647.覚悟……な、なんか、覚悟極まり過ぎじゃない………?
『各B小隊、遠隔魔法投射陣地に進入完了』
『各R中隊、簡易陣地敷設・展開準備、及び重機搬入準備完了』
『Q小隊、準備完了』
『各P小隊、掘削開始地点に進入完了』
『第一から第四降下N部隊、間もなく現着』
『目標に接近。会敵予想時刻まであと3分』
『オメガ-1、観測地点にて待機、作戦開始を待つ』
『了解、待機維持せよ、送れ』
『イ01、こちらCP、送れ』
『CP、こちらイ01、送れ』
幾つかの護衛機に先導され、大きな2翼を持った高速輸送飛行機が、上空から丁都に入る。
「護衛機」と言っても、銃器で敵を倒すのではなく、搭載魔具で盾になる役割の二人乗り小型機。
特化した魔法が無くとも空を飛べて、通信機も一緒に積めるので、鳥や竜に変身する潜行者よりも、汎用性に優れている。
まあ、巨大な鳥や幻想生物に変身して、随行している者も居るのだが。
『イ01、CP、ロ01から04はそのまま直進、目標との距離1000で降下開始、送れ』
『CP、イ01、了解、降下準備』
その格納ブリッジには、2~30人の兵員が並んでいる。
「作戦説明で寝ぼけてやがったアホはいないな?」
彼らの正面に立つのは、空挺部隊長。
壌弌の姓を持つ、本作戦の要の一つである。
「奴さん、異国から遥々、的当て訓練のご協力にお出でくださったらしい!戦場では一言礼をしておけ!」
「隊長、冗談でしょう?」
「あのデカさですよ?あれを外すような奴は、ウチの隊に居ませんよ」
「来てもらってなんですけど、訓練になりませんって」
「違いない」
未曾有の強敵を前にして、彼らの筋肉は表情と共によく解れている。
これからスキーに行くかのような気安さで、阿鼻叫喚への降下準備をテキパキ進める。
「まあいいだろうさ!世界で誰も討伐したことのない、歯応えのある強敵に、魔法をぶち当ててやりたいとか抜かす、お前達半人前どもにとっては、二つとない有事だ!」
人ではないから、心も痛まない。
弾無駄遣いの心配も少ない。
世界中に銃口を向けているが故に、どれだけタコろうと苦情は入らない。
考えられ得る限り最高の敵と、死ぬまで踊り明かしていられる。
「ご親切にも胸を貸してくださるそうだ!ご厚意に甘えてキッチリ止めを刺して差し上げろ!」
「「「「「了解であります!」」」」」
『会敵予想時刻まであと2分』
その時が近づいてきた。
皆が装備の最終チェックを完了する。
「ちなみにだがな!ビビリだって言い出しにくくて参加したクセに、本番で尻を引きやがった肝の細え奴は、考課に特大の罰点食らわしてやる!怖え奴は昇進に響かねえ今のうちに名乗り出ろ!」
最後通告。
一人残らずその表情を見て、皆が本心からここに残っていると確認。
「お前らの仕事はッ!?」
そしていつものお題目へ。
「はっ!市民様より先に死ぬことでありますッ!」
「そうだ!俺らにムショみてえな寝床しか寄越しやがらない、薄情モンな文民共の為に、その心臓投げ売りしてやることだ!奴らが殺せと言ったなら!そのご下命通りに人でも畜生でも化け物でもぶっ殺ぉすッ!それが嫌だって常識人は、そいつも実戦じゃ減俸間違い無しだ!今申告しろ!」
「いいえ!憤懣はあれど、不満はありません!」
口汚い暴言によって、士気が寧ろ上がっていく。
男女問わない強者達が、口の端に笑みを揺蕩わせる。
『会敵予想時刻、及び作戦開始予定時刻まで、あと1分』
彼らはハッチの前に並び、それぞれが棒状の魔具を手に取る。
それはよく見ると、全長の半分程まで、中心部分が開いており、二股の先端を持っている。
『ハッチオープン!』
窯の蓋が、開く。
眼下には無残に変わり果てた首都圏。
ビル群が崩壊し、一度平らに近くなった後、木々の生育を早回しするように、銃砲の塔がニョキニョキと生え揃っていく。
それを見てある者は義憤を、また別の者は闘志を燃やす。
『“バントウ作戦”、フェイズ1を開始する。降下開始、繰り返す、降下開始、送れ』
『CP、イ01、了解、降下させる』
物が詰まったリュックサックと同等に大きな、四角く硬いパックを背負った者達が、足並み揃えて飛び降りていく。
背中からジェットを吹かしながら、姿勢を棒めいて鋭くし、最短最速で地面へ向かう。
誰よりも速く、何よりも危険な方へ。
彼らは自死するのか?
半分イエスで、半分ノーだ。
彼らは死に自ら近付いている。
だが死ぬ気は毛頭ない。
勝って、守って、生き残る。
その全てをやって、一人前。
それが丹本防衛隊。
『降下N部隊、予定時刻通りに行動開始を確認。各R中隊、陣地敷設・展開作業開始、送れ』
『CP、R01、了解、作業開始する』
地上では折り畳み式バリケードを持った歩兵や、巨大な装置を牽引したトラックなどで構成された、Rポジションに当たる者達が発進し、“千総”シティに踏み入る。
地上と、空。
二方向から強襲されて、けれどそいつに焦りなど無い。
〈来たね!|帝国議会《Imperial Diet》諸君!〉
楽しみの到着を歓んでいた。
馴染みとの再会を祝っていた。
彼らをずっと待っていたのだ。
その旧称が使われていた頃からずっと、彼女は彼らが大好きなのだ。
地平線の向こう、数千キロ先を見るのをやめて、ホームパーティーのホストのように、玄関先での歓待に向かう。
まずは景気づけに一発。
〈これを受け止めて見せてよ!みんな!〉
地から、塔から、その身体から、無数の銃口が刺々《とげとげ》しく伸び、
ほとんど一斉に火を噴いて、
ちっぽけな寄り合いを爆ぜ散らかす!
〈開戦!〉
夢にまで見た日がやって来た!
“千総”は火薬を奏で、
ソニックブームで晴れやかに歌う!
爆煙と、それから白く埋めるほどの湯気。
それら沸騰の痕跡を破り抜け、一人も欠けずに全速行進!
彼らの前を守るのは、十数mの巨大な津波!
ぶつかる銃器を折り均し、通った跡はペシャンコに整地!
〈波!いや、海だ!海だね!それは!〉
銃弾を受け止める水の層。
そして何より、国防の物語。
この国を狭く閉じ込めて、
様々な侵略から守った自然。
大海原という、天然の結界!
それを魔法に再現させて、攻撃を防ぎ、外を退け、
敵を解して押し潰す!
〈だけどその海があったとしても、君達は一度負けたんだ!守ってばかりじゃ干上がるからだ!今度はどうかな?今回はどうかなァッ!!〉
期待を籠めた眼差しで、会いに来るのを待ちわびていた、
乙女心に火をつける!




