表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十三章:呪いが解ける時

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

865/978

633.あの勧誘の裏で

 伝えられていた通りにパスコードを入力。

 用意していたIDによって問題なく扉を突破。


 搬入用エレベーターと非常階段の双方が存在するが、前者を起動させると中の人間に気付かれる恐れが高い。

 大人しく足音を忍ばせながら、左右幅が広い段差を降りていく。

 

 フルフェイスマスクに内臓されたカメラが、赤外線センサー等の二次、三次セキュリティを検知。

 柔らかな身のこなしでそれらの死角を通り、地下会議室の大扉前に到着。

 

 中からは無線や管制の行き交いが漏れ聞こえており、戦場がリアルタイムで状況を変化させる、その慌ただしさを克明に示している。


 彼はガイドビーコンから発信しようと、ヘッドセットに指を掛け、それからふとした違和感に手を止める。


 静か、

 いや、()()


 スライドドアを少し動かし、中を覗く。

 すぐに身を隠すのをやめ、勢いよく引き開ける。

 

『これは……!』


 確かに通信音声があちこちのスピーカーから飛び出ている。

 が、人がいない。


 もぬけのから


 そして間抜けにも引っ掛かったのは——


 正面の巨大スクリーンに赤く表示される退避勧告!


『しまった!』

 

 回れ右をする彼の背を包む閃光。

 起動したカートリッジが大量のエネルギー排出に特化した魔法陣回路を活性化する機構。

 

 自爆装置!


 明胤学園北西、第2号棟が下部からすすけた煙を吐いて、それが広がるに合わせて大きく傾いていく!


 罅割ひびわれ、バラバラのピースに分かれていく床部分。

 バリエーション豊かな形をした瓦礫を下から持ち上げ、這い出してくるのは、オリーブの葉や果実の緑に染まる、ザラつきながらも光沢を放つ甲殻。


〈ぐ……、はかられましたか…!〉

「人聞きが悪いな。『謀った』のはそっちだろ」


 立ち上がりぎわにボララップが放たれ巻き付かんとするが、クワガタの姿に似た眷属が撃ち出され、それが拘束を肩代わりしながら、現れた女に襲い掛かる。


 特殊警棒を展開しながら振り下ろし、刃をいた虫ッコロを地面に叩きつけ、踏み潰しながら笑い掛ける。


「よう、桑方くわかた、何をやっているんだ?こんなところで」


 折角ここのところしばらく、顔を隠して動いてきたと言うのに、完全詠唱による変身を見られたら、まるっと全てが台無しである。


 これでは道化だなどと自嘲しながら、クワガタのような2本角を頭に立てる、からを持った変身者は、ちりを払って肩をすくめる。

 

〈助けに来たのですよ。たまきさん……いえ、ここでは念の為、瀬史教頭と、そうお呼びした方が良いんでしたっけ?〉

「助けにぃ?生憎あいにくだが、『来てくれ』と頼み込んだ覚えはないな」


 明胤学園教頭、瀬史(たまき)

 次世代娯楽育成事務所“UWA(ユーワ)”代表、桑方くわかた胡吾うわ

 

 そのどちらもが表向きの姿。


 かつて、瀬史の伝手つてを使った桑方が、進に接触したことがあった。

 それは、“UWA”という制御可能な檻の中に、カミザススムというイレギュラーを幽閉する、そういった目的があったから。


 そこからも分かる通り、彼らは協同していた、どころか同僚とすら言えた。

 その隠された身分とは、歴代総理大臣ですら、限られた人間しか認知していない、秘匿組織の一員。


 “内閣丙種(へいしゅ)情報取扱(とりあつかい)室”。

 通称“内丙ナイヘイ”。

 壌弌が作った非公式国家保全機関である。


 瀬史に関して言えば名前すら変えており、本名は服部はっとりたまき

 その秘密主義の徹底ぶりは、壌弌派であった学園長にすら、その正体を明かしていないほど。


 “理事長室バックランク”内において、他の御三家勢力、特に三都葉に対抗する壌弌の尖兵。

 そう見られてきた壱萬丈目は、本人もそうだと思い込んでいるものの、実は囮である。


 明胤学園に壌弌の意向を混ぜ込む、それを為す真の毒は、学園長の陰に隠れた瀬史教頭であったのだ。




 ただ壱萬丈目は、どうやらそのことに気付いていたようだ。




 彼は死にぎわに、瀬史に言いのこした。

 

——ここまで周到な連中なら、“仕込み”があったとしても不思議ではない

——気をつけたまえ


 警備管制室の位置が把握されていたのは、零負遠照が原因だろう。


 だが、ここまで大規模で、準備に準備を重ね、徹底して潜行者の城塞じょうさいを対策し、クリスティアさえ巻き込んでいる——しくは彼らが主導している——作戦で、二の矢三の矢を用意しないだろうか?


 「巨大変身者が管制室を確実に落としてくれるだろう」、そういった楽観論で話を進めるだろうか?

 学園の手強てごわさは、遠照が一番良く知っているのに、そのような手緩てぬるいプランで満足するだろうか?


 壱萬丈目が懸念していたのは、そこだ。

 管制室を移した後も、追跡する“て”があるのでは?という可能性。


 そうなった時、最もほころびとなり得るのは、どこか?

 そう考えた時、彼は内丙こそが“穴”だと考えた。


 総理の命が愈々(いよいよ)となった場合、すみやかに救援を要請し、到着させる。

 その最終手段のスピード感を確保する為、瀬史が学園の外部の同僚達と、えず情報共有をしておくだろうことは、予測できたからだ。


「そして私が『危ない』と判断し、助けを呼んだことで、内丙の人間がここにおもむいても、不自然でない局面になった。それに乗じて、お前は()()()と移転後の管制室に忍び込み、敵を誘導する」


 が、管制室の移転先についてだけ、瀬史は嘘をいていた。

 呼ばれてもいないのに来る奴を爆殺するべく、一人そこで待ち構えながら。

 

「半信半疑だったが………まさか本当に来るとはな」


 選良エリートとして、国を守る。

 その矜持を共有している筈だった男の裏切りに、彼女はただ侮蔑を濃くする。


「“どこ”だ?一番クサいのはクリスティア関係の、ヴィルギニア……統合情報局(IIA)か?」


 真っ先に思いつくのはクリスティア政府筋だが——


「いや、そう言えば去年、壌弌管理下の特異窟に、人質を取って立てもったバカが居たが、あの日に限ってセキュリティが正常に機能していなかった。あれで本家には大きな損害があったが、あの時に随分荒稼ぎしていた企業があったな。金の流れも途中で切れて追いようがなかったが、」


 「あれも、お前か?」、

 だとしたら、AS計画に関わる、巨大資本あたり。


「あの事件で、『治安維持の為の武装』という大義名分を丹本国民にり込んで、お前らの“商品”を売る為の前振りにしたのか?」


 世界規模企業グローバル・コーポレーション

 それに雇われ、国を裏切った彼は、言ってしまえば“金の亡者”だ。


二足にそく草鞋わらじとはご苦労なことだな」

〈お気遣い、痛み入ります〉


 目的は、丹本にしろ、カミザススムにしろ、社会的規範にしろ、AS計画の障害となるもの全般の弱体化だろう。

 それと同時に、このテロ自体が、パフォーマンス、デモンストレーションとしての側面を持っている筈だ。


 どこぞのメガコーポが、漏魔症収容にたずさわる桑方を取り込んだのも、AS計画の円滑化を狙ってのことだと、そう考えられる。


「お前を生かしてやりたい。人情からじゃないぞ?聞きたいことだらけだし、お前の不在は経済への混乱も招きかねないからだ。しかし、」


 その余裕は無い。

 彼女は今こうしている間も、()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。


「どうやらここに、墓を掘ってやるしかなさそうだ」


 これ以上、そいつから情報を引き出せそうもない。


 ならばここからは、最短で決着を付けなければなるまい。


「なるたけ穏当に他界させてやる」

 

 返答を待たず、彼女は踏み切った足で、


 破片と水溜まりとを後方にね飛ばした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ