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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十三章:呪いが解ける時

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630.失われた明日を求めて

——私だけの、専売特許ではない、ということだ


 何故か、あの時のことを思い出した。


 あの時に、聞いた話。


 狂ったように情報を取り入れ、それを計算式にぶち込んでいき、答えを出す。

 それを極めることで、ある種の“先見”を得る。

 それは特別な能力ではないと、彼女は言った。


 壌弌にも、似たような能力を持つ者が居るのだと言う。

 進が感覚的にやっていることも、単純化してしまえば、同じだと言う。

 

 重要なのは、よく知り、よく考え、向き合おうとすること。

 決して確定していない先を見て、だから尻込みするのでなく、「この可能性と心中する」と、迷いのない一歩を踏めること。


——お前に足りていないのは、

——決断力だ


 彼女はそう言った。

 自己を肯定出来ず、あらゆる選択が後悔に直結し、だから次へと進む足が鈍る。


 だが、それを克服しつつあると、そうも見ていた。


 初めは、お遊びのつもりだったかもしれない。

 命の懸かっていない戦いで、どうせ勝ち目が薄いのだから、だったら()()()()()()みようという、やけっぱちであったかもしれない。


 けれどそこで、未来へと身をとうじることができた。

 その結果、成功体験が手に入った。

 自らの選択に殉じる、その感覚を掴めた。


——お前が感じた戦いの高揚、

——それはお前が、お前自身を肯定する感触だ


 仲間達を勝たせたい、このまま負けるのは気に入らない、そのちょっとしたプライドを、満たすことが出来たという戦果。

 その切っ掛けが、人知れず彼女を生まれ変わらせていた。


——情報を集め、

——統合して思考し、

——欲しい現実を引き寄せる


 それを、いつの間にか、やっていた。

 知らないうちに、足が動き出していたのだ。


——お前が思う理想

——今までは欲しがるだけだったそれを、

——お前の方から、求めたのだ


 「理想」。

 現実の前に、打ち倒されるもの。

 時に現実にんだ者の、逃げ先になるもの。

 

 彼女が逃げた幻想とは、何だろうか。

 彼女が手に入れようと決めた未来とは、どんなものか。


 玩具の家。

 祖父と、祖母と、父と、母と、兄と、自身と、そして幼い妹と。

 彼らが食卓を囲んでいる。


 なるほど、「理想」だ。

 夢、いや、妄想だ。


 こんなこと、有り得ない。

 もう二度と、起こり得ない。

 一度だって、見られなかったのに。


——ろくピ


 振り向くと、よく見知った顔ぶれが、勢揃いしていた。

 広いテーブルの周りに腰掛け、食卓を囲んで笑っていた。


 自然と、空いた席を目で探していた。

 足は既に、彼らへと近寄っているところだった。


 鍛え上げられた高身長に、腹が立つほど似合う金髪の青年が、鳶色の瞳を向けてくる。

 その隣に、腰を下ろす。


 空席だったから。そう、ちょうど空いてたのがそこだったからだ。

 反対の隣には親友も居たし、何もおかしなことではない。


 そこから見ると、呆れるほど牧歌的な空気だった。

 バカな顔してワチャワチャ騒いで、好き放題に言い合うだけで、バラバラでグダグダなのに、どうしてか偶に噛み合って、それが心地良くて。


——ろくピ

——欲しいもの、ダメそ…?


 親友にたずねられ、考える。

 「理想」は、実現できないのだろうか。

 偶然か必然か分からないけれど、もう失われてしまったのだろうか。


 無念のうちに、置いていくしかないのだろうか。


 


——ううん、違う




 「理想」は、そこにある。

 それは確かにったもので、その時きっと、満たされていた。


——ムリだって分かってて、

——でも進む、ってヤツ


 そうしたら、この場所のように、

 全く思いもよらないものを、手に入れるかもしれない。


 「理想」の代わりにはならないけれど、それと同じくらい大切なもの。

 それを、手に入れられるかもしれない。


 もうどこにも無いものを抱き締めて、追い掛けて、

 その過程で、新しい何かを得る。

 その繰り返しを続けることが、自分なりの「戦い」だ。


——乗ってんねー

——いよっ


 テンポがノンビリなクセに、調子の良さを見せる親友に苦笑してから、

 その胸に宿した決意を叫ぶ。


 諦めることなど、もうないのだと。

 これから死ぬまで、求め続けると。


 それは“幸せ”そのもののうつしだ。




 “親愛なる食卓にてシルバー・ニアー・ファミリアー”。




 ベージュの光波こうはが球状にはしり、何かにね返って世界を描く。


 六本木がタヌキ人形をかかげ、そこから魔力を発している場所は、どうやらまだ屋上であるらしい。


 負傷者を多数出しながら、それぞれの階層を守る学園生。


 モンスターが人間の施設を攻め落とすなんて、これでは話が逆だろうなどと、脳が横道にれる余裕まである。


 と言うのも、彼女からはよく見えるから。

 手に取って指でなぞるように、敵味方の身動きが分かるから。


 未知が一切ない。

 ならば恐れることではない。

 

「もしもーし、聞こえる?」


 試しに声を乗せてみると、ベージュを伝って届いたのか、反応が手応えとして感じられる。


「これ、聞こえてんね?音質どんなん?」


 チューニングのように徐々に耳がれ、落ち着きが取り戻されていく、その様子がありありと浮かぶ。


「っしゃ!みんな、あーしについてきて!」


 それが単なる放送でなく、双方向のツールだと、少しずつ正しい認識が広がる。

 

 そしてどういうわけか、視界が明るく開け、真昼よりも鮮明に見えるような、

 

 全知の錯覚に似た何かに、包み込まれ始めていた。

 

「ブチアゲ!気合い入れてやっちゃる!」


 分かることは一つだけ。


 ここからは、逆襲の時間である!

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