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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十三章:呪いが解ける時

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640.どうする?色んな意味で、どうする?

「な……にが、起こって……!」


 6人を保護する、煉瓦造りの白い立方体。

 訅和交里の“我が家へようこそ(オイキュメニステ)”。


 詠訵のリボンで全員を移動させた先で、一時的な聖域を作ることで、なんとか話せる合間を設けた。


 だがこの間にも、ローカルを完全消滅させることは出来ていない。

 全員の首回りに依然として、薄っすらと麻縄が取り付けられており、不明なタイミングで明滅を見せる。


 更に外では歯が壁をこすっているようで、黒板を引っ掻くような不快高音が、加護を突き抜けて彼らを襲う。

 

「そうだ、“不快感”、だ…!」


 狼鎧の鼻を潰し、耳をペタリとまえだおれに閉じながら、ニークトはローカルの内容を推察する。


「奴が…、“鳩槃カウンセラー”が人間の姿を取っていた時の能力、そしてこのダンジョン内での出来事や、昨年のフラッグにおける体験、乗研の証言といった事前情報……」


 それらを貫く法則性とは——


「このロープは、オレサマ達が不快を感じるほど、強く締め上げ力を奪う!」


 ハッとした一同は、他の4人と、ニークト、進両名の縄を見比べる。


「た、確かに…!五感がトガりめな二人が、一番被害が大きくなってる…!」

「訅和が真っ先に動けたのは、戦法的に『厭な思い』に慣れているからだ…!」


 人体が最も苦しみのたうつやり方を、自爆上等で相手に押しつける。

 その研鑽けんさんが生んだ「鈍感さ」という耐性!


 逆に、細かく感じることそのものを武器とする者には、

 名指ししてしまえばニークトや進にとって最悪の相手!


「俺は敏感でも特別耐性があるわけでもない半端モンってことかよ…!気まずい…!」

「『やくは外、福は内』、だったか…?『厄』、つまり『良くないモノがある』という感覚こそが、ローカルのトリガー!」

 

 耐えるだとか受け流すだとか、そういった次元の話ではない。

 まず不快を強く感じてしまった時点で、発動が確定する!

 向き合い方を工夫してもまぬがれようがなく、真面まともに取り合う者ほど不利になる!


「くそお…!最近俺のニガテ分野ばっかり押し付けられてる気がする…!」

「ちょいちょいちょっち!ってことは、カミっちとニクっち先輩の戦力が半減するって事になってない!?」

「半減どころじゃあない!オレサマはともかく、神経質チビはほぼ無力化されている!」


 進は魔力を微小単位で感じることで、肉体強化や体内魔法陣を始めとした、数々の戦闘技法を成立させている。


 その根本。

 魔力を細かく知覚できるほど、感知を尖らせるという行為。


 それ自体が、敵の術中となった!


「そうなるとこっちのアタッカーで残ってるのって……」


 5人はそこで、稲光いなびかり虹彩こうさいとを、未だに散漫さんまんに揺らす彼女に目をり、それから顔を見合わせる。


「………先輩。私が“あれ”を使います」

「魅力的な提案だが、奴を相手に治療役が一人、しかもピーキーで限定的な訅和だけと言うのは、あまりに………」

「だけどもう、ここまで来たら、安定択なんて考えてられません…!」




〈その通り、私を倒したいのなら、安心にすがる弱さなど捨てなさい〉




 バッと一度に上げられた視線が集中したのは、煉瓦の壁の一点。

 そこを貫通した歯によってり抜かれ、蟲やモンスター、髪の毛がむしばんで押し広げ、「の」の字の形の眼がのぞく。


ゲゲゲゲゲゲゲゲ ググググググググ

ヒハハハハハハ

ゲラゲラゲラゲラ


 愉しむような爆笑が、しゃくをしつこく撫でこする。


〈さぞかしご不快なことでしょう、皆さん〉


 巨大な体、異なる構造、

 そこから発声される人外の言葉。


 けれどその口調と言ったら、間違いなくいつもの壱前灯。

 憎たらしいほど、いつも通り。


〈私を除かなければ、それは終わりませんよ?〉


 それが続けばどうなるか?

 人の神経は参ってしまい、いつしか必ず——




——()()()()()




〈考え、工夫し、戦いなさい〉

 

 ぞろぞろぞろと、歯を持つゴキブリが侵略していく。


〈理性によって、打ち倒しなさい〉


 訅和の神経にノイズを溜め込み、壁の補修を許さない。


〈あなた達が、感覚に傾倒けいとうした瞬間、〉


 ガタン、

 何か硬い物が落ちたのだろうか。


〈足下はもろくも崩れ去る〉


 それは絞首台の足場が、開く時の音に聞こえた。


〈正しい行動を選びなさい〉


 笑い声が大きくなっていく。

 薄らいでいた臭気が盛り返す。

 

 人外にとって害悪だと、全方面からアピールする、生活排水に似た白濁液が、雨漏りや浸水のようにみ落ちてくる。


 この禁域も、間もなく土足で蹂躙される。

 訅和の魔法が完全に消される前に、彼ら自身の意思で解除し、攻めに転じることをしなければ、情けなく無抵抗のままで、おぞましき頓死とんしを迎えることになる。


 戦士の覚悟や誇り以前に、人間としての尊厳の凌辱りょうじょく

 到底許せるものではない。


 詠訵がハートマークを作り、詠唱を切り替えるマインドセットを済ませる。

 この場でill(イリーガル)を殺せるほどの攻撃力は、自分をおいて他に無い。

 ならば、彼女がやるしかないのだ。

 

 彼女はのっとって「バッカじゃないの」


 ライトイエローが、電源コードのように細く滑らかになる。


 ただ角膜をチクチクと刺す危険さではなく、


 結い上げ纏め上げる真っ直ぐさを獲得する。


「センセーが言ったのは、『感情に振り回され過ぎるな』ってハナシでしょ」


 お決まりの安定択だとか、

 誰にとっても優しい道だとか、

 そういった「都合の良い」ものに、逃げてはいけない。


 不安になろうと、考える。

 痛みを伴おうと、行動に移す。


「アタシが、やればいいの」


 指ピストル二つで、稲妻イナズママークを作るプロト。


「アタシが、センセーを、殺せばいいの…!」


 電流路がその背中から広がり、その様はまるで光るアゲハ蝶の両翅りょうし


「“月は欠け蝶は舞うラブランデス・ラヴナンデス”!アタシにハイリョなんて、してんな…ッ!」


 ライトイエローは彼女に巻き付き鎧と化す。

 一帯に張り巡らされ迷宮と化す。


「やること、やってやる…!アタシは、潜行者だから…!」


 電路の一部は、メンバー達に巻き付き、その端はどれも少女と繋がっていた。


 訅和は魔法の維持を止め、魔力の徴収から全員を自由にする。


 全面衝突。


 聞き慣れたチャイムが、どこかで鳴った気がした。


 世にも苛酷な課外授業が始まったのだ。

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