表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十三章:呪いが解ける時

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

877/980

645.こいつほんといい加減にしろよ!!

 飴色が、降る、降る、降る。

 黒が、喰う、喰う、喰う。


 収納し切れず、袋の尾を突き抜けた流星。

 それを弾くは、同色の残軌ざんき


 門を通した飴色を、別の口から出しながら、

 その黒色ごと破壊力を、振る、振る、振るう。


 震える。

 のうしん脳震のうしんが来る、来る、狂う。


 火の矢の洪水を翼から、さらに洗い流すべく浴びせかけ、

 けれど塵芥じんかいの一つぽっちが、こびりついて離れない。


 何度スポンジでこすっても、皿に居残る黒い点。

 爪を立てても、金属でこすっても、綺麗に消えてはくれなくて。


 これは、

 これは汚れではない。


 これは、きずだ。

 白い皿の表面に、ぽつりとひらいた些細な“欠け”だ。


 ならば、洗うのでは駄目だ。

 これを無くすには、二つしかない。


 直すか、

 それとも壊すか。


 その女にとって、選択とも呼べなかった。

 その手の中にある手段は、いつだって一方通行だから。


「壊そうか!」


 両手の多連装ランチャーを撃ち、両足で50口径小銃のトリガーを引きっぱなしに。

 

「粉々に!きずだ“欠け”だが気にならなくなるまで!」


 両耳からも短機関銃を連射。

 飴色が全身を包み、シャープな鎧と一対の翼を作る。


「Good Luck!Hard Lack!」


 だがそいつのやりたいことは、攻撃である。

 即席のアーマーは、高機動能力を得る為であり、ガンめ手段の一つでしかない。


 その飛翔は、直線のみで構成された図形を描き、

 その中心、球体に近い飴色の塊に、満遍まんべんなく爆炎を振りかける。


「やかましーーーーんだよーーーーッッッ!!」


 それを経線けいせんに沿ってパックリ割る炎尾えんび一閃!

 そこから飛び出しつばめの如きスレスレのターンを決めて、上下逆姿勢で詰めて来るのは、掌印を結び続け楕円ゲートを操る吾妻!


「効かねーっ、って、言ってんだろーがーーーッ!」


 ブーツが、

 その裏に開かれた黒色が、頭部目掛けて振り下ろされる。

 翼が削り取られ、空いた部分からそくとう蹴りをじ込まれる。


 だが機関銃がそれを撃ち、ゲートの許容量を超えて靴底を叩く。

 ブーツの踵に別のゲート。

 楕円の中から炸裂した飴色の爆発。


 その反動を使って、吾妻は足の軌道を直角に変更。

 相手の鎧の一部を抉りながら飛び離れる。

 

 吾妻に利用された爆発が、大きくUターンして再び彼女を追う。

 それをゲートに通し、その出口をたった今突っ込んで来たバイク型の中程に開く。


 手頃な傾斜をジャンプ台にして跳躍してきたそいつは、前後真っぷたつにされながらも、ヘッドライトの両脇から生やした銃身で、最後っを乱射する。

 

 それをまたゲートに通し、足の裏から噴出させ、他のゲートで受け取れ切れなかった飴色にぶつけ、或いは飛行の為の推進力として使う。


 空間に満ちる全てが、彼女を狙っている。

 殺して焼いて砕いて溶かそうと、躍起やっきになっている。


 だからこそ、彼女の反撃が強くなる。

 吾妻はその全てを、自分の為に使うことが出来る!


「ああ!いいね!凄く!最高だ!」


 飴色で全身コーティングされたヘリコプター型が突っ込んできて、ローターブレードで切りつけてくる。

 一度敵の砲火を纏ったキックで削った後、同じところをゲートで呑み込み、ぶった切ってやる。


 同様の二重攻撃で、あちこちを破損、破断させ、撃墜していく!


「何がそんなにオモシレーんだよ!オメデタイ頭してんな!クソアマがッ!」

「何が!?何がだって!?君には分からないのかい!?」


 二人は燃ゆる残影ざんえいを絡み付かせながら、灰色の雲に曲がりくねる螺旋を描く!


「僕にはもう何も無い!地位や仲間と一緒に、しがらみも無くなった!」


 そいつは楽しんでいた。

 敵との激しい撃ち合いに、よろこんでいた。


「どうだい!この放漫さ!解放感!分かってくれないかな!僕を見て、感じてくれないかな!」

「キッショいんだよサイコキラーが!」


 強くなる為でもなく、偉大になる為でもなく、

 殺し殺されの実感が欲しくて、憎悪のガソリンに放火する。


「自由!君らの言語の、特に好きな部分!『銃』響きが似ているからさ!」


 己を高め、可能性の極限に達する。

 どちらもそれを志向しこうし、嗜好しこうしている筈だった。

 

 ならば、この断絶はなんだろうか。

 どうして吾妻は、そいつを理解できないのか。


「銃は自由の象徴なんだ!革命権(Rebellion)!誰でも強者にノーと言える権利!覚悟で世界を変えられる力!」


 それはある種、他者の扱いの差であった。


 吾妻にとって、他者は屈服させるもの。

 彼女の偉業を認めさせ、彼女の正義を呑ませる相手。


 では、そいつにとって、

 “号砲雷落ワールド・ウォー”にとっては?


 他者とは、同じ祭りを盛り上げる仲間。

 同じく殺し殺される、一心同体の共演者。

 真実を共に描写する、いとしき共同制作者。


 敵であろうと味方であろうと、全て同志、全て等価値。

 「殺せば死ぬ」者。

 「殺して生きる」者!


「ダッダダダーダ…!ダッダダダーダ…!」


 口ずさむ。

 生命の賛歌を。

 

「ダダダーダ…!ダダダダーン…!」


 死出しで挽歌ばんかを。

 混沌の凱歌がいかを。


「今が一番、僕が僕らしくれる時間!」


 両手に指ピストルを作り、カメラの画角をはかるように、長方形を作り出す。


「Para Bellum!明後日の戦争の為に!明日の平和の為に!今日は饗宴きょうえんの準備をしよう!」


 飴色の弾道が、その背後に光背こうはいを生み出す。

 

「今日こそきょうえん支度したくをしよう!」


 六芒星魔法陣を、幾つも組み合わせた図形を引いていく。

 銃撃とほうしゃでダンスパートナーをあしらいながら、

 たかぶりのままに詠唱を結ぶ!


 いくさ乙女おとめの行進曲を!





「“合衆国憲法ドッドドドード・バラララーラ修正第Z条・ブブブブゥーム・ピカドカーン”!!」




 1キロ先にすら熱風を届ける大爆発。

 建物数棟(すうとう)を巻き添えにしたそれが、火山のような噴煙ふんえんを吹き上げ、

 その中に数十m級の巨影きょえいとどろく。


 厚い幕を切り裂いたのは、飴色をした融熱ゆうねつ間欠かんけつせん

 現れたのは、銃身を束ねた2本腕の戦車。


 大きさも形も異なる砲身、それを何百も針鼠の如く生やして、どこからどう見ても射殺欲を明示。


 上半身は滑らかに動き、背からはステゴサウルスのひれめいて、高射砲らしき物が乱雑に並び突き出る。


〈Yes!It’s me!No Future!“千総(Fusilier)”!!〉


 怪物はひときののち、背から学園中を一斉迫撃(はくげき)

 雨滴あめしずくが地面に着くすら許さず、残さず気化させ飛ばしてやろうと、高密度の弾幕を展開。


〈弾薬Full Full Full MAX!〉


 上体の先端、操縦席のような、細いガラスが張られた部分。

 その下が大きく開く様は、そこが口腔こうこうだと主張するかのよう。


 中から戦艦も青くなるような巨大口径砲が伸び、それが上下に開いて内側からまた伸び、そうやって砲身ほうしんちょうと射程を確保したそいつは、東の空へと一発放つ。


 積乱雲に穿うがった穴が、衝撃波によってまあるくひろがり、そこだけ見えた青色に、飴色のいっしゃが吸い込まれていく。


 その号砲は、何を始め、どこに着いたのか。

 それは思いのほか、すぐに分かることだ。


〈折角だし、もっと参加人数増やして、盛り上げよっかぁ!!〉


 戦車の下で、再度巨大な爆発。

 数対すうついの翼をはためかせ、底から生やした砲口から弾頭連続発射。

それらの反動で、空を満喫まんきつするill(イリーガル)


〈僕がたのしむ自由の為に!〉


 “千総フュージリアー”は、学園を出て、市街地に向かった。

 もう市民も“純粋自由派モンタグナルド”もなく、ディーパーも漏魔症罹患者もなかった。


 ただ、蹂躙される者達があった。


〈全部(まと)めてここで死ね!〉


 死にひんし、死を受け入れるか、死をいといながら死ぬか、

 生を求めて抗うか、その上でやっぱり殺されるのか。


 そいつは降り立ってすぐ、全身から飴色の線を放射した。

 半径数百mに及ぶ針山は、狙いあやまたず範囲内の人間を撃ち抜いた。


 ビルに穴が開き、折れ倒れる。

 補強された地面が掘られ、地下鉄車両が蛇のように跳ねる。


 それら瓦礫や破片、衝撃波にあおられた物品が、残らずローカルの適用を受け、更に外側の生き残り達に向かって、誘導弾化して襲撃する。


〈さあ!どうするんだい!どうするつもりなんだい!どうしてくれるんだい!〉


 都市を更地に近づけながら、

 丁都に無人の荒野を作りながら、


 怪物は嬌声きょうせいを上げ、待ち人にがれる。


〈待っているだけじゃ死んじゃうよ!守ってるだけじゃ勝てないよ!〉


 一秒たりとも止まらぬ飴色の土砂降り。

 それで一帯から生命の概念を排除し続けながら、


〈さあ!さあ!さあ!さあ!〉


 そいつは待つ。

 逢引きの相手を。

 戦争の対手たいしゅを。

 

「クソが……、ドグサレ外道がよ……」


 楕円ゲートを重ねた傘の下、吾妻は毒づき舌を打つ。

 何故なら、またしても手柄を取り損ねたからだ。


「美味しいトコは、あっちに持ってかれるのかよ……!クソイラついて、必死こいて殴り合って、これが、」


 彼女が見渡すのは、破壊の限りを尽くされ、好き放題(はずか)しめられた、人類の歴史の堆積物。


「これが、戦果かよ…!割に合わねーぜ…!」


 彼女はもう、出ていけない。

 今ここに居ることさえ、権限ギリギリだ。

 勿論、「ギリギリアウト」という意味。


 これは五十嵐の独断専行による出撃。

 あんな目立つところに、ノコノコ現れのは流石に無理だ。

 誤魔化しや忖度そんたく目溢めこぼしにも限度がある。


 特に、これから“彼ら”が来るなら、そこに割り込んで討伐計画を乱すことは、要らない面倒や反感を買うことになる。


 今や問題にすべきは、彼女が行くかどうかではない。

 「彼ら」があと何分で、ここに現着してくれるのかだ。


「さっさと来いよ…!1秒ごとに死にまくってんぞ…!」


 功への焦りや、湯水の如くあふれる被害。


 それらにもどかしさを感じながらも、

 指をくわえるしかなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ