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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十三章:呪いが解ける時

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634.温情ある採点

 弁明や説得の余地などないと桑方は分かっていた。

 「やる」と言った段階では、既に実行が確定している、そんな瀬史の性格をよく知っていたから。


 彼が取るべき行動は、口ではなく手での応答!

 前腕部を守る翅を開きながら左手を引くと、内から射出されたクワガタ眷属が掌内しょうないに収まる!


 サイズと比べて不釣り合いに長いその角で警棒型魔具を挟み止め、右手にも同じように眷属を持たせて刺突!


 瀬史は警棒を捻りながらバク転回避!

 桑方は左手を振るって“スタッグ手裏剣しゅりけん”を投擲!

 革靴で蹴り上げられたそれは羽ばたきながら旋回!


 瀬史の背に突進!

 彼女は警棒のグリップスイッチを握り込んで打擲ちょうちゃく

 眷属にエネルギーを流し込んで爆散させる!


 桑方は全身の隅々を外装として覆う甲虫の翅を開き、掌を逆様さかさまにしながら腰の動きに乗せて左右交互に突き出す!


 翅の下からスタッグ手裏剣の連投!

 一匹一匹を迎撃しなければ弾幕の密度は薄くならないが、丁寧にやり過ぎると供給ペースの方が速くなり、後手から脱け出せなくなる!


〈ご存知でしょう?私の魔法は魔力消費が極端に少ない〉


 内丙のように、ダンジョン外活動をメインの戦場とする使い手は、燃費にこそ重点を置いて、能力を伸ばす傾向にある。

 

 桑方の魔法の核となる物語は、小さい体だからこそ、自重の何百倍もの力を発揮できる、甲虫の強さ。


 質量的にも体積的にも小さく、籠められたエネルギーも小量な眷属達は、けれど恐るべきパワーで飛行し、相手を持ち上げ、挟み切る。


 単なる情報収集だけでなく、施設侵入のような破壊工作にも最適で、更にボコボコと生み出し放題な為に、直接戦闘でも大いに存在感を発揮する!


 並のモンスターなら、1匹撃ち込めば充分。

開口部さえ見つけてしまえば、内側から食い破るくらいは出来るのだから!


〈そうら、このように!〉


 追加増産!

 警棒の千閃せんせんくぐり抜けた一匹が左腕に止まり、シールドに身を焼かれながらも鋏を突き立てる!


 瀬史は左手を外方向へ振り背中側に倒れながら回転、地面に叩きつけることで甲虫を潰し、右足を蹴って更に半円を描いて立ち上がりながら桑方へダッシュ!

 

 警棒と両手に握られた眷属との打ち合い!

 魔具機構でのエネルギー注入!

 眷属の爆発直前に桑方が手を離し、相手に特攻させることで自らの攻撃力に転化!


 バックステップした瀬史に追撃ついげきしゃ

〈逃しません!〉

 全身からの眷属生成及びけしかけ!


〈器用さが取り柄のあなたが!〉シールドが貫かれ肉にギザギザのあぎとが食い込む!〈暴力で私を止められるわけがっ!〉彼女が甲虫を潰し、引き剥がし、放り投げる間に桑方は移動を済ませている!


 両手の眷属で上から彼女の肩を挟み抑え、力を籠めて地に膝を突かせる!

 

〈あなたの魔法……!分身する能力ですが、精々あなたをもう一人しか作れない、典型的な非戦闘用魔法です…!特別な機能と言えば、あなた自身と分身とを入れ替えられることだけ!〉


 分身は放っておいても動いてはくれない。

 人一人では、体二つが動かせる限界だった、ということだろう。


 そして現在、本体は管制室で全体の指揮から手を離せない状態。

 ここで分身を破壊すれば、瀬史は桑方を追えない。


〈あなたが私を殺すなどと〉


 また好きなだけ、破壊工作をしてやれる。


〈完全詠唱を舐めるな〉

 

 胸の上あたりの翅が開き、そこから射出されたスタッグ手裏剣が、内臓から荒らし廻るべく、彼女の口に角をじ入れてこじ開けようとして、


〈………?〉


 勝利を確信した彼は、改めてその無様を味わい尽くそうとしたことで、気付く。


〈あなた……〉


 周囲を見回し、疑問が形を持つ。


〈どこに、やった……?〉


 彼女の左手首から先が、いつの間にか失われている。


「私の能力は………」


 同僚への観察眼が欠けている男に、不敵な笑みで教えてやる。


「一定の質量しか、作れない……」

〈………何……?〉

「限界は、私の重さまで。言ってること分かるか…?私の体重と同程度で、最も多用途なのが私自身だから、自分そっくりの眷属を使っているに過ぎない……!」


 そしてその総質量のうち、一部分だけを別の物に変化させることが出来たら?


〈…!私の眷属を…!〉


 彼は神経の感覚範囲を広げる。

 スタッグ手裏剣に化けた魔法弾が飛来するのを全力で警戒。

 

「50点。三角だな」


 彼女はその様子を見て、その頑張りに免じて部分点を進呈。


「想像力が足りてないな。


 数学のテストに挑む為、徹底して出題範囲を対策したら、そこで学んだやり方以外を無意識に考えから除外するようになってしまい、一つ前のテストで出たもっと基礎的な公式が使えずに落とすタイプ。


 勝手に自分が使える手段をせばめ、ひっかけ問題につまずく生徒は、少なくない」


〈ふん、凄んで警戒させ、時間を稼ぐつもりですか〉

 

 貰ったパンチでフラついているボクサーほど、「当ててこい!効いてないぞ!」と強気なフリをする。相手に警戒させることで、積極的な攻めを躊躇ためらわせ、その間に体力を回復しようという悪足掻わるあがき。


〈無駄です。私はあなたに勝ち、生き延びる!世界にあふれるゴミを、如何いかなる機械よりも安上がりな生体ユニットという資源に変え、それを使う側となって利益を出し、必ずや成功者に!世界的な億万長者に——〉

「残念。今ので0点だ」

 

 その時アスファルトが彼らの足腰を砕きながら跳ね上がった。

 違う。

 彼らの胸から下が吹き飛び、自由落下しているのだ。


〈はお……?〉


 二人を破壊したのは、飴色の爆発。

 

「『下手な鉄砲……、数撃てど外れず』……!」


〈攻撃、したのは……!?〉


 スタッグ手裏剣に化けた瀬史の眷属は、最も近くに居た銃砲モンスターを襲撃。

 当然奴らは反撃する。眷属だけでなく、その射手にも。

 それも、加減を知らない火力によって。


 その魔法は瀬史によるもの。

 だが桑方の魔法の再現でもある。


 両者の気配を同時に感じさせる攻撃。

 深く考えない、銃を撃ちまくりたいモンスターは、「両方殺せばいいだろ」と思考を止める。


 瀬史は分身を失う。

 そして桑方は、


「あがぱ………っ」

 

 終わりだ。

 

 甲殻が剥がれ落ち、翅がバラけ、地に当たると共に飛び散った。


 そこには、元は一つだった肉の散乱が、ボロ雑巾が横たわるだけ。

 

 何より胸中きょうちゅうにあったらしい野望は、


 千切れた臓器や骨片こっぺんと共に雨打あめうたれ、


 流れ出るに任せて拡散し、薄められて見えなくなった。

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