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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十三章:呪いが解ける時

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642.焦燥感を抱かせたもん勝ち

 円斧えんふが回転し、車輪のように迷宮内を駆け巡る。

 その刃が纏う電流路から、四方八方のライトイエローに、短時間の絶縁破壊が起こる。


〈ゲラッゲラッゲラッゲッ!!〉

〈キハハハハハハハハgッ!〉

〈ブハハハハオオオオッハハハハばっ!〉


 殺戮円盤はそうやって、周縁しゅうえんから雷をあちこちに落とし、笑いの絶えない大口おおぐち、“プーカ”共を薙ぎ倒し、幾周も斬撃を走らせる。


 その高機動型悪天候と時折交差する、光の紐を全身に巻き付けた鎧と、その一本に引っ張られる五つの塊。


「や、ら、れ、ちゃ、えッッッ!!」


 球形の電流迷宮の端から端までを繋げる雷閃らいせん

 何体か空飛ぶ長髪を巻き込み、中央に構える獅子舞の背を打つ!


「どーお!?ちょっとは効いた!?」

「やれてないぞ!」


 小さなパーツの複製量産で作ったボウガンから放たれた塊は、電流を纏いながら獅子舞の頭部を目掛ける!

 だがそちらにラクガキのような顔がくるりと振り返り、髪の毛のネットで攻撃を絡め取り、何回かにわけてバリバリと攻撃を咀嚼してしまう!


「俺の魔法の威力低すぎだろ!このパーティーほんと気まずいな!」

「どうでもいーよッ!やれるまで何発でも撃っちゃえばいーんだ!」


〈残念ですが、それでは勝ち目などありません〉


 獅子舞は四つ足歩行から、前2本に体重を預ける姿勢変更、胴体の後ろ部分を振り上げ、振るい回す!


〈私の能力を貫くには、その程度では〉


 迷宮を構成する電流路が分断される!

 よく見るとそれは、獅子舞に触れた部分が亜麻色に変わり、虚空に吸い込まれるように消えている!


「力を吸ってる!」


 壱前灯が使っていた魔法の効果!


〈そして、こういうことも出来ます〉


 大口が開き、そこから飛び出す数珠じゅずのような連結体!

 亜麻色のジェット推進噴炎(ふんえん)を背負いながら、口を開閉しつつ四角形の面を作って直進してくる、無数の丸い頭部!


「乗研先輩が言ってたV型だ!」


 それらが視界一杯を埋めながら彼らに嚙みつかんとしている!

 当然6人それぞれで迎撃!

 十全の火力とはいかないまでも、数個を破壊するか横に逸らすことは可能!


 そして擦れ違おうとしていたその時、

 獅子舞が弾かれるように首を下ろし、

 その喉奥から繋がるビーズ・プーカの配列が変化!


 2度、3度、4度!

 頭が振り子めいて動くのに合わせ、ニヤけ口が巻き付くようにプロト達を襲う!


 更に、それらの軌道は、獅子舞の動きだけでは予測できない。




     魔力による                  に押し出す

 亜麻色の     ジェット        バ バ  向     こ

              噴射が  カ達を ラ ラな方      と

                 プー              に

                      撃攻けつき      よ

                   っ と    叩     っ

                るいて な    な     単て

              !!         雑     な

                          複に上以鎖る




「もおおおおおお!!」


 電流路で撃ち据え雷で刺し焼き、斬撃や射撃や反撥はんぱつ、爆発!

 手を尽くして猛攻を耐えながら、隙を見て反撃の閃光が獅子舞に落ちる!


 だがそれも表面の布に穴を開けるのみ。

 内側での手応えをまるで感じさせない!

 

 どころか!


「おい!ビーズのスピードが速くなってるぞ!」

「これ!こっちの攻撃が吸収されるどころか、利用されてる!」


 彼らが気付いた通り、獅子舞にぶつけられたエネルギーの全てが、そいつが繰り出す攻撃の補助として利用されているのだ。

 

 彼らが行動を起こすほど、逆に不利になるように出来ている!


〈どうですか…?〉


 プーカの鎖で迷宮を引き裂きながら、“鳩槃カウンセラー”は生徒達の様子を窺う。


〈あなたなら、これをどうやって崩しますか?〉


 当てられた生徒が、出題へ応答するのを待つ、黒板前の教師のように。


〈申し訳ありませんが、試験時間はあまり長く用意してあげられません〉


 プロトは喉に違和感を覚える。

 喉だけではない。

 首の肉が、チクチクとした感触を訴え始めている。


〈苦しい、面倒、れったい………。私の能力、ダンジョンに、そういう気持ちを抱いたでしょう?〉


 「自然なことです。そうなるように出来ているのですから」、

 彼が言う通り、そこは意図的に、神経が磨り減るよう設計されている。


〈つまり、あなたはこの場所のせいで、《《不快になった》》……〉

「!!」

〈あまり悠長にしては、いられませんね〉


 プロトの首に掛かった縄が、実体を持ち始めている。

 加えて、それを認識させ、彼女を焦らせることで、効果の進行は加速する!


〈さあ、次が来ますよ?〉


 プーカの鎖が打ち下ろされる!

 尺取虫のようにくねったそれは直感と反する形状に変化し彼らの前に立ち塞がる!


 前に右に左に上に下に後ろに!

 取り囲む!

 防御フィールドを噛み割る!


〈これで、仕上げです〉


 獅子舞は頭を斜め後ろへ。

 鎖に結び目が出来るように引っ張った。


 プレゼント包装めいて、6人は歯並びに閉じ込められる。


 勝負あったか。


「まだ!」「まだアアアッ!!」

 

 ビーズの幾つかが鎖から千切れ飛んだ。

 電流路を纏った足と爪が現れ、それらが穿った間隙かんげきから6人共が脱出!


〈この威力は……?〉


 進とニークト。

 彼らの攻撃力が、少し戻っている。

 ローカルが薄れている。


 その理由はすぐに分かった。

 彼らにリボンを繋いだ少女、詠訵。

 そして訅和や和邇。


 彼らのくびなわが、反対に濃さを増している。


〈共有、そして再分配……〉


 詠訵の融合能力で、5人の感覚を繋げることで、不快感を均等に拡散させたか。

 

〈けれど、それで何秒持ちますか?〉


 6人の周辺を、陰湿で粘着質な風が満たす。


「……!?」

「な…なに……!?」


ヒソヒソヒソヒソ

クスクスクスクス


 部屋の隅や戸棚の裏から聞こえる、姿の見えない虫の這う音のように、

 脳をくすぐるような気配が、耳より入って頭から離れない。


 それは彼らの想像力に、悪意の視線を喚起させる。

 周囲一帯から見られていると、そう思わせる。


「気まずいぞ…!過去最高に気まずい…!なんなんだ…!?」

「こういうのもあるのかよ!?」


 みちみちと、着実に麻縄の存在感が増していく。

 振り払えない羽音ほど、神経を逆立さかだたせるものはそうない。


「こんなの!これしきっ!」


 何故かプロトには殆ど効かず、進やニークトもまだ持ち堪えている。

 だが他の3人が、大きく調子を崩す。


「ひゅ、ぅぅぅッ!?ゴホボッ!ごぼっ!」


 そして進が、鋭敏な感覚のままに深く息を吸い込んだ時、生ゴミの山の上で工業排水を飲み干したかのような拒否反応が発生。


「げほっ、ごっ、あ゛っ…っ!」


 鼻に針が生えたような刺激臭と、れ過ぎた果実のような濃厚なかおり


 精神が滅入りかけていた彼らにとって、分け合っても尚、看過できない刺激となる。

 融合による感覚共有が裏目に出て、不快感の相互増幅が発生。

 

 麻縄が締め付ける。

 プロト以外が数瞬だけ行動不能に。


 そして“鳩槃カウンセラー”は、それを見過ごしてはくれない!


 プーカ共に襲わせながら、自らも鎖を放ち、高密度飽和攻撃にさらす!


「ここで!」


 プロトは敵に電流路を巻き付け、自らの鎧と反発させ合って受け流す!


「こんなんで負けてらんないッ!」


 だが網目のような電磁防御が食い破られていき、

 ライトイエロー鎧の一部も剥がされてしまう!


「ここでやられるなんて、それじゃっ、ぜんぜん…っ!」


「ヨミっちゃん!プロちゃん!これじゃダメッ!」


 今にも柔肌に歯形を付けられるのを、電流路を絡めて必死に止めているプロトに、訅和が叫ぶ。


「もっとキビしく行かないとダメだよっ!!」

「はあっ!?」


 ミシミシと、土砂崩れに押し潰されるかのように、彼らの空間が狭くなる。

 その中で、


「キビしく……、そっか!」


 活路!

 5人を緩やかに守っていた電流路が、びっちりと体のラインに沿うように締め付きを強くし、


 強烈通電!


「「「「「ぎゃあああああああああ!?」」」」」

「あっ!ごめーんっ!やり過ぎたカモっ!」


 適当謝罪後、即広域魔力爆破!

 プーカの丸っこい頭がビリヤードボールの如く弾け散る!


「ふざけんな!ありがと!」

「ぐおおおおお!!後で覚えていろよビカビカ光り物チビガキいいいいい!!」


 完全復調!

 進とニークトがいつも通りのキレを取り戻す!


「やっぱりだねぃ!不快とかヌルいことなんて一発で忘れて、命の危機に頭が一杯になるくらい痛くすれば、変な嫌がらせなんて気にしなくなあああだだだだだだだだ!!!」

「ほらっ!ボサっとしないでよ!」

「おい!これ!俺もやんなきゃダメかっ!?」


 慣れぬよう不定期に電流攻撃を挟み、細胞が破壊されても詠訵と訅和の能力で修復する!


 悪臭で催した吐き気を引っ込める為、鼻っ柱をへし折るという暴論!

 マズい料理に激辛調味料を山ほど振り掛けてむのと同じやり口!


 だが効果はあった!

 激しい痛みの中で戦い続けることなら、何度も似たようなことをやり過ぎて、鼻歌混じりに遂行できてしまうくらいだ!


 特に進は、魔力による感知の感度を上げれば、全ての刺激が地獄の業苦ごうくに変換される!


「ビリビリデスマッチ方式にして、第二ラウンドだよっ!」

「よおし!このままの勢いでぶっとばあああああああぎゃあああああ!!」


 敵に苦しめられないよう、味方から痛めつけられながら、

 

 遊撃部隊はモンスターの群れに突っ込んだ!

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