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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十三章:呪いが解ける時

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今度はもう、仲良く解散なんてできない

 零負遠照は、かつて丹本政府の戦力に組み込まれていた頃から、思う所あって自らの力をいつわっていた。


 マイナスランク認定後、これまで丹本を始めとしてテロの標的になった者達が、寝込みを襲われるような不可避の奇襲を仕掛けられなかったのも、対策が上手くいっていたからでなく、彼が敢えて見逃していただけ。


 時が来たら、相手が想定していない自身の全力を見せることで攪乱かくらんし、そこで生じる混沌に乗じて、事を進める為の布石。


 迷信にすがり、何の効力も無い札で、身を守った気になっているビリーバーの如く、対“最悪最底ワーストランカー”の施策は全てが無意味、どころか、誤った安心感を植え付ける罠と化していた。


 彼の能力なら、理論上は世界のどこであっても、侵入することが可能。

 とは言っても身一つで、体力や魔力といった制限もあるので、あまねく総じて把握できるような、全知の存在にはなれない。


 ただ、「見られているかもしれないかもしれない」、その“可能性”は、立派な作用力となる。


 中心に監視員が立っている、円形に並んだ牢獄。

 その環境下で、看守から一方的に視界が通るようになっていると、囚人はいつ見られているかが分からず、四六時中監視されている前提で暮らし始める。


 本当に見られていない時でも、彼ら自身が勝手に見張りの代行をしてしまう。

 “ない”と呼ばれる現象。

 規範の内面化とも言うべきか。神の視線を直感する信仰とも取れるだろうか。

 

 遠照は己の魔法能力の、天井を取っ払って見せることで、彼らが“内視”の牢獄に陥っている事実を、唐突にその顔面へ直撃させたのだ。


 それが発覚した時、五十嵐なら暴発してくれると、彼はそう信じていた。

 行動力がある人間にとって、大変な問題が発生した時、待って耐えるというのは非常に難しい。


 あの男なら、「何かしなければならない」という思いに駆られ、動くだろう。


「これで、よし」


 この伏線は張り終わった。回収を待つのみである。


「さて、他は、どうカナ……?」

 

 彼は端末の中に、外から送られてくるデータと、能力によって実際に見聞きできるものとを入力し、


「整理、しようか」


 駒の位置をおさらいし始める。



「まず、包囲網」



 丁都内の浪川、明胤学園がある地を中心に広げられた、漏魔症罹患者の軍列。

 これはディーズが統制し、学園への警察機関の増援を、足止め中である。


 あの青年は、期待以上の働きをしてくれている。

 正直なところ、この線をここまで維持できるとは、望みを持ってすらいなかった。


 ただ、時間の問題だ。

 いずれ、あと1時間もしないうちに、破られる。

 スパルタクスが早期に死亡していなければ、もっと長く稼げたと思うと、少し惜しい気もしてしまった。



「次に、明胤学園を攻略中のみんな」



 正門と東門の突破に成功し、こちらの目的通り、生徒や避難民をしっかり巻き添えに出来ている。


 ナイニィは討伐されたが、警備管制室への誘導は成功し、司令部の移転、及び理事長と学園長の首、という戦果が出ている。

 管制室の場所を知っている遠照がいるからこそ、迅速な攻略が可能となった。


 こういう時、元々その国で有力な人物だった過去が、役に立つ。


 また、ディーズが提案した離間工作が、それなりの効力を発揮している。


 “鳩槃カウンセラー”の正体を看破して見せ、人間社会に潜伏する知性型モンスターの存在を見せることで社会不信を広められ、秩序という足場を削り崩せるだけでなく、その場で敵に内部分裂を起こさせるところまで狙える、という計画。

 

 丹本、そして“環境保全キャプチャラーズ”、そのどちらにも打撃を与えることが出来る、一石二鳥作戦。


 理想はもっと派手に暴れてくれることだったが、もう少し人間との殺し合いをやらせておきたかった日魅在進と共に、ダンジョン内へと消えてしまった。

 これはそれなりに残念な点だ。

 

 だがこれで、四方のうち半分が開いたようなもの。

 そして明胤学園生の中でも最強に近い集団を、ほとんど労せずして盤外に押し出せた、という話でもある。


 これにより、攻勢を限りなく強められた。


 

「学園内側の主戦場は、二箇所、カナ」



 中央棟周りの避難先と、生徒達が詰めている校舎。

 どちらも生徒達中心で守っている。


 9割9分のセキュリティを素通りできる遠照の能力で運び込んだ、秘密兵器たる銃火器で武装させた漏魔症軍団。彼らだけなら押し返されていたと見えるのが、恐ろしいところだ。


 だがそこに、“千総フュージリアー”の憑依モンスター化、という一種の異形化現象を加えることで、陥落寸前まで追い込めていた。


 自らの魔力を制御することを、一切諦めた漏魔症罹患者達。

 彼らの回路を乗っ取ることなど、ill(イリーガル)からすれば朝飯前だろう。


 こちらの将は、ロベ・プルミエルと“千総フュージリアー”。

 一見余裕な戦力に見えるが、そろそろ特作トクサあたりが独断で来ている頃合い。

 作戦進行は鈍化するかもしれない。


 生徒達の詰所にかくまわれている三枝総理を落とせれば、後々がそれなりに楽になるが、どちらに転ぶかはまだ様子見である。

 


「移転後の、管制室は、っと……」


 

 遠照が本気で探せば、見つかるだろう。

 だがその間に、“本命”への警備を厚くされると、折角の努力が全てパーになる。

 スタッグが頑張っているだろうから、そちらに託すのがいい。




 「本命」。

 そう、本命がある。



 

 万を集めた漏魔症軍団。

 方々から引っ張った殺し屋やテロリスト。

 クリスティアというパトロン、及びその最強の手駒の一つ。


 今回の巨大反政府集団による、虐殺、或いは革命行為は、遠照の能力によって、各員を結び付ける(マッチングする)ことで実現した。


 そして遠照はこれまで、全世界の政府組織や機関、民間人への無差別テロを多発させ、世界に混乱を欲する享楽的狂人として、立ち回ってきた。


 彼らは“最悪最底ワーストランカー”が、この作戦に大いなる貢献をすることに、何の疑問も抱かない。

 彼がやりたいことを、暴れて、壊す事、それだけだと思っている。

 

 だから彼が、明胤学園最高機密に向かう役を希望しても、喜んで差し出してくれたというわけだ。


 「周囲からどう見られているか」、「どういう人物として自分を見せるか」、

 セルフプロデュースがきた。


 彼の真の目的について、誰の想像も及んでいない。


「順調だ。非常に」


 彼は螺旋階段を降りきった。


「やあ」

「よう」


 一年前と同じように、そこにはパンチャ・シャンが待っていた。


「やっぱり、来やがったぜ」

「そういうキミは、やっぱり、一人だ」


 パンチャ・シャンの背後には、巨大な窯の蓋のようなものがある。

 それは、ごく一部、丹本の旧華族・士族の人間にしか知られていない、トップシークレット。

 

 明胤学園が、何故国内でも有数の防衛拠点となっているか、

 敗戦直後ですら、クリスティアに一歩も踏み込ませなかったのは何故か、

 その答え。


「一人で充分だぜ。ここから先は、通さねえ」


 深級ダンジョン、“天磐紘アメノイワ・アメノテラス”。

 

 深級クラスのモンスターコアの生産拠点にもなり、学園全体への魔素供給源ともなる、重要国防施設の一つ。


 武家の家系から選出される理事長、及び常勤の客員教師や、生徒会メンバーを除いた“理事長室バックランク”、管制室に出入りできるセキュリティ・クリアランス保有職員。

 彼らの主な役目は、これがフラッグを起こさないよう、秘密裡に彼らだけで管理すること。


 これがあれば、周囲全てを他国の軍に囲まれようと、糧食が尽きぬ限り戦い続けられる。

 魔力利用の実験の為に、農耕・牧畜問わず生産拠点もあり、その気になれば魔学中心にシステムを回して、幾らでも籠城できるようにしている。


 丹本最後の砦になることも想定されたこの場所、その戦略的な価値を支えているのが、このダンジョンである。


 地上で戦う生徒達に、魔素を届け続けるという意味でも、

 この先、最悪の有事があった場合の為に、切り札を残しておきたいという意味でも、


 パンチャ・シャンは、ここを動くわけにはいかないのだ。


 そして零負遠照は、どうしてもその場所が欲しい、


「いいよ、別に」




 《《というわけではない》》。




「………なに?」

「ボクはそこを、通れないと思う。きっと、ね」


 シャンを倒すことが出来ても、勝つことは出来ない。

 彼はそう確信している。


「なら、お前は……」


 何をしに?


 吞み込み切れていないシャンを、


 この時だけ、孤立無援となっている彼を、


 遠照は満足気な目で眺める。


 シャンも、正村十兵衛も、子ども達が戦っている時に、手をこまねいていることを「良し」としないだろう。

 ここの守りは最低限にして、残った全てを上層に回す筈だ。


 最低限とは、十兵衛かシャンのどちらか一人。

 そして十兵衛の性格的に、「先」が長い方を、より安全な配置に就かせる。


 従って——


「まさかお前……」

 



「そうだよ。君を一人にしたかったんだ」




 これが「本命」。

 これこそが目的。

 

 AS計画だとか漏魔症だとか丹本とクリスティアのパワーバランスだとかill(イリーガル)の抗争と悪足搔きだとか快楽だとか復讐だとか


 一切関係が無い。


 彼に言わせれば、全ては彼に使われている側だ。

 彼がお目当てのものを手に入れる、その為に用意されたお膳立てだ。


 今回の作戦は、全てこの対面の為に、

 他から邪魔が入らない状態へ、パンチャ・シャンを隔離する為に。


「キミに、寝てて欲しいんだよ」

 

 両手を引き抜いたポケットの中から、ドス黒いよどみらしきものがダクダクとあふれる。


「それなりに、長い時間」

「それは……光が……そうか、お前は……」

「流石、一発で見破るんダネ」


 光無き塊が触れた場所に染み込み、そこからバキバキと音を立てて、床の一部が変形隆起。


 鏡に関する能力。

 そう思い込んでいたのは、かつての彼自身も同じだった。


 だがその真髄しんずいに到り、深化し、


 “あれ”を見た時、


 彼は自らの使命を理解した。


「始めようか、パンチャ・シャン」


 全ては、“かた”の為に。

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