648.死……死なな……死ぬ……死なな……
『オメガ-1、敵性特異動体からの一斉砲火を確認中。被害を報告せよ』
“千総”本体から、少し離れた高空。
巨大な蝶の群れに守られた、一機のヘリコプター。
それは威力偵察の結果や、味方の情報を上げる為の、観測手として配置されている。
最高性能のカメラやレーダー、通信機器を詰め込まれ、乗っている隊員も大抵は、五感に優れた者が選抜される。
『各N部隊、及びR中隊、依然健在。作戦続行に支障なし。目標へと進行中。進度は予定よりやや遅延』
報告を聞いて、前方指揮所の戦闘団長は別働隊に追加指示を送らせる。
「地下のP小隊に作業を慎重に進めろと伝えろ。ギリギリまで目立たせるな」
「了解。P01、CP、隠密性を徹底させよ」
簡易テントの中央に置かれた台上に、3Dの地形図が投影されている。
敵性特異動体を示す赤いアイコンが居る地上と、現在Pポジションが破壊工作を行っている地下と、大きく分けてこの2層。
都市が“千総”によって改造されていることを考えると、地下から攻めているのも気付かれていると考えていい。
が、今のところは、ただの多方面攻撃の一環と、そう思わせなければならない。
彼らが何か、特別な仕込みをしているのではないか。
奴がそれを考え始めるまでの暇を、出来るだけ長く稼いでおきたい
幸いにも、“千総”が高度な知性を持つとは言え、その位格は享楽的戦闘狂らしい。
協力させた警視庁所属のプロファイラーからも、目の前の刺激に心奪われる短絡さ、そう評されている。
獣と比べても扱いやすい相手。
好みが知れ渡った幼児のようなもの。
遊びに夢中にするくらいなら、簡単だろう。
その「ベビーシッター役」である空挺部隊が、そろそろ“千総”の体表に取り付く頃合い。
だがレーダーは、まだ大半が散っていると示している。
「オメガ-1、現在空挺部隊の目標到達予定時刻。状況を報告せよ」
『CP、こちらオメガ-1。目標からの反抗、極めて頑強。各地上部隊の進行に停滞発生』
水の抵抗や質量、荒波とで、投射物を無力化することに長けた魔法を、様々な魔具や能力で強化して運用し、それでもなお押されるか。
流石にill。例外だらけの存在。
こちらが用意したスケジュールに、素直に従ってくれるほど、手のかからない子ではなさそうだ。
さて、敵の火力が予想を超えたとなると、こちらも手を打たないわけにはいかない。
幸いこの作戦の進行管理は、それなりに優秀な人間の手の中だ。
「戦闘団長!」
そら来た。
「幕僚長からです!作戦をフェーズ2に移行せよと!」
「了解。B01、CP、バントウ作戦フェーズ2。投射開始、繰り返す、投射開始、送れ」
『了解。瀧乃野各B、こちらB01、射撃開始!射撃開始!』
“千総”から数十km離れた駐屯地。
県境すら跨いだそこで、数m級の土木作業用スーツを装備した、否、“乗り込んだ”隊員達が、その背丈ほどの巨大な弓を引き、魔力の杭を撃ち出していく。
“杭打ち補助機能付き魔具”という建付けで法をすり抜けたそれらは、人間単身では考えられない程の長射程を、B達に画一的に与える。
『朝折各B、射撃開始!繰り返す、射撃開始!』
また、より近いポイントでも時を同じくして、遠隔魔法持ちの隊員達による一斉投射が開始。
こちらからは、変身した蛇や竜の火球水球、完全に魔法で構築された弓矢、嵐によって加速した連射攻撃など、様々な物品が発射され、先頭のカラス型眷属に先導されて、飛距離を伸ばしつつ到着のタイミングを合わせられる。
『弾着10秒……8……7……』
〈おっ、来たねえ?〉
自らやビル群から飴色を噴水も斯くや思われるほど周囲に放出させていた“千総”は、その逆向きの流星達の行き先に来訪者達を追加。
『4……3……弾着、今!』
命中直前。
ローカルの効果によって一発一発が丁寧に、そして同時に撃ち落とされる。
巨大モンスターの周囲で、派手な花火が立て続けに上がったものの、それらは本体に触れる前に炸裂している。
「目標、遠隔投射撃墜!」
『こちらオメガ-1。確認出来た命中は5発。効果は軽微。目標健在』
「怯むな。各B小隊に通達。このまま押せ。第二射用意!」
その殆どが相殺され、一部が当たれど砲身が幾つか破損して終わり。
そのレベルの損害だが、しかし無視できないものがある。
〈そういうことか。やるね〉
砲身を折られてしまうと、その一瞬だけ火力を奪われ、地上部隊の接近を許す。
そして“千総”は、今のを全弾叩き落として、無傷な体を見せてやるつもりだった。
何発かすり抜けられるとすると、話が変わってくる。
その煩わしいちょっかいを防ぐ為には、より強く速い弾丸に対処させるか、撃っている奴らに撃ち返すか。
どちらにせよ、他よりエネルギーを持たせた弾で、反撃するということになる。
となれば、そちらに割いた分、近くの敵への圧が弱まる。
特に降下部隊は、薄くなった弾幕を躱し、確実に到達することだろう。
〈なら戦い方を変えるだけだよ!〉
翼が開かれ、マルチミサイルの斉射。
その内側で、飴色の球体フィールドが作られる。
〈PooooooOW!〉
羽ばたきか、それとも魔力を噴射したのか。
羽根を散らす球体が、巨体に見合わぬ急速浮上。
体当たりで隊員を狩らんとする!
彼らを守る大波は、大球に突っ込まれ、内側から魔力ミサイルを撃たれ、蒸発させられていく。
地上のR達にも、火山噴火と同程度に酷い火の雨が降らされ、それらの幾らかは波を迂回し、機材を燃やすどころか融解させ、ぶつぶつと穴を開けていく。
〈全滅!壊滅!殲ッ滅ッだッ!〉
銃砲ビル群からの弾幕も併せて、降下部隊には避けようが——
〈うん?〉
よく訓練されたN達。
空中制動もお手の物。
魔具でエネルギー刃を作り、弾いてもいる。
それでも、当たる。
何発も、飴色が命中する。
マッハ単位の攻撃なのだから、当然だ。
だが、落ちない。
死なない。
紅色の装甲が、彼ら全員を守っている。
「物作り」と「戦人」、その両面を持った一族。
現場肌の神格化。
強い防御力と、装備者にのみ視認可能な、エネルギー反応検知及び、それを元にした予測線表示能力。
壌弌の魔法が、何発か耐える余地を残している!
そしてその間に、防衛隊側の遠隔魔法投射。
それらが“千総”ではなく、複数のビル群を同時に破壊する。
丁度周囲の、最も近い場所に建っていたものを、優先的に。
〈おいおーい?いきなり外堀埋めかい?興醒めじゃあないか、そう、いう、の〉
少し落胆したかのように、脳から熱が引きかけたその時、
『R01!CP!作戦をフェーズ3に移行!バリケード展開!繰り返す!バリケード展開!』
地を這う部隊が、バリケードを広げて立てる。
勿論、ただの遮蔽ではない。
注連縄と紙垂が組み込まれ、2点の間に掛け渡され、“境界線”を生み出す道具。
“38式折畳バリケード型結界生成魔具”!
その面を縦に延長したような、エネルギー分断、反撥の壁が高々と建ち、降下部隊を目掛けて飛んだ、巨大球にぶつかり止める!
〈イッテ!〉
その魔具は効果を発揮する時、同一座標上に固定されている必要があり、移動中の誰かを守れたりはしない。
長期的に見れば燃費も最悪。
だが拠点防衛など、一箇所に留まるなら戦いなら、使いどころがある!
『目標、キルポイント1に誘導完了』
そしてその場所に来るように、彼らはデカブツを誘っていた!
『囲い込め!』
『キルポイント1に固定中!』
『敷設作業急げ!』
他のバリケード兵が、地を削るほど素早く動き、境界線同士を連結させていく。
殺戮廃墟と化した都市に、八角形の禁域が生まれる!
『目標、キルポイント1に固定完了!』
『作戦をフェーズ4に移行!』
『対投射物魔法の再詠唱急げ!』
『P小隊は作業を早められたし!』
決めたものだけ通す壁。
それ越しに囲んで殴る!
“千総”シティがバリケードを破壊しようと火力を集中させ、更に眷属達を分離させて防衛隊を包囲!
防衛隊はバリケードを守りつつ、内側の“千総”本体を殺処分に掛かる!
長距離砲撃による他国への被害も完全に止めて、
illモンスターを型に嵌めつつあった!




