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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十三章:呪いが解ける時

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646.覚悟しろよ? part2

「お待ちください!私も相対性理論について、聞いたことはあります!それをベースとして、強力な兵器の製造が可能だと言う、そういった仮説も聞き及んでいます!ですがその兵器は起爆したが最後、大気に引火し連鎖破壊を起こすことで、地球全土を炎で覆い尽くす可能性があると——」


『だがそうはならなかった』


「なんですって?」


 三枝による妙に詳しい指摘までもが、クリスティアの想定問答に収録済みである。


『言っただろう?威力も被害範囲も詳細に把握していると』

「まさか…!」

『既に実験済みだよ。結果は、今君が生きて、これを聞いている、それが全てだ』


 既に一度以上、爆発している。

 そして世界は、終わらなかった。


「場所は…!?」

『“不可踏域アノイクミーヌ”某所、とだけ言っておこう』

「それでは、爆発後の被害は、何らかの化学汚染や環境への影響は、検証が不徹底、不徹底なのではありませんか?」


 今のは、三枝の誘導が決まった形だ。

 BCD兵器や地雷のような、使った後こそ面倒な兵器。

 そういった部分の考慮や議論が、足りてないのではないか。


 それを他国に使うなど、人道的に許されないのではないか、という切り口。


『人の住む場所に、どんな影響があるのかは、落としてみないことには分からない。それはその通りだろう』

「であれば」『しかし、落とさなければ確実に、()()()!世界は混沌の渦に巻き込まれる!』


 それに対して最初のカードが、“地球人類”という人質が、再び行使される。


『落としてみれば、案外少しの犠牲と共に、当該モンスターを滅却めっきゃく処分出来るやもしれない。惨事にならない可能性は低いが、ゼロではない。けれどもこのまま放置すれば、あれが人類文明を破壊し尽くす可能性は、100%!』


 丹本の政治家としての使命。

 天秤の上に乗せるには、それはこの場で、余りに軽過ぎる。


『撃ったらどうなるか分からない!よろしい!ならば少しでも希望のある未来の為に!人類の、地球の為に!貴国はこれを容認すべきだろう!』


 波が来た。

 そう見た各国も、勢い込んで畳み掛ける。


『なんだかんだと理由をつけて、あなたは巻き添えが怖いだけだ!』


『命が惜しいのは理解しますが、この作戦には人類史上、最大の宝が掛かっています。人類の未来という、最大の価値が。その為には、責任ある者の献身が必要なのです』


『既に独自に攻撃舞台を編成し、貴国の領空に侵入させようと動いている国もあると聞きます』


『新型爆弾でなくとも、弾道ミサイルの発射を検討している国も』


『それらが実行に移せば、国家間闘争の形となり、世界に再び戦争が生まれる!』


『そしてその時、国際世論は貴国の味方をしないと、そう申し上げておこう!』


『そうなる前に、新型爆弾投入に合意し、我々と協力する形で、“千総フュージリアー”を排除するのです!』


『今ならまだ、作戦後の復興において、我々の援助を確約できます』


 そして根を張り、AS計画の足場を整えて、ということか。

 本当に、良く出来た手順である。


『失礼ながら、銃火器の一切を持たない貴国では、ダンジョン外の武力的脅威に対する解決能力に、信頼がない』

『軍事について、クリスティアのノウハウに勝るものは無いでしょう』

『ここはスペシャリストの助言に従うのが、最良の策ではないだろうか?』


 ダメ押しだった。

 三枝はマイクに乗るほど大きく息を吐き、


「スペシャリストに、従う、と?」

『はい。最早もはや国境を越えて、最適任者に一任するべきでしょう』

「なるほど、確かに、道理ですね」


 沈痛な面持ちで、顔の下半分を右手で覆い、


「これは、人類全体の問題であり、だからこそ、素人の感情論は排すべき」

『その通りです』

「このような事態にけている者に、自国民の命でも、ゆだねよと、いうことですね?」

『そうです。それが最善です』

「ここに居る皆様、全員がその意見に賛成であると」

『異議ありません』

『それが我々の総意です』


 口元だけで笑った。




 ()()()()()()()()()()()




「で、あるのならば、ここは我が国が誇る丹本防衛隊にお任せ頂ける、ということでご納得頂けたわけですね」


 「御理解、感謝致します」、

 三枝が会釈し、一同は静まり返った後、


『何を言っている!?正気か!Mr.サエグサ!』


 一瞬で騒然と沸き立った。


「ご安心を、サヴァイイを狙った砲弾は、着弾前に消滅させます。詠唱主体であるモンスターの討伐によって」

『人類にそむくと言うのか!これは許し難い裏切りだ!』

「裏切り?とんでもない!皆様方の合意内容に、忠実に従ったまでです」

『なに?』


 彼らが言ったのだ。

 このような人類規模の危機では、「国境を越えて」、「スペシャリストの助言に」、「自国民の命も委ねよ」、と。


『だからこそ、軍事の長たるクリスティアに!』

「いいえ、これは“軍事的衝突”ではなく、“特異窟害”、特異窟害であると、そう認識しております。問われるのは、魔学及び特異窟関連事案への精通です」


 その分野において、最も優れているのは何処どこか?

 例えば、銃火器を持たないクセに、潜行者の質を極限まで高めることで、諸外国に睨みを利かせる、どこぞのダンジョン先進国ではないか?


「あれは特異動体、モンスターです。モンスターは、我が丹本国が誇る、世界最強の潜行者達の、二千年来にせんねんらいの獲物です」


『そんな詭弁を…!』


「詭弁?皆様方の論理でしょう?」




 その言質げんちを取る。

 ここまでの長い長い会議ダンスは、たったそれだけの為にあった。

 少なくとも、三枝によって、そういった場に変えられてしまった。




『「あなたが」新型爆弾の被害から逃れたいから!あなたの保身の為でしょう!』


「私を守るだけであるなら、」彼はそこで顔を上げ、飴色の洪水を押し返す生徒達を見て、「明胤学園の戦力だけで十二分、十二分であります」自信を籠めて言い切った。


「新型爆弾も、彼らなら防ぎ切るでしょう。私が助かるだけなら、私はここで座していればいい。より多くの人命を救う為に、よりスマートな解決の為に、私は事態収束の手段として、防衛隊を投入するのです」


『原子爆弾を防ぐだと…!?』

『何を根拠に、そんな……!』


 これは完全なハッタリであったのだが、あまりにも真っ直ぐに断言されて、彼らは指弾を鈍らせてしまう。

 「潜行者大国ともなれば、そこまでの事を出来る秘術の一つでも持っているのか」、そういった偏見オリエンタリズムに近い畏れが、空白の時間を生んでしまう。


「我が国は、世界で唯一、ill(イリーガル)の公的な討伐実績を持つ国です」


 そして、その隙を素通しする三枝ではない。


「同じことを、また起こすだけ。放置など致しません。皆様方が守るべき各国民の生命も、固く保障致します」


 隣で秘書が、眼鏡のつるを持ち上げながら、「流石は先生……」、と色気の籠った笑みを見せ、防壁に着弾した爆音に叩かれ、悲鳴と共に頭を抱えて地に伏せる。


「素人はエキスパートに道を譲れと、そう仰るのでしたら、我が国の防衛隊なら、こう申し上げるでしょう」


 飽くまで代弁という形で、三枝聡一郎は大見得を切る。


 


「『そこ退け、そこ退け、我々にこそ、一日いちじつちょうがある』、と」




 雲を切り裂き、鋼鉄の鳥群ちょうぐんが丁都に現れる。

 使命に燃え、鉄火てっかに飢えるもののふを、その腹にたんまりたくわえ込んで。


 列島最強集団が、


 世界最高クラスのモンスターを、狩りに来た。

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