みなく撃ち続けた銃の末路、その物語に忠実に、自滅を迎えようとしていた。
〈まだ、まだ僕はやれるんだ……!〉
肉体そのものの強度や柔軟性も伸ばさねば、身体強化で自壊するのと同じ。
しかしそいつはここに到っても、まだ引き金を引くことで、事態を打破しようと足掻き続けた。
〈元気いっぱいなんだ…!まだ尽きていないんだ……!本気の破壊を見せられてないんだ……!〉
その内に秘められた、真の強さ。
それを発揮しようとするほど、全体が垂れ流れ、
〈もっと遊びたい…!もっとずっと、遊んでいたい!もっと!もっと!もっと、もっと、もっと、もっと、もっともっともっともっともっと…も…っと……も…と……も………〉
アツアツの溶岩みたいに、地面へと延び広げられ、
超高温の水溜まりとなってしまった。
「悦べよ、モンスター」
降下部隊の隊長は、汗が伝う片頬を歪めながら、
「誰でも一度は夢見る死に方。腹上死だ」
軽蔑を籠めて見下ろしていた。




