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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十三章:呪いが解ける時

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646.覚悟しろよ? part1

「今、なんと?」

『一度で聞き取りたまえ、Mr(ミスター).サエグサ』


 雷雨どころか、雷があられのように、小止おやみなく降る下。

 ファウルを要求するサッカー選手の如きわざとらしさで、三枝はイヤホンを叩いて見せて、「失礼!外の雑音が酷いもので!」、大袈裟なくらい声を出す。


「私の鼓膜がやられていなければ、我が国土に得体の知れない兵器を投下すると、そうおっしゃいましたでしょうか?」

『如何にも。それこそが我々G10の結論であり、要求だ』

 

 通訳の人間がチャット欄に速記した字幕を介しながら、液晶越しの丁々発止ちょうちょうはっし


 抱えたラップトップの画面の中、スクリーンを分割して並ぶ各国の顔役。

 自由民主主義を掲げる、陽聖諸国中心の先進国首脳会議。

 今回はそれを、オンラインで間に合わせた。


 この緊急招集は、今回の事案が「国際的な危機」だと判断されている、ということを意味する。


 その理由は、


『先程クリスティアのサヴァイイ諸島に向けて、丁都からの長距離砲撃が観測された』


 数分前に発射された、一発の砲弾。


『今のところ減速は見られず、このままでは1時間強の飛行の後、我が国土に命中するものと予測される。無論、我が軍の威信を懸けて迎撃する手筈だが、問題は6000kmという距離が、丁都に居座るモンスターにとって射程圏内である、という点だ』


 地球の最長外周の、7分の1超。

 それだけ離れていることが、「狙われない」理由にならない。


 あのモンスターは、地上のどこまでを視野に収めているのか?

 次撃たれるのが、政府の中枢施設ではないと、どうして言い切れる?

 

『更に、砲撃は継続している。我々は後手ごてである上、完全な着弾予測地点を割り出せず、その範囲は数kmに及ぶ。それがまとを変えて、既に複数発ふくすうはつ飛来している』


 対岸の火事が、谷を跳び越え会いに来た。

 クリスティアは完全な当事者となり、他の国々も他人事ではいられなくなった。


『このままでは、世界各地で甚大な被害が生じ、それらが紛争やフラッグを連鎖的に引き起こす。最早もはや、これはモンスターからの大規模攻撃、人類の危機と言っていい!故に我らは、最終的な解決策を取ることとした』


 「取ることとした」、か。

 三枝は苦虫を噛み千切る。

 

 もう決まったことであり、丹本も当然合意する事項である。

 そういう言い方だからだ。


『国連多国籍軍を緊急編成し、新型爆弾を搭載した弾道ミサイルによって、当該モンスターを討滅とうめつする!』


 「冗談じゃない」、という言葉を二匹目の虫と一緒に噛み殺して、三枝はつとめて冷静に返す。


「まず、我が国の防衛隊の戦力を信頼して頂きたく——」

『一国の面子メンツにかかずらわっている暇などないと、そう言っているのが何故分からない!』

『貴国は世界の一般市民、いやさ全人類を危険にさらすおつもりか!』


 頭の痛い話だ。

 「国連多国籍軍」とやらが、既に攻撃準備に入っていそうな気配が、とりわけ健康によろしくない。


 話がトントン拍子過ぎる。

 どうせ既定路線だろう。


「市民と言うのであれば、私も我が国民の生命・自由・財産を守る責任、責任を負っております。これをいたずらに散らす決断を、わたくし丹本国内閣総理大臣が、くだしていい筈がありません」


『君はニホンの代表である前に、人類の一人だ』

左様さよう。人類の存続に寄与きよする、その責務はどんな人間であれ、この世に生を受けた時から担っているものであろう』


「責任という文脈で、もう一つ言わせて頂きたい」


 三枝はなんとか、議論の矛先を返そうと苦闘する。


「クリスティア合衆国大統領。貴国はill(イリーガル)モンスターを密かに戦力として保有し、権勢に資するようもちいていたばかりか、その暴走を許し、このような事態を引き起こしている。その責を、何ら関わり合いの無い、我が国民に背負わせると、そういった理解で宜しいか?」


 反撃の糸口は、ここだ。

 各国の疑心をクリスティアに向かわせ、突き崩し、合意が白紙に戻った雰囲気を作る。


 時間稼ぎさえ出来れば、勝つのは彼らだ。


『我々が彼女の正体を見抜けなかったというのは、認めよう、事実だ。しかしながら、誰がそれを予測できたと言うのかね?』


 当たり前だが、大国クリスティアのトップにとって、こんな小手先は予測済みである。


『それは諸君も同様だろう。彼女と面識のある者が、世界にどれだけ居て、正体を疑った者は、その中の何人になるだろうか?モンスターが人に化けている?発想すらなかったのではないかね?』


 見事な責任回避。

 そして何より、さり気なく「クリスティアは何も知らなかった」というのを、既成事実にしようとしている。


 「分からなかったのは仕方ない」、その方向で戦い、「知っていたかどうか」については否定すらしない。


 それにより、「知ってて隠していた」という可能性が、最初から取り上げられない流れになっている。


 最初のターゲットとしてサヴァイイ州を撃たせたのも、被害者ポジションを取る為のアリバイ作りに違いない。


 それにあの島々には、他国からの観光客、特に丹本人が多い。

 丹本の内閣総理大臣が、「うちの国民の方が大事だ」と切り捨て難くなるような場所を、絶妙に突いている。


『とは言え、我々はそこに、非常な呵責かしゃくを感じている。「どうして気付けなかったのか」、「正体を暴いた後に、どうして取り逃してしまったのか」、とね。だからこそ、その罪と真摯に向き合い、ケジメを付けようと言うのだよ』


 「我々の過ちは、我々の手で正さねばならない」、

 彼は堂々とそう結ぶ。

 

 無論、この会議に出席した人間の過半数が、何なら全員が、「いやお前最初から知ってただろボケナス・クリスプゥッ(クリスティア人)!」と、そう思っている。


 が、「自国の安全」と、「丹本の立場弱体化」という、利害の一致を見ているので、この場では誰もそこを突かない。


 このテロ騒動は、最初からそこに着地させる腹積もりだったのだろう。

 「自国内の問題の収拾に失敗し、他国に迷惑を掛けた上、尻拭いもさせてしまった」、そんな主権国家は、発言力を殆どゼロ近くまで取り上げられる。


 AS計画という、パラダイムシフト。

 それに歯止めを掛ける者の最有力候補であり、その後の社会でクリスティアと同程度まで成り上がり得る脅威でもある、丹本。


 それを叩くということで、一致団結した連合。


 「人類が協力し合う為の共通の敵」、その座に認定されたのは、何とも光栄な話だが、出来れば捨ててしまいたい栄誉だ。


「いずれにせよ、我々が呑めるのは派兵までです。効果の保証も無く、被害範囲も分からない。そんな兵器を我が国民に向けて撃つなど、到底とうてい、到底容認出来るものではありません」

もっともな話だ。だが、君は思い違いをしている』


 合衆国大統領は、髪の毛一つ乱さずに言い切る。


『威力は他に並ぶものがないほど折り紙つき。被害範囲も算定が済んでいる。全て詳細に』


 まるで日頃から、「丁都にこれ落としたらどうなるんだろうねー?」、というシミュレーションを重ねていたかのような、準備の良さである。


「その兵器の情報を、せめて概略だけでもお聞きしたい!我が国にはその権利がある!」


『良かろう!如何いかなる敵であっても、生物であれば確実に殺すことのできる、現在の人類が持てる最高火力!いつか太陽に到らんとする、えいの炎!』


——その名は




原子(Atomic)爆弾(Bomb)!』




「原子…!それは…!」


 核兵器!

 なるほど、()()()()()()()である。

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